○サントリー美術館『水-神秘のかたち』(2015年12月16日~2016年2月7日)
水にかかわる神仏、水に囲まれた理想郷など、水を源とする信仰に根ざした造形物を、彫刻、絵画、工芸にわたって展観する企画。このところ、会期末ぎりぎりに滑り込んだり、行き逃したりする展覧会が多かったが、この展覧会は速攻で行ってきた。朝早めに到着したこともあって、お客さんの姿はまだ少なかった。会場に入ると、お目当ての『日月山水図屏風』が視界の端に見えたもので、ふらふらと歩み寄ってしまった。今年3月、京博の特別展観のときの行動と同じ。私はこの屏風の魅力には全く抗することができないのだ。
展示ケースの奥行きが薄いせいか、すごく作品に接近できて嬉しかった。絵画の周りの布地(大縁/おおべり?)が宝珠を散らした金色の錦であることに気づいた。画面の大きな面積を占める金泥・金箔とよく合っている。いつも図録の大きさでイメージすることに慣れてしまうけれど、本物の屏風はけっこう大きくて、描かれたパーツ(松の木や山)も大きい。画面全体に生命力が満ちているので、どこかに鳥とか動物が描かれているのではないかと目を凝らすのだが、何もいないのが不思議だ。でも、桜と松しか認識していなかった画面に、実は柳や杉や広葉樹(桐?柏?)も描かれていることに気づき、ああ、日本の植生なんだなと思った。
少し心を落ち着けて冒頭へ。弥生時代の『流水文銅鐸』から始まる。背後には室町時代の『祇園社大政所絵図』(屏風装、個人蔵?)。画面では熱湯を笹の葉で振りかける湯立神事が行われている。来迎する神仏(鬼みたいなのが多数)とか、ソンブレロみたいな女性の帽子とか、いろいろ面白い。水辺に漂着した霊木でつくられた仏像の一例として、錫杖を備えた長谷寺式の十一面観音(パラミタミュージアム、美麗)と鎌倉・長谷寺所蔵の『長谷寺縁起絵巻』を展示。六臂の観音(?)が鑿やら槌やらを持って、大工仕事にいそしんでいる図に笑ってしまった。
さて、水の神仏といえば、なんといっても弁才天。図像、彫刻、数々ある中で、ひとつの展示ケースには、妖しいシルエットのパネルのみが入っていて「秘仏御開帳 2016年1月7日より」と赤字で記されていた。大阪・本山寺の宇賀神像(彫刻)である。展示図録には写真が載っているんだけど、エグいなあ~。石山寺蔵『天川弁才天曼荼羅』(絵画)もなかなか見ることのできないもの。ネタバレすると、蛇頭人身の三面十臂弁才天である。こうした異形の弁才天を知ったきっかけは、山本ひろ子さんの『異神』(平凡社、1998)だったような。また読んでみたくなった。
神奈川・瀬戸神社の神像彫刻6体がまとめて出ていたのは嬉しかった。男神、女神、髭のある童形神もいる。いずれも小型でずんぐりしている。2013年に金沢文庫の特別展でも見ている。今回、長谷寺やら江島神社やら称名寺やら、横浜・鎌倉エリアからの出品がいつになく多いように感じた。また、大和文華館の『吉野御子守明神像』(和装の女神)もいらしていた。
階下へ。金剛峯寺の『善女龍王像』(平安時代)は、衣の裾からちらっとのぞく龍の尾がチャームポイント(猫の尻尾みたい)。しかし、図録を見ると同じ善女龍王像でもいろんな造形があるのだなあ。階下の展示室の見ものは『春日龍珠箱』。奈良国立博物館の所蔵品だが、同館では定期的に展示されているのだろうか。私は、2006年春に東博の『新指定国宝・重要文化財』で見て、2008年にサントリー美術館で見て以来だった。外箱は記憶に残っていたけど、四方を逆巻く波の図で埋めた内箱はあまり記憶になかった。外箱の裏には、雷神・風神と三匹の龍と龍を肩に載せた束帯姿の八人の貴公子(八大龍王)。内箱の表裏には八人の鬼神(一人は童子形)が描かれ、これも八大龍王の変化形と考えられている。精細な拡大図が天蓋のように飾られていて、鑑賞の助けになる。
気になった作品は、大和文華館の水面を渡る『羅漢像』。右上から槍状の武器が突きつけられていることに気づいていなかった。羅漢像の中でも類例の乏しい図様だという。天稚彦物語(七夕伝説)を描いた屏風や絵巻も可愛らしかった。
『日月図屏風』と『春日龍珠箱』の展示は1/11まで。後半の目玉はどうするんだろう? 図録で見たい作品をチェックしてみたら、意外と京都会場(龍谷ミュージアム、2016年4月9日~5月29日)のみの展示が多いことが判明してしまった。悩む。
※参考:YouTube【TV見仏記WEB限定番組】思い出の仏像編
異形の仏像を語る。本山寺の宇賀神も!
