ウェッジ6/11(日) 6:02配信
2023.2.4~4.28 83日間 総費用75万円(航空券24万円含む)
総人口の30%が自分のアイデンティティーを先住民族と認識している?

プカキ湖から初冠雪したマウント・クックを望む。 この先のサービスエリアで名物サーモンの刺身(わさび、割り箸付き)を賞味
南半球では晩夏にあたる2月初旬。現地の人々が「この時期は1日のうちに四季がある」と、言っているように真夏のカンカン照り、曇り、強風、氷雨、そして再びギラギラ太陽とめまぐるしく天気が変わる。
2月10日。クライストチャーチ近郊のサムナーで氷雨の中、雨宿りを求めて一軒家のドアをノックした。ドアが開くと、可愛らしい女性が顔を出した。彼女は大学院で先住民族の言語・文化を研究していた。放浪ジジイがアメリカ先住民のナバホ族の居留地での見聞を披露するとダイニングルームでコーヒーでも飲まないかとの“地獄に仏”のオファー。
政府の公的数字ではニュージーランド(NZ)の先住民マオリ人は総人口約510万人の17%程度だが、最近メディアが実施した聞き取り調査では回答者の30%近くが自分のアイデンティティーをマオリ人であると認識しているという。政府の統計数字は先住民族への補助金など行政上の取り扱いの観点からマオリ人の定義を厳密にしているので30%が実相を反映しているようだ。
米国ではナバホ族の居留地のように建国以来一貫してアメリカ先住民を閉じ込める(containment)政策を継続、先住民は最下層の暮らしを余儀なくされている。黒人を解放したリンカーンも先住民封じ込め政策を堅持したし、1964年に成立した公民権法の下でも主眼は黒人であり先住民は置き去りにされた。ナバホで調査活動をしていたアメリカ・メキシコ先住民文化研究者から聞いた話を交えてアメリカ先住民の状況を説明。
大学院女子によるとNZ政府はマオリ語を保護しマオリ人の生活を向上させる政策を採っているという。
先住民保護政策には白人層の反発も
3月9日。クリントンという町で救命救急士のK氏の自宅に泊めてもらった。夕食後に緊急招集がかかりK氏は現場に急行。食後にK氏夫人とお茶を飲みながら歓談。
夫人によるとマオリ人は元来北島に多く居住していた。南島にはマオリ人は少なく、現在南島に居住しているマオリ人の大半は南島が白人植民者により開発されるに従って仕事を求めて北島から移住してきた人々の子孫。それゆえ南島には元々マオリ人のコミュニティーが少なく、マオリ語を話せないマオリ人が大半を占めている。
夫人によるとマオリ人の低所得者には政府から補助金が支給されており、さらにはマオリ人学生に対しては奨学金支給の優先枠があるという。こうした優遇策(affirmative action)は白人系など非マオリ人に対する逆差別であるという不満が少なからずあるという。しかしマオリ人保護政策に対して声高に疑問を表明すれば人種差別主義者(racist)の烙印を押されてしまうので沈黙(keep silent)しているという。
アメリカ先住民から聞くインディアンの現実とマオリ人への想い
3月27日。アンバレー・ビーチのキャンプ場で愉快な御仁に遭遇。車のバッテリーにつないだ湯沸かし器で淹れた紅茶を飲みながら談笑。ベアーは60歳、先月早期退職して車に家財道具一式積んで放浪中。容貌から推測してマオリ人かと聞いたら呵呵大笑。「俺はアメリカ・インディアンだ。親爺がアメリカ先住民(Native American)で母親がドイツ系だよ。マオリ人は遠いファミリーかな」。
ベアーの父親は1930年代にカリフォルニアとネバダの州境にあるシェラネバダのモノティー族という少数部族の居留地で育った。米国政府は先住民家族に補助金を支給する一方で部族が運営する自治体にも人数に応じて補助金を支給するが少数部族は資金不足で居留地のインフラ整備もままならない。
