見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

初夏のカルミア

2005-05-18 21:43:00 | なごみ写真帖
今年はフジを見逃してしまった。ツツジも。

とうことで、近所の庭に咲いていたカルミアの花。
こんぺいとうみたいだ。



連休とその前後に行った展覧会の話題も一段落。
いま、久しぶりに長編小説を読んでいるので「読んだもの」のネタもない。
週末は薔薇でも見に行こうかしら。
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片岡球子・百歳の情熱/神奈川県立近代美術館

2005-05-17 09:50:48 | 行ったもの(美術館・見仏)
○神奈川県立近代美術館・葉山館 『片岡球子展』

http://www.moma.pref.kanagawa.jp/museum/

 満100歳を迎えた片岡球子の画業を振り返る回顧展である。片岡球子の作品は、画集で見たり、テレビで見たりしているだけでも十分に魅力的だ。しかし、本物の作品を見たことのない人は、ぜひともこの展覧会に足を運んでほしい。色彩の洪水のような大画面に取り囲まれると、作者の情熱が、見る者の体内にまで押し寄せてくるように感じる。

 画家というのは、なぜか洋の東西を問わず、長生きをする人が多い。しかも晩年まで創作意欲が衰えず、化け物のように変容と成長を遂げていく。たとえばピカソ(92歳)、ゴヤ(82歳)、モネ(86歳)、ルノワール(78歳)、奥村土牛(102歳)、小倉遊亀(105歳)など。

 会場に掲げられた球子の年譜に「50歳までを初期とする」とあって、うなってしまった。30や40でわけ知り顔に老け込んでいては駄目ね。確かに、高等小学校の教員のかたわら、展覧会の落選を繰り返し、「落選の神様」と呼ばれた球子の画業は、50歳を過ぎてから、俄然、輝きを増す。

 「挑戦する日本画家」としての球子の評価を決定づけた2つのシリーズ「富士」と「面構え」が始まるのは、60歳を過ぎてからである。その面構えシリーズの最近作を見た。「一休さま」(2000年)がいい。広がった鼻の穴。無精ひげの目立つだらしない口もと。面倒臭そうで、しかも少し恥ずかしそうな視線。「風狂」と評された一休禅師の人となりを知る者なら、「これぞ一休さま!」とうなづくだろう。

 1996、97、98年の3回にわたって描き継がれた「雪舟」も面白い。いずれも雪舟の似顔の隣に、彼の代表作「四季山水図巻」の一場面がはめ込まれている。しかし、最初の作品では、着彩を白と茶色にとどめ、水墨画らしさを残していたものが、2年目の作品では、水の青、森の緑、萱葺き屋根の黄色など、自由な彩色を施され、3年目には、川波や人物のフォルムが、すっかり球子の筆づかいに成り切っている。雪舟翁も苦笑を禁じ得ないことだろう。

 1983年(83歳)からは、あえて絢爛たる色彩を廃し、堅実な裸婦デッサン「ポーズ」の連作を開始し、今日に至る。どうか今しばらくお元気で、新しい境地への挑戦を続けていただきたいものだ。
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来歴はヒミツ/神奈川県立歴史博物館

2005-05-16 00:03:20 | 行ったもの(美術館・見仏)
○神奈川県立歴史博物館 特別展『館蔵美術工芸名品展』

http://ch.kanagawa-museum.jp/

 開館10周年を記念した館蔵名品展である。イチ押しの名品は、会場の最初に展示されている木造菩薩半跏像(南宋時代)。大きさは、ほぼヒトの等身大。あでやかな宝冠、くつろいだ姿勢、頬の豊かな美女の面影が、いかにも南宋っぽい。「こういうくつろいだ姿勢の仏様は、日本では珍しく、中国的です」とボランティアの方が解説してくれる。

 しかしながら、私が聞きたかったのは別のことだ。「この仏像は、神奈川県のどこかのお寺に伝わっていたものなのでしょうか?」とお訊ねしてみると「さあ、今回の展示品は全てこの博物館の所蔵品ですが、それぞれ、どういう経緯で博物館のものになったかは、我々は全く聞いていないんです。どこかのお寺さんが手放したものかも知れませんし、学芸員の方が中国で見つけて購入したものかも知れません」とのお答え。なるほど。ちょっと拍子抜けしてしまった。これが、単純に「工芸の美」を楽しむための展示だったら、私もこんなことは気にしなかったと思う。だけど、ここはいちおう「歴史博物館」だし…。

