〇大阪市立東洋陶磁美術館 特別展『台北 國立故宮博物院-北宋汝窯青磁水仙盆』(2016年12月10日~2017年3月26日)
ずいぶん前から「人類史上最高のやきもの 海外初公開、初来日」という宣伝チラシを見かけて、大きく出たなあと苦笑する気持ちと、まあ当然だよね、と納得する気持ちの半々でいた。本展には、台北の国立故宮博物院から、汝窯の最高傑作『青磁無紋水仙盆』をはじめとする北宋汝窯青磁水仙盆4点と、清の皇帝が「青磁無紋水仙盆」を手本につくらせた景徳鎮官窯の青磁水仙盆1点が出陳されている。これに加えて、東洋陶磁美術館が所蔵する汝窯水仙盆1点も展示される。
開館と同時に入って、2階にあがってすぐの企画展示室へ。正方形に近い小さな展示室で、四方の展示ケースに、いずれ劣らぬ気品ある姿の汝窯水仙盆が鎮座しているのが、一気に視界に入る。とりあえず左回りに順序よく見ていくことにする。展示ケースのガラス面に、それぞれのキャッチフレーズが添えられていた。
V)青磁水仙盆/汝窯・北宋/大阪市立東洋陶磁美術館・安宅コレクション「伝世汝窯青磁の日本代表」
やや小ぶりな印象。口縁部には黒っぽい銅の覆輪がはめられている。貫入が目立つ。
II)青磁水仙盆/汝窯・北宋/台北国立故宮博物院「天青色の極み」
いちばん青みが強い。口縁部には黒っぽい銅の覆輪がはめられている。大きさは故宮博物院の所蔵品の中ではいちばん小ぶりで「V」に近い。今回の展示は、どれも鏡とガラス板の上に作品を置いて、底の裏が見えるようにしている。裏に乾隆帝の御製詩が刻まれているのだが、光線の加減で、ほとんど見えなかった。
III)青磁水仙盆/汝窯・北宋/台北国立故宮博物院「最大サイズの水仙盆」
他より口径が3センチくらい大きい。脚はきわめて短く、ほぼ脚がない印象。色は比較的青みが強い。覆輪なし。内側は滑らかだが、外側は貫入が目立つ。裏に御製詩あり。
I)青磁無紋水仙盆/汝窯・北宋/台北国立故宮博物院「人類史上最高のやきもの」
これだけ名前に「無紋」が入っているのは、貫入が全くなく、内側も外側も奇跡的に滑らかなのである。照明が当たって、きらきら輝いていた。覆輪なし。いくぶん深めで脚も長く、シルエットも美しい。裏に御製詩あり。
IV)青磁水仙盆/汝窯・北宋/台北国立故宮博物院「無銘の帝王」
大きさ、形態は「I」によく似ている。色は少し緑がかっている。裏に御製詩がないので「無銘」と言われるのだろう。
VI)倣汝窯青磁水仙盆/景徳鎮官窯・清雍正~乾隆年間/台北国立故宮博物院「汝窯青磁水仙盆へのオマージュ」
これは1点だけ単独のケースに入っていた。「I」をモデルに作らせたものという。かたちはよく似せているが、釉薬の色はなかなか制御できないのだろう。質感がマットになり過ぎている。
昨年5月、台北の故宮博物院を訪ねたとき、ちょうど「朝星の如く貴き-清朝宮廷に収蔵された12~14世紀の青磁特別展」という特集展示をやっていて、私はI~IVの水仙盆を現地で見ている。ただし最高傑作の「I」は別室にあって、II~IVと比較することができなかった。また、最近の故宮博物院は、大陸の団体客が多くて騒がしく落ち着かない。それに比べると、今回の展示は「人類史上最高のやきもの」を心ゆくまで堪能できる、実に貴重で幸福な機会だと思う。正直、東博に白菜がきたときみたいな騒ぎにならなくて、本当によかった。いつか台北に行こうと思っているやきものファンは、ぜひいま大阪へ!