居留地に留まれば一生貧困生活から脱出できない運命。それゆえ父親が15歳の時に両親は父親に居留地を離れて米国社会のなかで生きていくことを命じた。ナバホ族のように100万人の人口と広大な居留地と人気観光スポットを抱えていれば補助金をもらって貧しいながらもなんとか暮らしていけるが少数部族の現実はさらに厳しいようだ。
ベアー自身は米国社会で育ったが常に差別を感じていたという。高校を卒業すると金を稼ぐためにアラスカに渡り漁船に乗った。その後カルフォルニアの病院で働き経験を積んだ。
そして30年前に差別のない社会を求めてNZに移住。オークランド、クライストチャーチの病院で働いて3回結婚して3回離婚。今は独身なので自由に人生を楽しんでいると心情を吐露。ベアーはマオリ人の友人も多いが、「アメリカ先住民に比べたらマオリ人は幸せだよ」としみじみ語った。
オーストラリアの先住民アボリジニは二級市民なのか
4月4日。マーフェルズ・ビーチで知り合った老婦人は祖父がマオリ人。引退する前はご主人と一緒にオーストラリアのメルボルンで仕事をしていたが、彼女が見聞したかぎりアボリジニはオーストラリア社会では“二級市民”(second citizen)扱いされていたと断言。
アボリジニはオーストラリア総人口の4%と少数民族である。ハリウッド映画『クロコダイル・ダンディー』ではアボリジニをユーモラスに描いていたが、現実は異なるらしい。彼女はNZでは政府も社会もマオリに対し公正公平なことを誇りに思うと総括した。
キャンプ場で暮らすマオリの移動労働者たち
4月6日。南島の北東部の葡萄畑が広がるセドンの小さなキャラバン・パーク(キャンプ場)。料金は安いが全体的にうらぶれた雰囲気。オーナー夫婦は親切なマオリ人。
停めてある自動車やキャビンカーはどれも古ぼけており、ゲストの大半はマオリ人で長期逗留している。オーナーによるとワイナリー等の季節労働や道路工事などで働いている人たちが多いと。早朝に仕事に出かけるらしく夜明け前に何台も車がゲートを出て行く。
3週間以上を前払いすると正規料金の半額以下(一日当たりNZ$10=850円)。短くても数週間、ほとんどが数カ月から半年滞在しているという。この田舎町のキャンプ場はマオリ人移動労働者の憩いの場らしい。
マオリ人の貧困問題は教育格差の負の連鎖が原因なのか
4月9日。南島北端の町ピクトンのキャンプ場のダイニングキッチン。クライストチャーチ在住の2組の白人系家族と夕食時一緒になった。彼らによるとマオリ人の多くが低所得層であるのは教育に原因があるという。クライストチャーチでもマオリ人が多く住む地域の公立学校は概して水準が低く、義務教育の高校も中退が多い。教育格差の負の連鎖との指摘。
NZでは高校までは義務教育ゆえ学費は無償であるが、低所得層では学資が必要な大学進学はハードルが高い。優秀なマオリの生徒には給付型の奨学金が支給されるが、まだまだ限られた一部の生徒であるという。
マオリ語は日常言語として21世紀を生き残れるのだろうか
4月8日。南島北部の町ブレナム近郊のスプリング・クリークのキャンプ場。散歩していたら老婦人と親しくなった。彼女の父親はマオリ人で母親は英国系。父親はマオリ語を話していたが彼女自身は家庭でも日常会話が英語だったので話せないと。
NZではマオリ語は公用語に指定されており道路標識、公的な案内などは英語・マオリ語で併記されているという。確かに道中で見かける道路標識は併記されていたことに気づいた。
老婦人によると現在でもマオリ語はマオリ人の家族内や友人どうしの間で話されており、マオリ人学校ではマオリ語で授業が行われている。さらには政府の支援で設立されたマオリ語TV局では全てのプログラムがマオリ語で放送され英語の字幕が付いているという。
少数民族の言語は人類史を俯瞰すると多数派の言語に置き換わり死語となってゆくのが逆らい難い潮流だ。アイルランドでは英語が支配的言語となり、アイルランド語を公用語として維持する行政コスト負担軽減のため非公用語とした。現在アイルランド語は死語になりつつある。果たしてNZ政府のマオリ語復活政策は成功するのだろうか。
