『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  329

2010-10-29 06:48:32 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『こいつらが『海岸は危ない、ギリシアの奴らがウロウロしていると思う』と言います。まず、『キラズリ』へ行こうということで、その場を後にしたのです。私たちは山中を懸命に逃げたのです。途中、ギリシアの奴らの残党狩りに出会いましたが、敵勢は5人と少なかったので、これを圧し囲み、叩き斬って逃げました。この頃には、東の空が明るくなってきていました。明るくなったとはいえ山中を歩くのに難儀の連続でした。幸いなことに追っ手が来ないことに安堵して、身を潅木の茂みに隠して休んだような次第でした。ここにいるナックスが キラズリ、そして、ベイチャズル を通って リャクゼキ への道を知っているというので、彼を案内役にしたてて逃げました。キラズリ、ベイチャズル で略奪をして、空腹を満たして、二日間山中をさ迷い歩いて、どうにか リャクゼキ の浜に着きました。ここで、もういけないという二人を残して、夜であることをいいことにして、11人で漁師の船を盗み、海峡の北のはずれを対岸の ゲリボリ の浜へと海を渡ったのです。もう、命からがらでした』
 メッキスは、事細かに話した。

第2章  トラキアへ  328

2010-10-28 07:19:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テトラスと渡り合った男の名が、メッキス、他の二人はコッダス、ナックスと名のった。三人ともパリスの率いる部隊にいたという。オキテスは問い詰めていく、
 『おい、お前ら、いつトロイを抜け出したか言って見ろ。そして、ここまで、どのようにして来たか言え』
 『はい、申し上げます。燃え盛るトロイを逃げ出したのは夜明け近くでした。私どもの隊は、20人ぐらいで城中でギリシアの者どもと、刃を交えていました。プリアモス王が祭壇の前でネオプレトモスの凶刃に倒れ、敵兵が城中に溢れてきました。私どもはどうしても抗しきれなくなってきました。一人倒れ、また一人倒れして、城門から外へ出たときは、傷を負った者も含めて13人になっていました。門外の森の中に逃げ込みました。傷を負った者を引きずって懸命に逃げてきて大木の影に身を隠し、トロイ脱出の相談をしたのです。『おい、どうする』『逃げ出すよりほかに方法がないだろうが』『どこへ逃げる』と言い合って、海岸に出てチャナツカレはどうだろうと言ったのですが、、、、』
 メッキスは息を継いだ。

第2章  トラキアへ  327

2010-10-27 07:29:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 クラテスがオキテスに事の始終を短く報告して指示をあおいだ。
 『よし判った。奴らの武装を完全に解いて、門前で待て、おって指示する。ご苦労であった。テトラスと二人の兵にもそう伝えてくれ』
 『判りました』 クラテスは、その場を辞した。
 小半時が過ぎた、テトラスは奴らを引っ立てて広間に来た。アエネアスとオキテスは話し込んでいた。
 『オキテス、事情はわかった。尋問はお前がしろ』
 『判りました』
 オキテスは、引っ立てられてきた男どもの風体をしげしげと見定めて、おもむろに言葉を発した。
 『まず、お前らの名を聞く。一人づつ名を名乗れ。トロイにいるときはどうしていたか言え』
 オキテスの尋問が始まった。
 男どもは、やや伏し目がちな姿勢でたんたんと答えた。オキテスは、その様子と語り口から、男どもにうそ偽りのないことを解した。
 ギリシア連合軍の容赦ない殺戮と城市の焼討に遭って、トロイの消滅のときから、4ヶ月に至ろうとする時月が経っていた。