なお今回、I、II、VIの付属品も出陳されている。Iの付属品は、まず、紫檀描金の台座。水仙盆の楕円形に四つ脚のかたちを模しているのが面白い。汝窯青磁の軽やかな透明感と、渋い紫檀描金のコントラストのセンスがすごくいい。そして、台座の引き出しを開けると、乾隆帝による「御筆書画合璧」という小冊子(折本?)が入っている。「臨黄庭堅」「臨蘇軾」などの詩、梅、蘭、松などの墨画、そして「太上皇帝之宝」の印影など。書画なら賛や跋を記したり、何度も印を押すことで、所有権を確認できるけれど、やきものにはできないので、こんな附属品をつくったのだろうか。IIも同型の台座。VIは小判型の平たい弁当箱のような台座で、やはり乾隆帝筆「臨王義之五帖」という冊子が入っている。
平常展『安宅コレクション中国陶磁・韓国陶磁』、特集展『宋磁の美』も力が入っていた。韓国陶磁は、青磁の優品を揃えている感じで、中国陶磁は、金や遼の三彩が面白かった。特別展の図録は、確かに写真は素晴らしいのだが、ハードカバーで重たそうだったので二の足を踏んだ。かわりに、乾隆帝筆「御筆書画合璧」の写真が大きく載っていた「聚美」という雑誌(特集・汝窯-珠玉の青磁)を買って帰った。
※1/17追記
これと同じ写真を、行く前にSNSで見て、え!汝窯水仙盆に水仙生けちゃったのか!と驚愕したが、さすがに違った。これは日本の陶芸家・島田幸一(1937-2016)の作品。半生をかけて汝窯の「再興」に取り組んだが、納得のいくものは20点に満たなかったという。水仙盆は4点あり、うち2点の作品が展示されている。常設展エリアのいちばん奥なので、ぜひ見逃さないでほしい。このエリアだけ写真撮影可。水仙は造花。
ずいぶん前から「人類史上最高のやきもの 海外初公開、初来日」という宣伝チラシを見かけて、大きく出たなあと苦笑する気持ちと、まあ当然だよね、と納得する気持ちの半々でいた。本展には、台北の国立故宮博物院から、汝窯の最高傑作『青磁無紋水仙盆』をはじめとする北宋汝窯青磁水仙盆4点と、清の皇帝が「青磁無紋水仙盆」を手本につくらせた景徳鎮官窯の青磁水仙盆1点が出陳されている。これに加えて、東洋陶磁美術館が所蔵する汝窯水仙盆1点も展示される。
開館と同時に入って、2階にあがってすぐの企画展示室へ。正方形に近い小さな展示室で、四方の展示ケースに、いずれ劣らぬ気品ある姿の汝窯水仙盆が鎮座しているのが、一気に視界に入る。とりあえず左回りに順序よく見ていくことにする。展示ケースのガラス面に、それぞれのキャッチフレーズが添えられていた。
V)青磁水仙盆/汝窯・北宋/大阪市立東洋陶磁美術館・安宅コレクション「伝世汝窯青磁の日本代表」
やや小ぶりな印象。口縁部には黒っぽい銅の覆輪がはめられている。貫入が目立つ。
II)青磁水仙盆/汝窯・北宋/台北国立故宮博物院「天青色の極み」
いちばん青みが強い。口縁部には黒っぽい銅の覆輪がはめられている。大きさは故宮博物院の所蔵品の中ではいちばん小ぶりで「V」に近い。今回の展示は、どれも鏡とガラス板の上に作品を置いて、底の裏が見えるようにしている。裏に乾隆帝の御製詩が刻まれているのだが、光線の加減で、ほとんど見えなかった。
III)青磁水仙盆/汝窯・北宋/台北国立故宮博物院「最大サイズの水仙盆」
