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先住民族関連ニュース

先住民族関連のニュース

遭難死したアイヌの郵便逓送人 北海道釧路町がアニメに

2020-05-07 | アイヌ民族関連
朝日新聞 2020年5月6日 9時00分
太平洋を見渡せる場所に立つアイヌ民族・吉良平治郎の「殉職記念碑」=北海道釧路町
 大正期、郵便物を運ぶ仕事を始めたアイヌ民族の男性が、現在の北海道釧路町の山道で、吹雪のなか仕事に出かけて巻き込まれ遭難死した。釧路町は「責任と命の大切さを伝えたい」とアニメを制作する。男性の無謀とも思える行動の背景に何があったのか。
 アイヌ民族の吉良(きら)平治郎は1886(明治19)年に生まれた。父親を幼いころ亡くし、左の手足が不自由だった。現在の釧路市春採の集落で暮らしていた。
 身重の妻と前夫の幼い子を養っていた平治郎は1922(大正11)年1月、逓送人という職を得た。現在の釧路市と釧路町にある両郵便局約16キロを夜間に往復し、昼間に集荷された郵便物を運ぶ。悲劇は3日後に起きた。35歳だった。
 平治郎は吹雪の夜、重さ約17キロの郵便物を担ぎ釧路郵便局を歩いて出発した。吹雪は激しくなり、平治郎は宿徳内(現在の釧路町)の山道で郵便物を下ろすとマントで包んで帯で縛り、竹杖の先に目印の手ぬぐいを結んで雪に立てた。郵便物を残し、集落を目指して雪の中を進んだ――。
 後日、捜索隊が郵便物と平治郎の遺体を見つけた。悲劇は全国に報道され、遭難場所付近に記念碑も建てられた。戦前の高等小学校の修身の教科書には「責任」の題で紹介された。大正天皇の「責任ヲ重ジ」の言葉を引用し、「自分の担当した職務については、深く責任を感じ私を忘れて、公に奉ずる精神をもって之に当たらなければならない」と書かれている。
 釧路アイヌ文化懇話会会長だった松本成美さん(故人)らは2005年に事実を検証しようと研究会を設けた。
 1899(明治32)年制定の北海道旧土人保護法に基づき、アイヌ民族は同化政策で土地を奪われるなど差別や貧困にあえいだ。逓送人という公的な職を得た平治郎は、責任感が強く、吹雪で周りが止めたにもかかわらず、防寒具も満足にないまま家を出た。研究会は「平治郎は米を買う金がないほど生活が困窮しており、猛吹雪に挑まざるを得なかった」と結論づけた。
 高等小学校の教科書の記述について松本氏は06年の講演で、「平治郎がアイヌであることに全く触れられていない」と指摘。アイヌ民族は自分の命を最大に尊ぶのに、「戦争の遂行のために、国のために命を捧げるという『滅私奉公』に平治郎は最大限に利用された」と批判している。
 釧路演劇集団などはとらえ直した史実を題材に06年7月に演劇公演をした。釧路町も小学3、4年の郷土読本で「責任と命の大切さを伝えるアイヌ・吉良平治郎」と紹介している。
 町は内閣府のアイヌ政策推進交付金を活用し、6月以降にアニメ会社に制作を依頼し、2年かけて作品を完成させる。町内の小中学校の教材や社会教育事業で活用し、SNSにも動画投稿したいという。「青少年の心に響かせたい」と町教委の江端邦仁管理課長は言う。
 演劇の台本を手掛けた釧路演劇集団の尾田浩さんは「平治郎はアイヌ民族の仲間と助け合い、力強く正直に生きた。その生き様を知ってほしい」と話している。(高田誠)
https://digital.asahi.com/articles/ASN4X5CJ9N4FIIPE00J.html?pn=4

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南米の先住民族に新型コロナ感染拡大で対策 国連

2020-05-07 | 先住民族関連
NHK 2020年5月7日 6時41分新型コロナウイルス
国連は南米の先住民族の間で新型コロナウイルスの感染が拡大しているとして、現地の政府と協力して対策の強化を図っていると発表しました。
これは6日、記者会見を開いた国連のデュジャリック報道官が明らかにしたものです。
このうち、ブラジルではアマゾン川流域などで暮らす先住民族に感染が広がっていて、これまでに139人が感染し、8人が亡くなったことが公式に確認されたとしています。
このため国連では現地の政府や医療機関などと連携して先住民族の間で発熱やせきなどの症状がないかどうか観察する態勢を強化したり、医療スタッフに感染対策の研修をしたりしているということです。
また、ブラジルと同様に先住民族が数多く暮らすエクアドルでは、飲み水の塩素消毒や医療施設の消毒の徹底のほか、先住民族の言語を用いて感染予防を呼びかけるラジオ放送の支援などを行っているということです。
国連では新型コロナウイルスの感染に対してもっともぜい弱な人々として難民、障害者、高齢者に加え先住民族を挙げていて、各国の政府に対応を呼びかけるとともに、国連の地域事務所や関連機関を通じて支援に乗り出しています。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200507/k10012419941000.html