公立小学校ではマオリ語は必修科目だが
4月9日。南島北端の町ピクトンのキャンプ場の受付の30代前半の女性はエキゾチックな容貌。祖母がマオリ人とのこと。彼女自身は簡単なマオリ語しか解せないと。
NZでは1980年代に公立小学校ではマオリ語が必修となり公立中高等学校では選択科目となったという。受付女性は小学校で週に数時間、マオリ語の初歩を学んだ。小学校で全生徒が初歩を学ぶが、中高でマオリ語を選択する生徒は少なくマオリ人生徒でも実用実益のためフランス語や日本語を選択する傾向にあるという。
他方で政府肝煎りのマオリ語TV放送はマオリ人へのマオリ語普及に効果を挙げていると評価。やはり実益というインセンティブが薄いマオリ語学習は定着が難しいのだろうか。
ピクトンの隣のネルソン在住の30代の白人系女性は小学校でマオリ語を習ったが簡単な単語や挨拶くらいしか覚えていないという。彼女の小学2年生の子供は週に2時間マオリ語の授業があるが親としては算数や英語の時間を増やしてほしいと本音を漏らした。
NZのキャンプ場で垣間見たLGBT、片親ファミリーの人々
旅行中気づいたのは男性2人、女性2人で旅行しているカップルが多いことだ。欧州のリゾートでもそうしたカップルは頻繁に見かけたが、NZではよりオープンな雰囲気で2人の時間を楽しんでいるようだ。
例えばスプリング・クリークのキャンプ場。夕焼けの河畔の小径で手を繋いで散歩していた女性のカップル。食後にキッチンで仲良く皿洗いしていた中年男性のカップル。筆者の隣にテント設営していた40代の男性カップルは夕食後静かにウイスキーを飲みながら語り合っていた。
日本でも同性婚を法律上認めていないのは憲法違反であるという判決が出され国会でも議論の俎上に載せられているが、法制化への道筋は見えない。まだまだ同性カップルは日陰の存在だ。NZでは10年前に同性婚が法制化された。法制化により社会全体の認知が深まりLGBT当事者も安心して暮らせる環境が醸成されてきたのだろう。
さらにキャンプ場で極めて頻繁に見かけたのが離婚して片親が子供を連れて休暇を楽しむ姿である。少し立ち話をしているとすぐに離婚したことを明かす。日本では離婚したことを初対面の外国人旅行者に積極的に話すことは考えられないだろうが、NZではなんら躊躇ない。
離婚もバツイチもその当人の経歴や社会的評価でなんらマイナス要因とはならないという社会通念が確立しているのだ。
NZが多様性国家を目指す切実な理由
ザ・ストアというキャンプ場で知り合ったNZの元外交官の言葉を思い出した。「NZは建国以来常に労働力が不足していた。労働力確保は現在にいたるまで国家の至上命題なのです。そうした背景から先住民の人々も含めて幅広く多様な人々を社会の一員として受容して国家の建設と運営に参加してもらうことが必要不可欠なのです」との解説。
人道主義や博愛主義という理想論でなく労働力確保という現実の国家運営の必要性から英国移民中心の白人国家から先住民やアジア系移民を含めた多様性国家に変わってきたという分析である。LGBTの人々や離婚経験者も含めて社会の一員として尊重して受容することも元外交官氏の指摘の延長線上にあるのだ。
日本の国会での議論を聞いていると多数派の与党は、外国人労働者の定住は認めない、同性婚は認めない、LGBT保護には消極的、などなど多様化社会にブレーキをかけている。“全員参加の活力ある社会”という政府のスローガンが空念仏に聞こえる。
以上 第3回に続く
高野凌
https://news.yahoo.co.jp/articles/b06419398fd1c79f3007d2f7df2f3d2369622525
2023.2.4~4.28 83日間 総費用75万円(航空券24万円含む)
総人口の30%が自分のアイデンティティーを先住民族と認識している?


