語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【政治】安倍“異次元”政権の思想と行動 ~「馬脚をあらわす」兆候~

2013年08月22日 | 社会
 いつもは2本立ての「メディア批評」、今号は参院選をしのいだ安部“異次元”政権に的を絞っている。

(1)白けた選挙戦
 選挙翌日の7月22日、NHKの討論スペシャル「日本政治はどう動く」(各党代表の生討論)の放送中、ずっと画面下に表示された視聴者からのFAX、メール、ツイッターは、人々の不安と苛立ちを伝えていた。
 自公の圧勝を受けて、野党に厳しい意見が多いと思いきや、大勝した自民党の政策にむしろ批判的なものが多かった。
 <例>雇用不安を訴える学生。アベノミクスは株を持っている人に儲けさせるだけ。地方には恩恵が届いていない。自民党は野党時代にはTPPに反対すると言っていたが、いまは真逆のことを言っている。聖域が認められないときは交渉の席を立つ勇気があるのか。議員定数を削減してくれ。ブラック企業を規制してくれ。消費税は公共事業ではなく、教育や社会保障に使ってくれ。過去を謝罪し、近隣国と和解すべき。
 この先がユートピア(理想郷)なのか、ディストピア(暗黒郷)なのか。私たちが選挙前にどこまでのことを考え、語ってきたのか。将来のために、記憶を積極的に蓄積することに努めたい。

(2)「もどき」の攻防
 参院選閉幕によって「電気事業法改正案」が廃案になった。このことについて、NEWS23(2013年6月26日)のゲストが、責任は与党側にある、という趣旨の発言をした。これに安部首相が激怒。自民党はTBSに抗議した。
 ところが、TBSからの回答がなかったので、選挙公示日の7月4日付けで、自民党はTBSに取材拒否(出入り禁止)を通告した。、
 TBSは、あっさり「謝罪もどき」の文書を提出した。
 自民党は、選挙期間中にずっとテレビと縁を切るわけにはいかないと判断したのか、「赦免もどき」の対応で手を打った。

(3)“有害”な予想合戦
 選挙期間中、メディアはこぞって、自説を展開する代わりに競馬の予想のような世論調査でお茶を濁す。メディアによる世論調査が世論操作になっている、という自覚はないのか。
 昨年の暮、衆議院総選挙に自公が圧勝したあとのNHKスペシャル「どうするニッポン 新政権に問う」(2012年12月22日)で、石破茂・自民党幹事長と山口那津男・公明党代表が異口同音に、はじめは自信がなかったが、世論調査が発表されるたびに数字が好転し、それに後押しされて勝利をつかんだ、と分析していた。当事者でさえ面映ゆいと感じるような世論調査を、マスコミ各社は繰り返した。
 中でも朝日新聞は、ご丁寧に各社の世論調査結果を一覧表にして掲載した。ほとんどが自民党の圧勝を示唆していた。
 こうした一覧表を出すことで、有権者に熟慮を促すことになるのか。それとも変わりようがない、というアパシーをもたらすことになるのか。どこまで考えての掲載か。

(4)風立ちぬ、いざ・・・・
 アニメ「風立ちぬ」公開日は7月20日。その前に、スタジオジブリ「熱風」7月号が刊行された。タイトルに「憲法改正」をかかげ、自民党の改憲の動きに正面から待ったをかけた。7月20日は参院選投票日の前日。絶妙のタイミングだった。
 法的には96条の条項を変えて、その後にどうこうする、というのでも成り立つのかもしれないけれど、それは詐欺だ。やっていはいけないことだ。それなのに、ちょっと本音を漏らして大騒ぎを起こすと、「いや、そういう意味じゃないんだ」みたいなことを言っている。政府のトップや政党のトップたちの歴史感覚のなさ、定見のなさは呆れるばかりだ。考えの足りない人間が、憲法なんかいじらないほうがいい。【宮崎駿・映画監督】
 安倍晋三は、自説への批判に対して明確に答えた場面がない。討論型熟議政治がもっとも苦手な政治家なのかもしれない。
 それで、国際的な舞台に出してみたら、総スカンを食って、慌てて「村山談話を基本的には尊重する」みたいなことを言う。「基本的に」って何だ? おまえはそれを全否定していたんじゃないのか。きっとアベノミクスも早晩ダメになる。【宮崎監督】
 安倍が「唯我独尊」と「右顧左眄」という矛盾する顔を持っていることを宮崎監督は痛烈に批判した。
 東京新聞は、選挙2日前の7月19日、一面トップと六面でジブリの「熱風」を紹介した。この東京新聞の柔軟性は、真実のためにジャーナリズムがしばしば組織を超えうることを思い起こさせる。

