刑事コロンボを全部観る～Vol.32「忘れられたスター」

Vol.31「5時30分の目撃者」はこちら。

この作品がコロンボの最高傑作ではないかと思う。犯罪自体はシンプルでひねりがたりないが、ドラマがそれを補ってあまりある。

かつて“ダイアモンドとウィーラー”（どう考えてもジンジャーとフレッド）という名コンビでならしたミュージカルスター、グレース・ウィーラー（ジャネット・リー）は、ブロードウェイへの復帰を願い、夫に出資を求めていた。しかし夫は拒否。グレースは自宅の映写室で映画を観ていたアリバイをつくり、自殺に見せかけて夫を殺害する。しかし……

「刑事コロンボ」のフォーマットは、すべてこのエピソードのためにあったかのようだ。スターの前で萎縮し、小さく見えるコロンボが、ある確信をもとに毅然と変貌する過程がすばらしい。ロサンゼルスが舞台なので、華やかなハリウッドと地味なルックスの刑事の対比も味わえる。

　ファンへのサービスもいっぱいだ。

・コロンボはグレースの前で舞いあがり「高校時代にかみさんとあなたの映画全部みました。」ひょっとしてクラスメイトと結婚したの警部？

・殺害された夜、夫が読んでいたのはP.G.ウッドハウス。ジーヴスのシリーズかな。自殺しようとする人間が最後に読むにしては軽すぎる。

・テレビで放映されているプレミアに、あるゲストが呼ばれている。「それではここで、『恐怖のタワーリング』と『大豪華船沈没』のプロデューサーにうかがいますが……」それって「タワーリング・インフェルノ」と「ポセイドン・アドベンチャー」のプロデューサー、アーウィン・アレンじゃないですか（笑）

・そのプレミアで上映された映画は「ザッツ・エンタテインメント」。もちろんジンジャーとフレッドが登場する。

……ああ書ききれない。次号につづく！