 神奈川県立歴史博物館は、ホームページで自館の収集方針を「『かながわの文化と歴史』を主題として、かながわの文化史を概観できるような資料の収集を行ってきました」と語っている。「かながわの文化史を概観」するためには、所蔵品の来歴を知ることも大切なのではないか。まあ、たまたま中国で見つけた仏像を「鎌倉文化に深い影響を与えた南宋時代の仏像」ということで購入したとしても一理はあるのだが。

 絵画や工芸品には、判明した来歴が解説に付記されているものもあった。仏像に限っては、いろいろ問題があるのかなあ。お寺さんが、お金のために売り払ったとは言えないからなあ。

 最近、絵画に傾倒している私としては「中峰明本」という元代の僧侶の頂相図を推す。それから、地味な扱いを受けているが、宋元の白磁・青磁がいい。実は彫像や絵画よりずっと名品揃いではないかと思った。
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いざ名宝展/鎌倉国宝館

2005-05-15 21:37:31 | 行ったもの(美術館・見仏)
○鎌倉国宝館 特別展『鎌倉の至宝-国宝・重要文化財-』

http://www.city.kamakura.kanagawa.jp/kokuhoukan/

 例年、鎌倉国宝館では新春に名宝展が行われていたが、今年はゴールデンウィークにこの企画を持ってきた。新しいお客を呼び込むには、いいアイディアなのではないかと思う。

 たびたび国宝館に通っている私にとって、一度は見たことのある展示品がほとんどだが、「当麻曼荼羅縁起」と「頬焼阿弥陀縁起」の2つの絵巻が見られるのはやはり嬉しい。そのほかにも、絵画にいいものが出ている。個人的には円覚寺蔵の「被帽地蔵菩薩像」(高麗時代)が好きだ。

 初顔は「仏光国師坐像」。ふだんは円覚寺の開山堂に安置され、拝観することができないそうだが、平成16年度に保存修理されたことを記念して、特別に出品されてた。いかにも鎌倉時代らしい、内省的で控えめな、しかし個性のはっきりした肖像彫刻である。
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中国映画『無極』がお披露目

2005-05-14 22:05:53 | 見たもの(Webサイト・TV)
○陳凱歌(チェン・カイコー)監督 映画『無極』

■真田広之最新作カンヌでお披露目(goo映画 2005/05/14)
http://movie.goo.ne.jp/contents/news/NFPkfuln20050514052/

 中国映画『無極』(英語名:The Promise)のお披露目イベントが、カンヌ郊外で行われたらしい。5月12日夜、『スター・ウォーズ』や『ラスト・エンペラー』のパーティに使われたこともあるラ・ナプール城(Chateau de la Napoule)で、11分間の映像が初公開された。

 私は、ときどき中国語の芸能サイトを斜め読みしている程度で、中国映画にも韓流ドラマにも、さほど熱い関心は持っていない。最近、映画ニュースに《無極》というタイトルが頻繁に載るなあ、と思っていたが、誰のどんな作品か、全く分かっていなかった。そうしたら先日、「新浪網」のTOPに、弓を引き絞る美々しい武人の写真が出ていたので、しばらく見とれてしまったら、実は真田広之だったという次第。

■《無極》劇照独家曝光-真田広之扮相俊美(中国語)
http://ent.sina.com.cn/m/2005-05-13/0317722437.html

 ところで、張東健って誰?って首をかしげていたら、今日の日本語ニュースで、これが韓流スターのチャン・ドンゴンであるとやっと分かった。あと、ヒロインの張柏芝が、セシリア・チャンという香港のスターであることも。

 下記によれば、《無極》のストーリーは秘密に保たれていて、出演者は台本を持ち出すことが禁じられているそうだ。推測によれば、模糊とした時代設定だが、歴史上の人物も多少出てくるらしい(一説では3000年前とも。歴史上の人物って、三皇五帝か?)。ひとことで言うなら、”中国版『ロード・オブ・ザ・リング』”という表現があって、なるほど、と膝を打ってしまった。

 しかし、中国の大衆文芸・演劇・映画は、つかず離れず、歴史に寄り添うのが伝統である。もし本当に『ロード・オブ・ザ・リング』のような純正ファンタジーが構想さあれているとしたら、これは一国の文芸の伝統に対する挑戦であるとも言える。興味深い。

