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<書評>まつろわぬ者たちの祭り 鵜飼哲著

2020-06-30 | アイヌ民族関連
北海道新聞 06/28 05:00

日本資本主義の欺瞞を暴く
評 中村一成(フリージャーナリスト)
 ビラの熱量と、文学ならではの言葉との緊張関係で書かれた思想書だ。書名には、蝦夷(えみし)、アイヌ民族、沖縄の人々など、朝廷時代から続いてきた「抵抗の系譜」につながる決意と、闘いを通じて新たな出会いの場を招来させるとの気概が込められている。
 原動力は怒り。2011年の震災で危機に陥った日本資本主義が「復興五輪」を掲げた「祝賀」でナショナリズムを扇動し、「なりふり構わず正面突破」しようとすることへの全力の否だ。著者はこれを「惨事便乗型資本主義の、最低、最悪の形態。一体となった愚民政策と棄民政策が、これほど公然と、体系的に、恥も外聞もなく強行されることは歴史的にも稀(まれ)だろう」と痛撃する。
 著者は個々の言葉を俎上(そじょう)に載せる。被災地の再建より首都圏の再開発を優先する「現実には『復興妨害五輪』」に「復興」の枕詞を付け、被災地の現状をイメージでごまかす欺瞞(ぎまん)を抉(えぐ)り出す。喫緊の課題は、原発推進と「犠牲のシステム」で維持されてきた国の有り様(よう)を問い、違う未来を描くこと、即(すなわ)ち「再生」だが、「復興」は「変わらなくていい」との認識を温存させる。
 近代五輪が孕(はら)む帝国主義、優生思想、レイシズムなどの実証的な指摘、五輪と縁深い天皇制への批判や、強制動員被害を巡る「政治的和解」と「歴史的和解」の考察にも、現代の混迷を開く鍵が詰まっている。
 黒田喜夫、宇梶静江、辺見庸らの詩を手掛かりに、問題の本質に迫る様はまさに「現実認識における革命」(金時鐘《キムシジョン》)の実践だ。その営為は人文学を敵視する「選良」が跋扈(ばっこ)する現在を映し出す。本著は人文学の重要性を証明するテキストでもあるのだ。
 コロナ禍は私たちが破局的状況の中にあることをより鮮明にした。それでも筆者は言う。「『力をつくして未来の前にたちはだかること』が『未来にたいする唯一の正当な儀礼』であることは、かつても今も変わらない」と。著者の思考の軌跡が残すのは、乗り越えるべき「思想の戦場」の数々だ。その先に仄(ほの)かに見えるのは、あり得べき自由で平等な世界のイメージである。(インパクト出版会 2750円)
<略歴>
うかい・さとし 1955年生まれ。一橋大特任教授。フランス文学・思想専攻
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/435304
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