goo blog サービス終了のお知らせ 

見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

私生活の絵画/プラド美術館展(三菱一号館美術館)

2015-12-28 22:47:39 | 行ったもの(美術館・見仏)
三菱一号館美術館 『プラド美術館展-スペイン宮廷 美への情熱』(2015年10月10日~2016年1月31日)

 スペインの王室コレクションを受け継ぐプラド美術館。本展は、15世紀から19世紀末までの作品から「小さなサイズ」という共通項を持った100点以上の絵画を集めた展覧会である。プラド美術館で2013年に開催され、バルセロナへの巡回を経て、新しい作品を加えて、日本での開催となった。「小さなサイズ」にも幅があるが、だいたい一辺が30~40センチか、もう一回り大きいくらいの作品が多かった。解説によれば、注文主の私的な楽しみのために描かれた絵画が多く含まれるという。会場に入って、なるほど日本の一般的なギャラリーで見るには、このくらいのサイズがちょうどいいと思った。王侯貴族の肖像画など巨大な絵画は、日本では箱ものが限られてしまう。

 だいたい年代順に構成されているので、はじめは14~15世紀の宗教画が中心。ヒエロニムス・ボスの『愚者の石の除去』が来ていたが、こんなに小さな作品(48.5×34.5)だったのか。しかも「絵画」は円形で、そのまわりに黒字に金で「先生、どうか石を早く取り除いておくんなさい」「おいらの名はルッペルト・ダス(お人よしの意)だ」という会話(?)が描き込まれている。

 16世紀、ルネサンスからマニエリスムへ。ティツィアーノの『十字架を担うキリスト』の押し殺した迫力、いいなあ。小サイズの絵画には、公式の大作にはない、自由で実験的な制作が見うけられる。エル・グレコの『受胎告知』は、わずか26.7×20の小品なのに、見た瞬間、エル・グレコだと分かるのが面白い。17世紀、バロック。ベラスケスの黒、ルーベンスの色彩。ムリーリョの『ロザリオの聖母』。このばら色の肌と黒い目、濃い髪。スペイン美術大好きだ。

 ヤン・ブリューゲル(1世)をはじめとする静物画には、怖いもの見たさの魅力がある。ハブリエル・メツーという知らない画家の『死せる雄鶏』には高橋由一の『鮭』を思い出してしまった(紐で吊るされているから)。ヤン・ブリューゲル(2世)の『地上の楽園』は若冲の『鳥獣花木図屏風』を思い出した。単なる連想だけど。そして、ピーテル・ブリューゲル(2世)の『バベルの塔の建設』。父のブリューゲル(1世)の描いたバベルの塔に比べると、基壇の全囲が小さくて、縦に細長い塔になりそうな形をしている。ずいぶん目を凝らして見て来たつもりだったのに、いま図録を開いて、工夫たちの姿など、全く見えていなかったことが分かった。暗く幻想的な『冥府のオルフェウスとエウリュディケ』を描いたピーテル・フリスという画家は初めて知った。知られている作品は3点しかないのだそうだ。そのうちの1点を日本で見ることができてうれしい。

 18世紀になると主題も技法も近代化して、あまり面白くないと思ったが、いやいや、ゴヤが登場する。1部屋使って6作品。『レオカディア』を日本に運んできてくれてありがとう! 私は糟糠の妻の肖像画として覚えたもの。いまは別人(画家が晩年に親密だった女性)の肖像と考えられているそうで、そう思って眺めると少し印象が変わる。『アルバ女公爵とラ・ベアタ』は驚くほど小さい(33×27.7)。しかしゴヤは、「私的な楽しみのための小品」の行きつく果てに、あの黒い絵を描き、自分の部屋に飾っていたんだよなあ、と感慨を催す。

 そのあと、アントン・ラファエル・メングスという画家の『マリア・ルイサ・デ・パルマ』という肖像画を見る。この展覧会のポスターなどにも使われていた、くりくりした黒い目の、若々しい女性の肖像。これが、後にゴヤの描いた『カルロス4世の家族』の中央で周囲を睥睨しているおばさん(王妃)そのひとだと知ったときは、死ぬほど驚いた。これだけでも見ておく価値があったと思っている。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする