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引退までの道、長くなるばかり-働く人々の怒りが世界に渦巻く

2023-02-14 | 先住民族関連
ブルームバーグ2023年2月14日 6:05 JST
Amy Bainbridge、Ainsley Thomson、Alice Kantor
われわれの時代に最もゆっくりと忍び寄っている金融危機は、年金だ。財政が悪化し、先の世代に約束された年金が人口高齢化という現実の壁にぶつかっている。
  先進国の公的年金は既に政府支出の中で最大の項目だが、さらに拡大し他の優先項目に割く資金がほとんどなくなることが予想される。経済協力開発機構(OECD)のデータによれば、1980年には年金は国内総生産(GDP)の約5.5%相当だったが、2040年には10%を超える可能性がある。
  ほぼ全てのエコノミストが、退職年齢を遅らせ貯蓄を増やす必要性を説くが、年金改革は難しい。OECD加盟国のほぼ半数で、退職年齢引き上げの法制化は進んでいない。一部の国は政治的、社会的反動の激化を恐れて改革案を後退させている。
  年金改革が行き詰まる理由は、退職後の快適な暮らしが特権階級だけのものになることへの根深い国民の恐れだ。20世紀に公的年金制度が広がるまでは、死ぬまで働くのが普通だった。人生の終わりにのんびりできるのは金持ちだけだった。
  W・E・アップジョン雇用研究所のベス・トゥルーズデール研究員は「年金支給開始年齢の引き上げは年金を最も必要としてる人に最も大きく影響する」とし、「不安定な雇用状況や介護などの責任、健康問題、年齢差別などのために60代後半やそれ以降まで働き続けることは多くの人にとって不可能だ」と説明した。
  結局のところ、デスクワークをしている働き手は、建設現場で作業する人より高齢まで働くことを考えやすい。居心地の悪いことだが、少数民族と貧困層はより恵まれた層に比べ、病気になったり早死にしたりする確率が高いのは事実だ。
  十分に裕福な場合でも、これから退職しようという人々の間には不公平感がある。
  ナタリー・エルフィック英議員(52)は「私のような年齢の人間にとって、退職年金は蜃気楼(しんきろう)のようだ」と支給開始年齢引き上げを巡る最近の議論で発言。「目の錯覚かのように、近づいたと思うとその分遠ざかる」と話した。
  こうした全てにより、年金改革は大きな政治的困難を伴う。フランスでは年金改革を巡る大規模なストが行われている。アイルランドとカナダの政府は支給開始年齢引き上げ計画を後退させた。中国では改革は繰り返し先送りされ特定の条件の弱者については支給年齢引き下げを求める運動もある。
  ニュージーランドのパーマストンノースにあるマッセー大学経営大学院のクレア・マシューズ准教授は「人々が受け入れられる改革には限度がある。一部の国は既にその限界に達した」と述べた。
先住民の訴え
  オーストラリアの先住民、デニス氏(65)は年金改革に抵抗する1人だ。名字を記載しないことを求めた同氏はメルボルンの王立植物園でツアーガイドをしている。観光客に植物について教えるほか、先住民族の文化や歴史についても説明する。
  デニス氏は先住民の年金支給年齢を低くすることを求めた訴訟の原告団の中心だ。先住民の平均余命が一貫して他の国民より短いことを根拠にしている。同氏はこれが植民地化の結果だと考えている。豪カーティン大学の研究によると、先住民の男性で公的年金を受け取れるほど長生きするのはわずか70%と、国民全体の86%に比べ低い割合だ。

メルボルン王立植物園で働くデニス氏Photographer: James Bugg/Bloomberg
  同氏はクイーンズランド州の小さな町、シェルブールでの子ども時代を思い出すと葬式が絶え間なくあったような気がする。
  「多くは30歳にもなっていなかった。夜になると大切な人を失った人の泣き声が聞こえた。そうするとすすり泣きが四方八方から聞こえてきた」とワッカワッカ族の同氏は打ち明けた。
  豪州では人口の3%を占める先住民族のアボリジニとトレス海峡諸島民が、ひどい不利益を被ってきた。現在退職年齢を迎えている人の多くは、先住民族の子どもを親から引き離す政府の政策の下、雇用主に賃金の一部や全てを搾取されてきた。健康問題と職探しの困難で、政府のデータによれば、労働年齢の先住民で職があるのは約半分に過ぎない。
  訴訟を手掛けている法律事務所の一つ、ビクトリアン・アボリジナル・リーガル・サービスのネリタ・ワイト最高経営責任者(CEO)は平均余命の差に基づいて年金を調整するのは公平だと思うと言う。先住民族の多くの人は死ぬまで働いていると付け加えた。
出生率低下
  先進国では総じて、そのような状況は過去のものになっている。1970年代後半から80年代にかけて、多くの国がエコノミストの警告を無視して年金支給開始年齢を引き下げた。慢性的な失業への対策で、若者の雇用機会を増やすためだった。
  しかし90年代後半から、出生率が長期的な低下傾向にあることが認識され、寿命の延びた退職者を支える将来の働き手がはるかに少なくなることに気付いた政治家は突然、政策を逆転させた。 
  人口動態の変化に気付くのに遅れた結果、大きな改革が早急に必要になった。しかし多くの場合、改革は実現せず年金システムの持続可能性に関する専門家からの警鐘はますます厳しいものになっていった。
  例えば、米国では政府の行動がなければ社会保障制度は2034年までに、年金受給予定者の80%をカバーする資金しかなくなるとの試算がなされている。 
