見もの・読みもの日記

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青と白の意外な使われ方/染付古便器の粋(Bunkamuraギャラリー)

2017-01-03 21:00:06 | 行ったもの(美術館・見仏)
Bunkamuraギャラリー 『染付古便器の粋-青と白、もてなしの装い』(2016年12月28日~2017年1月9日)

 常滑にあるINAXライブミュージアム収蔵の古便器の中から、美術品のように美しく華やかな染付古便器の逸品を展示するもの。年末、SNSに写真や感想が流れてきて気になっていたので、1月2日の朝にさっそく行ってみた。ほかにお客さんの姿がなかったので、会場内に座っていたおじさんが解説をしてくれた。



 「青と白」の色合いは江戸時代から非常に好まれ、浴衣、食器、花器など、生活のさまざまな場面で使われた。殿様のお屋敷や高級料亭では、この頃から陶器の便器が使われたかもしれないが、実物は残っていない。ここにあるような染付便器が広まったのは、明治24年(1891)の濃尾地震の後で、大打撃を受けた瀬戸村(現・愛知県瀬戸市)が、地場産業の瀬戸焼(窯業)復興のために生産を始め、次第に全国各地で作られるようになった。え、そうなのか、と思って、展示品のキャプションを見直すと、ほぼ全て「明治時代後期」とある。さっきまで江戸の伝統だと思って見ていたので、慌てる。



 江戸時代の便器は主に木製だった。初期の大便器の金隠しにあたる部分が板状なのは、木製便器の名残りである。焼きものでは、平たい板型を整形するのが難しかったため、現在のように丸みを帯びたかたちになった(へえ!)。はじめは陶器製だったが、陶器は水を吸うため、耐久性や衛生面に優れた磁器の便器が好まれるようになる。関東大震災以降は、白無地の便器が普及し、染付便器の流行は終焉した。

 絵柄は植物が多く、たまに鳥や動物が添えられている。野外で用を足す爽快感を演出してるのかしら。さすがに山水とか人物はないのだな。大便器の金隠しの外側に絵があっても、用を足す当人には見えないだろうと思ったら、お客様用の便所では、入口に対して横向きに大便器を据え付けるが作法なのだそうだ。万国博覧会で注目されたというので、輸出されたんだですか?と聞いてみたら、ヨーロッパは水洗トイレの時代だったので、トイレではなく美術品として、花瓶などに使われたらしいとのこと。笑った。さらに、この展覧会の核となっている染付古便器の収集家・千羽他何之(せんばたかし)氏も、いけばなの家元であることを教えてくれた。

 どうやって集めるんですか?古いお屋敷が壊されるときに貰いにいく?と聞いたら、骨董市に出るのだという。なお、染付便器が設置された状態で残っているお屋敷として、福岡の旧伊藤伝衛門邸や佐賀・唐津の旧高取邸の写真があった。高取邸は行ったんだけど、便器までは覚えていないなあ。ギャラリー内にも、設置状況を模した展示があったが、床板や壁まわりにも染付タイルを嵌めて統一感を出すんだなあ。あと、小便器に付随する陶器製の厠下駄というのは初めて見た。

 これらの古便器コレクションは、ふだんINAXライブミュージアムの一角にある資料館に展示されているのだが、資料館が耐震工事に入るため、Bunkamuraギャラリーで展示会をすることになったそうだ。しかし、ギャラリーの向かいがカフェなので、あまりいい顔はされなかったらしい。確かに外から見ると、何をやっているのか全く分からない飾りつけになっていた(笑)。いろいろ楽しいお話を聞かせてくれたおじさんは、学芸員の方だとのこと。ありがとうございました。
コメント (1)
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