JF4CADの運用日誌2.5

アマチュア無線局JF4CADの活動内容紹介ブログです。

厚生年金基金とAIJ問題

2012-03-04 | シャック便り

今日は西淀川区まで出かけたのですが、仮定していた移動地は工事中でダメ、ようやく見つけた移動地でアンテナを開いたら何と50MHzのアンテナということでQRVできずでした。申し訳ありません。2週続けてQRVできず困ったものです。

申し訳ないので私の本職で大変なことになっている厚生年金基金とAIJ投資顧問の問題について簡単にご説明したいと思います。

 
[厚生年金基金とは?]
国の運営している厚生年金の一部を引き受けて(代行)、独自の給付部分と合体させて支給する制度です。厚生労働省が所管する私的年金の一種になります。加入することで国の厚生年金にプラスして基金独自の給付を生涯にわたって受けることができますから老後の生活資金が有利になるとされています。

厚生年金の一部を代行するため、運営する企業が倒産しても資産が守られるよう別法人(特別法人)とする必要があります。そのほか厳しい決まりがあるのですが、基金には運営の自治権が与えられています。従って今回のAIJ投資顧問に資金を委託したのは各基金の判断であって国の指示ではありません。

厚生年金基金の制度は昭和40年代に発足し、大企業では単独または子会社と一緒に運営し、中小企業では地域または業種毎に運営しています。後者を特に「総合型厚生年金基金」と呼んでいます。総合型は従業員数名の町工場のような単独では企業年金を運営できないようなところでも加入できるメリットがあります。

 
[総合型厚生年金基金の運営体制]
典型的な例ですと、理事長・常務理事・事務員などから構成されます。小さな基金ですと全部で5~6名です。

理事長 加入企業の社長から選ばれ、持ち回りのことが多い たいてい非常勤
常務理事 運営全般の責任者で、金融機関や役所のOBが多い たいていは常勤
学識経験理事 名誉教授などで運営全般にアドバイスを与える ほぼ非常勤
事務員 加入企業や資金を預かる信託銀行との連絡事務が中心 女性の場合が多い
 
理事長は自分の会社もありますので非常勤ですし、ほとんどの方は年金について知識がなく、常務理事に丸投げしていることが多いです。

常務理事は役所の天下りもいますが、実際のところノンキャリアのOBが多く、給料も安いようです。とある基金では5名の人件費が2,100万円でしたので大して高くないことが分かると思います。中には外資で働いた経験のある凄腕もいますが、資産運用に関しては素人よりは知識があるがプロとは呼べない程度の方が多いようです。

マスコミが相変わらずの「天下り→がっぽり儲け」のミスリードをやっていますが、厚生年金基金のベースとなる厚生年金の支給制度に精通していること、なのに報酬は少ないことからOBを常務理事に迎えることは合理的なんじゃないかと思います。

 
[総合型厚生年金基金の問題点]
そもそも総合型厚生年金基金が発足したのは「従業員の退職後の生活を豊かにする」という大義名分なのですが、実際は「国の厚生年金より掛金が安いから」という経営者側の事情が大きかったようです。

昭和40年代、国の厚生年金は年率5.5%の運用収益を上げれば過不足なく運営できる設計でした。当時国債の利回りは高く5.5%は素人が運用しても難なくクリアでき、7%前後を上げることも難しくはありませんでした。国から厚生年金の一部を代行すればその分利ざやが大きく、その利ざやで掛金を安くしたり、独自の給付を厚くできるメリットがあったのです。

ところがいいことには必ず裏があります。バブルが崩壊し年2%の利回りすらコンスタントに稼げなくなると国から代行した部分が逆に重荷になります。最良の方法は掛金を引き上げることなのですが、いままでさんざん安い掛金という甘い汁を吸ってきた連中は掛金の引き上げに対し「会社が潰れる」と強硬に反対します。

理事長は同業者の持ち回りですから、基金の危機は分かっていても「他社が潰れたら恨まれる」と及び腰になり、「自分の任期中だけ何とか持ちこたえられたらいい」と問題を先送りすることになります。その間にも基金の資産はどんどん失われてしまった、と言うことです。

掛金の引き上げがままならず、株式や債券に投資しても思った収益が上がらない中で、少しでも収益を上げようとヘッジファンドに手を出そうという基金が増えていったようです。

 
[AIJ投資顧問とは]
機関投資家向けにヘッジファンドを運営している業者です。ヘッジファンドとは株式や債券の現物を買って値上がりや利息収入を待つ従来からの方法によらない金融工学を駆使した運営を行っているファンド、と理解して頂ければ結構です。

AIJ投資顧問はその中でもオプションという取引をやっていたと説明していました。オプション取引を説明しようとすると膨大な分量となり、それでも分かりにくいものです。ここでは「株の暴落に備えた保険」と理解して下さい。

機関投資家が株価の暴落に備えて保険をかけ、AIJなどが引き受け手となります。暴落がなければAIJは保険料に当たる部分を儲け、暴落が起きれば機関投資家は保険によって損失を最小限に抑えることができます。株価の暴落は10回に1回あるかないかですから、9割以上は保険の引き受け手が収益を上げます。ところが暴落を食らうと今までの儲けを帳消しにする以上の大ダメージを受けます。

リーマンショックや東日本大震災では株式が暴落し、これによって大ダメージを受ける保険の引き受け手が多かったのにもかかわらず、AIJはダメージがほとんどなかったと報告しており、業界では大変パフォーマンスのいいヘッジファンドと言われていました。

実際にはこれが嘘だった、という訳です。

 
[今回の一番の問題は?]
もちろん嘘をついたAIJ投資顧問が一番悪いのですが、一つのヘッジファンドに過大な資産を投資した一部の厚生年金基金にも責があります。

AIJに投資したこと自体が問題ではなく、AIJという一つのヘッジファンドに極端に偏った投資を行ったことが問題だと言えます。

厚生労働省の資料では、年金資産全体の1/3以上をAIJにつぎ込んだ基金が7つもあります。年金資産は様々な資産や委託先に分散して安全を図ることとされており、それが投資の鉄則なのですが、投資の鉄則を無視してこのような無茶をした基金があったことになります。

年金資産の運用は年10%前後の変動はザラで、AIJにつぎ込んだ資産が年金資産の5%以内であれば運用で取り返せる可能性があります。ところが1/3とかですと取り返しがききません。掛金の引き上げか基金の解散しかないと思います。いずれの場合も不足額の穴埋めが必要で、そのツケを加入企業が払うことになります。メリットを求めて自己責任で運用している基金の損失を国が肩代わりすることはおかしな話です。

 
[再発防止策は?]
非常に難しい話だと思います。基本的に年金基金は自治が認められており、厚労省が強制力を持つ指導はなかなかできません。

かといって監査法人の監査を受けてないような中小企業の社長が理事長をやっている場合もありますから、ガバナンスがどうだと言われても困る訳です。常務理事が優秀な人であればそういったこともやってくれますが、OBが薄給でやってるポストですからそれも現実的ではないです。

もう一つマスコミの完全な誤解ですが、運用のプロを基金に迎えたからと言ってよい運用結果が得られるという保証は全くありません。プロ野球のリーグ優勝チームの勝率程度で勝てば「凄腕の投資家」です。そんな状態で年金のプロを高給で迎えるかは加入企業の考え方如何だと思います。

コメント (2)
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