  部外者からは比較的穏やかに見える改革ですら、市民の反乱をもたらし得る。フランスではマクロン大統領の年金改革案に反対して1月に、2日にわたる抗議活動に100万人余りが参加。労働組合は2月にもストを計画している。
  改革には退職年齢を62歳から64歳に引き上げることと、年金を満額受給するための最低拠出年数を長くする2014年の改革の実施加速が含まれる。これらにより年金制度の財源不足分を30年までに解消できると政府は主張する。
  しかし計画は労組の逆鱗(げきりん)に触れた。早くから働き始めた人の多くは62歳までに必要な拠出年数を満たしている一方、高等教育を受けた人はどちらにしても64歳まで働かなければ拠出年数を満たせないという不公平が指摘された。
  警察官のような厳しい職業については通常よりも低年齢での退職が認められているものの、そうした職種に当てはまらない肉体労働に従事する人々が最も不満を抱いた。
  エロディ・フェリエ氏(45)は仏ポワティエで20年間、衣料品店の販売員として働いている。大きな箱を持ち上げる仕事で既に腰を痛めており、60歳を過ぎてさらに長く働かなければならない見通しに恐怖を覚える。
  「長年、朝から晩まで、箱を抱えて階段を上がり下りして働いてきた。こういう状況にある人間にとってさらに2年長く働かなければならないというのは恐ろしいことだ」と語った。
  こうした苦しみに共感する人は多く、エラブがBFMテレビのために実施した世論調査で年金改革への反対は65%に上った。
  前回19年の年金改革の試みはフランス史上最長に並ぶ交通機関のストを引き起こした。
貧困悪化の恐れ
  多くの国での退職年齢に関するジレンマの根底にあるのは、平均余命と健康余命が社会的・経済的特権と強く相関していることだ。
  失業保険の給付額は通常、公的年金より少ないため、仕事を辞めてから年金を受け取れるまでのつなぎとしては不十分だ。貯蓄のない人には特に厳しい。そしてもちろん、高齢者の雇用に前向きな企業は多くはない。
  英財政研究所(IFS)のローレンス・オブライエン調査エコノミストは「公的年金の支給開始が遅れるに伴い貧困が悪化するだろう」と述べた。
  今浮上している観測は、英政府が計画していた68歳への支給開始年齢引き上げを前倒しするというものだ。IFSによれば、前回の65歳から66歳への引き上げによって65歳の人の貧困率は2倍になった。
  新型コロナウイルス流行前に、平均余命の延びが鈍化したことを示すデータがあったが、専門家は年金改革を遅らせるべきではないと主張する。
  「各国政府はこの問題に取り組まなければならない」と、マーサーのメルボルン在勤シニアパートナーで保険数理士のデービッド・ノックス氏は言う。「支払う金額が増え続ければ、どこかでその原資を確保しなければならず、増税が必要になる」からだ。
  そのほかの方法は、支払額を減らす、他の分野の支出を年金に回す、国債を増発するなどだ。
  全体の退職年齢を引き上げ続けながら困難な状況のグループのための特例を設けるのも選択肢だが、終わりが見えなくなる恐れがある。
  例えばメキシコでは19年に先住民の退職年齢を標準の68歳に対して65歳とする政府資金による年金プランが設定されたが、このプログラムを拡大しようとする圧力によって、全体の退職年齢が引き下げられることになるまでに約2年しかかからなかった。
  これにより1100万人が年金の支給を受けられることになったが、政府のコストは急速に潜在的に持続不可能な水準になりつつあると、メキシコのセンター・フォー・エコノミック・インベスティゲーション・アンド・ティーチングのファウスト・ヘルナンデス・トリロ教授(経済学)が指摘。現在は先住民の年金受け取り年齢をさらに下げようという動きもあるという。
選択肢
  欧州を中心に多くの国では年金へのアクセスを柔軟化する試みがある。ノルウェーでは長く働いた人は年金額が増える仕組みになっている。また、米国では退職年齢の67歳ではなく62歳から年金を受け取ると生涯にわたって年金額が30%減額される。しかし健康に不安のある人は67歳まで待てない。平均余命の延びも社会全体で均一なわけではない。
  もちろん、いつまでも働きたいと思う人も多い。サービス業中心への経済の移行や高齢の働き手に対する意識の変化、強い労働市場環境、パートタイムの選択肢の増加が歳を取っても働き続けることを容易にすると、KPMGの都市人口統計学者、テリー・ローンスリー氏は指摘する。
  「フルタイムの労働から引退後の人生への移行は複雑になっている。人々は個人個人でさまざまな選択をしている」と同氏は述べた。
  しかし低賃金の職種では、選択の余地が狭められるのが現実だ。フランス南部のカジノ会社で33年間働いたキャサリン・ガスパリ氏(67)は今すぐ退職することができるが、賃金とリンクしている年金の額は生活費が急騰している今、家計を賄うのに十分ではない。
  年金額を増やすために71歳まで働こうとしている同氏は、「何年も何年も夜中にギャンブルの機械を運んで重い機械を操作し背骨や脚、手を悪くした。一日中たばこを吸う人の中にいて肺もやられた。あとどれだけ続けられるか分からない」と話した。
原題:Anger Over Longer Road to Retirement Ripples Across Globe(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-02-13/RPUD4GT0AFB601
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