見もの・読みもの日記

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統制と抜け道/メディア・ナショナリズムのゆくえ(大石裕)

2006-10-12 21:01:20 | 読んだもの(書籍)
○大石裕、山本信人編著『メディア・ナショナリズムのゆくえ:「日中摩擦」を検証する』(朝日選書) 朝日新聞社 2006.10

 2005年4月に中国で発生した激しい反日デモと、その前後のメディアの反応を検証したもの。日本のマスメディア(新聞、テレビ)のほか、中国のインターネット言論、アメリカやヨーロッパのメディアの反応など、多岐にわたる。だが、新鮮な視点といえるものはあまりない。

 いちばん興味深く読んだのは、中国のインターネット言論のレポートである。政府当局の検閲フィルターを、一般ユーザーは、さまざまな方法で掻い潜ろうとした。たとえば「政府」を「正俯」(同じ発音)と言い換え、「遊行 Youxing =デモ」を「Y-X」と言い換えたり、「反0日」「政0策」という具合に不要な文字を挟み込んだり。曹植の「七歩詩」を書き込むことで、政府が人民を処罰する状況に不満を表明した例もある、というのには感銘を受けた。さすが、文華の国。

 それから、近代中国では、対外政策への不満が政変の引き金となってきた、という指摘。清末の義和団事件、そして五四運動。なるほど。そういう点では、反日運動の過熱が行き着く果てを、いちばん恐れているのは、いまの共産党政権であろう。彼らは、歴史の教訓を忘れるほど、馬鹿ではあるまい。
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