読売新聞 2024/01/30
大手小町が、国際NGOプラン・インターナショナルと協力して実施しているバレンタイン・キャンペーン「#サポチョコ」。キャンペーンのパートナー企業が販売するチョコレートを買うと、売り上げの一部が、さまざまな問題に直面する途上国の女の子たちをサポートする「ガールズ・プロジェクト」に使われます。
このプロジェクトで、どのような支援が行われているのでしょうか。プラン・インターナショナル・ジャパンの職員で、東南アジアのラオスに駐在し「女の子の衛生改善」プロジェクトを推進する水上友理恵さん(32)に話を聞きました。
――ラオスは、国土のほとんどが山岳地帯で、産業の中心は農業。多くの民族が暮らし、都市部と農村部、民族間の格差が大きいと聞きます。プロジェクトの対象地域は、どんなところですか。
私が活動しているのは、ラオス北部に位置するウドムサイ県。首都ビエンチャンから約490キロメートル離れた山岳地帯です。事務所のあるビエンチャンからは、2021年に開通した高速鉄道で片道3時間ほどかかりますが、双方を行ったり来たりしています。
国内には50ほどの民族がいて、人口のおよそ半分を「ラオ族」が占め、残り半分は少数民族。ウドムサイ県は、少数民族が大半を占めているのが特徴ですね。
授業では「ラオ族」が話す「ラオ語」が使われます。少数民族の出身者は、家庭では出身民族の母語を、授業では「ラオ語」を話します。少数民族の子どもたちの中には、授業の内容を十分に理解できないケースもあり、教育格差が生じやすい地域でもあるんです。
――「女の子の衛生改善」プロジェクトとは。どんなことに取り組んでいますか。
ウドムサイにある学校の多くは、一年を通じて水を供給できる設備がなく、手を洗ったり、トイレを流したりする水が足りません。そもそも、便器やドアなどが壊れていて、トイレも手洗い場も使うことができない状況です。そのため、女の子は生理中、安心してナプキンを交換できる場所がない。学校での衛生管理が難しい状況です。
また、外で遊んで手を洗わないまま昼食を食べ、おなかを壊してしまう子も。プランは、こうした衛生環境を改善するため、学校にトイレや手洗い場を修繕・建設すると同時に、生理の衛生的な管理を含む、包括的な性教育に関する啓発活動にも取り組んでいます。
――毎月、生理に対処しなければならない女の子にとっては厳しい状況ですね。まず、トイレの建設について。ラオスのトイレは、日本の水洗トイレとは違うのでしょうか。
ラオスのトイレは、おけで水をすくって流す方式で、便器の脇に水をためておくタンクが備え付けてあります。が、1年のうち約7か月は乾期で、雨がほとんど降らないため、まず水がない。また、水がある時期でも、タンクにひびが入っていたりして使用できないんですね。
だから、学校にいる間、子どもたちは茂みで用を足すんです。生理中の女の子は、ナプキンを交換するため昼休みに自宅へ戻ります。それで、午後の授業に出られない――というケースもあると、教員たちが教えてくれました。昨年、県内の小中学校7校で給水設備を整え、男女別・バリアフリーのトイレ、手洗いを設置しました。
――生理に関する啓発活動では、教員への研修も行っているそうですね。
はい。月経など、「思春期の心と体の変化についてどう教えたらいいのか」と悩む教員は多く、子どもたちへの指導方法について、一緒に考えています。
ラオス政府は、包括的性教育に力を入れていて、プランや国連機関と共同で開発した教員用のマニュアルや、生徒向けの補助教材などが用意されています。ただ、国の予算が不足しているため、ウドムサイ県には、これらの教材が届いていませんでした。
先ほど触れた通り、少数民族が大半を占めるウドムサイ県では、子どもたちの間に言葉の壁があります。豊富なイラストや写真で性に関する知識を学べる教材は、そうした壁を越えて理解を深めるのに欠かせません。教材を教員に配布した上で、グループごとに模擬授業を行ってもらうなどして、教材の効果的な活用法について考える機会を作っています。
ラオスの農村部では、「生理中に冷たい水を飲んではいけない」「洗髪をしてはいけない」など、生理にまつわる古くからの言い伝えや迷信が広く信じられています。迷信は、女の子や女性の行動を制限することにつながります。生理について語ること自体がタブー視されていて、父親はおろか「母親にも相談できない」という女の子もいて、驚きました。
