小説の孵化場

鏡川伊一郎の歴史と小説に関するエッセイ

横井小楠を考える 6

2007-12-26 17:13:16 | 小説
 若江薫子という岩倉具視とも懇意な女性勤王家がいた。
 彼女は1月21日に逮捕者の減刑嘆願の建白書を刑法官に提出する。
 さて、その刑法官知事が大原重徳である。彼女は大原に私淑していたというから、いわば馴合いの嘆願書みたいなものだが、刺客たちを「報国赤心の者」とし、横井こそ「奸謀の者」と決めつけた。
  そしてこんどは大原重徳が岩倉具視に減刑の意見書を出す。
 大原もまた横井を「奸人」と決めつけて、だから刺客たちは「非常出格の寛典に処せられ候様至祈至祷」というわけである。
 司法のトップが逮捕者をかばうのであるから、ことは尋常ではない。
 たとえば吉川弘文館の人物叢書『横井小楠』の著者圭室諦成は、このため大原重徳を横井暗殺の黒幕だと断定している。大原重徳は尊攘派公家、あるいは王政復古派公家として著名で、小御所会議で山内容堂と論争した人物だといえば、思い出される人も多いだろう。
 ところで、もう一歩先に踏み込めるはずである。
 せっかく若江薫子ー大原重徳ー岩倉具視というラインが見えているのだ。
 結論を先に述べておくけれど、真の黒幕は岩倉具視だったと私は考えるものである。横井を新政府に招いたのは岩倉なのに、そんなわけはないだろうという反論の声が聞こえそうな気がするが、そのことについては後で書く。
 圭室諦成の次の箇所を引用して、先に進みたい。
「刺客の処刑は、反動派の策謀によって容易におこなわれなかったが、それをいっそう困難なものにしたのは、肝心の刑法官と弾正台の反動化であった。2年9月5日弾正台から、小楠はキリスト教信奉者で、国賊ともいうべき人物であるから、犯人の罪は一等を減ずべきであるという建議書がだされた。これに対して刑部大輔佐々木高行は、横井は開国論者ではあったが、キリスト教に関係した事実はない、たとえキリスト教徒であるにもせよ、国法をまげることはできない、と主張して圧力に屈しなかった」
 圭室は続けて、その日の佐々木の日記を紹介している。
「要路の人を暗殺せる者を助命とはなにごとぞ」と佐々木は憤怒していたのだった。
 しかし刑法官が刑部省になると、その刑部省は弾正台に横井を「奸人」だとする証拠を探して来いと命ずるのだから、ことはますます尋常ではない。大巡察の古賀十郎が横井の故郷熊本に派遣される。むろん横井の罪跡をさぐるためである。猶予は100日間だが、いわば証拠でっちあげの準備期間といえなくもない。
 なぜ、ここまでしなければいけないのか。 


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