他より口径が3センチくらい大きい。脚はきわめて短く、ほぼ脚がない印象。色は比較的青みが強い。覆輪なし。内側は滑らかだが、外側は貫入が目立つ。裏に御製詩あり。
I)青磁無紋水仙盆/汝窯・北宋/台北国立故宮博物院「人類史上最高のやきもの」
これだけ名前に「無紋」が入っているのは、貫入が全くなく、内側も外側も奇跡的に滑らかなのである。照明が当たって、きらきら輝いていた。覆輪なし。いくぶん深めで脚も長く、シルエットも美しい。裏に御製詩あり。
IV)青磁水仙盆/汝窯・北宋/台北国立故宮博物院「無銘の帝王」
大きさ、形態は「I」によく似ている。色は少し緑がかっている。裏に御製詩がないので「無銘」と言われるのだろう。
VI)倣汝窯青磁水仙盆/景徳鎮官窯・清雍正~乾隆年間/台北国立故宮博物院「汝窯青磁水仙盆へのオマージュ」
これは1点だけ単独のケースに入っていた。「I」をモデルに作らせたものという。かたちはよく似せているが、釉薬の色はなかなか制御できないのだろう。質感がマットになり過ぎている。
昨年5月、台北の故宮博物院を訪ねたとき、ちょうど「朝星の如く貴き-清朝宮廷に収蔵された12~14世紀の青磁特別展」という特集展示をやっていて、私はI~IVの水仙盆を現地で見ている。ただし最高傑作の「I」は別室にあって、II~IVと比較することができなかった。また、最近の故宮博物院は、大陸の団体客が多くて騒がしく落ち着かない。それに比べると、今回の展示は「人類史上最高のやきもの」を心ゆくまで堪能できる、実に貴重で幸福な機会だと思う。正直、東博に白菜がきたときみたいな騒ぎにならなくて、本当によかった。いつか台北に行こうと思っているやきものファンは、ぜひいま大阪へ!
なお今回、I、II、VIの付属品も出陳されている。Iの付属品は、まず、紫檀描金の台座。水仙盆の楕円形に四つ脚のかたちを模しているのが面白い。汝窯青磁の軽やかな透明感と、渋い紫檀描金のコントラストのセンスがすごくいい。そして、台座の引き出しを開けると、乾隆帝による「御筆書画合璧」という小冊子(折本?)が入っている。「臨黄庭堅」「臨蘇軾」などの詩、梅、蘭、松などの墨画、そして「太上皇帝之宝」の印影など。書画なら賛や跋を記したり、何度も印を押すことで、所有権を確認できるけれど、やきものにはできないので、こんな附属品をつくったのだろうか。IIも同型の台座。VIは小判型の平たい弁当箱のような台座で、やはり乾隆帝筆「臨王義之五帖」という冊子が入っている。
平常展『安宅コレクション中国陶磁・韓国陶磁』、特集展『宋磁の美』も力が入っていた。韓国陶磁は、青磁の優品を揃えている感じで、中国陶磁は、金や遼の三彩が面白かった。特別展の図録は、確かに写真は素晴らしいのだが、ハードカバーで重たそうだったので二の足を踏んだ。かわりに、乾隆帝筆「御筆書画合璧」の写真が大きく載っていた「聚美」という雑誌(特集・汝窯-珠玉の青磁)を買って帰った。
※1/17追記
これと同じ写真を、行く前にSNSで見て、え!汝窯水仙盆に水仙生けちゃったのか!と驚愕したが、さすがに違った。これは日本の陶芸家・島田幸一(1937-2016)の作品。半生をかけて汝窯の「再興」に取り組んだが、納得のいくものは20点に満たなかったという。水仙盆は4点あり、うち2点の作品が展示されている。常設展エリアのいちばん奥なので、ぜひ見逃さないでほしい。このエリアだけ写真撮影可。水仙は造花。