――長年刷り込まれてきた考えを変えるのは、容易ではなさそうです。
まず、生理は「隠さなきゃいけないもの」ではない。男性も女性も「オープンに話していいもの」なんだと伝えています。「生理用ナプキンというものを見たこともない」という男性教員に使用方法をシェアし、研修でデモンストレーションしてもらいました。その教員がおそるおそるナプキンを手にすると、どよめきが起きたほどでした。
しかし、手に取ってみることで、「決してタブーではない」ことを実感する機会になったのではないでしょうか。避妊についても同様で、女性教員には、コンドームは男性が使うものであり、「女性が触ってはいけないもの」だという意識があるようでした。なので、女性教員にコンドームを手に取ってもらったのです。
ラオスでは、中絶は非合法です。そのため、高校生が避妊具を使わずに性行為をして妊娠してしまうと、その生徒は出産するという選択肢しかなく、中途退学するケースも少なくありません。ウドムサイは小さな村々からなり、村中みんなが顔見知りです。薬局の店員も知り合いだから、「恥ずかしくて避妊具を購入できない」という事情もあるんですね。
難しい問題ですが、いずれにせよ、妊娠も結婚も、必要な知識を身につけた上で、女性が主体的に選べる環境がのぞましいと思います。本プロジェクトでは、学校に生理用ナプキンを配布し、必要としている女の子たちが受け取れるようにするほか、生徒中心のクラブ活動で、生徒たちが思春期の心と身体の変化について話し合う機会を提供しています。人々の心にあるタブーを 払拭(ふっしょく) し、意識を変えられるよう、丁寧な対話を重ねていきたいです。
――現地の人たちと接する際に、心がけていることは。
支援を「する側」「される側」の垣根を取り払い、みんなが一丸となってプロジェクトを進めることです。生理の話をするのはタブー視されているにもかかわらず、研修を受けた後、教員たちが「授業で生理について取り上げたい」と言ってくれて、手応えを感じました。
手洗いや歯磨きについても、歌に乗せて楽しく指導する方法を教員に提案して、子どもたちが実践するようになったこともうれしかったですね。その後、子どもたちに歯ブラシを配布した際には、学校に常備できるようペットボトルをくり抜き、教員たちが工夫して収納場所を作っていました。
こうした意識の変化や、身の回りにあるものを活用して学んだことを実践する姿を目にするのは、私自身にとっても学びとなります。これからも、教員や生徒たちを含めた大きなチームの一員として、楽しみながら現状をより良いものにしていきたいです。
――サポチョコ・キャンペーンにどんなことを期待していますか。
日本とラオスは経済状況や文化が大きく異なります。どんな国なのか、知らない人も多いでしょう。でも、女性であれば何十年にもわたってつきあい続ける生理に関する悩みは、理解し合える部分があると思います。生理ナプキンを長時間替えられない不安や気苦労、それによって行動が制限される不自由は、想像しやすいのではないでしょうか。
困っている女の子たちを、チョコレートを買うという、身近な、なにげない行為を通して、楽しく前向きにサポートしていただけたらうれしいです。
(読売新聞メディア局 バッティー・アイシャ)
「#サポチョコ」とは 「大手小町」の発案で2019年にスタートした取り組み。バレンタイン期間中に、参加企業が販売する対象商品を購入すると、その売り上げの一部が国際NGOプラン・インターナショナルに寄付されます。寄付金は、途上国の女の子が直面する問題に焦点を当てて解決する「ガールズ・プロジェクト」に活用されます。
「 プラン・インターナショナル 」とは 女の子が本来持つ力を引き出すことで地域社会に前向きな変化をもたらし、世界が直面しする課題の解決に取り組む国際NGOです。75か国以上で活動。世界規模のネットワークと長年の経験に基づく豊富な知見で、弱い立場に置かれがちな女の子が尊重され、自分の人生を主体的に選択することができる世界の実現に取り組んでいます。
https://www.msn.com/ja-jp/news/opinion/サポチョコ2024-ラオスの女の子は学校で生理用ナプキンを替えられない/ar-BB1hrPd8