プカキ湖から初冠雪したマウント・クックを望む。 この先のサービスエリアで名物サーモンの刺身(わさび、割り箸付き)を賞味
南半球では晩夏にあたる2月初旬。現地の人々が「この時期は1日のうちに四季がある」と、言っているように真夏のカンカン照り、曇り、強風、氷雨、そして再びギラギラ太陽とめまぐるしく天気が変わる。
2月10日。クライストチャーチ近郊のサムナーで氷雨の中、雨宿りを求めて一軒家のドアをノックした。ドアが開くと、可愛らしい女性が顔を出した。彼女は大学院で先住民族の言語・文化を研究していた。放浪ジジイがアメリカ先住民のナバホ族の居留地での見聞を披露するとダイニングルームでコーヒーでも飲まないかとの“地獄に仏”のオファー。
政府の公的数字ではニュージーランド(NZ)の先住民マオリ人は総人口約510万人の17%程度だが、最近メディアが実施した聞き取り調査では回答者の30%近くが自分のアイデンティティーをマオリ人であると認識しているという。政府の統計数字は先住民族への補助金など行政上の取り扱いの観点からマオリ人の定義を厳密にしているので30%が実相を反映しているようだ。
米国ではナバホ族の居留地のように建国以来一貫してアメリカ先住民を閉じ込める(containment)政策を継続、先住民は最下層の暮らしを余儀なくされている。黒人を解放したリンカーンも先住民封じ込め政策を堅持したし、1964年に成立した公民権法の下でも主眼は黒人であり先住民は置き去りにされた。ナバホで調査活動をしていたアメリカ・メキシコ先住民文化研究者から聞いた話を交えてアメリカ先住民の状況を説明。
大学院女子によるとNZ政府はマオリ語を保護しマオリ人の生活を向上させる政策を採っているという。
先住民保護政策には白人層の反発も
3月9日。クリントンという町で救命救急士のK氏の自宅に泊めてもらった。夕食後に緊急招集がかかりK氏は現場に急行。食後にK氏夫人とお茶を飲みながら歓談。
夫人によるとマオリ人は元来北島に多く居住していた。南島にはマオリ人は少なく、現在南島に居住しているマオリ人の大半は南島が白人植民者により開発されるに従って仕事を求めて北島から移住してきた人々の子孫。それゆえ南島には元々マオリ人のコミュニティーが少なく、マオリ語を話せないマオリ人が大半を占めている。
夫人によるとマオリ人の低所得者には政府から補助金が支給されており、さらにはマオリ人学生に対しては奨学金支給の優先枠があるという。こうした優遇策(affirmative action)は白人系など非マオリ人に対する逆差別であるという不満が少なからずあるという。しかしマオリ人保護政策に対して声高に疑問を表明すれば人種差別主義者(racist)の烙印を押されてしまうので沈黙(keep silent)しているという。
アメリカ先住民から聞くインディアンの現実とマオリ人への想い
3月27日。アンバレー・ビーチのキャンプ場で愉快な御仁に遭遇。車のバッテリーにつないだ湯沸かし器で淹れた紅茶を飲みながら談笑。ベアーは60歳、先月早期退職して車に家財道具一式積んで放浪中。容貌から推測してマオリ人かと聞いたら呵呵大笑。「俺はアメリカ・インディアンだ。親爺がアメリカ先住民(Native American)で母親がドイツ系だよ。マオリ人は遠いファミリーかな」。
ベアーの父親は1930年代にカリフォルニアとネバダの州境にあるシェラネバダのモノティー族という少数部族の居留地で育った。米国政府は先住民家族に補助金を支給する一方で部族が運営する自治体にも人数に応じて補助金を支給するが少数部族は資金不足で居留地のインフラ整備もままならない。