 また別の情報では冒頭はこうである。死体のころがる戦場で、食べ物を探していた少女に、ひとりの美しい巫女が声をかける。「お前は世界中の男に追い求められる姫君になりたくないか? その代わり、お前は永遠に真実の愛と快楽を体験しなければいけない(但代価是ni将永遠無法体験到真愛和快楽)」。 少女は「はい」と答える。あ~だから“3000 years ago”であって、かつ“in the future”なのか。なんか『火の鳥』みたいでもあるな。

■《無極》総合サイト(新浪網):劇情(あらすじ)簡介あり(中国語)
http://ent.sina.com.cn/m/c/f/wuji/index.html
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奈良博の名宝、東国に来臨/金沢文庫

2005-05-13 08:02:11 | 行ったもの(美術館・見仏)
○神奈川県立金沢文庫『祈りの美-奈良国立博物館の名宝-』

http://www.planet.pref.kanagawa.jp/city/kanazawa.htm

 いや~すごい、すごいね。日ごろ、金沢文庫にはお世話になっている。地域密着型の企画で、よく頑張っていると思っていた。しかし、やっぱり奈良博のコレクションは格が違う。いつもの定食屋で、いきなり三ツ星レストランのシェフのフルコースを出されたような気分だ。

 まず見どころは1階の、ふだん称名寺の釈迦如来(複製)が飾られているコーナーに、奈良博が所蔵する、太寧寺旧蔵の十二神将が展示されている。太寧寺は金沢文庫に近い六浦庄にあったが、戦前の軍用地接収で、移転させられてしまったそうだ。今回、移転先に残る本尊の薬師如来が特別出品されており、ひとつ台座の上で十二神将と久しぶりの再会を果たしている。よかった。この十二神将がよい。小ぶりだが、360度、どこから眺めても破綻のない、豊かな躍動感を感じる。左手を額にかざした卯神が特にいい。

 2階にあがると絵画。「辟邪絵(へきじゃえ)」が来ると知ったときは、耳を疑った。しかも「天刑星」と「神虫」は、私のいちばん見たかった作品である。これまで「栴檀乾闥婆」「鍾馗」は奈良博で見た記憶がある。もしかしたら「毘沙門天」も。でも、辟邪絵と言えば必ず図版に載る「天刑星」には、なぜか当たったことがなかった。ついに巡り会った本物を前に、しばらくぼうっとしてしまった。

 陰惨な絵柄なのに、色彩が本当に美しい。天刑星の腕、神虫の大きな口は、バラバラに引きちぎられた悪鬼の血に染まっている。しかし、その血糊さえ、甘やかに美しいのだ。確か『芸術新潮』で読んだ話だと思うが、この「辟邪絵」は、一時期、さる大物の組長のところにあったらしい。興味のある方は調べていただきたい。

 それから、南宋時代の「仏涅槃図」に注目。高々と聳え立つ2本の樹(松?)、入滅の釈迦を取り巻くわずかな人数、踊る胡人など、我々が知っている涅槃図とは全く異なる図様なのだ。

 考えてみると、私は何度も奈良博に行っているが、たいがい大きな企画展をやっているときなので、本館の仏像はともかく、それ以外の奈良博の常設展(絵画とか工芸とか)は、ほとんど見たことがない。ううむ、こういう巡回展はありがたいなあ。

 隣室に進むと「走り大黒」がいる! 奈良博のミュージアムショップでは、キャラクターとしておなじみの「走り大黒」だが、考えてみると、本物を見るのは初めてである。思わぬところで、アイドルスターに会ってしまったようで、嬉しい。もうちょっと側面が見えるように展示してほしかったんだけど。

 全体としては、土地柄を重視したのか、鎌倉時代のものが多いように思うが、東寺伝来の「牛皮華鬘」2点(国宝、平安時代)、天平写経の白眉といわれる「金光明最勝王経」(国宝)などが華を添えている。とにかく、関東人は行かなければ損。会期末まで展示換えはなしとのこと。

■奈良国立博物館「名品紹介」
http://www.narahaku.go.jp/meihin/index.html
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新指定文化財/東京国立博物館