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先住民絶滅危機に保護の訴え

2020-05-07 | 先住民族関連
vpoint.jp2020/5/06(水)
ブラジル写真家 著名人らが賛同

サルガド氏の書簡と記事を掲載した英ガーディアン紙(同紙電子版より)
 ブラジル出身の世界的写真家セバスチャン・サルガド氏(76)は1日、アマゾン熱帯雨林に暮らす先住民族を新型コロナウイルスによる絶滅危機から保護するように求める公開書簡を、ブラジルのボルソナロ大統領に送付したことを明らかにした。ブラジルのフォーリャ紙が2日付で報じたほか、英ガーディアン紙など欧米各紙が報じている。
 サルガド氏は、公開書簡で「500年前、ブラジルの先住民はヨーロッパ人が持ち込んだ疫病によって絶滅寸前にまで追い込まれた。先住民に新型コロナウイルスに対抗するすべはなく存続の危機に直面している」と主張。ボルソナロ氏に対して、先住民保護区に無許可で入り込んでいる採金者や違法伐採業者を取り締まるように求めている。
 また、公開書簡を支持するように求めるオンライン署名も行われており、4日までに歌手のマドンナやポール・マッカートニー、俳優のブラッド・ピットなどの著名人を含む20万人からの署名が集まっている。署名の発起人はサルガド氏と妻のレリアさん。
ブラジルには、約80万人の先住民族が住んでいるが、すでに近代文明から孤立した生活様式を保っていることで知られる孤立先住民族にも、新型コロナの感染が確認されている。
 先住民族の多くは保護区で生活し、文明との接触が少ない部族も少なくない。そのため、伝染病に弱く、1970年代にははしかやマラリアの流行で多くの命が奪われた。
 経済成長を優先し、アマゾン熱帯雨林と先住民族の保護に消極的なボルソナロ政権下では、環境・先住民保護に対する予算が削減されている。最近では、先住民の環境保護活動家が殺害されるなど、先住民の存在はこれまでになく脅かされているのが現状だ。
 サルガド氏は、労働や難民問題、環境破壊などを扱った作品で世界的な評価を受けている写真家。世界銀行のコンサルタントとして、アフリカで農業指導に当たったこともある。現在は、ブラジルの先住民族を題材とした作品を発表している。
(サンパウロ 綾村悟)
https://vpoint.jp/world/usa/161309.html

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ラップや『アナ雪2』でサーミ語を救え──若手話者らの挑戦 フィンランド

2020-05-07 | 先住民族関連
AFPBB News2020年5月6日 9:00 発信地:イナリ/フィンランド [ フィンランド スウェーデン ‹ ›
【5月6日 AFP】大きなヘッドホンを着けグレーのパーカを羽織り、顎ひげを生やしたラッパーのアモックさんは、フィンランド極北イナリ(Inari)にある自宅のスタジオで、攻撃的で断続的な韻律をマイクに吐き出す。
 アモック(本名ミッカル・モラッタヤ<Mikkal Morottaja>)さん(35)が作り出すパンチの効いたリズムは、世界中のラップファンにはなじみのある音に聞こえるだろう。しかしこの歌詞は、存続が危ぶまれるフィンランド極北のイナリサーミ語で、その話者はわずか300人だ。
 先住民族サーミ(Sami)人はノルウェー、スウェーデン、フィンランド、ロシアの北部に暮らし、10の言語がある。しかし、各国政府の容赦ない同化政策により、20世紀半ばまでに、これらの言語の話者は大幅に減った。
 だが、若い話者たちが今日、音楽やディズニーの大ヒット映画の吹き替えなどを通じ、イナリサーミ語の「黄金時代」を築いている。
 アモックさんがラップを始めたのは20年前。当時サーミ語を話せる若者は「10人以下」だったという。
 イナリサーミ語は、トナカイを家畜として飼うといった先住民の伝統を描写するには適した言語だが、例えば、宇宙空間を意味する単語がない。そのため、アモックさんは現代の概念を表現するために、言葉の革新を迫られることもある。
 アモックさんの最新のプロジェクトは、仲間のラッパー、アイル・バレ(Ailu Valle)さんとのコラボ企画だ。
 バレさんは北部サーミ語を話す。北部サーミ語はわずか2万5000人しか話者がおらず、国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)によって「危機的状況にある」言語に分類されている。
 2人は米国やカナダ、欧州などサーミ語圏外の国々でラップを披露してきた。
■「黄金時代」の裏で癒えぬ傷痕
 昨年12月、大ヒット映画『アナと雪の女王2(Frozen 2)』は、ディズニー映画としては初めて、北部サーミ語に吹き替えられた。
 映画の内容も、サーミ人の民俗性と生き方を色濃く反映している。エルサとアナの姉妹は魔法の森の中で、テント住まいの民族、ノーサルドラと出会う。彼らの衣装やトナカイを家畜としている生活様式は、明らかにサーミ人をモデルにしたものだ。
 一方でサウンドトラックは、サーミ人の伝統歌謡「ヨイク(yoik)」に焦点を当てている。歌詞を翻訳したバレさんは、北部サーミ語版のリリースはサーミ人の子どもたちにとって「別格」の瞬間だと説明する。
 サーミ議会(Sami Parliament)の議長、ティーナ・サニラ・アイキオ(Tiina Sanila-Aikio)氏は、サーミ語は「黄金時代」を迎えているものの、過去の傷痕は癒えないままだと指摘する。
 北欧各国の政府は、サーミ人の言語と文化を非文明的で悪魔的だと非難し、残忍で時には暴力的な体制を取り、子どもたちをマジョリティーの社会に同化させた。結果、今日のサーミ人の多くは、親の世代からサーミ語を学ぶ機会を奪われた。
 サニラ・アイキオ氏は、言語を取り戻すことは「盗まれたものを取り戻す」ことを意味すると語った。(c)AFP/Sam KINGSLEY
https://www.afpbb.com/articles/-/3279571

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ステイホーム中に学べる水族館や博物館続々 動画配信や飼育員らが疑問に回答

