○国立文楽劇場 平成29年初春文楽公演 第1部(1月14日、11:00~、16:30~)
・第1部『寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)』『奥州安達原(おうしゅうあだちがはら)・環の宮明御殿の段』『本朝二十四孝(ほんちょうにじゅうしこう)・十種香の段/奥庭狐火の段』
明けましておめでとうございます。正月は大阪文楽劇場の初春公演を見に行くのが、すっかり定例になってしまい、これがないと年が明けた気がしない。今年も舞台の上には「にらみ鯛」と「大凧」。大凧の文字は、生國魂神社(大阪市天王寺区)の中山幸彦宮司による「丁酉」。
第1部は「国立劇場開場五十周年を祝ひて」目出度く『寿式三番叟』で幕開け。舞台の後方の雛壇に三味線と太夫、9名ずつが並ぶ。中央は呂勢太夫と鶴澤清治。三番叟は一輔(又平)と玉佳(検非違使、イケメンのほう)。かなり激しい動きで長い時間、動き続けるので、これは体力がいるなあと思った。あとで劇場1階の展示室をのぞいたら、過去の『寿式三番叟』のダイジェスト映像をつないだものが流れていて、文雀さんと先代の玉男さん(左を遣っているのが今の玉男さん)、蓑助さんと勘十郎さん、かなり若い桐竹紋寿さん、吉田文吾さんなど、懐かしい映像を見ることができて嬉しかった。
『奥州安達原』は題名だけ知っていたが、初めて見た。安倍貞任、宗任兄弟と源義家が登場する。史実を大胆に改変して虚構の物語世界をつくっているわけだが、その設定がかなり複雑なので、幕間にプログラムの解説を読んでおかなかったら、全く分からなかっただろう(久保裕明先生の「ある古書店主と大学生の会話」が分かりやすい)。しかし、親に隠れて安倍貞任(仮の名を桂中納言則氏)と通じて子をなした袖萩は、あそこまで罵倒されなければならんのか。町人の娘ならともかく、武士の娘たるもの、というのだが、封建社会は面倒くさい。もちろん義理をいうのは建前で、父も母も、内心には娘への愛情を持っているのであるが。
『本朝二十四孝』も、私は何度か見ているので人物関係が分かっているが、今回の上演部分だけだと理解しにくいのではないかと思う。隣のおばさんが「よう分からんわ」とぼやいていた。しかし筋が分からなくても、火の玉とか早変わりとか、ケレンたっぷりで目に楽しい演目である。勘十郎さん、くるくるよく回るので、振り回される左遣いと足遣いが大変そうだった。蓑助さんの腰元濡衣は、やっぱり格段に色っぽい。
・第2部『お染久松 染模様妹背門松(そめもよういもせのかどまつ)・油店の段/生玉の段/質店の段/蔵前の段』
第2部はあまり期待していなかったのだが、かえって第1部より面白かった。世話物は、時代物と違って込み入った設定もないし、詞章も平易なので耳で聞いてほぼ分かる。「油店の段」は、中を咲甫太夫、切を咲太夫。咲甫太夫さんの声も好きだが、咲太夫さんの芸がすばらしい。老若男女、十人に及ぶ個性的な登場人物を語り分けながら、旬なギャグも挟んでくる(誰が書いているのだ?)。人形は、失敗ばかりの小悪党の善六を勘十郎さん。笑いを誘う役が本当にうまい。久松の父親・久作は玉男さんで、こういう頑固で実直な百姓役がよく合うように思う。
物語は、途中の「生玉の段」が全て夢であったというのが、ちょっと面白い趣向。それから、お染久松の恋敵(お染の嫁入り先)の山家屋清兵衛というのが全く悪人でなく、むしろ人格者というのが面白かった。でもお染にとっては、大人(おとな)の山家屋より、いたずら者で将来のない久松のほうが魅力的なんだろうな。蓑二郎さんのお染は娘らしく可憐で、しかも色っぽかった。これから注目していこう。
↓1階ロビーに置かれたにらみ鯛。
