語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】「東京五輪」を脅かすフクシマ ~ダダ漏れ汚染水地獄~

2013年09月06日 | 震災・原発事故
 (1)アベノミクスの第三の矢、4~5月にかけての成長戦略は、規制緩和や税制改革が期待外れでだったこともあいまって、市場の反応は冷ややかだ。秋に打ち出す「第四の矢」も、ウルトラCは期待しがたい。
 安倍晋三・首相としては、株価が下がることだけは避けたい。
 マーケットがいま、注目しているのは「東京五輪」。株価を引き続き引っ張っていく方法は五輪誘致しかない、という思いが市場にはある。
 安部首相による8月下旬の中東歴訪は、エネルギー問題もさりながら、隠れた狙いに五輪誘致のロビー活動があった、という見方がある。

 (2)五輪誘致はしかし、ここに来て黄信号が灯っている。その原因は、東京電力福島第一原発の放射能汚染水事故をめぐる対応のマズさだ。
 原発問題への関心は、海外では非常に高い。汚染水事故について、各国メディアは相当過敏になっている【注1】。
 <例1>汚染水をコントロールできない。【米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」】
 <例2>事故は収束できるのか。【英紙「インディペンダント」】
 <例3>技術的、政治的に解決困難。【米CNN、英BBCなど】
 メディア以外でも、月1回ペースで福島空港へチャーター便を飛ばしていた韓国の航空会社が、8月になって急遽運休した。「汚染水発覚とその後の報道をを見て旅行者のキャンセルが相次いだため」だ。

 (3)海外の反応が高まり始めたのは、「汚染水が海に流れた」と東電が発表した7月2日からだ。
 東日本大震災のガレキが太平洋を越えて米国にも流れ着いた。潮の流れや海産物には国境がない。そこへ来てダダ漏れタンク問題が発覚した。東電がやらかしたことも、海外から見れば、すべて「日本政府の責任」になる。
 安部首相は、「国を挙げて解決の決意」を表明したが、遅きに失した。汚染水問題が五輪誘致を脅かしているのは間違いない。
 もし落選したら、A級戦犯は東京都でも安倍でもなく、東電だ。【東京都幹部】
 責任逃れの気配はさておき、IOC委員会総会(9月7日)直前の、汚染水問題発覚は、東京都にとって痛いのは確かだ。

 (4)汚染水がタンクから漏出していることを東電が明らかにしたのは、8月19日。その後、「発表よりもさらに1ヵ月も前に、タンク周辺の作業員被曝線量増加など、兆候があった」と一部新聞が報道した。
 しかし、実はタンクからの汚染水漏れの「危険情報」は、今年4月に政府に伝えられていた。
 
 (5)今年4月、福島県内のタンク製造業者が、東電から汚染水を貯めるタンクの製造を持ちかけられた。業者は断った。発注額が安いし、納期までの期間が短すぎるからだ。<例>1基200万円で、1ヵ月で6基作ってくれ、と東電は注文。・・・・手を抜かないと製造できない。
 くだんの業者は、責任とプライドから断った。無理をして製造すれば、2年ほどしか持たない。
 くだんの業者の業者によれば、今のタンクは、安く早く仕上げるために、溶接を省いてボルトでつないでいる。ボルトが緩んだり、使用しているゴムが腐食する可能性がある。早いところで、事故発生から3ヵ月後(2011年6月)から始められているから、耐用年数が2年ならば、今年6月が「賞味期限」となる。いつ放射能汚染水が漏れてもおかしくはない。

 (6)法的には、汚染水の責任の所在が不明だ【注2】。
 自民党が衆・参両選挙で大勝したことで、霞ヶ関も弛緩して対応が鈍くなっている。汚染水問題は、経産省や環境省がすぐに動いて騒ぎを鎮静化させる対策を講じないと、手遅れになる。
 国の緩みは、まだある。五輪招致への影響を気兼ねして、汚染水問題の審議を9月中旬以降に先送りした。
 その結果、いまや逆に、国の無為無策を海外のメディアから問われている【注3】。

 【注1】9月4日、東京の招致委員会の記者会見に参加した海外のメディアからは、「福島第一原子力発電所の汚染水問題は深刻で東京はしっかり答えなければいけない」という厳しい意見が多かった。英インターネットメディアの記者は、「東京は安全性を強調するばかりで、この問題に正面から答えていない。これは深刻な問題で、もっと真剣に考えるべきだ」と指摘。また、米通信社の記者は、「会見の答えには満足できない。この質問はこれからも聞かれ続けるだろう」と話した。【記事「五輪招致 汚染水問題の質問相次ぐ」(NHK NEWSWeb 2013年9月6日)】
 【注2】「【原発】責任不明確な国の汚染水処理体制 ~再稼働よりも汚染水対策を~
 【注3】前掲「NHK NEWSWeb」の記事。

□鈴木哲夫(ジャーナリスト)「「東京五輪」を脅かすフクシマ ダダ漏れ「汚染水地獄」」(「サンデー毎日」2013年9月15日号)

 【参考】
【原発】なぜ汚染水は漏れたか ~誤算・ケチケチ体質~
【原発】政権の最優先課題 ~汚染水と廃炉作業~
【原発】責任不明確な国の汚染水処理体制 ~再稼働よりも汚染水対策を~
【原発】「汚染水」の本当の深刻さ ~東電のコストカットが一因~
【政治】安倍“異次元”政権の思想と行動 ~「馬脚をあらわす」兆候~
【原発】安部政権の演出と狙い ~高濃度汚染水の海洋流出~
【原発】福島第一原発で汚染水が海洋流出 ~漁民の被害は止まない~
【原発】福島第一原発周辺の海水汚染続く ~魚介累から放射性セシウム~
【原発】【食】東日本太平洋沖で獲れた魚介類8体からセシウム検出
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