2020-05-07 | アイヌ民族関連
毎日新聞 5/6(水) 18:00配信
 新型コロナウイルス感染拡大に伴い、休業中の水族館が、ツイッターやユーチューブで飼育している生き物たちの写真や動画を配信したり、博物館がネットで学べる「おうちミュージアム」を発信したりと、ステイホーム中の人々に向けた取り組みが好評だ。
 海遊館(大阪市)はユーチューブでチンアナゴやジンベエザメなどを紹介する海遊館の生き物たち編と、飼育員がちょっとした疑問に答える飼育員にきいちゃおう!編を配信。「熱帯魚のエサがレタスってほんと?」や「コツメカワウソの名前の由来ってなに?」などの疑問に飼育員が答えてくれる。
 京都水族館(京都市)は元々ツイッターで数秒から数十秒の動画を投稿していたが、休館中も継続。大水槽の中からマイワシの群れを見上げた景色やオオサンショウウオが餌を食べる時など飼育員しか知らない瞬間の動画も。また、約60羽のペンギンと飼育員の関係性を表した相関図を読み込むのもおすすめ。
 伊勢シーパラダイス(三重県伊勢市)はユーチューブで動画を配信。タツノオトシゴやカワウソなどについて、チャット機能を使い、質問にも答えながら解説していく飼育員による配信も好評だ。
 こうした臨時休園中の動物園や水族館が、ツイッターなどSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で「#休園中の動物園水族館」などのハッシュタグを付けて動画や写真を投稿する動きが全国に広がっている。動物園では神戸市の市立王子動物園や神戸どうぶつ王国、和歌山県白浜町のアドベンチャーワールドが動画や写真を配信している。
 ◇120の博物館や図書館などが「おうちミュージアム」
 「おうちミュージアム」は、札幌市の北海道博物館が企画して各地の博物館に呼びかけた取り組み。家にいながら休業中の各博物館のウェブサイトやSNSで展示物などを解説付きで学べると好評だ。共通のロゴマークを使用し、5日時点で約120の博物館や図書館、研究所などが参加している。期限は未定。
 同博物館はアイヌ文化を紹介する他、アンモナイトの折り紙の折り方やストローで作るアヒルの鳴き声がする笛の作り方なども公開する。
 国立民族学博物館(大阪府吹田市)では「おうちでみんぱく」と題し、画面上で実際の館内を巡ることができる「バーチャルミュージアム」などがある。一部の展示品は動画で説明。愛媛県宇和島市の宇和津彦神社の秋祭りで街中を練り歩く牛鬼(うしおに)も展示している。
 漢字ミュージアム(漢検 漢字博物館・図書館、京都市)は「林檎(りんご)」や「玉蜀黍(とうもろこし)」など果物・野菜の漢字表記を紹介する「漢字の畑」や、草書や行書といった書体コーナーをツイッターやフェイスブックなどで紹介している。他に滋賀県立琵琶湖博物館(草津市)や大阪市立自然史博物館などでも。
 北海道博物館のウェブサイト(http://www.hm.pref.hokkaido.lg.jp/ouchi-museum/)から各博物館のサイトやSNSにつながっている。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200506-00000028-mai-life

