語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】安倍政権、「収束宣言」を撤回 ~汚染水~

2013年09月13日 | 震災・原発事故
 (1)2020年五輪招致をめぐる攻防で、東京に関して最終的に焦点となったのはフクイチの「汚染水」問題だった。
 安倍晋三・首相も、G20首脳会議を「中座」してまで総会に駆けつけ、汚染水漏えい問題について、「まったく問題はない。汚染水の影響は、港湾内で完全にブロックされている」と強調した【注1】。 

 (2)実情は、安倍首相のいうような生易しいものではない。
 そもそも、原発事故は収束されていない。自民党の資源・エネルギー戦略調査会と経済産業部会の合同会議(8月4日)におけるやりとりが、現状をよく表す。
  Q【河野太郎・衆議院議員(自民党)】:原発事故の「収束宣言」を前の民主党政権が出していたが、宣言は撤回されたのか。
  A【経産省担当者】:政権交代後、安倍晋三・総理も茂木敏充・経産大臣も、収束宣言について問われて「収束したと言えるような状況ではない」と答弁している。取り消す行為は改めて行っていないが、現政権の認識としては収束した状況ではないとしている、と考えている。
 ・・・・つまり、野田政権が2011年12月に表明した「収束宣言」は、自民党政権になってすでに撤回されていたのだ。事故から2年半が経とうとしているのに、事態の深刻さは何ひとつ変わっていない。

 (3)汚染水対策は、事故発生後から問題視されていた。今回、ようやく安部政権が320億円の国費投入を決めた「遮水壁」は、1~4号機周辺の土壌を凍らせて囲む凍土壁方式だ。実はこれは、民主党政権時に、馬淵澄夫・首相補佐官/衆議院議員が不適切と却下し、粘土で遮水壁を造る案を震災2ヵ月後に決めていた。ところが、東電が巨額の費用に躊躇し、実現しなかった。さらに、今年3月の予算委員会で、海江田万里・民主党代表が安部首相に対して、抜本的対策の必要性を指摘したが、安部政権はこの半年間、放置してきた。
 それが、汚染水問題で海外メディアの批判的な報道が続き、国際的問題の様相を見せると、政府は慌てて対策に着手。
 総額470億円の国費投入、という9月3日の発表は、露骨に五輪を意識したものだった。
 
 (4)いま起きている汚染水問題は、すべて東電のコストカットによる。
 遮水壁は、東電内でも当初から検討されたが、予算的に厳しいうえ、行き場のなくなった地下水があふれ、さらなる汚染水のくみ上げを迫られるおそれもあって、後ろ向きだった。それに、いずれALPSが稼働すれば、汚染水を海へ放出できる、と踏んでいた。だから、それを前提に、貯留タンクの製造ですら発注を止めていた。ちょうど監査法人から債務超過の可能性を厳しく指摘されていたこともあって、とにかくコスト削減が第一だった。
 ところが、頼みのALPSは、試運転段階のトラブルで停止したまま。さらに、地下水問題、タンク漏れが次々に起こった。
 もはや収拾がつかない状況だ。このままだとタンクは年内にも足りなくなる。一方、タンクの置き場もない。

 (5)いま起きている汚染水の問題は、2種類。
  (a)フクイチに流れ込む地下水が、地中に漏れ出だしている汚染水と混じり、海に流出している問題。300トン/日(資源エネルギー庁試算)。
  (b)敷地内タンクから300トンの汚染水が漏れていた問題(8月19日発覚)。
 今回の政府の対策では、遮水壁に国費を投入するが、タンクについては「フランジ型」【注2】を「溶接型」に変えることを示しただけだ。

 (6)そもそも、タンクに水位計がついていれば、汚染水漏れはすぐわかる。そんな当たり前のことさえできていないのが問題なのだ。
 東電は、これまで10人ほどで千基のタンクを見回っていたが、汚染水漏れが発覚して、60人に増やすことを決めた。
 すると、新たに4ヵ所で高い放射線が検出され、最大1,800mSv/時が測定された。人が4時間浴びると死亡する線量だ。この調子だと、まだ発見されていない漏れが次々に見つかりそうだ。
 これもコストカットで人数を削った挙げ句の惨事だ。

 (7)今後、国費が投じられたとしても、すぐにもろもろの問題が解決するわけではない。
 コストカットの弊害が是正されても、きちんと施工できる人がいなければ何も変わらない。継ぎ目を固定するボルトは、ただ締めればよいものではなく、締める順番や力のかけ方が決まっている。しかし、人手不足で技術のない作業員もたくさん混じっているので、手順が徹底されず、雑な工事になっている。今後、急いで工事を進めたら、ますますトラブルが増えるのは目に見えている。

 【注】記事「首相強弁「汚染水問題ない」 IOC委員質問に回答 実際は外洋漏えいも
(東京新聞デジタル 2013年9月8日)
 【注2】「【原発】国の汚染水対策3つ ~「汚染水は海に流せ」?~

□桐島瞬(ジャーナリスト)/鈴木毅(編集部)「「五輪誘致」と「汚染水」」(「AERA」2013年9月16日号)

 【参考】
【原発】廃炉費用を電気料金に上乗せ ~制度を変えた経産官僚は出世~
【原発】ウソだらけの汚染水「緊急」対策 ~安部首相の抽象論~
【原発】国の汚染水対策3つ ~「汚染水は海に流せ」?~
【原発】「東京五輪」を脅かすフクシマ ~ダダ漏れ汚染水地獄~
【原発】なぜ汚染水は漏れたか ~誤算・ケチケチ体質~
【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~
【原発】責任不明確な国の汚染水処理体制 ~再稼働よりも汚染水対策を~
【原発】「汚染水」の本当の深刻さ ~東電のコストカットが一因~
【政治】安倍“異次元”政権の思想と行動 ~「馬脚をあらわす」兆候~
【原発】安部政権の演出と狙い ~高濃度汚染水の海洋流出~
【原発】福島第一原発で汚染水が海洋流出 ~漁民の被害は止まない~
【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介累から放射性セシウム~
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