陰陽師的日常

読みながら歩き、歩きながら読む

乾いた九月 ウィリアム・フォークナー その2.

2005-09-04 21:23:10 | 翻訳
(承前)

 スクリーン・ドアが大きな音を立てて開いた。男がひとり、足を開いて無造作に立っている。白いシャツは胸をくつろげ、フェルトの帽子をかぶっていた。怒気を帯びた険しい眼差しで一同を睨めつける。マクレンドンという名で、フランスでの前線部隊の指揮を執り、勇敢さをたたえられ、勲章を授けられた過去を持つ男だ。

「さぁて、諸君はジェファソンの大通りで、そこにのんびり座って、白人の女が黒ん坊に強姦されるままにしているつもりらしいな」

 ブッチはふたたび跳ね起きた。シルクのシャツが、分厚い肩にべったりと貼りついている。両脇の下は、汗でどす黒い半月ができていた。
「おれがずっと言ってたのもそのことなんだ! おれが言いたかったのは……」

「それってほんとうに起こったことなのか?」三番目の理髪師がいった。「ミス・ミニーが怯えたってのもこれが最初ってわけじゃないんだぜ、ホークショーが言うみたいに。男が台所の屋根に上って、服を脱ぐところをのぞき見していたとかいう話があったじゃないか、一年ほど前のことだよな?」

「なんだって?」客がいう。「何のことをいってるんだ?」理髪師はゆっくりと客を椅子に押し戻す。客は傾いた背もたれに抵抗しながら、頭を持ち上げたので、理髪師はその頭を押さえつけたままでいた。

 マクレンドンは三番目の理髪師のほうに向き直る。「ほんとうに起こったか、だと? 起ころうが、起こるまいが、どれほどのちがいがあるっていうんだ。そいつがほんとにやっちまうまで、黒ん坊どもに好きにさせとくつもりか?」

「おれが言ってたのもそういうことなんだよ」ブッチは大声を出すと、おきまりの長たらしくも的はずれの悪態をついた。

「わかったわかった」四番目の理髪師が口を挟む。「声が大きいぞ。そんなに大きな声を出すなよ」

「そのとおり」マクレンドンがいった。「おしゃべりなんか必要ない。おれの話はもうしまいだ。一緒に来るのはだれだ?」つま先立ちになると、ギロギロとあたりを見回した。

 理髪師はカミソリを離して、セールスマンの顔を押さえつけていた。「事実を明らかにすることが最初ですぜ、みなさんがた。あたしはウィル・メイズってやつをよく知ってる。やつはそんなことはしない。保安官に来てもらって、ちゃんとやってもらいましょうや」

(この項つづく)




先日までここで連載していた「電脳的非日常」、サイトのほうに更新いたしました。
ブログ掲載時より、かなり手を入れています。

おもしろかったら、おもしろかったよ、って、カキコしてくれるとうれしいな。
おもしろくなかったら、うーん、つぎ、また頭を捻ります。
いつだって、明日がある。そういうもんです。