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コロナ禍に疲弊したら…外出自粛中に読みたい厳選30冊

2020-05-07 | アイヌ民族関連
現代ビジネス 5/6(水) 22:01配信
 お花見もできないまま4月が終わり、「ゴールデンウィーク」という呼び名にも寂寥感が漂う、異例の連休となりました。
 とはいえ、「緊急事態」が続く中では外出も控えるしかない。自宅での楽しみはいくつかありますが、「本」の世界もまた、コロナ禍に疲れた私たちを大歓迎してくれます。
 今年1月から3月にかけて出版された、「社会」と「カルチャー」に関連した新刊の中から、読んでみてオススメできるものを30冊選んでみました。好奇心と興味関心のアンテナが少しでも反応するようなら、読んでみてください。
【社会】
 内田樹、えらいてんちょう(矢内東紀)『しょぼい生活革命』
晶文社 1650円(税込み、以下同じ)
 両親は東大全共闘の生き残りだという30歳の異色起業家と、「生きているうちに伝えておきたいこと」があるという70歳の対談集だ。共同体、貧困、資本主義、国家、家族、教育、福祉など話題は多岐に及ぶ。「分断と自閉の時代」を生きるヒントとして秀逸な一冊。
 NHKスペシャル取材班『憲法と日本人~1949-64年 改憲をめぐる「15年」の攻防』
朝日新聞出版 1650円
 日本国憲法が70年以上も改正されなかったのはなぜか。かつて展開された白熱の改憲論議を検証し、憲法の現在とこれからを探る試みだ。改憲論の原点とは? アメリカや経済界からの改憲圧力の内幕。改憲と護憲の攻防戦。果たしてそれは「押しつけ憲法」だったのか。
 橋本健二『<格差>と<階級>の戦後史』
河出新書 1210円
 現代社会を語る際、必須の概念となっている「格差」。本書は、経済史や世相史、さらに文化史なども踏まえ、格差の問題を「戦後日本の歴史的な文脈に位置づけ、評価し直す」試みである。格差の背後に「階級構造」があるという指摘が、戦後史の見方を変えていく。
 籠池泰典、赤澤竜也『国策不捜査~「森友事件」の全貌』
文藝春秋 1870円
 「森友学園」前理事長は、詐欺などに問われた裁判で有罪判決を受けた。一方、国有地を不当な安値で売却した背任や、行政文書の改ざんなどを行った側は刑事責任を問われていない。公権力は何をして、何をしなかったのか。本書は事件の核心部分を暴く重要証言だ。
 石川文洋『ベトナム戦争と私~カメラマンの記録した戦場』
朝日新聞出版 2200円
 ベトナム戦争終結から45年が過ぎた。著者は戦時中、約4年にわたってサイゴンに住み、南ベトナム政府軍や米軍に同行撮影した。さらに北ベトナムにも入り、戦場のリアルと民間人の日常を目にする。「これが戦争なのだ」という実感が伝わる、貴重な回想記だ。
 片山夏子『ふくしま原発作業員日誌―イチエフの真実、9年間の記録』
朝日新聞出版 1870円
 新型コロナウイルス騒動で脇に置かれた、今年の3月11日。しかし9年が過ぎたことで、ようやく明かされる真実もある。「行ってはいけない」場所で働く人たちは、その目で何を見てきたのか。取材を続けてきた記者が伝える、終わりなき原発事故のリアル。
 内田 樹『サル化する世界』
文藝春秋 1650円
 著者によれば、為政者から市民までを支配する気分は「今さえよければ、自分さえよければ、それでいい」。つまり「朝三暮四」の論理だ。ポピュリズム、憲法改正、貧困など多様なテーマを論じる本書。正しい書名は「サル化する日本と日本人」かもしれない。
 橋爪紳也『大阪万博の戦後史―EXPO'70から2025年万博へ』
創元社 1760円
 大阪を舞台とする「現代史読み物」であり、軸となるのは昭和45年の大阪万博だ。万博以前、万博そのもの、そして万博後と、編年体の通史になっている。中でも万博主要パビリオンの解説は圧巻。世紀のイベントが大阪という街にもたらしたものは何だったのか。
 長谷部恭男『憲法講話~24の入門講義』
有斐閣 2750円
 法は「人として本来すべき実践的思考を簡易化する道具」だと著者は言う。頼り過ぎも危険であると。その上で使える道具としての憲法を講じていく。平和主義と自衛権。表現の自由と規制。内閣総理大臣の地位と権限。現代社会を再検証するための教科書だ。
 宇梶静江『大地よ! ―アイヌの母神、宇梶静江自伝』
藤原書店 2970円
 俳優・宇梶剛士の母でもある著者は、アイヌの自立と連帯を体現してきた女性だ。昭和8年北海道生まれ。23歳で中学校を卒業した。詩作と、アイヌの叙事詩を古布絵として表現する活動が現在も続く。本書では自身の軌跡はもちろん、リアルなアイヌ文化を語っている。
 小川和久『フテンマ戦記~基地返還が迷走し続ける本当の理由』
文藝春秋 1980円
 軍事アナリストの著者は長年、普天間問題に関わってきた。本書はその回想録であると同時に、日本の民主主義に対する警鐘だ。無責任な首相や防衛官僚だけでなく、最高権力に近い奸臣の存在も指摘する。問題の経緯と原因を明らかにした貴重なドキュメントだ。
 小田嶋 隆『ア・ピース・オブ・警句~5年間の「空気の研究」2015-2019』
日経BP 1760円
 アベノミクス、モリカケ問題、文書改ざん、東京五輪など、現在まで続く事象の大元、その本質は何なのか。5年分の時評コラムを読み進めながら、「そうだったのか」と何度も得心がいった。様々な局面で露呈する「事実」の軽視。それはコロナ禍の現在も変わらない。
【カルチャ―】
 <本>
北上次郎『息子たちよ』
早川書房 1870円
 平日は会社に泊まり込み、家に帰るのは日曜の夜だけ。それが20年続いたことに驚く。いわば無頼の書評家が、子供としての自分も踏まえて2人の息子への想いを綴った。「家族はけっして永遠ではない」と覚悟しながら愛し続けた家族と本をめぐるエッセイ集だ。
 吉田 豪『書評の星座』
集英社 2970円
 著者はプロ書評家にしてプロインタビュアー。格闘技専門雑誌『紙のプロレス』に参加していた、生粋の格闘技ライターでもある。この15年間に書いた、膨大な「格闘技本」の書評をまとめた本書だが、実は著者初の「書評本」だ。裏格闘技史としても画期的。
 三浦雅士『石坂洋次郎の逆襲』
講談社 2970円
