語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】汚染水を浄化できるか ~福島第一原発はどうなっているのか~

2013年09月25日 | 震災・原発事故
 「世界」10月号は、「イチエフ 未収束の危機 ~汚染水・高線量との苦闘~」を特集する【注】。以下、その巻頭論文の抜粋、要旨。

 (1)ウランが核分裂すると放射性物質(核分裂生成物)ができる。核分裂生成物の放射能の強さは、もともとのウランが持っていた放射能の強さの1億倍にも達する。発熱量も非常に多くなる。
 フクイチは、事故後から汚染水がどんどん環境中に漏れていた。多くの構造物は地下にあって確認できないが、強烈な大地震を受けて、いたるところでコンクリートにひび割れが生じているはずだ。つまり、いたるところから汚染水が流出し、現在まで途切れることなく続いてきた。
 核分裂生成物は、200種類に及ぶ放射性物質の集合体だ。うち、現時点で重視さるべきは、3つの放射性物質だ。
  (a)セシウム137・・・・揮発性が高く、事故直後から大量に大気中に放出され、東北地方から関東地方にかけて土地を猛烈に汚染した。
  (b)ストロンチウム90・・・・セシウム137とほぼ同量生成されたが、揮発性は高くなく、大気中に出てきた量はセシウム137の1,000分の1程度。逆にいえば、炉心にそのまま残存していたが、水溶性であるため、いま汚染水となって流出している。
  (c)トリチウム(三重水素)・・・・水そのものの形で汚染水に含まれている。

 (2)これまでやってきたことは、ゼオライトなどを用いて汚染水の中からセシウム137を除去すること。
 しかし、ゼオライトではストロンチウム90を除去できない。
 トリチウムは水そのものだから、何をやっても除去できない。
 いま、東京電力は汚染水をタンクに入れてしのいでいるが、すでに40万トンに達している。いずれ、破綻せざるをえない。
 ストロンチウム90の法令上の基準値は、30Bq/リットルだ。タンクから漏れ出た汚染水の8,000万Bqという濃度がいかに猛烈なものであるかが知られよう。

 (3)ALPSが稼働しないのは、欠陥があるからだ。
 しっかりした装置を設置できるような作業現場ではない。ネズミが入り込んでショートさせ、全所停電を引き起こした電源盤変圧器にしても、屋外のトラックの荷台に置かれてあった。300μSv/時という猛烈な被曝現場だ。京大原子炉実験所では、20μSv/時超の所は高線量区域として立ち入りが制限される。300μSv/時の場所に電源盤を設置する作業は容易にできることではない。
 ALPSにしても、状況は同じだ。
 仮にALPSが稼働しても、汚染水問題は解決困難だ。今の汚染水は猛烈な高濃度で汚染されている。環境に流すことが許される濃度の何百万倍という汚染の強さだ。
 通常の手段で、千倍、きちんとやれば万倍、もしかすると十万倍の濃度も処理できるかもしれない。しかし、百万倍は難しい。ましてや、装置をきちんと設置し、運用していくことすら難しい現場で、許容濃度から百万倍超の汚染水を許容濃度以下にすることは、まず実現不可能だ。
 しかも、ALPSではトリチウムを除去できない。

 【注】(1)小出裕章(京都大学原子炉実験所助教)/聞き手:熊谷伸一郎(本誌編集部)「インタビュー 福島第一原発はどうなっているのか」
    (2)藤田祐幸(元慶應義塾大学物理学助教授)「福島後をどう生きるか ~失われた沃野と私たちの責任~」
    (3)片山夏子(東京新聞社会部原発班記者)「ルポタージュ 福島第一原発作業員 ~収束しない現場の現実~」
    (4)筒井哲郎(プラント技術者)「原発事故の収束作業は誰が担っているか? ~求められるプロジェクト管理の視点~」
    (5)田辺文也(社会技術システム安全研究所主宰)「福島第一原発は地震に耐えたのか? ~検証なき再稼働への疑問~」
    (6)船橋晴俊(法政大学社会学部教授)「原子力政策は何を基準とすべきか」
    (7)細野祐二(公認会計士)「原発による不良資産を隠蔽する虚妄の廃炉会計改訂骨子案」
    (8)川口雅浩(毎日新聞内部監査室委員)「廃炉に潜む原発新増設の論理 ~自民党政権下で原子力政策の「見直し」はどう進むか~」
    (9)葉上太郎(地方自治ジャーナリスト)「フタバ 原発に翻弄された町 第2回 ~ばらばらになった町民たち~」
    (10)諸富太郎(京都大学大学院経済学研究科教授)「再生可能エネルギーで地域を再生する ~「分散型電力システム」に移行するドイツから何を学べるか~」
    (11)高橋真樹(ノンフィクションライター)「自然エネルギーで進める、まちの復興」

□小出裕章(京都大学原子炉実験所助教)/聞き手:熊谷伸一郎(本誌編集部)「インタビュー 福島第一原発はどうなっているのか」(「世界」2013年10月号)

 【参考】
【原発】今、そこにある汚染水危機(3) ~次の震度6~
【原発】今、そこにある汚染水危機(2) ~汚染水は海で薄められるか~
【原発】今、そこにある汚染水危機(1) ~封じ込めは可能か~
【原発】安倍政権、「収束宣言」を撤回 ~汚染水~
【原発】廃炉費用を電気料金に上乗せ ~制度を変えた経産官僚は出世~
【原発】ウソだらけの汚染水「緊急」対策 ~安部首相の抽象論~
【原発】国の汚染水対策3つ ~「汚染水は海に流せ」?~
【原発】「東京五輪」を脅かすフクシマ ~ダダ漏れ汚染水地獄~
【原発】なぜ汚染水は漏れたか ~誤算・ケチケチ体質~
【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~
【原発】責任不明確な国の汚染水処理体制 ~再稼働よりも汚染水対策を~
【原発】「汚染水」の本当の深刻さ ~東電のコストカットが一因~
【政治】安倍“異次元”政権の思想と行動 ~「馬脚をあらわす」兆候~
【原発】安部政権の演出と狙い ~高濃度汚染水の海洋流出~
【原発】福島第一原発で汚染水が海洋流出 ~漁民の被害は止まない~
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【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出
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