(1)福島原発事故は、想定される最悪の事故ではなかった。大きく言えば、2つの幸運が日本を破局から救った。
(2)第一、福島原発が日本列島の東側に位置していた。
日本列島では、西風が卓越風で、事故が発生すうれば放射能雲は東に流れる。膨大な放射能の大部分は太平洋に流れた。日本は海に救われた、とも言える。
もし東側に国境を接して別な国があったとすれば、その国は壊滅的な打撃を受けることになった。
事故発生時は、冬型の気圧配置が緩み始める時期だったから、気流には複雑な乱れがあり、西側にも僅かだが放射能は流れた。その結果、図に示したような汚染地域を生み出すに至った。
もし、この事故が、若狭湾や四国や九州の、日本列島の西側で起きていたら、日本列島のほぼ全域が「帰宅困難地域」になってしまう。
これは、予測や可能性ではない。現実に2011年3月11日に日本で起こったことだ。
(3)第二、原子炉の蓋が飛ばなかった。チェルノブイリ原発事故では、原子炉の蓋が吹き飛んだために、原子炉の放射能の半分近くまでもが環境に噴出し、莫大な被害をもたらすことになった。
福島事故でも、原子論も圧力が設計値を超えていたため、いつでも原子炉本体の蓋が吹き飛ぶ可能性があった。原子炉の蓋が吹き飛べば、チェルノブイリの惨劇が再現されることになる。そうなれば、現場に人が接近することもできなくなり、第二、第三の爆発を防ぐこともできなくなる。そうなれば、北海道と西日本にしか人は住めなくなってしまう。
しかし、幸運にも、福島事故では原子炉建屋は吹き飛んだものの、原子炉本体の蓋が飛ぶには至らなかった。
(4)福島原発が日本列島の東側に位置しており、、辛うじて原子炉の蓋が吹き飛ばずに済んだため、これだけの大事故でありながら、深刻な汚染は北関東から南東北の一部にとどまった。
とはいえ、一部といっても被害は甚大だ。
2013年6月25日、環境省は、汚染状況重点調査区域の地図を公表した。この地図は、市町村ごとの空間線量が0.23μSv/時超の地域を示したもので、政府公認の汚染地図としての意味がある。
この空間線量は、1年間の外部被曝線量に換算すると、およそ2mSvだ。
現在の法体系では、一般の被曝限度量は1mSv/年だから、その限度の2倍の被曝を強いられる地域、ということになる。
(5)大きな汚染地域は、まず宮城県北部と岩手県南部の一帯、次の福島県浜通りと中通りから栃木県、群馬県の北部の山岳地帯にいたる一帯、そして茨城県南部と千葉県北部を含む一帯、と複雑に入りくんでいる。
山林の汚染された土壌は、大雨などが降ると川を流れ下り、流れが緩やかになれば川底に堆積し、あるいはそのまま海に流れ出て、河口部の海底に沈殿することになる。日本の国土の70%以上は山林であり、この山林の土壌に染み込んだ放射能量は膨大なものになる。山林の腐食土壌に沈着した放射能を除去することなど、あり得ないことだ。
土壌バクテリアは、セシウムやストロンチウムなどの放射性物質であっても、環境に存在する多様な微量成分と同様に対比の中に凝縮していく。この土壌微生物たちが凝縮して取り込むため、水が浄化される仕組みだ。
首都圏の汚水処理場の活性汚泥が強い放射能を持つに至ったのは、対比が放射能を凝縮したのと同様、土壌微生物の働きによるものなのだ。堆肥に依存する有機農業は、原発とは共存できない。
(6)懸念さるべきは、栃木県から群馬県にかけての山岳地帯の汚染状況だ。この地域は、関東平野を潤す利根川水系の水源域だ。広大な関東平野の豊かな水田は、この利根川水系の恵みのもとにある。森林の林底の腐食層に凝縮された放射能は、大雨が降るたびに濁流とともに流れだし、田畑を侵すことになるだろう。本来その現象は関東平野の比翼な大地の形成に役立っていたはずなのだが、いったん放射能に汚染されてしまえば、汚染の拡大を意味することになる。
と年側は河口の近くで分流して、江戸川に流れ込む。やがて放射能は東京湾の海底土壌にも地屈せ気されていくことになるだろう。
明治31年の大洪水の際に、渡良瀬川の足尾銅山の鉱毒が江戸川に流れ込み、本所・深川まで流れ込んだことを、忘れてはなるまい。
□藤田祐幸(元慶應義塾大学物理学助教授)「福島後をどう生きるか ~失われた沃野と私たちの責任~」(「世界」2013年10月号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介累から放射性セシウム~」
「【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出」
「【原発】汚染された魚介類が慢性的に流通 ~スーパーマーケット~」
「【原発】放射能と東京オリンピック招致」
「【原発】大手スーパーの真鱈から放射能検出 ~関東・東海地方~」
「【原発】東京湾の汚染」
【震災】原発>東京湾に放射能汚泥が堆積中 ~海の汚染~
【震災】原発>無防備都市--東京を覆う放射能
「【震災】原発>食卓の放射能汚染、2012」
「【震災】原発>海洋汚染の拡大・・・・表層から海底へ、海のホットスポット、陸から海へ」
「【震災】原発>海洋汚染 ~グリーンピースの調査・水産学者の「原子力村」~」
「【震災】原発>海洋汚染の隠蔽」
「【震災】原発>海洋汚染の隠蔽・追記」
「【震災】原発>汚染食品のデータをどう読むか」
「【震災】原発>海洋汚染の拡大・・・・表層から海底へ、海のホットスポット、陸から海へ」