 『青い山脈』『陽のあたる坂道』などで知られる作家、石坂洋次郎。かつてのベストセラーや大ヒット映画に比して、現在その名を見聞きすることは稀だ。しかし「主体的な女性を追究した」作品群が現代につながると著者は言う。新たな視点による石坂文学再評価だ。
 柴田元幸『ぼくは翻訳についてこう考えています』
アルク 1760円
 ポール・オースターなどアメリカ現代作家の翻訳で知られる著者。過去30年の間に翻訳について書いたり話したりしたことのエッセンスが一冊になった。「翻訳は楽器の演奏と同じ」「読んだ感じがそのまま出るようにする」など、100の意見と考察が刺激的だ。
 毎日新聞出版:編、和田誠:画『わたしのベスト3―作家が選ぶ名著名作』
毎日新聞出版 2200円
 「毎日新聞」書評欄の人気コーナー、15年分である。肝心なのは選者だ。誰が、誰の、どんな作品を選ぶのか。原尞のチャンドラー。逢坂剛のハメット。太田光の太宰治も好企画だ。さらに、みうらじゅんのスキャンダル、三谷幸喜が選んだ和田誠の3冊も見逃せない。
 三島邦弘『パルプ・ノンフィクション~出版社つぶれるかもしれない日記』
河出書房新社 1980円
 2006年、著者は単身でミシマ社という出版社を興した。動機はシンプル。自分が思う「おもしろい本」を出したかったのだ。本書は過去5年分の回想記であり、「本」をめぐる思考の記録でもある。この小さな版元は、なぜ今もリングに立ち続けていられるのか? 
 <音楽>
野川香文『ジャズ音楽の鑑賞』
シンコーミュージック・エンタテイメント 2640円
 昭和23年に刊行された日本初の本格ジャズ評論集の復刻版だ。明治生まれの野川がジャズ研究を始めたのは昭和5年頃。出版当時44歳だったが、黎明期、ラグタイム時代、ブルースの誕生とたどる発達史は画期的なものだった。70年前の情熱が甦る、歴史的な価値をもつ新刊だ。
 古関正裕『君はるか―古関裕而と金子の恋』
集英社インターナショナル 1760円
 この春に始まったNHK朝ドラは『エール』。主人公のモデルは作曲家・古関裕而と妻の金子(きんこ)である。本書は夫妻の長男によるノンフィクション・ノベル。オペラ歌手を目指す少女が書いた、一通のファンレターから始まる文通と恋は、小説より奇なる純愛物語だ。
 <芸能>
塩澤幸登『昭和芸能界史 [昭和二十年夏~昭和三十一年]篇』
河出書房新社 2970円
 戦後の芸能界を多角的に描いた労作。映画、音楽、放送はもちろん、出版にも目配りした点がユニークだ。当時、雑誌の連載小説を映画化し、読者を観客として動員する流れが王道だった。時代を作ったスターやアイドルの原風景がここにある。
 <映画>
崑プロ:監修『映画「東京オリンピック」1964』
復刊ドットコム 4950円
 昭和39年10月10日、国立競技場。古関裕而作曲「オリンピック・マーチ」と共に5千人を超える選手が入場し、東京五輪が始まった。この世紀の祭典を記録したのが市川崑監督率いる550余名の制作陣だ。企画、準備から本番、編集まで極秘作業の全貌が明かされる。
 <テレビ>
藤村忠寿『笑ってる場合かヒゲ~水曜どうでしょう的思考2』
朝日新聞出版 1430円
 全国区のローカル番組『水曜どうでしょう』のディレクターが、新聞に連載したコラム集だ。5夜連続放送のドラマ制作。役者として参加した劇団の舞台。マラソン大会への出場。そして『水どう』ファンとの祭り。他人と積極的に関わることで自分が見えてくるそうだ。
 <落語>
川田順造『人類学者の落語論』
青土社 1980円
 文化人類学の泰斗と落語の組み合わせが新鮮だ。戦後の小学生時代から落語と接してきた経験は、後のアフリカ口承文化研究につながっている。著者が愛する八代目桂文楽や五代目古今亭志ん生の芸と、現地で採取された「アフリカの落語」が地続きとなる面白さ。
 立川談四楼『しゃべるばかりが能じゃない~落語立川流伝え方の極意』
毎日新聞出版 1650円
 他者に何かを伝えようとする時、その人の個性が出る。書けば文体、しゃべれば口調。立川談志の口調は「断定型」だが、真似ても劣化コピーにしかならないと著者は言う。かつての弟子として、落語家として、さらに師匠としての体験を交えて語る「伝わる」の極意だ。
 <美術>
渡辺晋輔、陳岡めぐみ『国立西洋美術館 名画の見かた』
集英社 2310円
 開館から60年が過ぎた上野の国立西洋美術館。2人の著者はその現役学芸員であり、イタリアとフランスの美術史専門家だ。静物画や風景画など、ジャンル分けした収蔵品を解説しながら西洋美術史をたどっていく。また美術館と作品をめぐるコラムもトリビア満載だ。
 とに~『東京のレトロ美術館』
エクスナレッジ 1760円
 歴史のある美術館ではなく、レトロな趣が漂う34の美術館が並ぶ。いずれも美術作品は白い壁で囲まれた展示室ではなく、個性に満ちた空間に置かれている。著者はアートを愛する、お笑い芸人。朝倉彫塑館、原美術館、五島美術館など建物も含めて丸ごと鑑賞したい。
 <建築>
隈 研吾『点・線・面』
岩波書店 2420円
 新国立競技場の外壁は、なぜ杉の板なのか。「風通しをよくしたい」と建築家は言う。人と物、人と環境、人と人をつなぎ直すために、建築という大きなボリューム(量塊)を点・線・面へと解体するのだと。世界を巡り、過去へと遡る思考の旅。その全記録である。
 <茶道>
伊東 潤『茶聖』
幻冬舎 2090円
 千利休という「茶聖」と「茶の湯」のイメージを一新させる長編歴史小説だ。秀吉が茶の湯に求めた「武士たちの荒ぶる心を鎮める」機能。利休が天下人に求めた「人々が安楽に暮らせる世」の実現。互いの領分を侵さぬはずが、やがて表と裏の均衡は崩れて……。
 <陶芸>
加藤節雄『バーナード・リーチとリーチ工房の100年』
河出書房新社 2750円
 イギリス西南端の街、セントアイヴス。リーチ工房はそこにある。フォトジャーナリストである著者が初めてこの地を訪れたのは45年前。やがてリーチへのインタビューも実現させた。美しい写真と簡潔な文章が、リーチの人物像と工房の歴史を浮き彫りにしていく。
碓井 広義(メディア文化評論家)
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200506-00072374-gendaibiz-life

