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見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

名優揃い!伴大納言絵巻/出光美術館

2006-10-09 08:52:50 | 行ったもの(美術館・見仏)
○出光美術館『国宝 伴大納言絵巻展-新たな発見、深まる謎-』

http://www.idemitsu.co.jp/museum/honkan/index.html

 久々に上中下巻揃っての全場面展示である。このかたちで最後に見たのはいつだったかしら。もう20年くらい前のことではないかと思う。実は今回も、上中下巻揃って本物が見られるのは第1週と第4週のみ。「ゆっくり見たければ、早く行ったほうがいいよ」とのアドバイスに従い、連休中日の午前中をねらって、さっそく出かけた。

 会場は、思ったほどの混雑ではなくて、ほっとした。絵巻の前に行き着くまでには、少し列に並んで待たなければならないが、いずれもこの展覧会を楽しみにしていたどうし、前の人がなかなか進まなくても「早く進め!」なんて野暮なことは言い合わず、みな辛抱強く順番を待っていることに感激した。警備員さんも、極力、口を出さず、観客の自治と秩序に任せているので、ありがたかった。

 さて、上巻。最大のクライマックス、応天門炎上の場面は、5月の『開館40周年記念名品展』でも、じっくり見せてもらったので、今回は、むしろ開巻冒頭から、山場の応天門に至るまでの「運び」に注目する。巻を開くと、不安げに後ろを振り返りながら、左手方向に進もうとする、徒歩立ちの男と馬に乗った男の姿。続いて現れる検非違使たちの集団。それから、集団がばらけて、三々五々大路を駆ける人々。と、画面のリズムが乱れ、後ろ脚で棒立ちになる馬。逆走する男の姿。そして、一気に朱塗りの門になだれ込む小集団。この、応天門に行き着くまでの、序破急のリズム、オペラの序曲を聴くような心地よさ!! 何度見直してもいい。

 燃え上がる応天門は、「日本絵画における三大火焔表現のひとつ」だそうだ。笑ってしまった。誰だ、こんなこと言ってるヤツ。もうひとつは『平治物語絵詞・三条殿夜討の巻』(ボストン美術館蔵)だろうが、あとひとつは何?(→図録によれば、『不動明王二童子像(青不動)』(青蓮院蔵)だという)

 この『伴大納言絵巻』は、応天門炎上の迫力が圧倒的なので、それ以外の場面の印象がやや薄い。今回も、上巻のまわりを立ち去り難くて、何度も何度もうろうろしたあげく、さて、このあとどうなるんだっけ?と考えてしまった。しかし、実はほかにも見どころは多いのである。上巻の巻末近くに登場する、後ろ姿の「謎の人物」。この絵巻は、なぜか後ろ姿の印象的な登場人物が多い。中巻で天に非道を訴える左大臣・源信とか、下巻で取り調べを受ける舎人とか。

 上巻の最後には、夜半の奏上をあらわそうとしたのか、あまりにもしどけない恰好の天皇が描かれている。烏帽子を付けないのって、裸同然の無作法だったはず。こんな姿を描いて許されるのは、後白河法皇の注文制作だからだろうか。中巻の左大臣邸、下巻の大納言邸で描かれる女性たちの表情にも、「あられもない」人間の真実が描かれている。やっぱり、後白河法皇の嗜好ではないかと勘ぐりたい。

 市井の人々では、中巻で子どもの喧嘩に親が飛び出す図もいいが、下巻で連行されていく舎人の、覚悟を決めた面構え(※)、不安と後悔の面持ちでそれを覗く隣人夫婦の描写もいい。それから、大団円間近、背中を丸めて検非違使の口上を聞く、伴大納言家の老家司。この絵巻の脇役たちは、実に名優揃いであると思う。

 展示品は、このほか、仏画・仏具など。単独だったら、けっこう目をひく作品なのだが、注目されないのはやむをえないか。

※これは私の誤読。連行される舎人と、追い立てる検非違使の1人を見誤っていた。(10/09夜、補記)
 
コメント (3)
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