(2)第一、福島原発が日本列島の東側に位置していた。
日本列島では、西風が卓越風で、事故が発生すうれば放射能雲は東に流れる。膨大な放射能の大部分は太平洋に流れた。日本は海に救われた、とも言える。
もし東側に国境を接して別な国があったとすれば、その国は壊滅的な打撃を受けることになった。
事故発生時は、冬型の気圧配置が緩み始める時期だったから、気流には複雑な乱れがあり、西側にも僅かだが放射能は流れた。その結果、図に示したような汚染地域を生み出すに至った。
もし、この事故が、若狭湾や四国や九州の、日本列島の西側で起きていたら、日本列島のほぼ全域が「帰宅困難地域」になってしまう。
これは、予測や可能性ではない。現実に2011年3月11日に日本で起こったことだ。
(3)第二、原子炉の蓋が飛ばなかった。チェルノブイリ原発事故では、原子炉の蓋が吹き飛んだために、原子炉の放射能の半分近くまでもが環境に噴出し、莫大な被害をもたらすことになった。
福島事故でも、原子論も圧力が設計値を超えていたため、いつでも原子炉本体の蓋が吹き飛ぶ可能性があった。原子炉の蓋が吹き飛べば、チェルノブイリの惨劇が再現されることになる。そうなれば、現場に人が接近することもできなくなり、第二、第三の爆発を防ぐこともできなくなる。そうなれば、北海道と西日本にしか人は住めなくなってしまう。
しかし、幸運にも、福島事故では原子炉建屋は吹き飛んだものの、原子炉本体の蓋が飛ぶには至らなかった。
(4)福島原発が日本列島の東側に位置しており、、辛うじて原子炉の蓋が吹き飛ばずに済んだため、これだけの大事故でありながら、深刻な汚染は北関東から南東北の一部にとどまった。
とはいえ、一部といっても被害は甚大だ。
2013年6月25日、環境省は、汚染状況重点調査区域の地図を公表した。この地図は、市町村ごとの空間線量が0.23μSv/時超の地域を示したもので、政府公認の汚染地図としての意味がある。
この空間線量は、1年間の外部被曝線量に換算すると、およそ2mSvだ。
現在の法体系では、一般の被曝限度量は1mSv/年だから、その限度の2倍の被曝を強いられる地域、ということになる。
(5)大きな汚染地域は、まず宮城県北部と岩手県南部の一帯、次の福島県浜通りと中通りから栃木県、群馬県の北部の山岳地帯にいたる一帯、そして茨城県南部と千葉県北部を含む一帯、と複雑に入りくんでいる。
山林の汚染された土壌は、大雨などが降ると川を流れ下り、流れが緩やかになれば川底に堆積し、あるいはそのまま海に流れ出て、河口部の海底に沈殿することになる。日本の国土の70%以上は山林であり、この山林の土壌に染み込んだ放射能量は膨大なものになる。山林の腐食土壌に沈着した放射能を除去することなど、あり得ないことだ。
土壌バクテリアは、セシウムやストロンチウムなどの放射性物質であっても、環境に存在する多様な微量成分と同様に対比の中に凝縮していく。この土壌微生物たちが凝縮して取り込むため、水が浄化される仕組みだ。
首都圏の汚水処理場の活性汚泥が強い放射能を持つに至ったのは、対比が放射能を凝縮したのと同様、土壌微生物の働きによるものなのだ。堆肥に依存する有機農業は、原発とは共存できない。
(6)懸念さるべきは、栃木県から群馬県にかけての山岳地帯の汚染状況だ。この地域は、関東平野を潤す利根川水系の水源域だ。広大な関東平野の豊かな水田は、この利根川水系の恵みのもとにある。森林の林底の腐食層に凝縮された放射能は、大雨が降るたびに濁流とともに流れだし、田畑を侵すことになるだろう。本来その現象は関東平野の比翼な大地の形成に役立っていたはずなのだが、いったん放射能に汚染されてしまえば、汚染の拡大を意味することになる。
と年側は河口の近くで分流して、江戸川に流れ込む。やがて放射能は東京湾の海底土壌にも地屈せ気されていくことになるだろう。
明治31年の大洪水の際に、渡良瀬川の足尾銅山の鉱毒が江戸川に流れ込み、本所・深川まで流れ込んだことを、忘れてはなるまい。
□藤田祐幸(元慶應義塾大学物理学助教授)「福島後をどう生きるか ~失われた沃野と私たちの責任~」(「世界」2013年10月号)
↓クリック、プリーズ。↓
【参考】
「【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介累から放射性セシウム~」
「【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出」
「【原発】汚染された魚介類が慢性的に流通 ~スーパーマーケット~」
「【原発】放射能と東京オリンピック招致」
「【原発】大手スーパーの真鱈から放射能検出 ~関東・東海地方~」
「【原発】東京湾の汚染」
【震災】原発>東京湾に放射能汚泥が堆積中 ~海の汚染~
【震災】原発>無防備都市--東京を覆う放射能
「【震災】原発>食卓の放射能汚染、2012」
「【震災】原発>海洋汚染の拡大・・・・表層から海底へ、海のホットスポット、陸から海へ」
「【震災】原発>海洋汚染 ~グリーンピースの調査・水産学者の「原子力村」~」
「【震災】原発>海洋汚染の隠蔽」
「【震災】原発>海洋汚染の隠蔽・追記」
「【震災】原発>汚染食品のデータをどう読むか」
「【震災】原発>海洋汚染の拡大・・・・表層から海底へ、海のホットスポット、陸から海へ」