陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

乾いた九月 ウィリアム・フォークナー その5.

2005-09-07 21:56:54 | 翻訳
(承前)

 彼女が世間から「姦通」の烙印を押されて、いまでは十二年がたつけれど、出納係の方は八年前にメンフィスの銀行に移動になり、毎年クリスマスの季節になると、狩猟の会が川縁で開く独身者の集まりにやってくる。近隣の人々はカーテンの内側から、一行が通り過ぎていくのを眺め、クリスマスのお祝いを言いに彼女の下を訪ねては、あのひと、元気そうだったわよ、とか、メンフィスではなかなか羽振りがいいらしいですね、とか言いながら、密かに目を光らせて、彼女のやつれた、明るい顔を眺めるのだった。たいていその時刻になると、彼女の息はウィスキーの臭いを漂わせている。ウィスキーを差し入れてやるのは、ソーダ・ファウンテンの若い店員だった。
「そうだよ。おれがあのおばちゃんに買ってやってるのさ。おばちゃんだって、ちょっとは楽しくやる権利だってあるだろ?」

 彼女の母親は、いまでは部屋に籠もりきりになっていた。家の切り盛りをするのは、ひからびたような叔母さんである。そうした状況を考えると、ミニーの派手なドレスや、怠惰でうつろな毎日は、異様なほど現実味を欠くように思えた。いまでは彼女が日が暮れてから出かけるのは、近所の若い娘たちとだけ、映画に行くのである。毎日午後には、新しいドレスに袖を通して、街中にたったひとりで出かける。そこではすでに若い「従姉妹たち」、ふんわりとした絹糸のような髪の毛や、細くぎこちない腕、つい意識してしまう腰のもちぬしたちは、互いに腕をからませて昼下がりの通りをぶらぶらしたり、ソーダ・ファウンテンにいるふたり組の男の子ときゃあきゃあいったり、クスクス笑ったりしているのだった。そこを彼女が通り過ぎ、軒を並べる店の前を歩いていっても、店の入り口に腰をおろしてブラブラしている男たちは、もはやその姿を目で追うことすらしなくなっているのだった。

III


 理髪師は通りを急いだ。羽虫が群がるまばらな街灯は、死んだような夜気のなかに、固い暴力的な明かりをぎらぎらと投げかけている。日は立ちのぼる砂ぼこりの間に沈み、ぐったりした砂ぼこりに覆われる広場の上の空は、真鍮の鐘の内側のように澄んでいた。東の空低くには、倍に膨れ、蝋を塗りでもした月が出ようとしていた。

 彼が追いついたとき、マクレンドンと三人の男は、路地に停めていた車に乗り込んだところだった。マクレンドンは髪の毛の多い頭をかがめて、車の屋根の下から外を見た。「気が変わったか? そいつは感心だ。まったく、明日になって、さっきの口のききようが町の人間の耳にでも入ったことなら……」

「まぁいいじゃないか」もうひとりの元兵士が言った。「ホークショーなら大丈夫だ。さぁ、ホーク、早く乗れよ」

(この項続く)