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いのちの条約:COP10・NAGOYA 議定書採択 生物多様性保全、実現へ一歩

2010-11-08 | 先住民族関連
毎日新聞 2010年11月8日 東京朝刊

 名古屋市で約3週間開かれた国連生物多様性条約第10回締約国会議(COP10=名古屋会議)では、遺伝資源の利用と利益配分ルールを定めた「名古屋議定書」▽遺伝子組み換え生物が生態系に被害を与えた場合の補償対応を定めた「名古屋・クアラルンプール補足議定書」を採択した。また、新たな生態系保全の国際目標「愛知ターゲット」も採択した。生物の利用に関する二つの国際ルールと、一つの目標を決めた歴史的な会合となったが、残された課題も多い。【足立旬子、江口一】
 名古屋会議は10月11日に開幕した。生物多様性条約を批准する193カ国・地域のうち、179カ国・地域が出席した。国際機関や企業、市民団体などを含め計1万3000人以上が参加した。先進国と途上国は対立し、会期は予定より1日延び30日に閉幕した。
 ◇不正利用を監視
 遺伝資源は、微生物や植物の種など人に役立つ、または可能性のある遺伝子を持つ生物を指す。医薬品や食品などの開発に利用され、その売り上げは世界で年間5000億~8000億ドルにのぼる。
 遺伝資源は自然が豊かな途上国に多い。途上国は先進国の企業が事前同意や契約を結ばず、遺伝資源を国外に持ち出したと主張、利益還元を求めてきた。
 このため、名古屋議定書では、遺伝資源の利用から生じた利益を公正で衡平に配分することで、生物多様性を保全することを目的に掲げた。利用国の企業や研究機関などに提供国の事前同意と、相互に合意した条件で契約を結ぶよう求めた。提供国は、事前同意があったことを示す証明書を発行する。利用国は、遺伝資源の適切な利用を監視するための機関「チェックポイント」を1カ所以上、国内で指定する。これらの規定が担保できるよう、各国は国内法を定める。各国は事前同意などの状況を、条約事務局が設置する「クリアリングハウス」に報告する。
 ◇利用しやすく
 93年に発効した生物多様性条約は、遺伝資源を持つ国に所有権を認めた。このため、フィリピンが同国の遺伝資源から開発された製品の売上高の2%を毎年支払うことを盛り込んだ国内法を制定するなど、厳しい規制を設ける途上国もある。また、遺伝資源を利用する際の途上国側の窓口が分からないことがあった。それだけに、日本の製薬企業の担当者は議定書採択について「途上国で国内法が整備されると、透明性が確保される。発行される証明書によって、正常な手続きで入手したことが分かり、利用しやすくなるかもしれない」と歓迎する。
 途上国は遺伝資源を化学合成した際にできる物質などを「派生物」と扱い、利益還元の対象とするよう求めた。これに対して、先進国は「要求に際限がなくなる」と反発した。議定書は、人工的に作られた物質は派生物に含まないと記した。ただし、利益配分の対象範囲を、当事者間の契約に委ねると規定し、定義された派生物=要旨参照=は、途上国が利益配分を求められる可能性を残した。
 ◇伝統的知識も対象
 薬効など先住民や地域社会が受け継いできた「伝統的知識」を利用する際にも、事前同意をとることや、利益配分の契約が結ばれるよう、国が適切な手段を講じる。病原体では「提供してもワクチンなど治療薬を高額で買わされる」と途上国が提供に難色を示していたが、公衆衛生上の観点から通常の遺伝資源より手続きを簡略化し、利益還元もする。
 アフリカ諸国は植民地時代に持ち出された遺伝資源も議定書の適用対象にする「遡及(そきゅう)適用」を求めたが「法体系が混乱する」などの理由で受け入れられなかった。
 議定書採択を受け、松本龍環境相は早期批准を目指すとともに、国内法を制定する方針を示した。
 日本に求められるのは、遺伝資源が提供国の法律に沿って適切に入手されたかを監視する「チェックポイント」を指定することだ。そこでは、正規の手続きで遺伝資源を入手したことを示す提供国発行の証明書をチェックする。
 どの段階でチェックするかは各国が決める。スイスやノルウェーには特許出願時に原産国開示を求める制度があり、既存の制度でチェックポイントを検討するとみられる。
 一方、日本にとっては新しい制度となる。商業利用だけでなく、学術利用も対象となるため、膨大な数の証明書のチェックが予想され、環境省が中心となって検討する。
 ◇議長案でやっと
 遺伝資源に関する国際ルールづくりは02年に始まった。08年のCOP9で「名古屋までに結論を出す」と決めた。
 交渉では、「遺伝資源を通して少しでも利益を得たい」とする途上国と、「経済活動への影響が大きくなるのは困る」と懸念する先進国が対立した。閉幕日前日の10月28日になっても議定書案に合意できなかった。議長の松本環境相は29日朝、先進国と途上国で折り合わない最も極端な部分を削除した議定書案を議長案として作成。日本政府は既存の政府開発援助(ODA)などを活用して3年間で20億ドル(約1620億円)、新たな資金メカニズムに対し10億円の拠出を表明したりと、先進国は生態系保全への支援を打ち出し、途上国の妥協を引き出した。
 合意の背景には、昨年12月の気候変動枠組み条約第15回締約国会議での失敗がある。京都議定書後の新たな温室効果ガス削減の枠組みに合意できず、その後の温暖化交渉が停滞している。「生物多様性でも決裂させてはならない」という思いは各国共通だ。しかも、生物多様性条約の締約国会議は2年に1回の開催しかない。「名古屋で失敗すると、議定書ができるのは早くても4年はかかる」とのあせりが各国の交渉官に働いた。
 ◇生態系被害、責任明確に--名古屋・クアラルンプール補足議定書
 遺伝子組み換え生物が生態系に被害を与えた場合の責任の明確化と補償ルールについて、「名古屋・クアラルンプール補足議定書」が10月15日に採択された。輸入国が原因企業などに原状回復や賠償を求めることができる初の枠組みとなる。日本政府は来秋以降の批准を目指すが、現行法で対応可能としている。
