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「音楽&オーディオ」の小部屋

クラシック・オーディオ歴40年以上・・身の回りの出来事を織り交ぜて書き記したブログです。

名曲三昧

2021年10月01日 | 音楽談義

「宮本文昭」さんといえばクラシック通ならご存知のように著名なオーボエ奏者だが、世に名曲の解説本は多いものの、実際に演奏する立場からの視点による解説本は意外と少ないのが実状。

                           

また、オーボエという楽器はオーケストラの「音合わせ」をするほどの存在だから、そういう視点からのアプローチも面白そうなので本書を読み始めたところ、つい引き込まれて一気読みしてしまった。


本書で取り上げてある名曲は以下の8曲。

 モーツァルト「ディヴェルティメントK.136」  「協奏交響曲K.364」、  
チャイコフスキー「交響曲第5番」、  ベートーヴェン「交響曲第3番英雄」、 5 ブラームス「交響曲第1番」、  リムスキー・コルサコフ「シェラザード」、  マーラー「交響曲第9番」、  ブルックナー「交響曲第8番」

いずれも比較的世に知れ渡った曲ばかりだが自分なりの思いがある曲目をいくつかピックアップしてみた。

の「K・136」はオペラなどの大曲を除くとモーツァルトの中で一番好きだと言ってもいいくらいの曲。トン・コープマン指揮の演奏がダントツにいいが、本書でもコープマンのCDが紹介してあった。

曲目の選定といい、演奏者の選定といい宮本氏と波長が合う気がしてならない(笑)。


                    

この曲では特に第二楽章が好みだが「悲しいというのではないんだけど晴れやかでもない、そこはかとない哀しみが漂う、これまた名曲です。」(本書35頁)と、ある。

「モーツァルトの哀しみってなんだ?」と問われても、それを言葉で表現するのは無理な相談だが「それはK・136の第二楽章を聴けば分かりますよ」というのが、まっとうな解答というものだろう。

言い換えると、これを聴いて分からなければモーツァルトを鑑賞する資格は無いともいえる(笑)。

ケッヘル番号が「136」と非常に若く、わずか16歳のときの作品だというからやはりミューズの女神が与えた天賦の才には、ただひたすら頭(こうべ)を垂れるほかない。


は正式には「ヴァイオリン、ヴィオラと管弦楽のための協奏交響曲」(K・364)というが、モーツァルトにしてはそれほど有名な曲目ではないが、これもまたいい。

あの「武満徹」さんが著書の中で「この曲のオーケストレーションに非常に感心した」と述べられていた。
                          
                 

第二楽章について次のような記述がある。

「深い憂愁につつまれた楽章だ。23歳のアマデウス先生が希望に胸を膨らませて向かったパリで失意を味わい、”もののあわれ”を知ってしまったのだろうか。

モーツァルトが全作品の中でもめったに見せたことのない、ほとんどロマン派と見まごうばかりの彼のプライベートでセンチメンタルな一面が垣間見れる。」(本書210頁)

ヴァイオリンとヴィオラの優雅な絡み合いの中で展開される筆舌に尽くしがたい美しさに「これぞモーツァルトだ!」と不覚にも目頭が熱くなってくる。

この辺の微妙な表現力となるとSPユニット「AXIOM80」の独壇場で魅力全開である。五嶋さんも今井さんも楽器は「グァルネリ」だというが、日頃よく耳にする「ストラディヴァリ」よりも華やかさを抑えた音色だがそれが実にこの曲風とマッチしている。

「アンプとスピーカー」の関係と同様に「楽器と曲風」も持ちつ持たれつのようですな(笑)。


次に3、4、5、6、7は割愛して最後ののブルックナー「交響曲8番」にいこう。

これは1時間半にも及ぶ長大な曲で、著者の宮本さんが高校時代に毎日繰り返し聴いて感銘を受けた曲とのこと。

プロの演奏家になった現在では分析的な聴き方になってしまい、高校時代のように「あ~、いい曲だなぁ」と音楽に心を委ねきることが出来ないと嘆いておられる。


これはほんの一例に過ぎないが、趣味を職業にしてしまうと総じてろくなことがないような気がする(笑)。

なお、ブルックナーについては、天下の「五味康祐」さんが次のように述べている。

「ブルックナーの交響曲はたしかにいい音楽である。しかし、どうにも長すぎる。酒でいえば、まことに芳醇(ほうじゅん)であるが、量の多さが水増しされた感じに似ている。

これはブルックナーの家系が14世紀まで遡ることのできる農民の出であることに関係がありそうだ。都市の喧騒やいらだちとは無縁な農夫の鈍重さ、ともいうべき気質になじんだためだろう」(「いい音、いい音楽」)


さて、ブルックナーの8番はチェリビダッケの指揮したCDを持っているが、これは超絶的な名演とされる「リスボン・ライブ」盤(2枚組:1994年4月)である。

                      


本書のおかげで久しぶりにこの曲を聴く気になったが、スケール豊かで重厚感あふれる曲なのでウェストミンスター(改)で聴いたが、たっぷりした音の洪水の中で音楽の魂が吸い込まれていきそうな気にさせてくれる名演・名曲である。

最後に、本書は演奏家、指揮者の視点からの分析もさることながら、著者の音楽への愛情がひしひしと伝わってくる。

クラシックに興味がある方は機会があれば是非ご一読をお薦めしたい。
 

 

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