語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】ウソだらけの汚染水「緊急」対策 ~安部首相の抽象論~

2013年09月11日 | 震災・原発事故
 (1)9月3日、国は、東京電力福島第一原子力発電所の汚染水対策に、470億円の公費投入を決めた。
 が、この決定はウソにまやかしを塗り重ねた対策だ。

 (2)東電へ税金を投入する前に、破綻処理で株主や銀行の責任を問えば、4兆円は国民が得をする【注1】。
 これに対して、甘利明・経済財政担当大臣いわく、誰の責任かを議論する余裕はない、目前の危機に対応することが先だ、うんぬん。
 実は、この「緊急性」強調が政府の狙い目だ。汚染水対策を急ぐべきは当然だが、政府のいわゆる「緊急性」の本当の意味はそこにはない。
 今、何を急ぐのか。

 (3)そこにオリンピック誘致対策があるのは明らかだ。
 福島など二の次、三の次で、原発の再稼働と輸出のほうが大事、というのが安部政権の方針だ。
 ただ、予想外に海外メディアが「騒いだ」ので、オリンピックに響いては大変、と慌てて対策を決めただけだ。
 しかし、急いだ本当の理由は、もっと別のところにある。

 (4)急ぐ理由その1、「既成事実化」狙い。
 7月の参議院選挙前はひたすらこの問題を隠し、選挙後は一転して汚染水危機を演出する。
 「危機だ!」と叫んで、国会閉会中に国会審議の必要がない予備費で支出してしまう。
 10月の国会では、野党が、銀行の責任を問わずに国民にいきなりツケ回しする安部政権の対策を強く批判するだろう。しかし、安倍政権は「もう契約してしまいました」と突っぱねて、終わってしまうだろう。
 逆に言えば、このたび既成事実化してしまえば、秋の補正予算において、さらなる支出を盛り込む道が開ける、ということだ。

 (5)今回の対策には、もう一つウソが盛り込まれている。
 国がこのたび打ち出した対策には全く新味がない。その上、目前の汚染水タンク対策には国費を投入しない。
 国費投入は、東電がやるべきものえはなくて国がやるべき高度な研究開発に使うためだ、という言い訳が予定されているからだ。
 凍土方式の遮水壁とか、もう一段高性能化した浄化装置とか、「研究開発っぽく」聞こえるものに対して予算を投入するという形をとっているので、さすがにタンクの費用までは盛り込めない。
 経済産業省は、東電が負担すべき廃炉費用の一部を、研究開発と称して、密かに国費でやっている。
 今回も同じことだ、と強弁するだろう。
 タンクの費用は、全国の「災害対策」と銘打った秋の補正予算に滑り込ませてくる可能性がある。要チェック。

 (6)急ぐ理由その2、銀行保護。
 東電は、10月に地域金融機関を中心に800億円の借り換え、12月には大手行などから2,000億円の借り換えプラス3,000億円の新規融資が予定されている。実質的に破綻している東電に融資を続けると、銀行経営陣にとって、特別背任罪と株主代表訴訟を覚悟しなければならない。
 そこで、安部政権としては、銀行経営者に対して、「絶対に銀行を守る」という意思表示が必要だったのだ。
 この意思表示で、東電の株価は持ち直し、銀行も安んじて融資ができるのだ。

 (7)国は、東電の支配株主だから、もともと前面に出ていかねばならない。しかるに、逃げ腰で通してきた。
 今回、政府が「前面に出る」と言ったが、ちっとも中身がない【注2】。銀行のために国民を犠牲にするためのトリックにすぎなかった。
 国が前面に出るなら、東電の懐中は茂木敏充・経産相、社長は政務官で福島常駐、ということを国会を開いて堂々と決めたらどうか。
 そして、やるべきことをどんどん東電にやらせる。
 東電には、年に5兆円超の料金収入がある。キャッシュは尽きない。
 銀行が借り換えに応じなければ、破綻処理すればよい。銀行の債権を大幅にカットすれば、国民負担が減り、柏崎刈羽原発の再稼働がなくても数年間は値上げしなくてもやっていける。

 【注1】「【原発】安部政権の演出と狙い ~高濃度汚染水の海洋流出~
 【注2】バンクーバー(カナダ)の市民は、汚染水漏れのことを、<皆驚く程良く知っている。新聞、テレビ、ラジオに加え、インターネットでもニュースは流れてくる。特に放射能に汚染された水が、太平洋に流れ出しているというニュースは、カナダ人にとって他人事ではない。「あのツナミで流れ出したデブリ(瓦礫や残骸のこと)が、沢山西海岸に流れついてるだろう。汚染水はどのくらいでこちらに着くのか。その成分は変わらないのか」「それは日本政府の責任で研究、発表すべきだろう」/(中略)安倍首相は今ごろになって「汚染水対策は、東電任せにせず、国として緊張感をもって、しっかり対応していく」と言っている。いつもの官僚的な、抽象的な物言いである。危機感とか緊張感とかより、外国では具体的な対策を求めている。つまり汚染水は完全に防げないのだから、どのくらいの水が流れ出したらどうなるか、アラスカや米大陸、ハワイ、東南アジアにどのくらいの影響があるのか。東日本で獲れる海産物はどうなるのか。日本海はどうなのか(韓国はすでに懸念をしている)。安倍さん、21世紀ですよ! 抽象的な表現より、データの発表、対策を外国は待っている。そして日本国民はもっと待っている。その上で、東電の破綻や国費投入を図るのが正解だろう>【大橋巨泉「フクシマ原発の汚染水がいつカナダに流れつくか? 安倍内閣は報告せよ! ~今週の遺言 第230回~」(「週刊現代」 2013年9月21・28日号)】

□古賀茂明「嘘だらけの汚染水「緊急」対策 ~官々愕々第78回~」(「週刊現代」2013年9月21・28日号)

 【参考】
【原発】国の汚染水対策3つ ~「汚染水は海に流せ」?~
【原発】「東京五輪」を脅かすフクシマ ~ダダ漏れ汚染水地獄~
【原発】なぜ汚染水は漏れたか ~誤算・ケチケチ体質~
【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~
【原発】責任不明確な国の汚染水処理体制 ~再稼働よりも汚染水対策を~
【原発】「汚染水」の本当の深刻さ ~東電のコストカットが一因~
【政治】安倍“異次元”政権の思想と行動 ~「馬脚をあらわす」兆候~
【原発】安部政権の演出と狙い ~高濃度汚染水の海洋流出~
【原発】福島第一原発で汚染水が海洋流出 ~漁民の被害は止まない~
【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介累から放射性セシウム~
【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出
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