居留地に留まれば一生貧困生活から脱出できない運命。それゆえ父親が15歳の時に両親は父親に居留地を離れて米国社会のなかで生きていくことを命じた。ナバホ族のように100万人の人口と広大な居留地と人気観光スポットを抱えていれば補助金をもらって貧しいながらもなんとか暮らしていけるが少数部族の現実はさらに厳しいようだ。
ベアー自身は米国社会で育ったが常に差別を感じていたという。高校を卒業すると金を稼ぐためにアラスカに渡り漁船に乗った。その後カルフォルニアの病院で働き経験を積んだ。
そして30年前に差別のない社会を求めてNZに移住。オークランド、クライストチャーチの病院で働いて3回結婚して3回離婚。今は独身なので自由に人生を楽しんでいると心情を吐露。ベアーはマオリ人の友人も多いが、「アメリカ先住民に比べたらマオリ人は幸せだよ」としみじみ語った。
オーストラリアの先住民アボリジニは二級市民なのか
4月4日。マーフェルズ・ビーチで知り合った老婦人は祖父がマオリ人。引退する前はご主人と一緒にオーストラリアのメルボルンで仕事をしていたが、彼女が見聞したかぎりアボリジニはオーストラリア社会では“二級市民”(second citizen)扱いされていたと断言。
アボリジニはオーストラリア総人口の4%と少数民族である。ハリウッド映画『クロコダイル・ダンディー』ではアボリジニをユーモラスに描いていたが、現実は異なるらしい。彼女はNZでは政府も社会もマオリに対し公正公平なことを誇りに思うと総括した。
キャンプ場で暮らすマオリの移動労働者たち
4月6日。南島の北東部の葡萄畑が広がるセドンの小さなキャラバン・パーク(キャンプ場)。料金は安いが全体的にうらぶれた雰囲気。オーナー夫婦は親切なマオリ人。
停めてある自動車やキャビンカーはどれも古ぼけており、ゲストの大半はマオリ人で長期逗留している。オーナーによるとワイナリー等の季節労働や道路工事などで働いている人たちが多いと。早朝に仕事に出かけるらしく夜明け前に何台も車がゲートを出て行く。
3週間以上を前払いすると正規料金の半額以下(一日当たりNZ$10=850円)。短くても数週間、ほとんどが数カ月から半年滞在しているという。この田舎町のキャンプ場はマオリ人移動労働者の憩いの場らしい。
マオリ人の貧困問題は教育格差の負の連鎖が原因なのか
4月9日。南島北端の町ピクトンのキャンプ場のダイニングキッチン。クライストチャーチ在住の2組の白人系家族と夕食時一緒になった。彼らによるとマオリ人の多くが低所得層であるのは教育に原因があるという。クライストチャーチでもマオリ人が多く住む地域の公立学校は概して水準が低く、義務教育の高校も中退が多い。教育格差の負の連鎖との指摘。
NZでは高校までは義務教育ゆえ学費は無償であるが、低所得層では学資が必要な大学進学はハードルが高い。優秀なマオリの生徒には給付型の奨学金が支給されるが、まだまだ限られた一部の生徒であるという。
マオリ語は日常言語として21世紀を生き残れるのだろうか
4月8日。南島北部の町ブレナム近郊のスプリング・クリークのキャンプ場。散歩していたら老婦人と親しくなった。彼女の父親はマオリ人で母親は英国系。父親はマオリ語を話していたが彼女自身は家庭でも日常会話が英語だったので話せないと。
NZではマオリ語は公用語に指定されており道路標識、公的な案内などは英語・マオリ語で併記されているという。確かに道中で見かける道路標識は併記されていたことに気づいた。
老婦人によると現在でもマオリ語はマオリ人の家族内や友人どうしの間で話されており、マオリ人学校ではマオリ語で授業が行われている。さらには政府の支援で設立されたマオリ語TV局では全てのプログラムがマオリ語で放送され英語の字幕が付いているという。
少数民族の言語は人類史を俯瞰すると多数派の言語に置き換わり死語となってゆくのが逆らい難い潮流だ。アイルランドでは英語が支配的言語となり、アイルランド語を公用語として維持する行政コスト負担軽減のため非公用語とした。現在アイルランド語は死語になりつつある。果たしてNZ政府のマオリ語復活政策は成功するのだろうか。
