見もの・読みもの日記

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王朝の美学の光と影/やまと絵(東京国立博物館)

2023-11-06 22:23:31 | 行ったもの(美術館・見仏)

東京国立博物館 特別展『やまと絵-受け継がれる王朝の美-』(2023年10月11日~12月3日)

 千年を超す歳月のなか、王朝美の精華を受け継ぎながらも、常に革新的であり続けてきたやまと絵を、特に平安時代から室町時代の優品を精選して紹介する特別展。出品245件。「すごい展覧会」であることは間違いないのだが、出品リストを眺めると、だいたい見たことのある作品で、どうしてもこれを見たい!というものはなかった。なので、どの時期に行くか決めかねていたのだが、神護寺三像が見どころの第2期に行ってきた。

 土日祝日は予約制なので朝イチのコマを取ったが、会場に着いたときは、開館時間を少しまわっていた。なので混雑を避けて、鎌倉時代から見ることにした。鎌倉時代(第2章)の冒頭、細長い展示室の短辺の展示ケースに神護寺三像が掛けてあり、その存在感は圧倒的だった。この会場でこの作品を見ることができてよかったとしみじみ思った。

 この展示室(第1会場の中間)の主要部分は、平安時代(第1章)の後半に当たり、後白河院の蓮華王院宝蔵に関連する独特な作品が並ぶ。『辟邪絵』は「神虫」、なぜか『華厳五十五所絵巻断簡』を挟んで(口直し?)『病草紙』は「不眠の女」「屎を吐く男」(これは初見かも)「痣のある女」「眼病治療」「霍乱の女」(英文タイトルがHeatshockだった)の5点も出ていてテンションが上がった。『地獄草紙』『餓鬼草紙』もあり。『地獄草紙』の「勘当の鬼」は、僧侶を抱えて走る赤鬼がちょっと可愛い(福岡市美術館所蔵)。

 これでもう来た甲斐があったと満足してしまったので、『源氏物語絵巻』「柏木二」は観客の肩越しにチラ見だけでいいことにする。次の『信貴山縁起絵巻』「飛倉巻」は、やっぱり好きなので、列に並んで一番前でじっくり見る。ちょうど隣りに中国人の女性二人組(母子?)がいて、絵の内容について会話をしながら楽しそうに見ていた。ぺったり地面に座り込んだ登場人物について「蹲」「陝西」って言っていなかったかな。今の日本人はこういう格好はしない、みたいなことも。ほかに『粉河寺縁起絵巻』と『鳥獣戯画』乙巻。

 次の展示室に移って、鎌倉時代を続ける。まず前半は人物画。『近衛兼経像』(高山寺)は記憶にない作品だったが、写実的に容貌を再現した手練れの肖像画だった。歌仙絵『佐竹本三十六歌仙絵』からは「小大君」「小野小町」「壬生忠峯」で、これもかなり貴重で豪華なラインナップである。

 後半は『西行物語絵巻』(徳川美術館)『一遍聖絵』『男衾三郎絵巻』などが並ぶのだが、物語そのものではなくて、その「風景」表現に着目する。武士の暴力的な一面を描いたことでも知られる『男衾三郎絵巻』に、こんな愛らしい、紅葉や水鳥の描写があったなんて! 『虚空蔵菩薩像』(東博)は、密教的な装飾を身にまとった美麗な尊像が円光の中に浮かぶが、画面下部の風景、なだらかな山並みと三角形の糸杉はまさに「やまと絵」である。

 第2会場も鎌倉時代の続きで、多様な絵巻、王朝追慕の美術など。『紫式部日記絵巻』は東博でときどき見るのではないものが出ていてびっくりした。図録には「阿波・蜂須賀家伝来」とあるのみで所蔵者表記なし。『なよ竹物語絵巻』も初めて見ると思ったが、香川・金刀比羅宮の所蔵だった。『平治物語絵巻』の「信西巻」「六波羅行幸巻」を並べて見ることができたのも嬉しかったが、同絵巻の断簡(2葉1幅、所蔵者表記なし)が出ていたのも想定外。1葉は、黒い壁のようなものの脇で抜刀前の刀を構える腹巻姿の武士。別の1葉は、馬上で横を向く武士の後ろ姿、冑を被り、大弓を持つ武士、馬を引く武士の三者が切り取られている。全体に淡い色彩、細い描線で、比較的本来の姿を保っているように感じられた。

 『一遍聖絵』巻7(京都での踊り念仏)は隅々まで楽しくて、子供の頃、手塚マンガのモブシーンが大好きだったことを思い出した。これ、描いているほうも絶対楽しんでいるだろうなあ。『仏鬼軍絵巻』(京都・十念寺)は、むかし京博で見て、大好きになったもの。これは仏菩薩とか地獄の牛頭馬頭とか、既存のキャラを自分の絵で動かしてみたいと思った絵師が描いたのではないかと思う。『百鬼夜行絵巻』(真珠庵本)が東博で見られたのはとても嬉しかった(会場に赤い妖怪の巨大なバナー!)。が、全編公開ではなかったので、最後の赤い太陽は見られず。巻替えするのかもしれない。時代を下って『年中行事絵巻』の「住吉本」(彩色)と「鷹司本」(白描)も眼福だった。住吉本を見ていて、老若男女かかわりなく、人物の頬に紅を置くのが、やまと絵の伝統なのかな、と思った。

 最後に第1室(序章)もしっかり参観したが、序章は古筆や古記録(「倭絵」の初出=権記など)が多いので、斜め見して先に進むのが正解だと思う。あと、グッズ売り場がめちゃくちゃ魅力的な展覧会である。ぐっと我慢して図録の購入だけに留めたけれど。


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2 コメント

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お腹いっぱいの展覧会でした (鴨脚)
2023-11-12 14:32:47
今回も楽しく拝読しました。ありがとうございました。
神護寺三像を見ることができて良かったですね。私は4期すべてを見ようと思いましたが、2期目がどうしても都合がつかず断念しました。
『紫式部日記絵巻』は、4巻分残存していて、江戸期は、徳島藩蜂須賀家(個人蔵)、館林藩秋元家(藤田美術館蔵)、伊予西条藩松平家(分割:五島美術館蔵、東京国立博物館蔵、個人蔵)、伊予松山藩久松松平家(個人蔵)に伝来したものです。蜂須賀家本は、他の図書や図録では有名な古美術商(確か徽宗皇帝筆の絵を持っていたと思います。)の名義になっていますが、今回は個人蔵のようですね。4巻中3巻が四国の大名家、徳川将軍家に近い大名が持っていたのが興味深いです(蜂須賀家は、将軍家斉の子の養子先、西条松平家は紀州徳川家の連枝、久松松平家は家康の異父弟の子孫。)。源氏物語、西行物語の絵巻は、尾張徳川家と蜂須賀家に対で残っていますので、徳川家康が絵巻のコレクターのキーマンとして挙がってくるような気がしますが、いかがでしょうか? 駿河御譲本からの妄想かも?
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いつもありがとうございます (jchz)
2023-11-19 19:35:26
絵巻コレクターとしての徳川家康というのは考えたことがなかったですが、おもしろいですね。よく知りませんが、家康は『源氏物語』を読んでいた(好んでいた)らしいので、『紫式部日記絵巻』は格別大事な作品だったかもしれません。
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