↓開演前、床(太夫と三味線が登場する台)に飾られた大阪風のお供え餅。
・第1部『寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)』『奥州安達原(おうしゅうあだちがはら)・環の宮明御殿の段』『本朝二十四孝(ほんちょうにじゅうしこう)・十種香の段/奥庭狐火の段』
明けましておめでとうございます。正月は大阪文楽劇場の初春公演を見に行くのが、すっかり定例になってしまい、これがないと年が明けた気がしない。今年も舞台の上には「にらみ鯛」と「大凧」。大凧の文字は、生國魂神社(大阪市天王寺区)の中山幸彦宮司による「丁酉」。
第1部は「国立劇場開場五十周年を祝ひて」目出度く『寿式三番叟』で幕開け。舞台の後方の雛壇に三味線と太夫、9名ずつが並ぶ。中央は呂勢太夫と鶴澤清治。三番叟は一輔(又平)と玉佳(検非違使、イケメンのほう)。かなり激しい動きで長い時間、動き続けるので、これは体力がいるなあと思った。あとで劇場1階の展示室をのぞいたら、過去の『寿式三番叟』のダイジェスト映像をつないだものが流れていて、文雀さんと先代の玉男さん(左を遣っているのが今の玉男さん)、蓑助さんと勘十郎さん、かなり若い桐竹紋寿さん、吉田文吾さんなど、懐かしい映像を見ることができて嬉しかった。
『奥州安達原』は題名だけ知っていたが、初めて見た。安倍貞任、宗任兄弟と源義家が登場する。史実を大胆に改変して虚構の物語世界をつくっているわけだが、その設定がかなり複雑なので、幕間にプログラムの解説を読んでおかなかったら、全く分からなかっただろう(久保裕明先生の「ある古書店主と大学生の会話」が分かりやすい)。しかし、親に隠れて安倍貞任(仮の名を桂中納言則氏)と通じて子をなした袖萩は、あそこまで罵倒されなければならんのか。町人の娘ならともかく、武士の娘たるもの、というのだが、封建社会は面倒くさい。もちろん義理をいうのは建前で、父も母も、内心には娘への愛情を持っているのであるが。
『本朝二十四孝』も、私は何度か見ているので人物関係が分かっているが、今回の上演部分だけだと理解しにくいのではないかと思う。隣のおばさんが「よう分からんわ」とぼやいていた。しかし筋が分からなくても、火の玉とか早変わりとか、ケレンたっぷりで目に楽しい演目である。勘十郎さん、くるくるよく回るので、振り回される左遣いと足遣いが大変そうだった。蓑助さんの腰元濡衣は、やっぱり格段に色っぽい。
・第2部『お染久松 染模様妹背門松(そめもよういもせのかどまつ)・油店の段/生玉の段/質店の段/蔵前の段』
第2部はあまり期待していなかったのだが、かえって第1部より面白かった。世話物は、時代物と違って込み入った設定もないし、詞章も平易なので耳で聞いてほぼ分かる。「油店の段」は、中を咲甫太夫、切を咲太夫。咲甫太夫さんの声も好きだが、咲太夫さんの芸がすばらしい。老若男女、十人に及ぶ個性的な登場人物を語り分けながら、旬なギャグも挟んでくる(誰が書いているのだ?)。人形は、失敗ばかりの小悪党の善六を勘十郎さん。笑いを誘う役が本当にうまい。久松の父親・久作は玉男さんで、こういう頑固で実直な百姓役がよく合うように思う。
物語は、途中の「生玉の段」が全て夢であったというのが、ちょっと面白い趣向。それから、お染久松の恋敵(お染の嫁入り先)の山家屋清兵衛というのが全く悪人でなく、むしろ人格者というのが面白かった。でもお染にとっては、大人(おとな)の山家屋より、いたずら者で将来のない久松のほうが魅力的なんだろうな。蓑二郎さんのお染は娘らしく可憐で、しかも色っぽかった。これから注目していこう。
↓1階ロビーに置かれたにらみ鯛。
↓開演前、床(太夫と三味線が登場する台)に飾られた大阪風のお供え餅。