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見もの・読みもの日記

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笑う門には福/江戸絵画万華鏡(榊原悟)

2007-12-30 23:22:35 | 読んだもの(書籍)
○榊原悟『江戸絵画万華鏡:戯画の系譜』(大江戸カルチャーブックス) 青幻舎 2007.11

 久しぶりに都心の本屋に行って、おお、こんな本が出ていたか!と胸を躍らせながら手に取った。表紙には蘆雪の虎(和歌山・無量寺の)。サントリー美術館で長く学芸員をつとめられた榊原悟氏が、江戸絵画の魅力を縦横に語った1冊である。

 北宋の『宣和画譜』は「倭画屏風」(日本の屏風)を評して「設色甚ダ重ク、多ク金碧ヲ用フ。考フルニ其ノ真未ダ必ズシモ有ラズ、此レ第(ただ)綵絵ノ燦然トシテ以テ観美ヲ取ラント欲スルノミ也」と記しているそうだ。へえ~初耳。『宣和画譜』といえば、宣和2年(1120)に成立した徽宗皇帝の宮廷収蔵絵画目録である。その中に日本の屏風があったというのも驚きだし、日本絵画の特質が、「真」を追究する中国絵画と異なり、「観美」(工芸的な美しさ、おもしろさ)にあることを見抜いているのも、大したものだ。辻惟雄氏が『日本美術の歴史』で語られた「かざり」「あそび」に通じる指摘だと思う。

 とりわけ、江戸の絵画は、この「観美」「かざり」「あそび」、具体的には「即画」「意表を衝く」「機知」「見立て」「茶化し」などの趣向が爆発的に興盛をきわめた時代である。難しい議論はさておき、ほぼオールカラーで収録された80点余り(たぶん)の図版を、まずは無心に楽しんでみよう。

 私は、江戸の絵画に本格的な興味を持って、まだ10年にならないと思うが、意外と見たことのある作品が多いので驚いた。「即画(即席画)」の例に挙げられた蘆雪『大仏殿炎上図』は大倉集古館で見た。光琳の『蹴鞠布袋図』は出光美術館で見た。林十江の『双鰻図』も『蜻蛉図』も覚えがある。曽我蕭白の『達磨図』(見返り達磨)に至っては、先週、京都国立博物館で見てきたばかりだ(欄外の解説が、京博の解説プレートと瓜二つなのにも驚いた。本書の流用だったのか)

 これは江戸絵画の嬉しいところである。中世以前の美術品だと、名前だけは知ってはいても、実物を見る機会は、一生に一度あるかないかだったりする(源氏物語絵巻とか)。江戸絵画なら、ちょっと頑張って美術館や博物館の常設展に通っていれば、けっこう名品に出会えるものだ。しかし、本書で初めて知る作品もあった。いちばん驚いたのは司馬江漢の『太陽真形図』。京都大学附属図書館が画像を公開しているので、ここに貼っておこう。

 「あとがき」によれば、著者は昭和61年(1986)にサントリー美術館で『日本の戯画』と題した展覧会を企画実施した。同業の学芸員からは一定の評価を得たものの、「戯画」というタイトルを嫌がる所蔵者に出品を拒否されたり、展示作品につけたキャッチコピーに対して、一部のお客から「こんな戯れ文みたいな一文をつけて、日本美術を冒瀆するものだ」というキツイお叱りを受けたりした。美術といえば「有難いもの」。そんな認識の時代だったのだ。

 江戸絵画の魅力のひとつが遊戯性であることは、先入観のない若者を中心に、今では広く理解されるようになった。本書は、声をあげて笑いながら楽しめる美術書である。ぜひ正月の寝酒のお供に。
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