その25「徳川家康」はこちら。
84年からの3年間、大河は方向性を変える。題材が近現代史にシフトしたのだ。その最初が「山河燃ゆ」。原作は山崎豊子の「二つの祖国」。第二次世界大戦下の日系二世たちを中心にしたお話。
日本人なのかアメリカ人なのかというアイデンティティの危機。収容される悲劇。戦後の東京裁判の意味……おわかりのように、明るいストーリーになりようがない。
主人公兄弟に松本幸四郎と西田敏行。他の二世たちに沢田研二、島田陽子、多岐川裕美、柏原芳恵、かとうかずこ。ある者は自殺し、ある者は日本人であるというだけで刺殺され、ある者はアルコール中毒に苦しむ。
さすが山崎原作。悲劇もこってりしている。初期は吉本興業の創業者である吉本せいを描いた「花のれん」が代表作だったが、「白い巨塔」以降はゴリゴリに社会派となっていく。「華麗なる一族」「不毛地帯」「大地の子」「沈まぬ太陽」……そんななかでも悲劇性において「二つの祖国」は上位に位置しないだろうか。
実在の人物としては東郷茂徳外相(鶴田浩二)、東条英機(渥美国泰……そっくりだ)、東京裁判において発狂した(少なくともそう見えた)酒田出身の思想家である大川周明(庄司永建……この人は新庄出身です)、そして昭和天皇(高橋昌也)。
わたしはこの大河を見ていなかったので疑問が二つある。あふれるほどの英語のセリフがあったはずで、二世たちも英語でやりとりする方が自然だが、そのあたりはどう処理したのだろう。そして、この時代を描くことは、南北朝よりも微妙な問題をはらんでいたはずで、よくぞこの題材が大河に選択されたものだなと。
いまではすっかり極右の宣伝塔となったかのようなケント・ギルバートが出ているのも微妙です(笑)。美貌のヒロコ・グレースが出ているのには全面的に賛成だけど。
一方で、NHKは大型時代劇を絶やすことにも慎重で、水曜8時に時代劇枠を新設し、その第一弾が役所広司の「宮本武蔵」であり、翌年があの「真田太平記」だったのである。
その27「春の波涛&いのち」につづく。
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