見もの・読みもの日記

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変容する唐美人/大阪市立美術館

2005-05-05 00:05:38 | 行ったもの(美術館・見仏)
○大阪市立美術館 特別展『大唐王朝 女性の美 -A Walk Through the Peony Garden- Women Image in the Tang Dynasty』

http://osaka-art.info-museum.net/

 中国・唐王朝の美人といえば楊貴妃、そして日本の平安時代と同じく、顔も体も丸みを帯びたふくよかな女性が好まれていたと信じられている。しかし、唐王朝300年の間、女性の好みが変わらなかったわけでは決してない。そのことを確認できる展覧会である。

 確かにある時期の女性像は豊満だ。しかも現代的な(西洋的な)「くびれ」を嫌って、上から下までボールのように丸い。豊満を通り越して、ちょっとどうかな、と思うくらいの体型である。

 しかし、それ以外の時期は、顔はふっくらした丸顔でも、身体はわりあい細身である。髪を高く編み上げ、ウェストを高めに取って、むしろ縦のラインを強調しているように思う。これが極端になると、ありえない髪型の童顔に、ありえない細さの体が付いて、ほとんどキューティーハニーのフィギュアじゃないか、と思われる女子俑もあった。

 「俑」というのは、陵墓におさめる副葬品であるから、現代のフィギュアのように愛玩されたはずはないのだけど、でも、造っている陶工が、ふと人形愛(ピグマリオニスム)に捉われたとしても不思議ではない。大唐王朝は、そのくらいの想像を許容する爛熟した文化の時代だったから。

 体型の如何よりも、注目したいのはその表情である。唐の女子俑は、しばしば、やや顎(あご)を上げ、細い目で挑むように見る者を見返してくる。端正で意志的な表情が美しい。日本の王朝絵巻に描かれた高貴な女性像が、多くの場合、うつむき気味に目を伏せているのとは対象的である(でも俑に造られる階級の女性と、高貴な女性を比べてはいけないのかな)。

 また、唐の女性像には男装が多い。大阪市立美術館のサイト(上掲)のTOPにある壁画「仕女図」には、赤いスカートの女性と官服姿の男性が描かれている。女性の前を歩く男性は、眉もりりしく、肩幅も広い好男子で、フロックコートのような官服を着ている。襟・袖・合わせの折り返しに華やかな文様が織り出してある。なかなかの洒落者だなあ、と思い、解説を読んで、愕然とした。2人の人物は、どちらも女性であるというのだ。唇の赤さが、わずかに彼(女)が女性であることを告げているという。

 この「仕女図」を含む壁画のエントリーは、東京で開催中の『新シルクロード展』に負けず劣らず出色。日本にいて、こんな素晴らしいものが見られていいんだろうか、と思う(やっぱり、図録買ってくるんだった~Webに詳しい展示目録がないので、どこの陵墓の出土品か確認できない)。

 常設展では、山口の洞春寺(去年、行った)蔵「維摩居士像」が印象に残った。元代の絵画らしいが、際立った近代性を感じさせる。余談だが、展覧会の英語名「A Walk Through the Peony Garden」には首をひねった。一読して分からなかった単語「Peony」は、植物の「牡丹」のこと。なるほど。
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