『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  219

2014-02-28 08:16:10 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、ギアス、ご苦労。小島の連中、どうしていた?』
 『彼らは相変わらずです。ギョリダを中心に新しい釣り針で仕掛けつくりをやっていました。ギョリダの話では、明日、頃合いを見て漁場に行くようです。彼は思案を巡らせていました』
 『そうか、彼らも真剣に取り組んでいるようだな』
 『隊長、私から報告です。アバスなきあと、このサクテスが私の右手となってくれています。そのようなわけで彼に仕事を引継ぎます。ここ一両日の間に引継ぎを終了します』
 『判った。それでだ、明日の予定だが、ハシケにこの俺を乗せて、小島を一周してほしいのだ。サクテスも同道だ。用向きについては明日話す、以上だ。あ~あ、もうひとつ、明後日はオロンテスを乗せてキドニアに行くわけだが、舟艇には俺も同乗する』
 『判りました。出発する少々前に隊長を呼びに行きます』
 『おう、ありがとう。そうしてくれ』
 ギアスとの打ち合わせを終えたパリヌルスは、浜をあとにした。茜色に変わりつつある陽の光が浜と小島、そして、一帯の海を照らしていた。
 パリヌルスが宿舎に戻った。夕食がすでに届いていた。寝食を共にする者たちがまだ帰ってきていない。彼らは撃剣の調練をやっている。もう終わるころだろう、彼は待った。『うん、このような日もある』彼は夕食のパンを眺めて空腹を感じた。ガヤガヤと声が聞こえてくる、トピタスの声も聞こえる、宿舎に人影が満ちてきた。
 『あっ!隊長。戻っておられましたか』
 『おう、トピタス。今日の撃剣練習はどうだった?左腕に血がにじんでではないか』
 『はあ~、これですか。対手の剣をうけそこなったのです』
 『まあ~、血のにじみ具合から見て大したことはないと思うが、用心にこしたことはない。すぐ、小川で洗うのだ。この季節だ、膿むようなことはない、薬をもらって塗り込んでおけ。明日までに治る。待ってやる、すぐ行って来い!それから、めしだ』
 『ありがとうございます。では、行ってきます』
 トピタスは戸外に出て40~50メートル先の小川に向かった。
 しばらくして、宿舎の一同の顔がそろった。カイクスの掛け声合図で夕食が始まった。パリヌルスは待ちかねていたようにそそくさと夕食を済ませて、イリオネスの宿舎に歩を運んだ。
 夜のとばりが降りきっていない、うす明るさであった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  218

2014-02-27 07:13:57 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『そういえばそうだな。ここのところ、スダヌスが姿を見せていないな。あ奴元気にしてるかな?』『そうだ、俺は元気だ』あのだみ声がしたような気がした。彼は振り返った。そこには木の枝が風に揺れていた。
 『おいっ、パリヌルス、どうかしたか』
 彼は『いや』と答えて、オキテスのほうを向いた。
 『俺か。ふと考え事をしていた』
 『なに、考えごと?何をだ』
 『あの方角時板に使っている南北を指す鉄棒の事だ』
 『な~んだ、あの鉄棒の事か。そういえば、あの鉄棒の由来について聞いたことがないな』
 『この際だ、今度、軍団長に聞いてみる。オキテス、これから浜に行って、トピタスとメンバーの事について打ち合わせてくる』
 『判った。あれこれ考えているより、生むは易い』
 『そうだな』
 二人は、それぞれの持ち場に向かった。オキテスはオロンテスところへ、パリヌルスは、浜で待つトピタスのところへと足を向けた。
 『おう、トピタス、どんな具合だ。決めたのか』
 『え~え、決めました。メンバーはこの通りです』
 トピタスは、名前を連ねて書き記した木板を手渡した。
 『おう、これか、いいだろう。このうちの3人を明後日、風風感知器班の樹木調査隊に同道させる。オキテスとは話がついている。明日、時を見て、オキテス隊長か、マクロス班長に引き合わせて、段取りを打ち合わせてくれ。以上だ』
 『判りました』
 『それから、今日、夕飯を済ませたら、その10人を連れて、軍団長の宿舎の前に集まってくれ。俺は先に行っている』
