語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【原発】放射能の海で「おもてなし」 ~2020年東京五輪~

2013年10月01日 | 震災・原発事故
 (1)東京都新宿区の都営霞ヶ丘アパートの住民は、近くの国立競技場の建て替えのため、立ち退きを迫られている。
 アパートには、230世帯370人が住んでいたが、都が用意した3ヵ所の都営住宅に移転する人が出始めた。56年間ここに暮らしてきた男性88歳も、「ボクのふるさと」を立ち退かねばならない。
 数年前から、町会は都の住宅供給公社に建て替え計画について採算問い合わせていた。都は、「具体的な計画はない」と回答。
 だが、昨年7月、突然、移転してくれ、と言ってきた。
 都は、「少子高齢化に先進的に取り組んできた青果を世界と共有すること」を五輪招致の動機の一つにしていた。
 高齢者の「ふるさと」潰しが、「先進的」の証明らしい。

 (2)江戸川区の葛西臨海公園の干潟に立つと、水平線が見渡せる。こうした景観を有する場所は、都内にほとんど残っていない。
 陸域は、干潟を埋め立てた半人工の自然だが、開園から24年経ち、今では豊かな生態系が息づいている。野鳥226種が観察できる。スズガモが毎年3万~6万羽も渡ってくる。数の魅力も大きい。
 この生態系は、干潟、草原、森、池のつながりで保たれている。
 だが、この公園の陸域が五輪でカヌー競技の会場になる。
 やはり、事前に地元への相談はなかった。
 都は、「環境優先」を五輪のスローガンにしている。ところが、都は、この公園の陸域を4日間のカヌー競技のため潰すことで「環境優先」をする。

 (3)選手村が予定されている東京湾臨海部は、埋め立て地で液状化しやすく、津波に弱い。
 さらに、臨海部には石油などの危険物のタンクが5千基もある。地震や津波で壊れて海に流出し、引火すれば大火災になる。3・11では、このような複合火災で宮城県気仙沼市などが壊滅した。
 臨海部は、複合火災にはお手上げなのだ。
 そんな危ない土地を五輪の会場にした理由は、都が開発した臨海部の埋め立て地がバブル崩壊で買い手がつかず、売れ残っていたからだ。都には、五輪を契機に臨海部の土地を一挙に処分したい、という思惑があった。

 (4)フクイチの事故で降り注いだ放射性物質が、荒川などを通って東京湾に流入している。
 その荒川河口に、ヨットレースが行われる若洲海浜公園や、ボート会場の海の森水上競技場がある。
 若洲公園の近畿大学による定点観測では、
   放射性セシウム濃度・・・・320Bq/kg(2011年8月) → 530Bq/kg(2012年11月)
   単位面積あたりの蓄積量・・・・19,600Bq/平米(同) → 56,400Bq/平米(同)
に増加している。
 しかし、海水中の放射性物質の濃度は無視できる程度だ。
 ただし、低レベル放射線被曝の健康影響はほとんど解明されていない。また、波などで巻き上げられた海底の汚染土壌を飲んでしまったら内部被曝するば、その健康影響も解明されていない。

 (5)文部科学省の航空機モニタリング結果から推定した東京湾集水域の土壌中の放射性物質濃度から、セシウムなどの東京湾への流入シミュレーションを行ったところ、セシウム137の汚染は10年間にもおよび、2014年3月に汚染が最大になる。【山敷庸亮・京都大学大学院総合生存学館准教授】
 2020年時にも汚染は続いているのだ。

 (6)お台場海浜公園は、トライアスロン会場だ。
 が、ここは降雨時には糞便性大腸菌の数が急増、環境省の水浴場の基準に適合しないので遊泳禁止だ。
 いま行われているのは、都内の合流式地下水道の改善だけだ。これだけでは降雨時の水質悪化を防ぐのは困難だ。

 (7)都は、石原慎太郎・前知事の時代の2010年度から朝鮮学校10校だけに、1人15,000円/年の「私立外国人学校運営費補助金」を支給しない措置をとった。猪瀬知事もこの差別を踏襲している。
 オリンピック憲章は差別を禁じる。
 これで、どうして五輪を呼べるのか。

□永尾俊彦(ルポ・ライター)「2020年東京五輪への違和感 放射能の海で「おもてなし」? ウソと欺瞞で勝ち取った招致」(「週刊金曜日」2013年9月20日号)
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【原発】最悪の事態を防いだ2つの幸運 ~失われた沃野と海~
【原発】汚染水を浄化できるか ~福島第一原発はどうなっているのか~
【原発】今、そこにある汚染水危機(3) ~次の震度6~
【原発】今、そこにある汚染水危機(2) ~汚染水は海で薄められるか~
【原発】今、そこにある汚染水危機(1) ~封じ込めは可能か~
【原発】安倍政権、「収束宣言」を撤回 ~汚染水~
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