第2章  トラキアへ  326

2010-10-26 06:53:35 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ギエッ!』
 男は叫びをあげてその場にのけぞった。のけぞった男の首に再び剣先を突きつけた。
 『貴様!何をする気だ』
 クラテスは吼えた。
 『他意はない。捨て置くのも何だから、拾らおうとしただけだ』
 『立てっ!ばか者!』
 クラテスは、男の剣を手にして、男をひきづりたてた。一行は、テトラスを先頭に、怪しき奴ら一人に一人がついて砦にむかった。この頃には夜は明けきっていた。一行は砦に着くまで口もきかず、ただただ、黙々と歩いた。
 オキテスは、砦の櫓から、テトラスたちの様子を、じいっと見ていた。
 『あいつら、奴らを連行してくるのか。斬るに斬れないわけがあるのか。まあ~いいだろう。そのときはそのときだ』 とつぶやきながら、傍らの兵に指示をした。
 『お前、統領の館の前で、統領が起きてこられるのを待て。起きてこられたら事情を話して、広間へお連れしろ。俺はそこにいる』
 テトラスたちが砦に着いた。

第2章  トラキアへ  325

2010-10-25 06:47:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テトラスは、男が最後に言ったひと言に希望を託していることが判った。
 テトラスもクラテスも身構えを解いていない。二人は短く言葉を交わした。夜が明けつつある薄明の中、互いの表情が読み取れるくらいに明るくなってきていた。
 テトラスは注意深く周りを見回した。三人のほかに人影は見当たらなかった。四人は安堵した。テトラスたちは三人の風体を改めて見た。見れないまでにボロボロにくたびれていた。
 テトラスは男に声をかけた。
 『貴様の言葉にうそはないな。少しでも、おかしな素振りがあったら、その場で斬り捨てる、文句はないな。そのときはそれまでとあきらめろ!お前ら三人を砦に連れて行く』 といったとき、
 男は、腰をかがめて、投げ捨てた剣を拾おうとした。間髪を入れることなく、クラテスは、地に落ちている剣を左足で踏み押さえ、手にしている剣先を男の喉許に突きつけた。
 『おまえ、何をする気だ!』
 一喝するや、クラテスは男の首を力いっぱい足で蹴り上げた。

第2章  トラキアへ  324

2010-10-22 07:42:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テトラスが怒り吼える、怒号が飛び交った。剣を構えて肉迫する、剣先の届く間合いにつめた。
 クラテスは、二人の兵に右前方に潜んでいる二人に立ち向かえと指示して、テトラスが対峙している修羅場に立った。相手も目をギラつかせ、剣を手にして身構えていた。殺気が辺りを包んでくる、かたや二人の者は丸腰である、尾羽打ちからして、枯れ枝を手にして震えていた。
 テトラスとにらみ合っている男が突然、身構えを解き、持っていた剣を前へ投げ捨て口を開いた。
 『俺たちは、お前たちにとって、怪しい者であることは間違いはない。そこにいる二人も、ともにトロイを抜け出してきた者だ』
 話は途切れた。テトラスが耳にした言葉にはトロイなまりがあった。その者は途切らした言葉を続けた。
 『砦の者よ、俺たちは抵抗はしない。また、いるのは、この三人だけだ。斬って捨てるなり、砦に連行するなり、好きにしろ』 その者らは開き直った。

第2章  トラキアへ  323

2010-10-21 07:08:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼ら四人は、砦をあとにして夜明け前の薄暗闇の中を、人影を目にした方角に歩を運んだ。一行はテトラスを先頭に歩を進めている。砦を出て5分、テトラスは、歩を止めて手振りで三人を制した。
 テトラスは、薮影の闇に人の気配を感じた。身を潜めた、目を凝らして闇を見透かす、相手もテトラスたちの動きを察しているはずである。テトラスはクラテスに息を吐く声で呼びかけた。
 『相手は何人だ』
 クラテスは手で方向を指し示し指を1本立てた。次いで方向を変えて指を2本たてた。うなづくテトラス。
 テトラスは、二人の兵に指示を与え、クラテスに一人の方へ自分と二人で立ち向かうことを手振りで合図して立ち上がった。
 彼は大声をあげた。
 『おいっ!貴様らは何者だ。答えろ!』
 『次第によっては、貴様の命を絶つ!』
 二人は、恫喝した。