2005-05-12 08:09:32 | 行ったもの(美術館・見仏)
○東京国立博物館 特集陳列『平成17年新指定国宝・重要文化財』

http://www.tnm.go.jp/

 恒例の新指定国宝・重要文化財の展示。何と言っても見逃せないのは、熊野速玉大社の神像(木造、平安時代)であろう。新春の『祈りの道―吉野・熊野・高野の名宝』でも拝見しているが、世田谷美術館よりも、近くに寄って見ることができて嬉しかった。熊野速玉大神(壮年男性)、夫須美大神(女性)、家津御子大神(青年)の3体で揃いだと思っていたら、もう1体、国常立命坐像があって(これも青年。破損が激しい)、4体が国宝に指定されていた。

 それにしても、これは拝殿ではなくて、文化財としての展示なので、上記の順序に並んでいてもおかしくないのだが、主神の熊野速玉大神が真ん中にいないのは、どうも落ち着かない。自分の感じ方を可笑しいと思った。

 蓮台寺(神奈川県)の真教坐像(木造、鎌倉時代)は、一遍を継いだ時宗の僧侶、真教の肖像彫刻である。顔に比べて大ぶりな体が目立ち、短い茎のついた蓮の蕾を、短銃か何かのように前方に差し出したポーズも異相であるが、歪んだ顔つき(病気だったらしい)に浮かぶ真摯さに、不思議と人を惹きつけるものがある。蓮台寺は、この連休中に訪ねた国府津の宝金剛寺のすぐ近所である。宝金剛寺の住職のお話では、小田原市で国の重文指定を受けた彫刻は、これがやっと3件目だそうだ。

 東大寺・戒壇院の千手観音と四天王、鎌倉・覚園寺の十二神将(写真パネルのみ)など、今回は彫刻になかなか名品が多かったように思う。

 そのほかでは、戦争で失われた文化財の記録「琉球芸術調査写真」や、北海道の官寺建立に関する資料、英国製機関車(パネル展示)など、江戸~近代資料が面白い。

 「対馬宗家関係資料」には笑ってしまった。対馬の宗家は、足利将軍家や徳川幕府に代わって、対朝鮮外交を一手に引き受けてきた。両国の友好的な通商関係を保つため、必要とあらば文書の偽造もしたらしい。「朝鮮国王印の偽造印」とか「足利将軍印の模造印」が重要文化財に指定されている。いいのかね、これって。

 常設展では『地蔵菩薩霊験記絵巻』と『鳥獣人物戯画巻・丁巻』が6月初めまで見られる。『鳥獣戯画』は、サルやウサギを描いた甲巻ばかりが有名だが、僧侶・貴族・庶民など、さまざまな人間の様相を滑稽に描いた丁巻のほうがずっと楽しめるし、「マンガ」の元祖という呼び名にふさわしいのにね。
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北京・1990年代/わが家の犬は世界一

2005-05-11 08:13:06 | 見たもの(Webサイト・TV)
○路学長(ルー・シュエチャン)監督 映画『わが家の犬は世界一』

http://movie.goo.ne.jp/contents/movies/MOVCSTD6689/

 1990年代半ば、急速な経済発展を背景に、中国の都市生活者に俄然起こったペットブーム。1994年、北京市は犬の飼育制限を決定し、公安への登録と高額な登録料の支払い(5,000元)が義務づけられた(その後、規定が一部改定され、登録料は5分の類1の1,000元まで引き下げられたという)。

 主人公は、北京の高層アパートに暮らす平凡な3人家族。アパートには薄暗い電灯がともり、旧式のエレベーターがのろのろと動いている。明るい室内にはモノがあふれているけれど、お父さんとお母さんの服装はまだつつましい。外国人の身で、こう言うのも可笑しいが、映像のディティールを、すごく「なつかしく」感じてしまった。

 校則で禁止されたファッションで意気揚々と登校する息子。自転車に乗った彼が、見向きもせずに通り過ぎていく天安門に掲げられた毛沢東の肖像。学校の授業では、相も変わらず、国家を賛美する歌が教えられている。街に出れば、天を圧するような高層ビル。高い教育を受け、最新のファッションを見につけ、屈託なく自信にあふれた若者たち。一方には、昔ながらの石造の住宅にひっそり暮らす老人たちがいる。古いものと新しいものが交差する北京の90年代を、映画は淡々と描いていく。

 BGMもないし、効果音も特殊なカメラワークもなくて、物語は淡々と進み、そして唐突に終わってしまう。後ろで見ていたおばさんたちが「え、これで終わりなの?」「ヘンな終わり方ねえ」と呆れていた。確かに。でも、こういうスタイルの中国映画って、わりと多いように思う(ジャ・ジャンク―の『一瞬の夢』『プラットホーム』など)。まあ、一般受けはしないだろうなあ。

