北海道新聞2024年9月10日 18:45(9月10日 22:05更新)
北海道が9日公表した2023年度のアイヌ生活実態調査で、交流サイト(SNS)上などで差別を受けたと答えたアイヌ民族が全体の3割に上った。民族差別を経験した人も17年度の前回調査時より増えており、野放し状態のSNSが差別を助長している形だ。国や道の対策は遅れており、アイヌ民族や専門家は、投稿の削除要請など積極的な取り組みを求める。
■最多31.6%
「ネット上の差別発言に対し、国や自治体は差別はあってはいけないと言うだけで具体的な抑制策がない」。9日の北海道議会環境生活委員会で北海道結志会の石川佐和子氏(札幌市北区)は、国や道の姿勢を批判した。
道が同日公表した実態調査によると、アイヌ民族を理由に差別を受けた人は29.0%で、前回調査比5.8ポイント増。実際に差別を受けた場面は、今回から新たに選択肢に加えた「SNSなどインターネット上の書き込み」が31.6%と最多となった。
差別をなくすための必要な取り組みでは、複数回答で「学校教育で理解を深める取り組みを充実する」が5割超、「慣習や社会の仕組みを改善する」が5割弱、「行政が啓発活動などを積極的に推進する」が4割弱で、行政への期待は高い。
■「啓発」どまり
だが、差別根絶に向けた道の動きは鈍い。9日の道議会で道幹部は「アイヌの歴史や文化、差別の現状について理解が促進されるよう幅広く啓発する」と述べるにとどめた。道の差別対策は、民族の歴史や文化を紹介する冊子の配布や共生をテーマにした講演会を年1回開催する程度だ。
19年施行のアイヌ施策推進法(アイヌ新法)は差別禁止を定めたものの、罰則規定は盛り込まれていない。自身のブログで、民族衣装を着たアイヌ民族の女性を中傷した自民党の杉田水脈衆院議員に対し、昨年札幌と大阪の法務局は人権侵犯を認定したものの、口頭注意にとどめた。
杉田氏の賛同者らによる差別的言動は、今も多くがネット上に放置されている。
■自ら削除要請
アイヌ民族の多原良子さん=札幌市=は昨年、SNSに投稿された中傷の削除を法務局に要請した。自ら500件近い内容を確認して申請したが、実際に消されたのは1割ほどという。現在もSNSで自身の名前を検索すると「自称アイヌ」などの中傷が残る。多原さんは「被害者が対応しなければならないのはおかしい。現在の制度は限界がある」と話す。
道央に住む60代のアイヌ民族の女性も「ひどい投稿が減らずに苦しむウタリ(同胞)もいるはず。国や道が率先して訂正して」と訴える。
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