 『判りました』
 『何か聞いておきたいことがあるかな』
 『いえ、いまは別にありません』
 『樹木調査が終わり次第仕事にかかる。その時になって、詳細を説明する。それでいいな』
 『え~え、それで結構です。隊長、私は、沈着冷静、用意を周到にして作業にあたります。宜しくお願いします』
 『判った、よろしくな』
 パリヌルスは、トピタスの仕事に対する姿勢の一面をそこに見た。『一歩前へ』を確信させるひと言であった。『これなら仕事を託せる』と安心した。
 彼は、波うちに際にたたずんだ。目線を小島のほうへと移した。ハシケがこっちに向かってくる。ハシケの上には漕ぎ手二人とギアスとサクテスの4人の姿を認めた。
 ハシケが指呼の距離に近づく、船上のギアスとパリヌルスの目があった。どちらともなく手を高くかざして振った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  217

2014-02-26 08:14:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 事は確実な足取りで進んでいる。パリヌルスとオキテスは。顔を合わせてうなづきあった。
 『パリヌルス、お前のところはメンバー編成を終えたのか』
 『それはまだだ。あれから俺はアレテス、ギアスとの打ち合わせで多忙であった。もう、トピタスがメンバーを決めていると思っている』
 『いざ仕事にかかるとなぜか忙しい』
 『そりゃ、そうだろう、手落としなくことを進める、気が休まなくなる。そんなものだろう』
 『お前と俺とが手がける仕事で大変なのは舟艇の建造だ。仕事を吟味して遂行せねばならん』
 『エノスの時と違うのは、船を造る用材が違うことだ。あの時に使った用材は、杉、檜の類だ。しかし、今度は使う用材が変わる。材質の違いを充分に考慮しなければならん。俺たちが判断を誤ってはいけないのが、用材とその材質だ。吟味の上の吟味だ。樹木調査隊の者たちに樹木見本を持ち帰る指示をしておいてくれれば何かと都合がいい』
 『その件は、マクロスとソリタンと打ち合わせ済みだ。安心してくれ』
 『さすがだな、オキテス。お前に抜かりがない。万事、うまくいく』
 パリヌルスは、会話を交わしながら、頭の中では、ソリタンのハシケを思い浮かべていた。『よしっ、あのハシケをあらゆる角度から見てみよう。何か手がかりを得るかもしれん。それから、次にスダヌスが来た折に彼の持ち船を見てみよう。これが俺のやる調査の第一歩だ。用いる用材が構造に関係して新しい技術を生み出す』彼は意中に研究の足掛かりを設定した。彼は、他の者が為しえない研究の手がかりを握りしめた。爪が掌にくい込むほどに拳は強く握りしめられていた。『これさえおさえれば、舟艇建造の仕事の9分9厘はできたも同じだ』と意志を固めた。これで踏み出す一歩の不安の一つを取り除いた。
 彼は、舟艇建造こそ、この集団の重要な仕事と位置づけて考えていたのである。建国の遠大な構想を打ち立てるには、いい樹木の繁茂する土地、肥沃な大地、自然資源、地下資源に恵まれている土地であることが望ましいと考える集団の中の一人であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  216

2014-02-25 08:00:48 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『そうか、それに、小島へのパンの配送となるとな。小島へのパンの配送はハシケでもやれる。その日その日で抜かりなく段取り手配で仕事をやろう。ということだ、ギアス』
 『判りました。オロンテス隊長と話し合って、うまく事を運びます。そのあたりの事は、任せてください』
 『おう、いいだろう。宜しく頼む。以上だ』
 パリヌルスは、小島でアレテスと話し合い、ギアスとも事細かく打ち合わせをした。打ち合わせを終えたパリヌルスは、オキテスのいる広場へと向かった。
 マクロスと10人の者たちで決めたメンバーを加えて総勢30人余の者たちがオキテスの話に耳を傾けていた。
 『者どもやっておるわ』彼は、その傍らに立ってオキテスの指示風景に目を細めた。オキテスが話し終える時が来ていた。
