子どもが死ぬ話はつらい。「ガソリン生活」につづいて犯人が良心をもたないサイコパスで、どうにもこうにも救いのない展開なのでもっとつらい。そんなサイコパスが25人に1人の割合でいる……納得できるようなできないような。メディアへの不信感もさらに露骨になっています。
そんな不安をひっくり返して見せるのがおなじみ死神の千葉。前作「死神の精度」 につづいてあのすっとんきょうなキャラで長篇。だいじょうぶだろうか。
そこは伊坂幸太郎のことだから用意周到。図式的と批判されるのを覚悟で、善と悪をまったく判断しない存在(人間はどうせ死ぬのだから判断する必要を認めない)としての千葉(死神でも神は神だ)が効いている。
同業者である香川との会話は抱腹絶倒。一種の殺し屋でもある彼らの、仕事に対する態度の差すら伏線になっている。
ぐっとくるのは主人公と父親との関係。自分の死は怖いけれども自分の子どもの死はもっと怖い、だから人生から逃げる……うわーこの父親の気持ちわかるなあ。そんな人間にとって、死は一種の救いなわけだ。
誰の死にも“担当者”としての死神がいる、という発想は、作者の計算かどうかはわからないけれど、死への怖れをほんの少し緩和してくれます。千葉が経験した(笑)参勤交代のお話など、歴史小説としても楽しめるお得な一篇。読後の幸福感は比類がない。ぜひ。
死神の浮力 価格:¥ 1,733(税込) 発売日:2013-07-30 |