見もの・読みもの日記

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一極集中の論理/グーグル・アマゾン化する社会(森健)

2006-10-08 21:49:08 | 読んだもの(書籍)
○森健『グーグル・アマゾン化する社会』(光文社新書)光文社 2006.9

 最近、新刊書(特に新書)の棚で、グーグルやアマゾンを話題にした本が目につくなあ、とは思っていた。だが、Webは使うものであって語るものじゃない、と思っていたので、食指を動かす気にはならなかった。

 ところが、仕事に関連して、「グーグルは何を目指しているのか?」ということを、少し真面目に考えてみる必要が生じた。そこで、本書を手に取った次第である。グーグル、アマゾンに代表されるWebアーキテクチャー(→技術であり、制度であり、設計思想を意味する)の最新動向「Web2.0」について語ったものだが、無責任にバラ色の未来予測もしていないし、起きている事実を矮小化したり、無用な恐怖を掻き立てたりもしない。堅実で、素人にも分かりやすい良書だと思った。

 「Web2.0」という言葉も、私は最近知ったばかりである。その意味は、本書で初めて理解した。ひとことで言うなら、ユーザーの参加によって、よりよいコンテンツを構築しようという設計思想を指している。カスタマー・レビュー(一般読者による書評)など、比較的ゆるやかなかたちで、ユーザーの「参加」を促し、成功したのがアマゾンである。

 これに対して、グーグルの仕掛けは「半強制的」である。グーグルは、便利なサービスを次々に無料で提供している。しかし、忘れてならないのは、我々がグーグルを利用すると、全ての履歴データがグーグルに収納されるということである。データが充実することで、インデックスが増え、検索効率が上がる。その結果、クライアントの広告を、より的確なターゲットに届けることができる。つまり、グーグルは「地球上の人のウェブでの振る舞いすべてをカネに変えている」とも言えるのだ。なるほど。このへんが、一部の識者がグーグルの事業に不信感を抱く理由なのか。

 アマゾン、グーグルの巨大化の背後には、「スケールフリー・ネットワーク」という現象がある。すなわち、新たにネットワークに参入する者は、なるべく、既に多くのサイトと結ばれている結節点(ハブ)に結びつこうとする。その結果、古い結節点は、ますます多くの結びつきを獲得し、「金持ちほどますます金持ちになる」という状況が出現するのである。

 著者は、参加型アーキテクチャーの理念を説明するため、何度かジェームズ・スロウィッキーの著書『「みんなの意見」は案外正しい』に言及している。ずいぶん能天気なタイトルだな、と思ったら、実際には、集団の答えが正解に近くなるためには「意見の多様性」「独立性」「分散性」「集約性」の4つの条件を満たしていなければならない、という留保がついているのだそうだ。それなら分かる。

 しかし、グーグルのひとり勝ち(=グーグルが提示する検索結果に、多くの人間が依存する状態)によって、我々は、多様な情報に接する機会を奪われているのではないか。それぞれが”主体性ある思考”をしているつもりで、実は、同じ方向を向かされている、という状況が出現しているのではないか。これは、姜尚中氏も同じような認識をどこかで述べていたように思う。

 巨大化するウェブ社会に呑み込まれず、主体性を保って生きていく方法、それはウェブ以前(もしくはウェブ以外)に蓄えられた叡智を、どれだけ身につけているかにかかわるような気がする。直感だけど。

■付記(06/11/20):偏愛する松岡正剛さんの書評サイト『千夜千冊』が本書を論じているのを発見。ちょっと嬉しい。
http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1162.html
コメント (2)
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