(5)無力だが無駄ではない
 結果からすると、こうした事前の抵抗はほとんど「無力」に近かった。とはいえ、それは「無駄」ではなかった。最後の抵抗を押し切った権力は、いったんその正当性を失えば、事前の「無力の抵抗」によってあっというまに凋落していく(歴史的事実)。直面する政治情勢の中で、どのような「抵抗の記憶」が蓄積されたかにかかっている。

(6)安倍語録を記録保存する
 安部政権は、構造的な矛盾を抱えたまま、「景気回復」「成長戦略」というニンジンを追い続ける競走馬のようなものだ。その“異次元”な走りの先にに何が待っているのか。メディアは、ニンジンと脚質(走行能力)の関係を調査報道する必要がある。この馬には、すでに「馬脚をあらわす」兆候が備わっている。
 <例1>安部政権は、96条先行改憲を焦ったため、未熟な「自民党憲法改正案」に人々の目を向けさせてしまった。宮崎監督は、「詐欺」と切り捨てた。翻訳を聞いたフランスの雑誌記者は、これはまるでヴィシー政府の憲法のようだ、と呆れかえった。ヴィシー政権は、第二次世界大戦中、ドイツ占領下の中南部フランス・ヴィシーに「樹立」され、表向き「祖国」「家族」を掲げながら、ユダヤ人をナチの収容所に送った腐敗政権だ。安部政権も、「郷土」「愛国」「美しい国」などという空疎な言葉を弄んでいる。
 <例2>7月7日、NHK参院選特集の党首討論で、安部首相は、アベノミクスが米FRBや欧州中央銀行などに評価されただけでなく、ノーベル経済学賞のスティグリッツ・コロンビア大学教授などにも褒められた、と自慢してみせた。それに対し、他の党首たちは何も反論しなかった。
 スティグリッツは、かねがねワシントン・コンセンサス(「小さな政府」「規制緩和」「市場原理」「民営化」)が世界に格差を広げている、と批判する。今後、安部政権が財政再建のために大幅な消費税を導入すると言えば、厳しく批判するだろう。米「デモクラシー・ナウ!」に出演したスティグリッツは、米国を例題として「財政赤字の解消には2つの道しかない。税収を増やすか、歳出を削るか、だ。1%に富が集中していれば、税収を増やせる場所はここしかない。さいわい手続きは簡単だ。収入の25%が1%に集まるので、彼らの税率をちょっと上げれば巨額の税収が入る」と語った。
 このインタビューは、福島第一原発事故の直後、2011年4月だったので、こんなことも語っていた。
 「原子力業界は『リスクは全くない、心配ない』と言ったほうが有利だ。金融業界も同じだ。あまりに巨額な危険があると、リスクを過小評価しがちだ。とりわけ社会全体がリスクを背負う時はそうだ。原子力発電がまさにそれだ。営利事業として決して成り立たない。政府の保証を前提としてのみ存在してきた。つまり税金で支えられている。日本でも同じことをしてきた。その結果がこれだ。社会全体が膨大な費用を負担することになる。僅かばかりのエネルギーコストの節約で、日本経済が被った巨大な損失を埋め合わせることはできない。米国でも起こり得る」
 かくいうスティグリッツに安倍は褒められたと自慢し、それをいさめるメディアはない。

(7)原発再稼働に向けて
 安部政権の矛盾は構造的なものだ。あちこちに「馬脚」が見え隠れしている。
 福島第一原発の地下水汚染水の海への漏出について、東電は選挙前の記者会見で報道各社から何度も質問されていたが、明確に答えていなかった。ところが、参院選の翌日、高濃度のトリチウムが流出していることが発表された。
  記者:選挙が終わった翌日出てきたのはどういうことでしょうか?
  東電社員:(きっぱりと)まったく関係がございません。
 その2日後、原子力規制委員会も、先月から報告を受けていながら、自ら進んで調査しなかったのは何故か、と問われ、田中俊一・委員長はいつになく歯切れが悪かった。 
 参院選のツイッター分析によると、原発がダントツに多く、単語レベルではな「脱原発」「再稼働反対」「原発ゼロが上位に並んだ。なんというギャップだろうか。

□神保太郎「メディア批評第69回」(「世界」2013年9月号)の「どう伝える 安倍“異次元”政権の思想と行動」
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