見もの・読みもの日記

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東アジア・海の道/国立歴史民俗博物館

2005-05-22 19:55:36 | 行ったもの(美術館・見仏)
○国立歴史民俗博物館 企画展『東アジア中世海道―海商・港・沈没船―』

http://www.rekihaku.ac.jp/index_nj.html

 私が子供の頃、「日本は島国だから鎖国にも成功し、独自の文化が育った」というのは、大人が口を揃えて語る「定説」だった。それが、「海は、人と人、文化と文化を隔てるものでなく、むしろ結びつけるものだ」という説が流行り始めたのは、1980年頃ではなかったか(学問の世界ではもう少し早いのかもしれない)。初めてこの説を聞いたときの新鮮な驚きは今も忘れられない。だから、勝手な推測だが、この展示の企画チームは、比較的若いのではないかと思った。

 さて、3月末から始まっていた企画展に、最終日前日、ようやく行ってきた。千葉県佐倉の「れきはく」まで出かけるのは、東京の住人にとって、ちょっと決意のいる小旅行である。ちょうど14時からのギャラリートークが始まったところで、2組のツアーが館内を動いていた。団体行動があまり好きでない私は、はじめ、集団を無視して、勝手に展示を見ていた。ところが、後発の講師の声がいいのだ。よく響く。しかも要点が明確で話が面白いので、つい目の前の展示品より、トークに耳を傾けてしまう。こういうことは滅多にしたことがないのだが、とうとう途中からツアーに加わってしまった。

 講師のあとに続く集団は20人近くいたので、なかなか展示品のそばに近寄れない。結局、ひととおり説明を聞いたあと、もう一度、初めから見てまわることになり、倍の時間がかかってしまった。しかし、ひとりでは気がつかない展示の意図や要点がよく分かって、非常に面白かった。

 たとえば、ときどき目にする深い緑釉は「華南の焼き物の特徴です」と言われると「なるほど」と思う。「よく使われた銭のランキング」も「北宋銭が圧倒的に多い」と、ひとことコメントが加わると記憶に残る。「石見銀山は、世界遺産指定をねらって整備が進んでいます」なんて余談も。おもしろい話題ならいくらでもありますぜ、という余裕が感じられて、やっぱり、プロのトークは面白い。

 「れきはく」には何度か来ているが、こんなに活気があってお客が多かったのは初めてだ。さほど派手な展示企画ではないのに、営業努力のたまものかもしれない。

 私がすっかり感心したギャラリートークの先生は、帰り際、入口に戻ったら、2回目のツアーを始めていた。もう午後4時を過ぎていて、2回目のツアーは予定にはないはずなのに、自主的なサービスだったのだろうか(ちなみに、お名前は「れきはく」のホームページで分かったけど、敢えてここには記さずにおく)。

 展示については、考古遺物・文献・絵画・地図・工芸品など、さまざな歴史資料を駆使した多面的アプローチが面白い。最後のコーナーで、各地の美術館などが所蔵する「名品」にたどりつく構成になっている。北宋の白磁、南宋の天目茶碗、元の青花、高麗の青磁など、いずれも美術品として純粋な鑑賞に堪える、一級の名品である。しかしまた、それらが日本にもたらされた「海の道」の存在、さまざまな人と物の往来を考えると、自ずと別の興趣が感じられる。

 図録も読み応えがあって満足。このあと、大阪展、山口展が予定されている。
コメント (7)
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