 『よしっ、判ったな。森林の樹木調査を終えた時点から仕事に着手する。マクロス、ソリタンを加えて5人で隊をつくって事に当たってくれ。まだ、場を解かずに待っててくれ。俺は軍団長を呼んでくる』
 オキテスは場を離れた。ほどなく、二人が姿を見せた。
 『軍団長、紹介します。この者たちが風風感知器製作班の面々です』
 イリオネスは、一同を見渡した。
 『おう、一同ご苦労。オキテスから詳しいことは聞いている。一同、頼むぞ』
 一同は仕事がかりの鬨の声あげて、イリオネスの言葉に答えた。パリヌルスがオキテスに声をかけた。
 『オキテス、頼み事だ。君のところの森林樹木調査隊が出かけるとき、俺が担当する班の者を3人加えて調査に出かけてくれないか。木材を大量に使うわけではない。どうだろうか』
 『それがいい。同道してくれて構わん。明日、事前打ち合わせを終えて、明後日から調査に向かうことにしている』
 『判った。明日、メンバーを引き合わせる』
 二人の打ち合わせは終わった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章 築砦  215

2014-02-24 07:57:10 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
パリヌルスはアレテスと話し合った。
 『アレテス、軍団長の望むところは、そういうことだが、どうだ?』
 『判りました。トピタスの件は了承しました。トピタスに代わる者にアタテルがいます。この者に私の代理を務めさせます。四日後には身体をあけます。それから、漁獲の件ですが、これはギョリダに責任担当させます。事情の聴取は、直接、聞いていただいてもよいように計らっておきます』
 『判った。それはありがたい、願ってもないことだ、ありがとう。キドニアの集散所に水揚げした魚を持ち込む事が提起されてきている。ここ二、三日の間にオロンテスも加えて話し合おう。いいか』
 『判りました。いいことだと思います。忙しくなりそうですね』
 アレテスとパリヌルスの打ち合わせは終わった。
 オロンテスのイリオネスへの返事は遅れていた。彼は、明後日から始まる集散所における業務の事で体制を整えねばならず多忙を極めていた。部下の中から適材の者を選び、責任担当を決め、陣容を整えていった。彼が気にかけて注力した分野は、小麦を石臼を使って製粉することであり、粉を練りあげパン生地を作ることであった。焼き上げに関しては自信を持っていた。彼はパン生地にブドウ種を含ませて一晩寝かせたパン生地で焼いたパンが、ただ粉を練って焼いたパンと味が違うことに気づいていた。理屈はわかってはいなかった。ただ『旨いパン』これが彼の目指しているテーマであった。小麦を粉にして、それを練って焼き上げる、彼の秘策はここにあった。口にする食感、味は『これでよし!』目指した水準に到達していた。『まあ~、あとは日々の研鑽にありか』との思いに至った時、イリオネスから話の合ったクリテスの件を思い出した。『この件は五日後に引き継ごう』と仕事を段取りした。
 パリヌルスは、ギアスの手のすいている時間に懸案として頭にこびりついている、舟艇建造の責任担当の件を打ち合わせた。
 『ギアス、判ったな。出来るだけ早く、お前に代わって舟艇の運行を任せることのできる者を決めてくれ。ここ七日以内にだ、判ったな』
 『判りました』
 『あ~あ、それから、オロンテスからの要請だ。キドニアの集散所への物の輸送と係りの者を運ぶ仕事にあたってもらいたい。キドニアの船溜まりまで、どれくらいの時間がかかるかだが、お前の思いは?』
 『そうですね、往復で2時間といったところでしょうか。朝と夕の2回となると結構な時間となります』
 パリヌルスは、ギアスの言うことにうなづいた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  214

