語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】事故収束に必要なプロジェクト管理 ~一元的で透明な組織~

2013年10月10日 | 震災・原発事故
 (1)汚染水漏れ問題は、事故から1ヵ月後(2011年4月)から指摘されていた。今年になってからも観測井戸を増やし、トレンチから放射性物質が海に漏れていることを東電の担当者は把握していた。にも拘わらず、ようやく7月19日に公表した。
 他方、政府は、今年3月7日、「福島第一原発廃炉対策推進会議」を発足させた。しかし、その後も、地下水槽の漏れ、地上タンクの漏れ、地下汚染水の海への流出、仮設電源のネズミによる停止など、ままならない事態が発生した。業を煮やして、第5回会合(6月27日)では「交際廃炉研究開発機構(600人体制)の設立が決定された。
 同機構の所管は経済産業省から原子力規制委員会に移った。移る前に資源エネルギー庁がまとめた「地下水の流入抑制のための対策(概要)」によれば、
  (a)平成25年度末までにフィージビリティ・スタディを実施する。
  (b)運用開始は平成27年度上期を目処とする。
 あまりにも切迫感に欠け、当事者意識ゼロだ。

 (2)組織体制が見えてこない。
 「廃炉対策推進会議」に提示されている「中長期ロードマップ」など、書類の作成者はほとんどは匿名である。
 除染、使用済み核燃料の取り出し、溶融デブリの取り出し、核燃料の長期処分、サイトの最終整備・・・・目白押しの難題に、汚染水対策さえままならない東電/政府の体制で、処理できるのか?

 (3)業務が恒常化している場合には、個人の力よりも組織の力のほうが有効だ。しかし、原発事故という特大のイレギュラーな業務に直面すると、恒常的な組織では手も足もでなくなる。
 経済界には、イレギュラーな、毎回異なるパターンの仕事をその業務限りのタスクフォースチームを組んで請け負う業種がある。いわゆるエンジニアリング産業がそれだ。チームに参加する技術者の意識は業務自体に集中し、個人としてのプロフェッショナルな技能を志向する傾向が強くなる。
 現状の行き詰まりを打開するには、組織モデルとしてエンジニアリング産業方式でやらなければならない。タスクフォースチームを組み、その中心にすべての権限を掌握しているプロジェクトマネージャーがいる方式だ。これにより初めて、一人の人格のもとに統合された働きをするようになる。プロジェクトマネージャーの下には部門ごとの責任者が配置され、この目的に特化した機能的な組織を構成する。かくして、働いている人も、仕事を依頼している人も安心感を得ることができる。

 (4)タスクフォースチームを事故収束のために構成するなら、どういう体制にすべきか。
 対象が数兆円の一大プロジェクト、中には開発が放射線被曝管理を含む多数のプログラムが含まれる。よって、
  (a)複数のエンジニアリング会社からプロジェクトエンジニアを派遣してもらい、
  (b)100人規模のタスクフォースマネジメント組織を構成し、
  (c)予算管理、工程管理を含め、すべての権限を一元的にこの組織に集中する(恒常的支援組織は既存のとおり)。

 (5)時間と競争でトラブルに対処するときは、中核になるプロジェクト管理組織が、トラブル発生現場で、問題の分析、技術内容の確認、機器・資材の手配、下請け会社との作業契約を一元的にこなす組織運営が必要だ。
 意思決定権者が東京にいて、テレビ会議で指示するなど論外だ。
 もう一つ、組織は大きければ良いというものではない。大きすぎる組織は意思疎通に時間とエネルギーを無駄遣いする。機能的でスリムな中核組織を作る必要がある。

 (6)今後多額の費用が必要で、これは私たち市民の肩にかかってくる。してみれば、市民に対して仕事のやり方、組織、経済負担について、適切な報告が行われ、市民による監査が行われる体制の構築が必要だ。
 現状は、「やりました、失敗しました、またやり直しましょう」と頭を下げられるだけだ。
 この組織は、市民に対して次のことを行わねばならない。
  (a)総費用の概算を市民に明示する。・・・・誤差が生じたら、事実判明とともに改訂していく。現状では、費用算出努力がなされているのか否かさえ市民には分からない。
  (b)多額の費用を消費する業務については、作業の項目ごとに一般競争入札を行う。・・・・費用を最小限に抑制する努力をするべく、契約条件書や技術仕様書を明示し、それぞれの仕事の費用と品質について透明性を持たせねばならない。現状は、馴れ合った業者に人集めをさせ、その日その日の成り行きで泥縄の作業指示をしている。
 仕事を行うためのプロジェクト管理体制に欠陥があるから、目下の福島の現場が迷走しているのだ。

□筒井哲郎(プラント技術者)「原発事故の収束作業は誰が担っているか? ~求められるプロジェクト管理の視点~」(「世界」2013年10月号)
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 【参考】
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【原発】太平洋に拡散する放射性物質 ~シミュレーション~
【原発】放射能の海で「おもてなし」 ~2020年東京五輪~
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