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ブラジル・アマゾン最大都市、世界にコロナ支援要求 安倍首相にも書簡

2020-05-07 | 先住民族関連
AFPBB News 5/6(水) 19:11配信
【AFP=時事】ブラジル・アマゾン(Amazon)熱帯雨林地帯の最大都市マナウス(Manaus)の市長は5日、新型コロナウイルス対策への支援を求めて世界各国の首脳に書簡を送った。アマゾナス(Amazonas)州の州都であるマナウスは、新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けており、市の医療システムは崩壊寸前にある。
 アルトゥール・ビルジリオ(Arthur Virgilio)市長は、安倍晋三(Shinzo Abe)首相やドナルド・トランプ(Donald Trump)米大統領、ドイツのアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相やフランスのエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)大統領ら21か国の首脳に対し、資金と医療機器の援助を求めるビデオメッセージと書簡を送った。
 ドイツの4倍以上もの面積を有するアマゾナス州には集中治療室が1か所にしかなく、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死者はこれまでに649人確認されている。マナウス市も大打撃を受け、複数の病院では遺体を冷凍トラックに保管する状況に陥っている。
 ビルジリオ市長はビデオメッセージで、マナウス市はその原生林の96%を維持することで地球上の重要な役割を果たしてきたと述べ、「今はその見返りとして、医療従事者や人工呼吸器、保護用品など、この大森林を守ってきた人々の命を救えるものなら何でも必要としている」と訴えた。
 同市長は2日にもスウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリ(Greta Thunberg)さんに対し、自身の影響力による支援を求めていた。
 アマゾン熱帯雨林地帯は、人口密度は高くないものの、外部からの疾病に特に脆弱(ぜいじゃく)な先住民族が暮らしており、公衆衛生インフラも限られている。
 中南米地域で新型コロナウイルスの流行が最も深刻なブラジルでは、これまでに7921人が亡くなっている。【翻訳編集】 AFPBB News
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200506-00000033-jij_afp-int

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210万人を動員した「民衆蜂起の象徴」リオのカーニバルは、2021年に開催できるか?