2014-02-21 10:46:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 紀元前2000年のころからクレタ文明は、急速に隆盛に向かい、進展、繁栄してきていた。クノッソス、その他の地域に宮殿が建てられていた。そのなかでもクノッソスの宮殿は極彩色の荘厳美麗の木造4階建ての建物であった。また、トータス、マリア、ザイロス、フエストス、アギアテナダなど、港近くに、クノッソスの宮殿に模して設計されてはいるもの4階建てという大きさでなく、総じて同一のデザインで宮殿が建てられていた。宮殿の役割は、クレタの各地から集まる物資の集散の役目を果たし、貯蔵もする、加工もする、再分配、交易の拠点であった。宮殿を中心に街区が形成され、港湾都市としても発展した。また、宮殿にはクレタ文明独自の祭き施設がもうけられ、多神教のクレタの信仰の中心でもあり、『聖別の角』『双斧』が飾られていた。宮殿の遺跡からは、印章や粘土板が発掘され行政の役割も担っていたと考えられている。それらの宮殿がこの爆発地震で全てが倒壊したのである。繁栄隆盛のクレタでは、手早く見事にこれを再建した。倒壊して埋もれた宮殿の上に宮殿を建てたのである。それは後世に至って発掘によって確かめられている。
 またまた大地震である。爆発大地震の170年余りのちの紀元前1450年、今度はクレタ島に大地震が起きた。この地震で再び宮殿が倒壊した。今度は、それらを再建するためのクレタ島の森林資源である樹木は伐採されつくし、失われてしまっていた。宮殿の再建どころか、土器、青銅器を焼く燃料にも事を欠いていたのである。クレタの人々は、樹木伐採による森林破壊、大地土壌の劣化を招き穀物の収穫は激減した。また、火山灰の降灰、二酸化硫黄の流出による気候の変化がもたらす作物の不作、ドミノ倒しのように続く自然連鎖、10年20年と農作物の不作が続き、クレタの人々は混乱に陥いり、島から人が去っていったとも言われている。そして、この地震から300年後クレタ文明は潰え去ったのである。
 クレタ文明の受難は、2度にわたる自然の猛威、天変地異。周辺諸国との交易での隆盛に、枯渇に至るまでの森林樹木の伐採、盲しいた統治者の暴虐が招いた文明の終焉と言って過言ではない。後世に語り継がれるヨーロッパ最古の優れた伝説のクレタ文明が終わりを迎えるころ、文明の中心であったクノッソス宮殿で何があったのか。この時期に殺されたと思われる多数の子供たちの骸骨が遺跡で発見されている。この目を覆うような考古学的事実が何を語っているのか。クレタ島に何があったのか、今も不明のままである。
 紀元前1300年のころギリシア人たちは海賊と思われる暴虐さでクレタ島に進出し、植民し、ポリスを形成し、クレタ統治に君臨した。彼らは文明の育成者ではなく、侵略、破壊者としてクレタを統治したのでは無かろうか。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  213

2014-02-21 07:21:07 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 クレタ島。それは四国の半分くらいの大きさの東西に細長い島である。島の東西の長さが260キロ、南北が60キロと狭い。この島には、2000メートルを超える独立峰の山が三つある。東部地区にあるのがデクテイ山で2148m。中部地区にあるのが神話のゼウスが生まれ育ったといわれるイデー山2456m。西部地区にあるのがレフカオリ山2452mである。気候は島の北側が地中海性気候、南側が北アフリカ性気候であり、温暖で過ごしやすい、しかし、先に述べた三つの山の頂には一年中雪が見られるといった島である。次にクレタ島の立地条件を見てみよう。海を隔てて東南のエジプトのアレキサンドリアには550キロ、東のレバノンには800キロ、西アジア、ギリシアアテネには200キロ、キクラデス諸島には100キロあまりの地点である。立地的に地球の文明の先進的な地点に位置していた。
 人類の歴史のなかでヨーロッパ圏において先駆文明であるクレタ文明と言われる文明が発祥した島である。その源流は紀元前3500頃に発している。アヱネアスの率いるトロイの民がクレタ島に上陸したのは、その時代から下って、2500年後の事である。この頃には、2度にわたる自然災害と人為的事情によって、クレタ文明は衰退して終焉しようとしていた。
 孵化期、揺籃期、そして、成熟期へと向かい、文明が興るには対価が必要であるが、文明が限度を超えて文明活動を行うことにより環境に影響を及ぼす、環境が破壊され損傷をこうむる。それが一因となって文明の基盤そのものが壊れるのである。
