語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【経済】米国金融緩和終了で日本国債のバブル崩壊

2013年10月09日 | ●野口悠紀雄
 (1)米国FRB議長の任期は来年1月に満了する。その後任人事が難航している。
 この人事は、米国の金融緩和政策の行方に関係する。ゆえに、世界中の注目を集めている。

 (2)米国の現在の金融緩和政策は、雇用情勢改善を目的として行われている。しかし、米国企業の利益は、すでにリーマン・ショック以前の水準を回復し、順調に増加を続けている。よって、問題は企業の利益をいかに雇用や賃金に振り分けるかだ(分配上の問題)。これは、税制や社会保障政策の役割であって、金融政策が有効であるか否か、疑問だ。
 その半面、金融緩和で投機が容易になり、米国から流出した投機資金が世界で次々にバブルを引き起こしている。
 ユーロ危機は、米国サブプライム証券化商品から逃避した投機資金が、南欧国債や住宅投資に向かったため引き起こされた。
 中国は、リーマン・ショックによる経済落ち込みを回復するために巨額の景気刺激策を行い、それが不動産バブルを引き起こした。よって、中国の不動産バブルは、米国の不動産バブルを引き継いだものだ。
 マクロ的対外バランスを見れば、米国は巨額の経常収支赤字が今に至るまで続いている。これは、資本収支でファイナンスされている。米国経済の長期的な見通しが良好である限り、資本流入は続く。
 ただし、それをファイナンスできる国が存在しなければならない。リーマン・ショック前は、日本、中国、産油国が主たる資本供給国だった。しかし、日本の経常収支黒字は、リーマン・ショックと東日本大震災を経て減少している。中国の貿易黒字も減少している。よって、米国に対する資本流入が、これまでのように順調に続く保証はない。

 (3)要するに、誰がFRB議長になろうと、金融緩和政策をこれ以上継続してよいかどうか、検討課題にせざるを得ない。

 (4)仮に米国の金融緩和i政策が終了した場合、日本にいかなる影響が及ぶか。
 米国の景気悪化は日本の株価に悪影響を及ぼす・・・・とは限らない。
 金融緩和i政策が終了 → 米国の金利が上昇 → 仮に日本の金利が上がらずに日米金利差が拡大すれば、日本から米国の資金移動が起こり、円安が進む → 株高
 ・・・・となると言えるほど、事態は簡単ではない。日本の金利上昇が起こらない保証はないからだ。
 金利上昇のメカニズムは
  (a)単に米国の金利に引かれて上昇する。<例>今春以降の日本の長期金利の上昇。
  (b)全世界的規模で投機が縮小する。金融緩和i政策が終了すると、投機のための資金調達が困難となり、また資金コストが上昇するからだ。
   ①その結果、ユーロ圏から日本への資金流入(主として国債に投資)が減少、または流出へ転じることが生じ得る。そうなると、国債価格が低下し、金利高騰を招く。
   ②米国から日本の株式市場に流入していた資金も逆流する。
   ③以上は、為替レートを円安方向に動かし、同時に日本の景気に悪影響を及ぼす。
   ④円安が進んでも、輸出量は増大しない(大きな問題)。事実、この1年間に25%も円安が進んだにも拘わらず、輸出量は減少している。殊に対中輸出の減少は異常なほどだ。対欧輸出が回復する可能性はあっても、対中輸出が増えることは期待できない。
   ⑤資金流出は、円安をもたらし、国内物価を上昇させる。よって、経済活動が停滞する半面、物価だけが上昇する(スタグフレーション)。

 (5)(4)-(b)-⑤に対処する方法は、あるか?
 現在の日本経済は、公共事業の著しい増大によって支えられている。これをさらに拡大すれば、金利高騰を招く。(4)-(b)-①があるので、これまでのように金利に影響を与えずに有効需要のみを増大させることは難しい。

 (6)米国の金融緩和 → 米国の住宅価格バブル → 崩壊 → バブルが欧州と中国に移行
 2012年11月ごろ以降、日本で進行した円安と日本株価の高騰も、欧米のヘッジファンドなどによる投機の結果として生じた(同年秋、米国から投資が株式市場に流入)。
 米国の金融緩和の終了 → 投資資金の調達困難 → 世界的な投機の時代の終わり

 (7)最後に残ったバブルは、日本国債のバブルだ。
 財政状況が最悪であるにも拘わらず日本で歴史的な低金利が続いたのは、世界の投機資金が安全を求めて日本国債に避難していたからだ。特に2011年、欧州から日本に対して巨額の証券投資の資金流入があった。これが、日本財政を破綻から守った。
 日本国債(10年債)の利回りは、
  (a)リーマン・ショック前 1.5%程度
  (b)2011年ごろから顕著に低下
  (c)いま 0.75%
 仮に(a)の状態に戻るとすると、日本国債の利回りは急騰する。
  → 巨額の国債を保有する金融機関に損失が発生する。かつ、利払い費の急増によって財政が危機的状況に陥る。
  → これまで覆い隠されていた日本財政の潜在的問題が顕在化する。

 (8)(7)にも拘わらず、消費増税対策としての財政支出増、法人減税、公共事業の増額など、政治的圧力による財政拡大要因が目白押しだ。
 国債バブル崩壊の危険をまったく無視して。

□野口悠紀雄「米国金融緩和終了で投機の時代は終わるか? ~「超」整理日記No.678~」(「週刊ダイヤモンド」2013年10月5日号)
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