2020-05-07 | 先住民族関連
HARBOR BUSINESS5/6(水) 8:33配信
4月以降、リオ市~リオ州でも一気に感染が拡大
 2月後半に開幕し、3月1日に閉幕した2020年のリオのカーニバル(カルナヴァル)は過去最高210万人の動員を記録した。カーニバルの規模と動員はギネス記録、そして歴史を持つ「地上最大のスペクタクル」と呼ばれて久しい。
 毎年、世界中から観光客とメディアが押し寄せる世界的な風物詩だ。リオデジャネイロ州と同市は、コロナウイルスの感染拡大を懸念し万が一に備え、感染者収容施設を準備して臨んだ。
 しかし3月下旬になっても、南半球最大の都市サンパウロに比べると、ブラジル第2の都市リオデジャネイロの感染者数はとても少なかった。感染拡大を恐れ、リオ州知事は3月第2週に緊急事態宣言し、外出制限を敷いて翌週にロックダウンした。
 3月中旬はカーニバルを締めくくり、伝統と格式ある各部門表彰アウォード「Estandarte de Ouro」の授与セレモニー(ブラジル最大手新聞『O GLOBO』紙による、カーニバルのメインイベント=巨大なパレード・コンテスト上位2リーグに対するもの)も中止(未定延期)となった。当然、リオに限らずブラジル全土で、スポーツや音楽などすべての大型イベントは再開のめどが立っていない。
 4月に入ると感染者数は増え続け、4月下旬になるとリオ市~リオ州でも感染者数が一気に拡大している状況だ。美術的なカーニバル史を飾る世界的な振りつけ師、日本でも知られる大名曲の作曲家、テレビ番組でお馴染みの若手人気サンバ歌手など、次々とコロナウイルス感染のニュースが駆け巡っている。筆者は友人を1名コロナウイルスで失った。
 一方、ボルソナーロ大統領の失政はコロナウイルスへの対策にも大きく表れ、世界中に報道されているが、ブラジル国民の不満はSNS上でも爆発している。4月末にはパンデミックに対する相次ぐ失政と大臣の更迭や辞任で、ブラジル通貨レアルはついに1レアル=20円を切った。
2021年のカーニバル開催はどうなるのか!?
 さて、本記事の軸は「人類史上類をみない多国籍移民・混血大国を象徴するリオのカーニバル」とその「サンバ文化」だ。元来、「奴隷とされていたアフリカ系民が生き抜くために育んだ共生文化と精神性」がサンバだ。
 また、1888年まで続いた奴隷制時代に、カーニバルの間だけ奴隷たちが自由を許されたことと、その後の「世界中からの移民増加による多国籍・混血=ブラジル化」により、「爆発的な民衆力が結集・解放・共有される市民文化・ムーブメント」となった経緯がある。欧州戦線に派兵した第二次世界大戦中もリオのカーニバルは開催されていたが、2021年の「地上最大のスペクタル」は果たしてどうなるのだろうか? 現状では感染状況と準備期間に対して来年2月の開催を危ぶむ声が出始めている。
 ブラジルの厳しい歴史的事情から生成された、特有の楽観的な発想転換力とタフネスで生きて来たリオ市民の顔も、4月下旬からひときわ曇り始めている。ここで、今年のリオのカーニバルを振り返ってレポートしたい。
政治的な抗議・告発が大半を占めた2020年のカーニバル
 日本では「リオのカーニバル」と言えば、単に煌びやかで豪華絢爛なファンタジーによる、楽しいサンバ・パレードと思われがちだ。しかし、昨年のレポートに続くかの如く、2020年のトップリーグ12エスコーラ(チーム)中、なんと8エスコーラが表現したのは「ブラジルの特権階級支配型社会への、持たざる階級からの抗議的な内容と悲哀」、「階級格差社会・人種差別への抗議」または「伝統的に腐敗がはびこる政治体制への痛烈な批判・告発」などの内容が織り込まれたテーマだった。
 このようなプロテスト的なパレード・テーマ曲は昔から存在していて、「サンバという文化自体が、そもそも旧アフリカ系奴隷民たちによるレジスタンス文化」なのだ。しかし近年はこれまでになく、その度合いが強まっている。そしてリオに限らず、世界につながるさまざまなグローバリゼーションと新自由主義の弊害と実情がカーニバルにも表われていると言える。
 そもそも、世界各地からの大移民史・混血の歴史によって構成される「多様多彩な多国籍大国:ブラジル」の歴史とは、そのルーツである先住民~世界各地の歴史事情まで巨大な規模で直結している。
“アメリカ合衆国本土よりも大きい面積”を持つ大国ブラジルにはさまざまな先住民族の大地に西欧・北欧・南欧・東欧・アフリカ大陸各地・中東各地・ユダヤ系民・各アジア系民にいたるまでが流れ込み、多様で複雑な社会を構成している特殊な国だ。
 日本でも分かりやすい例をあげると、日産自動車のCEOを務めたレバノン系ブラジル人、カルロス・ゴーン氏。サッカー日本代表でも活躍した田中マルクス闘莉王選手。彼は日本からの移民とイタリア系からのブラジルへの移民の両親を持つ。
 サッカーW杯時には各祖国の代表メンバーに名を連ねる二重国籍のブラジル人選手たちがいることを思い出すと“特殊なブラジルの事情”を少し想像していただけるかもしれない。「移民とともに、まさに世界各地の祖国に通じる国」、そんなブラジルだからこそ存在し、象徴的な地上最大の祭が「リオのカーニバル」。多様性の象徴であり、共有、共感、共生の文化なのだ。
過去最多の210万人超えで、動員記録を更新
 ギネス公式記録、世界最大の祝祭である「リオのカーニバル」(ブラジル連邦共和国・リオデジャネイロ州・同市)。今年は昨年の約160万人を上回り、約210万人の観光客を動員。昨年に比べレアル安(ブラジルの通貨)となったが、それでも約1000億円を越える経済効果をもたらし、記録を更新した(民間リサーチ会社、リオ市当局の公式発表と主要メディアによる調査と発表)。 
 ちなみに、東京都台東区の「浅草サンバカーニバル」が本場と比較に値しないほど小規模なものにもかかわらず、毎年「50万人の人出・来場者」という不正確極まりない公式発表を続けている(実際にはその1%にも満たない観戦者数のはず)のに対し、世界的な本物のリオのカーニバルが「約210万人」とは、いかにミニマムかつ正確な発表をしているのかが伺えるのではないだろうか。
 参考までに、日本の5大ドーム公演(東京・札幌・大阪・福岡・名古屋)をすべてしたとしても、合計動員数は約19万9000人だ。日本を代表する大規模野外フェス「フジロック」でさえ4日間の合計が約13万人だ。日本ではまず体験することができない規模・内容・多様な世界観によるクリエイティブ、スペクタクルがリオのカーニバルにあることがイメージできるだろう。
世界各地から約42万人の集客。100か国以上に生中継
 今年はリオデジャネイロのカーニバルに押し寄せた約210万人のうち、約23%の42万人が外国人観光客だった。南米大陸からはアルゼンチとチリ、北米大陸からはアメリカ、欧州からはイタリアを筆頭に、今年も欧州各国、北米、中米、アジア各国からの動員記録を更新した。
 リオ市・市警に正式登録認定され、街中の一般道を封鎖して各地で同時多発に行われる大型パレードは453本に及んだ。その動員合計は、地元リオ市民と観光客を合わせて約708万人を超えた。
 数字を見るだけでもリオのカーニバルがいかに巨大な国際メジャーイベント、リーグ制のコンペティションであるかがわかる。同時に、いかに日本ではマイナーで、不自然にもほとんど報道・紹介されていないかがご理解いただけたのではないだろうか。
 日本のメディアで取り扱われている情報がいかに操作され、偏った視野の情報のものなのか。3.11以降や今回のコロナウイルス関連情報でも気づかれる人は多いのではないだろうか。