水にかかわる神仏、水に囲まれた理想郷など、水を源とする信仰に根ざした造形物を、彫刻、絵画、工芸にわたって展観する企画。このところ、会期末ぎりぎりに滑り込んだり、行き逃したりする展覧会が多かったが、この展覧会は速攻で行ってきた。朝早めに到着したこともあって、お客さんの姿はまだ少なかった。会場に入ると、お目当ての『日月山水図屏風』が視界の端に見えたもので、ふらふらと歩み寄ってしまった。今年3月、京博の特別展観のときの行動と同じ。私はこの屏風の魅力には全く抗することができないのだ。
展示ケースの奥行きが薄いせいか、すごく作品に接近できて嬉しかった。絵画の周りの布地(大縁/おおべり?)が宝珠を散らした金色の錦であることに気づいた。画面の大きな面積を占める金泥・金箔とよく合っている。いつも図録の大きさでイメージすることに慣れてしまうけれど、本物の屏風はけっこう大きくて、描かれたパーツ(松の木や山)も大きい。画面全体に生命力が満ちているので、どこかに鳥とか動物が描かれているのではないかと目を凝らすのだが、何もいないのが不思議だ。でも、桜と松しか認識していなかった画面に、実は柳や杉や広葉樹(桐?柏?)も描かれていることに気づき、ああ、日本の植生なんだなと思った。
少し心を落ち着けて冒頭へ。弥生時代の『流水文銅鐸』から始まる。背後には室町時代の『祇園社大政所絵図』(屏風装、個人蔵?)。画面では熱湯を笹の葉で振りかける湯立神事が行われている。来迎する神仏(鬼みたいなのが多数)とか、ソンブレロみたいな女性の帽子とか、いろいろ面白い。水辺に漂着した霊木でつくられた仏像の一例として、錫杖を備えた長谷寺式の十一面観音(パラミタミュージアム、美麗)と鎌倉・長谷寺所蔵の『長谷寺縁起絵巻』を展示。六臂の観音(?)が鑿やら槌やらを持って、大工仕事にいそしんでいる図に笑ってしまった。
さて、水の神仏といえば、なんといっても弁才天。図像、彫刻、数々ある中で、ひとつの展示ケースには、妖しいシルエットのパネルのみが入っていて「秘仏御開帳 2016年1月7日より」と赤字で記されていた。大阪・本山寺の宇賀神像(彫刻)である。展示図録には写真が載っているんだけど、エグいなあ~。石山寺蔵『天川弁才天曼荼羅』(絵画)もなかなか見ることのできないもの。ネタバレすると、蛇頭人身の三面十臂弁才天である。こうした異形の弁才天を知ったきっかけは、山本ひろ子さんの『異神』(平凡社、1998)だったような。また読んでみたくなった。
神奈川・瀬戸神社の神像彫刻6体がまとめて出ていたのは嬉しかった。男神、女神、髭のある童形神もいる。いずれも小型でずんぐりしている。2013年に金沢文庫の特別展でも見ている。今回、長谷寺やら江島神社やら称名寺やら、横浜・鎌倉エリアからの出品がいつになく多いように感じた。また、大和文華館の『吉野御子守明神像』(和装の女神)もいらしていた。
階下へ。金剛峯寺の『善女龍王像』(平安時代)は、衣の裾からちらっとのぞく龍の尾がチャームポイント(猫の尻尾みたい)。しかし、図録を見ると同じ善女龍王像でもいろんな造形があるのだなあ。階下の展示室の見ものは『春日龍珠箱』。奈良国立博物館の所蔵品だが、同館では定期的に展示されているのだろうか。私は、2006年春に東博の『新指定国宝・重要文化財』で見て、2008年にサントリー美術館で見て以来だった。外箱は記憶に残っていたけど、四方を逆巻く波の図で埋めた内箱はあまり記憶になかった。外箱の裏には、雷神・風神と三匹の龍と龍を肩に載せた束帯姿の八人の貴公子(八大龍王)。内箱の表裏には八人の鬼神(一人は童子形)が描かれ、これも八大龍王の変化形と考えられている。精細な拡大図が天蓋のように飾られていて、鑑賞の助けになる。
気になった作品は、大和文華館の水面を渡る『羅漢像』。右上から槍状の武器が突きつけられていることに気づいていなかった。羅漢像の中でも類例の乏しい図様だという。天稚彦物語(七夕伝説)を描いた屏風や絵巻も可愛らしかった。
『日月図屏風』と『春日龍珠箱』の展示は1/11まで。後半の目玉はどうするんだろう? 図録で見たい作品をチェックしてみたら、意外と京都会場(龍谷ミュージアム、2016年4月9日~5月29日)のみの展示が多いことが判明してしまった。悩む。
※参考:YouTube【TV見仏記WEB限定番組】思い出の仏像編
異形の仏像を語る。本山寺の宇賀神も!