第2章  トラキアへ  322

2010-10-20 06:51:05 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 空の藍色はまだ深い、星数が減りつつある、夜明けが迫ってきていた。
 砦の東面の櫓に緊張が走った。見張りの者が遠い薮の茂みに、人影を見た。今、砦は手薄である。大半の者がアーモンドの群生地に出て行ってしまっている。見張りについている者二人は迷った。
 『おい、どうする』
 『オキテス隊長にとにかく連絡だ、指示を受ける。お前、頼む、連絡に行ってくれ』
 『判った。テトラス、あの薮から目を離すな』
 いいおいて、クラテスは回廊を一目散に走った。
 程なく、オキテスは二人の兵を連れて、東の櫓に来た。
 見張りの者に事情を聞いて指示を出した。
 『俺はここから状況を見ている。テトラス、クラテス、この二人を連れて、様子を探れ。方角の見当はついているな。もう直ぐ明るくなる、急げ!相手が多ければ逃げ帰れ、3~4人だったら、問答無用で叩き斬れ、以上だ。相手に抜かせるな。いいな。よし行け』
 彼は、言い終わって付け足した。
 『ぬかるな!!』
 裂ぱくの気合を入れた。

第2章  トラキアへ  321

2010-10-19 06:29:10 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、オロンテスの差し出した一本を手にとって一同に見せた。
 『これはアーモンドの樹の高い枝をゆするのに使う木だ。すてられている雑木を切って、オロンテスが作った。整地作業は、あと3日で終わる予定である。整地が終わり次第、収穫に取り掛かるのだが、オロンテスがこのような道具が必要だといっている。群生地の外へ運び出した雑木でこれを作ってほしい。一隊当たり50本だ。期限は明後日だ。判ったな。頼むぞ、以上だ』
 『判りました。各隊、50本ですね。皆、判ったな、各隊50本だ。いいな』
 アカテスが一同に向かって大声で言った。
 『軍団長、出来上がったら、どこにおきますか』
 『おっ!そうだな、各担当区の入り口においておくことにしよう』
 皆は見本を手にとり、確かめて打ち合わせの場を去っていった。
 『オロンテス、これでいいな。皆、了解している、安心しろ』
 『ありがとうございました。これで万事うまくいくこと間違いなしです』
 オロンテスの心は、もはや、収穫の日にとんでいた。
 夕食をとりはじめた全員が、整地のこと、アーモンドの実り具合などを話しながらの食事風景であった。

第2章  トラキアへ  320

2010-10-18 08:08:56 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、オロンテスのもとを離れて作業隊に面々がたむろしている方へ足を向けた。向こうからギアスがやってくる。
 『おう、ギアス、今日の作業の具合はどうだった』
 『え~え、今日も順調、このうえなしです。アーモンドの実のつきもすこぶるいいですね。軍団長、何か用事でも、肩に荷があるって感じですが』
 『そうかそうか。俺の肩にのっかっている荷が見えるか。いや、今日もご苦労であった。まず、今日の一日をねぎらってから本題に入ろう』
 『何ですか?』
 『皆、帰ってきているか。カピユスの隊と荷役の者たちの隊がまだ帰ってきていませんが』
 『あのな、ちょっと打ち合わせたい用件がある。めし前に打ち合わせをやる。隊長連を集めろ。一同、揃ったら俺を呼びに来てくれ、ギアス』
 『判りました』
 一同が揃うのに少々間があった。ギアスが呼びに来た。
 『軍団長、一同、揃いました。こちらです』
 イリオネスはオロンテスをつれて、一同のいるところにやってきた。
 『おうっ!諸君、今日もご苦労であった、みんなが元気でいる、これが一番だ。作業のほうだが、うまくいっているか。何か聞きたいことがあるか。あれば言ってくれ、聞くぞ。ところで今日は、諸君に頼みたいことが一件ある。聞いてほしい』
 彼は言っておいて、オロンテスの方に向いた。
 『オロンテス、お前の作った見本をくれ』