 補足議定書は、組み換え生物が輸入国で在来種と交雑したり、駆逐するなど生態系に被害を与えた場合、各国政府が開発企業や輸出入業者など原因事業者を特定し、被害の原状回復や賠償を求めると定めた。事業者が補償できない場合は政府が代執行する。影響の対象には人の健康も考慮する。
 被害に備えて、あらかじめ基金を積んだり、保険に入ることなどを各国が企業に求めることができると規定した。
 補足議定書は、組み換え生物の生態系影響評価などを定めたカルタヘナ議定書(00年採択)で先送りされた被害発生時の対応を規定。名称は交渉開始時のマレーシアの首都も反映した。
 ◇実効性問われる、愛知ターゲット
 地球上には未知のものを含めて3000万種の生物が生息するが、開発や地球温暖化で年間4万種が絶滅しているとされる。02年に採択された現行目標は、「10年までに生物多様性の損失速度を著しく減少させる」と定めた。
 しかし、達成できなかったため、50年までの長期目標と20年までの短期目標を改めて設定したのが「愛知ターゲット」だ。
 長期目標を「自然と共生する世界、生物多様性の賢明な利用ですべての人々に不可欠な恩恵が与えられる世界」を展望すると規定した。短期目標では、「生物多様性の損失を止めるために効果的かつ緊急な行動を実施する」と定め、20項目の個別目標を定めた=表。
 このうち海に占める海洋保護区の割合をめぐる交渉では先進国の日本や欧州連合が15%の目標を掲げたが、途上国は中国の6%など開発の妨げにならない数値を提示。中間値の10%で決着した。現在の保護区は1%にとどまる。
 個別目標を達成する義務は各国にない。行政、企業や市民が取るべき行動も不明で、実効性が問われそうだ。
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 ◇名古屋議定書要旨
 【目的】遺伝資源の利用から生じた利益を公正かつ衡平に配分することで、生物多様性の保全と持続可能な利用に貢献する。
 【用語】「遺伝資源の利用」とは、バイオテクノロジーの適用を含む、遺伝的、生化学的な研究開発を意味する。
 「派生物」とは、遺伝子の発現や生物、遺伝資源の代謝を通して自然に発生する化合物を指し、遺伝機能を持たないものも含む。
 【範囲】生物多様性条約の範囲の遺伝資源と遺伝資源に関連する伝統的知識、それらの利用により生じる利益に適用する。
 【公正かつ衡平な利益配分】遺伝資源と関連する伝統的知識の利用により生じる利益は、相互合意条件に基づき公正かつ衡平に配分される。各国は立法上、政策上必要な措置をとる。
 【利用】利用の事前同意を求める各国は、透明性確保のため、立法上、政策上必要な措置をとる。
 【特別な考慮】非商業目的の研究利用に簡易な措置を含め、研究を振興、促進する。人や動植物の健康に脅威や損害を与えたり、差し迫った緊急事態に適切に配慮する。遺伝資源が迅速に利用でき、利益配分の必要性を考慮する。
 【地球多国間メカニズム】国境をまたぐ遺伝資源で事前同意を得ることができない場合に備えて、公正かつ衡平な利益配分を実現するための「地球多国間メカニズム」の必要性と方法を検討する。
 【順守】国内で利用される遺伝資源が、他国の国内法に合う形で事前同意され、相互に合意した条件で契約されるよう適切かつ効果的で均衡のとれた措置を実施する。
 【遺伝資源の利用にかかわる監視】各国は遺伝資源の利用に関する監視のため一つ以上のチェックポイントを指定する。チェックポイントは利用者に情報提供を求め、研究、開発、商品化などの各段階で情報収集できる。
 【発効】50カ国が批准して90日後に発効する。
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 ◇補足議定書骨子
▽遺伝子組み換え生物が生態系や人の健康に被害をもたらした場合、輸入国は原因事業者を特定し、原状回復を求めることができる。
▽事業者は組み換え生物の保有者、開発者、生産者、輸出入者、輸送者などを含む。
▽遺伝子組み換え生物から作られた加工品は適用の対象外。
▽原因事業者が補償しない場合、政府が代執行する。
▽政府は、被害に備えて、基金創設などを事業者に求めることができる。
▽40カ国が批准し90日後に発効する。
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 ◆愛知ターゲットの項目◆
 【全体目標】
20年までに生物多様性の損失を止めるために効果的かつ緊急な行動をとる
 【個別目標】
 <1>生物多様性の価値を人々が認識する
 <2>生物多様性の価値を政府や自治体の開発・貧困解消計画に組み込む
 <3>生物多様性に有害な補助金などを廃止する
 <4>すべての関係者が行動し、持続可能な生産と消費のための計画を実施する
 <5>森林を含む生息地の損失速度を少なくとも半減する
 <6>水産資源を持続可能な手法で管理し、乱獲しない
 <7>農業や林業地域を、持続可能な方法で管理する
 <8>過剰栄養などによる汚染が有害でない水準まで抑える
 <9>侵略的外来種を特定し、侵入を防止し、根絶する
<10>サンゴ礁への気候変動や海洋酸性化の影響を最小化する
<11>少なくとも陸域の17%と海域の10%を保全する
<12>絶滅危惧(きぐ)種の絶滅を防ぎ、保全状況を改善する
<13>農作物や家畜の遺伝子の多様性を維持する
<14>生態系を保全し、人の健康や生活に貢献する
<15>劣化した生態系の15%以上を回復し、気候変動対策に貢献する
<16>名古屋議定書が国内法制度に従って施行・運用される
<17>各国が効果的で参加型の国家戦略を策定する
<18>先住民と地域社会の伝統知識を尊重し、保護する
<19>生物多様性の価値や機能に関する知識や科学技術を改善する
<20>生態系保全の新たな目標を実施するための資金を大幅に増やす