■新浪網《卡拉是条狗》(中国語)
http://ent.sina.com.cn/m/f/f/kaladog/
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平家の華・平泉の華/千葉市美術館

2005-05-10 12:21:01 | 行ったもの(美術館・見仏)
○千葉市美術館『義経展 ~源氏・平氏・奥州藤原氏の至宝~』

http://www.city.chiba.jp/art/

 タッキー義経は相変わらずの人気のようだ。大河ドラマも視聴率もまあまあの水準を維持している。というわけで『義経展』も老若男女で混雑していた。『新シルクロード展』も盛況だったし、NHK、商売うまいな、と思った。

 しかし、本当のところ、「商売がうまい」のは、美術館のほうかもしれない。この展覧会、実際の見どころは「平家一門の栄華」と題した厳島神社の奉納品と、「奥州藤原氏と平泉の黄金秘宝」と題した平泉関連の品々であろう。古美術ファンには、まさに垂涎の、王朝美術工芸の精華を味わうことができる。しかし、「義経」のネームバリューがなければ、これだけの観客を引き寄せることはできなかっただろうと思う。

 平泉ものでは、迦陵頻伽(かりょうびんが)を刻んだ、団扇形の金銅華鬘の美しさ。嬉しいのは、複製品によって、造られた当時の黄金の輝きを追体験できることだ。厳島関連では、一巻だけだが、国宝「平家納経」が出品されている。見返しに山林の僧侶を描いたもので、華やかさには欠けるが、ちょっと珍しいと思った。同時に、美術研究家・田中親美による復元模本の素晴らしさに目を見張った。もしかしたら原本も、これほどの美しさは持たなかったのではないか?なんて、ふと倒錯した感慨にとらわれる。こういう気合いの入った作品なら、複製展示でも大歓迎できる。

 色鮮やかな絵巻、絵本、屏風なども楽しかった。私は平家物語は原文を読んでいるので、かなりマイナーな場面でも、誰のどんな場面か言い当てることができる。しかし、御伽草子系統の義経伝説になると弱い。たくさん出ていた奈良絵本について、せっかくなら、もうちょっと親切な場面解説があればいいのにと思った。
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関西美術展めぐり補遺

2005-05-09 00:06:07 | 行ったもの(美術館・見仏)
○東寺宝物館『東寺名宝展―墨と仏の造形 東寺の書跡・典籍と彫刻―』

 ずいぶん欲張ったタイトルだなあと思ったら、開館40周年記念だそうだ。久しぶりに本物の「風信帖」を見た。「宋版一切経」「宋版大般若経」など経典類がたくさん出ていたのも興味深かった。彫像では、老僧の姿をした「聖僧文殊菩薩像」(平安時代)が珍しいと思った。文殊菩薩って、童形から老人まで、学究肌から武闘派まで、実に変幻自在である。


○伊丹市立美術館『笑いの奇才・耳鳥斎!~近世大坂の戯画~』

http://www.artmuseum-itami.jp/

 大阪で商売を営むかたわら、戯画や風俗画に才能を発揮した耳鳥斎(にちょうさい)の作品展。江戸中期、円山応挙や曽我蕭白の同時代人である。滑稽なポーズを強調する長い手足(”鳥羽絵”と言うらしい)、鼻を省略した丸顔など、横山隆一の「フクちゃん」とか、近代以降のマンガの絵柄とそっくりなのが興味深かった。


○愛知県美術館『自然をめぐる千年の旅―山水から風景へ―』

http://www-art.aac.pref.aichi.jp/jhome.html

 「愛・地球博を機に愛知県を訪れる国内外の方々に、日本美術の歴史的名品の数々を一堂で観られるまたとない機会を提供する」という、壮大かつ大胆な趣旨で開催中の展覧会。確かに古美術と近代絵画の垣根を取り払って、めったに一緒に並ぶことのない作品が並んでいる図というのは面白いものだ。雪舟あり、応挙あり、若冲あり、また、横山大観、下村観山、果ては黒田清輝という具合で、新も旧も入り乱れて、もう頭の中がぐちゃぐちゃである。残念ながら、古美術に関しては、前期のほうがよかったと思う。近代ものでは、初見の川合玉堂「行く春」が印象に残った。
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