この6月28日に81歳の生涯を終えられた、小児精神科医の佐々木正美先生。自身の生涯を再考し、また、その内容とマッチする相田みつを先生の詩を付した本書は、佐々木先生の日本人への遺言書のような本です。
ドイツの精神分析家エリクソンの「死の間際に人生を振り返り、自分の生命、あるいは人生に感謝できること」の言葉通り、佐々木先生の魂の根幹は子供時代からの父母から注がれた愛情にあります。どんなに貧しくても愚痴言わず、黙々と働き続けた父、食べ盛りの息子たちにはおかわりを与え、自身のひもじい思いは微塵も見せなかった母。医の道に進もうにも学費がないために、東京で働きながらの身の息子を最大限のバックアップをしてくれた父に感謝以外はないでしょう。
だからこそ、子どもたちへは常に慈しみの目で診られたし、自分の周りの人たちとの人間関係においても円い感情で接してこられました。奥さまに対しては、「妻の喜びが私の喜び。お互いの想いを共有し、感謝し合って生きている」間柄であり、「まるごとの自分を受け入れてくれる」ことが「人を信じる」基本と述べ、「人間の幸福度の高さや質というものは、人間関係に比例する」と断言されています。
日本人は物質的には豊かになりましたが、この人間関係には極端に貧しくなりつつあります。災害時には援け合いの手は差し伸べるも、平常時は素知らぬ顔に戻る。「他者の喜びを自分の喜びとし、他者の悲しみを分かち合う」という言葉に、もう一度、自分の生き方を見直したいと思います。
『自分の番を生きるということ 人生のおさらい』(佐々木正美著、相田みつを書、小学館、本体価格1,600円)
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