見もの・読みもの日記

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おん祭徹底ガイド/雑誌・芸術新潮「春日大社 神の森と至宝と祭り」

2017-01-31 22:46:33 | 読んだもの(書籍)
○雑誌『芸術新潮』2017年2月号「春日大社 神の森と至宝と祭り」 新潮社 2017.2

 東京国立博物館の『春日大社 千年の至宝』展にあわせた特集で「至宝どっさりの春日大社展を見る前に!」というキャッチコピーが、さりげなく表紙にも入っている。であるが、むしろ冒頭からしばらく続く、春日野の風景写真に心がときめいて、購入してしまった。のどかな春日野(飛火野?)の丘陵で、草を食む鹿たち。苔むした石灯籠のアップ。摂末社のひとつ、一言主神社の前で振り返る白いドレスの女の子。いかにも「観光写真」なのだが、奈良の風景には幸せな空気が満ちている。宝庫(ほうこ)の扉と錠前をアップにした、朱一色のページもいいし、灯りに照らされて闇に浮かび上がる緋袴の巫女さん(おん祭の一場面)の表紙も素敵だ。

 私の奈良好きキャリアは長いが、東大寺や興福寺に比べると、春日大社に関心を持ったのは遅い。はじめて8月15日の中元万燈籠に行ったのが(東大寺の万灯供養会のついでだった)2009年で、以来、さまざまな季節に足を向けるようになった。しかし考えてみると、1月の若草山焼きも、12月の春日若宮おん祭も、むかしからあこがれているばかりで、まだ体験したことがない。3月には春日祭が今でも行われているのだな。知らなかったわあ。

 特におん祭については、写真と文章とマンガによる詳細なルポに刺激されて、ますます行ってみたくなった。夜の御旅所で奉納される神楽、猿楽(三番叟。三番三と書くのか)、細男(せいのお)、和舞(わまい)、舞楽「蘭陵王」など。見たい! 聞きたい! 「ヲーヲー」と表現されている神官による警蹕(けいひつ)の声は、東博でおん祭のビデオを見たとき、これだ!と思った。芝崎みゆきさんのマンガによれば、闇の中で神様のお渡りを待つ間、「携帯電話などもお切りください。もし鳴りましたならば×××」と「超怖い」脅かし方をされるそうである。それでこそ正しい祭礼。

 宝物については、絵巻『春日権現験記絵』に大量のページを投入(うれしい)。まず、発願者は西園寺公衡、絵は高階隆兼、詞書は鷹司基忠と3人の子、という成立事情に触れる。次に各巻に描かれた人物とストーリー。残念ながら20巻全部は紹介されていないが、巻19の雪の春日山など、いい場面をチョイスしている。春日明神の多彩な示現の姿、「気に入らないお経を燃やす」「童子姿で甘える」「嬉しくて踊る」などかわいい。時には女性に憑依し、嫣然と鴨居に腰かけて託宣を下したりもする。春日明神は「貞慶が好き、でも明恵はもっと好き」だったのか。貞慶は「ちょっと頑固で、しかも疑り深いところがある」、明恵は「学究肌の、とてもピュアな人でした」という説明が、親しみと愛情にあふれていて、誰が書いているのだろう?と思ったら、元奈良博学芸部長の西山厚さんだった。なるほど。

 後半には、大鎧と胴丸(国宝甲冑四兄弟)と、義経の形見という伝承のある籠手、太刀、箏、獅子・狛犬などが紹介されている。本書のアップ写真で細部にやどる美を味わってから、東博へ本物を見にいくほうがいいと思う。

 なお、私が春日大社に興味を持ったきっかけのひとつに、権宮司の岡本彰夫さんの著書『大和古物漫遊』『大和古物拾遺』がある。調べたら、平成27年(2015)6月末に退職されたそうだ。宇陀郡曽爾村のご実家に「大和古物」の資料館を構想中だというので、ぜひ実現してほしい。(※参考:個人ブログ tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

 本書の第二特集は、東京都美術館の『ティツィアーノとヴェネツィア派展』にちなんで「王たちの画家、画家たちの王 ティツィアーノを堪能する」。90歳近くまで長生きし、パトロンにも恵まれ、お金に困ったことのない順風満帆人生だったというような、どうでもいい情報を仕入れてしまったが、絵はステキなので見に行こうと思う。
コメント
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