公立小学校ではマオリ語は必修科目だが
4月9日。南島北端の町ピクトンのキャンプ場の受付の30代前半の女性はエキゾチックな容貌。祖母がマオリ人とのこと。彼女自身は簡単なマオリ語しか解せないと。
NZでは1980年代に公立小学校ではマオリ語が必修となり公立中高等学校では選択科目となったという。受付女性は小学校で週に数時間、マオリ語の初歩を学んだ。小学校で全生徒が初歩を学ぶが、中高でマオリ語を選択する生徒は少なくマオリ人生徒でも実用実益のためフランス語や日本語を選択する傾向にあるという。
他方で政府肝煎りのマオリ語TV放送はマオリ人へのマオリ語普及に効果を挙げていると評価。やはり実益というインセンティブが薄いマオリ語学習は定着が難しいのだろうか。
ピクトンの隣のネルソン在住の30代の白人系女性は小学校でマオリ語を習ったが簡単な単語や挨拶くらいしか覚えていないという。彼女の小学2年生の子供は週に2時間マオリ語の授業があるが親としては算数や英語の時間を増やしてほしいと本音を漏らした。
NZのキャンプ場で垣間見たLGBT、片親ファミリーの人々
旅行中気づいたのは男性2人、女性2人で旅行しているカップルが多いことだ。欧州のリゾートでもそうしたカップルは頻繁に見かけたが、NZではよりオープンな雰囲気で2人の時間を楽しんでいるようだ。
例えばスプリング・クリークのキャンプ場。夕焼けの河畔の小径で手を繋いで散歩していた女性のカップル。食後にキッチンで仲良く皿洗いしていた中年男性のカップル。筆者の隣にテント設営していた40代の男性カップルは夕食後静かにウイスキーを飲みながら語り合っていた。
日本でも同性婚を法律上認めていないのは憲法違反であるという判決が出され国会でも議論の俎上に載せられているが、法制化への道筋は見えない。まだまだ同性カップルは日陰の存在だ。NZでは10年前に同性婚が法制化された。法制化により社会全体の認知が深まりLGBT当事者も安心して暮らせる環境が醸成されてきたのだろう。
さらにキャンプ場で極めて頻繁に見かけたのが離婚して片親が子供を連れて休暇を楽しむ姿である。少し立ち話をしているとすぐに離婚したことを明かす。日本では離婚したことを初対面の外国人旅行者に積極的に話すことは考えられないだろうが、NZではなんら躊躇ない。
離婚もバツイチもその当人の経歴や社会的評価でなんらマイナス要因とはならないという社会通念が確立しているのだ。
NZが多様性国家を目指す切実な理由
ザ・ストアというキャンプ場で知り合ったNZの元外交官の言葉を思い出した。「NZは建国以来常に労働力が不足していた。労働力確保は現在にいたるまで国家の至上命題なのです。そうした背景から先住民の人々も含めて幅広く多様な人々を社会の一員として受容して国家の建設と運営に参加してもらうことが必要不可欠なのです」との解説。
人道主義や博愛主義という理想論でなく労働力確保という現実の国家運営の必要性から英国移民中心の白人国家から先住民やアジア系移民を含めた多様性国家に変わってきたという分析である。LGBTの人々や離婚経験者も含めて社会の一員として尊重して受容することも元外交官氏の指摘の延長線上にあるのだ。
日本の国会での議論を聞いていると多数派の与党は、外国人労働者の定住は認めない、同性婚は認めない、LGBT保護には消極的、などなど多様化社会にブレーキをかけている。“全員参加の活力ある社会”という政府のスローガンが空念仏に聞こえる。
以上 第3回に続く
高野凌
https://news.yahoo.co.jp/articles/b06419398fd1c79f3007d2f7df2f3d2369622525