 リオのカーニバルの象徴である名物、メインアトラクションは「リーグ採点制のパレード・コンテスト」だ。それは「エスコーラ・ヂ・サンバ」と呼ばれる、リオ市とその隣接各市の地域共同体に根ざすサンバチーム各4000人程度によって、パレード専用スタジアム(最大:約9万人収容)で凌ぎを削るクリエイティブな表現によるコンテストだ。これは世界100か国以上に生中継配信された。
「リオのカーニバルのメイン」である専用スタジアム(有料チケット制観戦)では、1部と2部リーグまでがパレードを許される。今年は4日間で約27万5000人の動員があった。今年は降雨続きだったため、例年より少なかった。
 トップリーグ12チーム(エスコーラと呼ばれる各地域のサンバ共同体)中、3チームがリオ市外の他市のエスコーラだった。中でも、優勝したエスコーラはリオ市ではなく、多額の助成予算を割いたニテロイ市のエスコーラ、VIRADOURO:ヴィラドウロ。さらに上位入賞の6エスコーラ中、3エスコーラが「リオ市以外のエスコーラ」だった。
 VIRADOUROの本拠地はリオ州リオ市ではなく、湾を隔てた対岸のニテロイ市にあるが、今年はなんと総額約1億5000万円もの予算が1部・2部リーグに所属する同市の3エスコーラに支払われた。
“カーニバル嫌い”で知られる現リオ市長・クリベーラ氏
 優勝・準優勝ともに「リオ市外」のエスコーラだった今年のカーニバル。これは偶然のできごとではなかったと言える。なぜなら、現リオ市長:マルセロ・クリベーラ氏が2017年1月に就任して以来、リオ市公式のカーニバル関連の大規模イベントは軒並み削減され、さらにリオ市から各エスコーラへの多額の助成金は半分以下に大削減されているからだ。
「社会福祉や他の事業に市の予算をあてている」と、市長はごもっともな理由を掲げていた。しかし、改善を感じることのないリオ市民からは軒並み不評だ。日本のメディアではよく「ブラジルが不景気で予算カット」とだけ書かれるが、実は現在の市長がカーニバルの予算を他に回しているという状況なのだ。今年で任期満了となる現市長の後は果たしてどうなるか注目したい(コロナウイルスの影響で2021年のカーニバルが通常通り開催されるかは不明だ)。
 また、クリベーラ市長は「民衆が自由や解放を訴え、告発と団結を行うカーニバル」を嫌っているとされている。同氏はリオデジャネイロ出身のキリスト教福音派プロテスタントの元司教としても有名だ。
 1977年にリオで設立され、ブラジル全国~今や世界各国~日本各地にも展開するキリスト教プロテスタント福音派系の新興宗教団体「ユニバーサルキリスト協会/ユニバーサルチャーチ」創始者である有名な億万長者:エディール・マセード氏の甥にあたるクリベーラ市長は、同教会との関係性が深いことも広く知られている。
 日本にも存在する同教会は献金・寄付金システムによる多額の収入で知られ、カルトのような活動や、マネーロンダリングを含む汚職などで何度も告発され、国際的な批判を受けてもいる。世界最大のローマ・カトリック教徒数を擁するブラジルだが、21世紀に入るとプロテスタント系新興宗教団体への改宗、急速な信者数増加も話題となってきた。
 このように「サンバのルーツ」であるアフリカ系伝統宗教の数々、それらとカトリックとの混交宗教、伝統的ローマ・カトリックほか、カーニバルのパレード・テーマ、音楽的、装飾的な内容はブラジルという国を表すかのように、さまざまな宗教や政治も強く関係しているのだ。
「サンバ文化」が生み出す、地域の結束と助け合いの精神
 リオのカーニバルとその周辺にはさまざまな人類の歴史的、民族的な事情や経済・政治事情が交錯・反映されていることにご興味をもっていただけただろうか。まさに、それは「大航海時代からはじまった人類のグローバリゼーション」によって生み出されたブラジルを象徴し、限定性を持ちにくい多様性にあふれたブラジルには“人類の今を象徴するさまざまな物事”が集約されていると言えるかもしれない。
 さまざまな考えと利害が存在し、このコロナウイルスのパンデミックの最中でも巨大な力が急速に蠢き合っている人類の現在。さまざまな違いや操作を乗り越えて、人類が分断に向かわず、友情にあふれ、知的な良識によって公正さが守られ、平和である事を願うばかりだ。
 そして、シンボリックな存在のリオのカーニバルとそのサンバも役目を果たしてくれることを願ってやまない。一方、我々日本人は、歴史的、地理的、社会的、また圧倒的な実体験不足と敗戦後に対米従属体制の影響から、複雑で巨大な「世界の事情や真実」に疎いままだ。
 しかし私たちにとって、リオのカーニバルとサンバ文化はそれらをまとめて知ることができ、世界の真実をこのパンデミックの中で見直すうえでも、絶好の内容を取り揃えている。そしてタフにポジティブに、自主的に展開し、孤立を避け、助け合うことが求められる中、社会文化の共同体モデルとしても注目して良いかもしれない。
 現在、次々に有名なサンバ関係者の感染がニュースとなり、恐怖の空気が広がっているリオデジャネイロ。一方で「サンバ文化」本来の地域の結束と助け合いも具体的に機能している。たとえば……。
 各エスコーラの衣装製作工場では、貧しくより危険に脅かされているサンバコニュニティーの人たち向けのマスクの生産が行なわれている。各エスコーラの本部大会場は感染者隔離施設として利用され、貧しい地域民への飲食物や生活必需品の配布の場としても機能している。上位リーグに名を連ねる全エスコーラの打楽器隊指揮者たちはリオ市から食糧支給品配布の役目に任命され、火事場の陣頭指揮者となっている。
 人々がリオ各地域で自主的に自治・自衛し、人生を分かち合う「エスコーラ・ヂ・サンバ」という共同体の機能が、カーニバルに限らず、このパンデミックの中でも人々を救っている状況だ。
 サンバが単なる音楽の呼称ではなく、いざという時に助け合えるセーフティネットとしての社会文化であることが、現在の危機下にも実証されている。
 2021年のカーニバルの各エスコーラのテーマ発表、人材の移籍・去就などオフシーズンのストーブリーグの情報も、「コロナウイルス後」への希望をこめて発表されている。再びこの地にサンバの熱気と音楽が鳴り響き、人々に笑顔と平和が、そして世界中からの参加者が戻ってくることを願ってやまない。
<文・写真/KTa☆brasil(ケイタブラジル)>
【KTa☆brasil】
東京生まれの日本人。世界各大陸で活動する音楽家、ライター、番組レポーター。神奈川県の在日米軍施設の近くで育つ。同時にサッカー/野球/F1GPとの関わりから「汎ラテン圏の民衆力」に着眼。米国を経て1997年よりブラジル各地での活動を継続中。共著書『リオデジャネイロという生き方』(双葉社)ほか、寄稿多数。MTVやFM各局、NHKテレビ「スペイン語講座」などのレギュラー出演を経て、戦後日本体制の常識に疑問を持つ。世界各地の民族史と音楽史、移民史、混血文化史を、現地との関わりを持って研究し続けている。『Newsweek』誌「世界が尊敬する日本人100」に選出。Twitter:@KTa_brasil  公式サイト:keita-brasil.themedia.jp
ハーバー・ビジネス・オンライン
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200506-00218376-hbolz-soci

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