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白老アイヌ民族博物館「秋のコタンノミ」自然に感謝

2010-11-08 | アイヌ民族関連
【2010年11月7日(日)朝刊】
 白老・アイヌ民族博物館恒例の「秋のコタンノミ」(集落の祭り)が6日、ポロトコタン内のポロチセ(伝統的家屋)で行われ、職員ら約30人が自然の恵みや人々の健康に祈りをささげた。
 コタンノミは、イオマンテ(クマの霊送りの儀式)やチセノミ(新築祝い)と並ぶ大きな儀式といわれている。ポロチセ東側の窓近くに大地をつかさどる神など14神を納め、山丸郁夫伝承課長が祭主を務め、儀式が進行した。
 ハルエオンカミ(食物による拝礼)、シラリエオンカミ(酒粕(かす)による拝礼)、トゥキウコライェ(酒杯のやりとり)、神々への祈り、シンヌラッパ(祖先供養)などが厳かに行われた。
(富士雄志)
http://www.muromin.mnw.jp/murominn-web/back/2010/11/07/20101107m_08.html

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民族の声を伝えたい 映画『TOKYOアイヌ』完成

2010-11-08 | アイヌ民族関連
(東京新聞 2010年11月7日)
 「アイヌの声を伝えたい」。そんな女性たちの情熱をきっかけに、三年がかりで制作されたドキュメンタリー映画「TOKYOアイヌ」が完成した。アイヌ民族を「先住民族」と認める決議が国会で可決されたのが二年前。首都圏で暮らすアイヌの人々を追った映画は、時代のうねりの真ん中で、小さな声を伝えている。 (中山洋子)
【こちらは記事の前文です】

http://www.tokyo-np.co.jp/article/tokuho/list/CK2010110702000060.html

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