 クレタ文明の発祥するころのクレタ島は、ナラ科、カシ科の樹木の繁茂する島であった。考古学的地質調査で古代の樹木の花粉状態を調べたところ、ナラ科、カシ科の樹木の花粉が50パーセント近く認められたといわれている。また、クレタの人たちは、温和な人たちであったらしいといわれている。クレタ島の博物館の展示品には、ギリシア本土や他の地域の博物館の展示品に比べて武器や武具の類の展示品が極めて少ないのである。
 ところで、この時代、エジプト、中東地域では木材が不足していた。クレタの文明の興隆は、木材の輸出から始まった。クレタ人たちは、樹木を伐りに伐りまくって輸出した。それによる利益は莫大なものであった。大きな利益を手にしたクレタ人たちは造船業を興し、クレタ人の持てる豊かな創造性を生かし、森林資源を燃料として土器や青銅器を造り、それらを輸出することにより利益を獲得して大いに繁栄した。
 そこに自然が猛威をふるって襲い掛かった。紀元前1628年のキクラデス諸島の南端の島であるテラ島(現在のサントリニー島)の海底火山の大爆発である。200平方キロの島の3分の2が吹っ飛ぶといった大爆発であった。この島とクレタ島の間には、発生する大津波をさえぎる島嶼が全くない、それこそ言語筆舌では言い表すことのできない大津波がクレタ島に襲い掛かったのである。それに加えてクレタ全島をゆする大地震、火山灰の降灰、その災害を島全体に及ぼしたのである。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  212

2014-02-19 07:36:50 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、イリオネス、お前の言うことにうなづける。そうであるだけに俺の一歩に間違いがあってはいけない、一歩踏み出す前によく考え、踏み出して検証している。そんなこんなで常に照顧している。俺が先導して、一団を率いてくるのが、イリオネス、お前か、そういったところだな。政には、抽象的な部分がある。それを具体的に考えるよすがにするのが戦略思考だ。戦略は、大別して、大戦略、中戦略、小戦略の三段階に分けて、思考する範疇と領域の広がりを少々異にする。大戦略は、実行後の集団の生活までに思考を及ぼす、だが小戦略は、領域を絞り込んだうえで成功を必然として実行する。まあ~、うまくは説明していないがそういったところだ』
 『やや、むつかしい考え方ですね。そうですね。今、我々集団の目指しているところは、経世致用、富国強兵、踏み出せ一歩、脚下照顧です』
 『お前いいことを言ってくれる、その四つの文言、いい言葉だ。しかしだな、イリオネス。俺のハートがこの身体に語り掛けるのは『俺もみんなと同質の汗を流したい』だ。それによって皆と同質の労を共有できると考えている』
 『いいですね!統領の意向に感じ入りました。統領と私、そのような機会を持とうではありませんか。考えます。統領のような盟主を抱く私どもは幸せな集団と言えます』
 『イリオネス、そんなに俺をよいしょするな。俺こそいい者たちを擁している集団の長といったところだ。皆が力を合わせていい国、いい明日を築いていこう』
 『判りました』
 二人は、語り合い、互いの意志を確かめた。集団のベクトルは、進む方向も正しく、その持てる力にも頷けた。彼ら集団の意志力にも納得する語り合いであった。
 アヱネアスは、踏み出す『一歩』が確かであることに自信を持った。
 しかし、彼がスタンスしているクレタの大地は、クレタ島の自然事情、また、クレタ文明を築いたという人為的事情によって、過ぎた昔の豊穣度を失いつつあった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  211

2014-02-18 07:23:33 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、場を去ろうとしている三人に声をかけた。
 『おう、ちょっと待ってくれ!伝えたい用件がある』
 イリオネスは慌てて彼らを引き止めた。
 『実はだな、俺が担当する特務調査隊の事だ。オロンテス、クリテスの事だが、どうだ、いつ手ばなせる?それからアレテスだ、漁獲の件はいつ終わる?この2点だ。今日の午後にでも返事をくれ、以上だ』
 『判りました』
 彼らは、自分たちの持ち場へと向かった。浜へと向かう道すがらオキテスは語った。
