正直に言います。わたし、敦煌石窟のことも、なかから出てきた敦煌文書のことも、この映画を見るまでなーんにも知りませんでした。映画とはなかなかの教材ですよね。
原作は井上靖、製作は徳間康快、監督は「君よ憤怒の河を渉れ」「空海」(東映)の佐藤純彌。前にも紹介したけれども、いまキネマ旬報に連載されている佐藤純彌の回顧録がめちゃめちゃに面白く、この「敦煌」の映画化もどれだけ大変だったかが語られている。ということでディスカス。
この原作は長いこと小林正樹が映画化を望んでいたのに、いろんな経緯から深作欣二に変更。主役は千葉真一と真田広之とまで予定されていた。ところが深作はどうにもこの企画にのれず、「火宅の人」を先に撮ってしまう。ということで、佐藤にお鉢が回ってきたと。
それは正解だったんじゃないかと思う。久しぶりに再見して、佐藤監督のサービス精神がうまく機能しているのがありあり。
「なぜ、石窟のなかに経典が隠されていたのか」
という謎を読み解くミステリとしても成立している。北宋末期、西夏の勃興という激動の時代に、西洋と東洋がシルクロード上で交わる場所だからこそ生まれた奇跡。
少し軽薄にも見える佐藤浩市と、残忍だが気のいい西田敏行、それにいかにも上り坂にいる民族のリーダーらしい渡瀬恒彦のアンサンブルがいい。そしてこの三人のあいだで翻弄される王女が中川安奈。早死にしてしまったけれど、わたしは好きな女優でした。彼女の西洋の血が入ったルックスはこの物語に必須。
それにしても石窟やそこに描かれた絵は圧倒的。一種の狂気、あるいは宗教的熱狂がなければこんなのは実現できない。
そしてこの企画を、45億もかき集めて(佐藤監督は「そんなにかかってないと思います」とばらしちゃってますけど)映画を完成にこぎつけたのは徳間康快という怪物のおかげ。この人がいたおかげでわたしたちは平成ガメラやジブリの諸作を楽しむことができるのだ。ありがたいありがたい。
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