 『なあ~、パリヌルス、どうなっているのだろうか?だ』
 『なにがだ?』
 『テカリオンが来て、奴が帰る。そのあと俺たちが忙しくなる。奴は、風を巻き起こして去っていく。エノスの時もそうであったように、俺たちにとって、全く変わった存在だ。今や欠けてもらっては困る存在になっている。まったく不思議な奴だ。彼奴は、俺たちとは全く異質な世界に身を置いている』
 オキテスは感想を述べた。彼を知っているパリヌルスは、オキテスの感想に同感した。テカリオンは、今、我々民族の役に立ってくれている、心の中では友として、彼に感謝していた。
 アヱネアスがこの民族を率いていく力はどこに?また、イリオネスの統率力の根拠はどこで育まれたものであろうか?と自分たちの知らない二人の見えていない背面世界を知りたいと、ふと思った。『まあ~いいだろう、いつか、それを知る機会があるであろう』とその思いを吹っ切った。
 三人が去り、二人きりになったアヱネアスとイリオネスは話し続けた。
 『軍団長、お前も何かと大変だな。俺にできる何かがあれば何でも言ってくれ。この地が我々トロイの民の居住地として、末が長いか、はたまた、短いかは不明だが、今、民族のためにやるべきことはやらなければならん。この地に来て、いかばかりか心が落ち着いてきたように思っている。集団が何かに向かって体動し始めている、越えなばならない山場に差し掛かっているようにも感じている。お前はどうだ?』
 『そうですね。統領の感じていられることが判ります。人一人の踏み出す一歩、集団として踏み出す一歩、同じ一歩ですが、その質は全く違うと私は考えています。統領の一歩は、民族の一歩という大集団の一歩です。その集団の中の小集団が踏み出す一歩が勝手な一歩であろうが、大集団の一歩は、それを包括しての一歩であると考えています』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  210

2014-02-17 08:04:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスの問いかけにパリヌルスが応じた。
 『おう、オロンテス、その件了解した。全面的に協力を惜しまない、判った』
 『判った。パリヌルス、あとは、オロンテスと詳細を打ち合わせてくれ、次は』
 『軍団長、私の方から報告いたします』と言ってオキテスが手を上げた。
 『おっ、オキテス、始めてくれ』
 『テカリオンをはさんで話し合った結果、パリヌルスと俺が担当する業務の方向が見えてきました。テカリオンから受け取った小麦の決済との関係もあり、『風風感知器』『方角時板』の製作『舟艇』の建造を行うことを決めました』
 これを聞いたアヱネアスは身を乗り出してきた。
 『おう、オキテス、それを決めたのか』
 『はい、決めました。『風風感知器』を60器『方角時板』を12台の製作、『舟艇』6艇を建造します。製作班2班、建造班1班を編成して、これにあたります。風風感知器、方角時板は、春が明けるまでに仕上げる段取りです。この二件の製作班の編成は、パリヌルスの方も私の方もすでに終えています。また、舟艇建造の件については調査班を早急に編成して、用材に使う原木等の調査にかかろうと考えています。そのうえで建造計画を立案して諸事に当たります。舟艇の建造は、用材の原木の良否がその出来上がりの完成度を左右します。良材を得ることができるか否かが大きな問題なのです。『方角時板』の責任担当がパリヌルス、『風風感知器』の責任担当が私です。『舟艇』に関しては、私ども二人が責任担当して事に当たっていきます』
 『おっ、判った。オキテスの説明で事の次第を充分に理解した。軍団長、やろうとしている仕事は結構でかい。二人では手に余ることもあるだろうと思う。イリオネス、お前、彼らのバックアップに力を入れてくれ。パリヌルス、オキテス、両人。俺と軍団長がお前たちを支える、約束する』
 『統領、ありがとうございます』
 『打ち合わせ事項は以上かな。何かあるようなら言ってくれ』
 一同は顔を見合わせた。パリヌルスが口を開いた。
 『今、日常の業務の流れがうまくいっています。今日の午後には、編成した班を軍団長に紹介しようと段取りしています。以上です』
 『よし、では、これにて打ち合わせを終わる』
 イリオネスは、特務調査隊の編成と実行を気にかけていた。