『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  10

2009-07-31 10:46:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 突如!行く手をさえぎる波濤の壁、船首衝角を突き立てる、襲いかぶさる海水、ずぶ濡れて船中の海水をかき出す船上の兵、自然の為す業との格闘の烈しさに歯を喰いしばり、その熾烈に耐えた。各船は、波に翻弄されながらも安定を保って航走を続けた。
 パリヌルスは、このスピードで進み、浜にのりあげた場合の危うさについての対処を考えた。そこにある危機は、並みの危機ではない。そのひとつは、上陸時の不覚悟の混乱である。ふたつめは、敵襲に対する交戦必勝の態勢を整えて、戦うことができるか否かである。対応を考えなければならない。対応を怠った場合は、そこにあるのは、敗北の二字である。
 パリヌルスは、今の情況から見た交戦直前に、兵たちを危難に晒す、将の愚かさを思った。

第2章  トラキアへ  9

2009-07-31 08:44:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスの率いる軍団は、総数700人足らずであるが、1200人ぐらいの軍団には、充分に対抗できると自負できる能力を有していた。相手が如何なる敵であろうと、個の戦闘力、集団としての戦闘技術力、隊を率いる隊長の統率力、そして、兵器の優劣、それらを総合した戦力の優位性は群れを抜いて優れていたのである。ただ、今、言えることは、長途の海旅のよる疲労だけがマイナスであり、戦闘意欲は、敵に倍している自信を持っていた。だが、戦いは、戦端を開いて見なければ解からない。敵を抑えられるかどうか、制圧できるか。
 パリヌルスには、指の先の未来が、まだ見えてはいなかった。
 そのような思考を繰り返している間に船団は、上陸を敢行しようとする浜の情景のうかがえる地点にさしかかっていた。

第2章  トラキアへ  8

2009-07-30 09:44:24 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスの目指した<エノス>の地は、現在、トルコの西端に位置するエネズ市の辺りではなかろうかと思われる。エネズ市は、北より流れ下ってきているエブロス川の河口より、すこしさかのぼった左岸にある市である。このエブロス川の向こうはギリシアである。
 ブルガリア、ギリシアの北東地方、トルコの北西地方の一帯は、エブロス川、及び、その支流を中心にして東は、黒海に至る地方(バルカン半島)は、広大な平野であり、古代トラキア文明の栄えたところでもある。エネズ市からの北には、GOTU山の丘陵があり、さらに、その北にはGALAの湖がある。
 ギリシア本国の狭い平野とは比較にならない広い平野が、このエネズ市の北に広がっているのである。
 トロイ戦役の、この時代のトラキアの平野のあちこちに、小さな砦を築き、小豪族、いや、領主が割拠して、1000人足らずの人民を擁して覇を競い、戦闘に明け暮れ、一部族として存在していたのである。
 アエネアスと対峙する、ポリメストルの率いる部族は、そういった部族の中でも大の部類に属していた。

第2章  トラキアへ  7

2009-07-28 15:18:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 このときのトラキアの領主ポリメストルは、敗色の濃いトロイの地への軍の派遣については乗り気ではなかったが、先王の願いもあり、不承不承、援軍を派遣したのである。トラキア軍は敗北した。ポリメストルは怒った。どうしてくれようと思案した。トラキアに預かりの身であるトロイのプリアモスの子息の一人であるポリュドロスのことに考えが及んだ。『奴を始末する。』 ポリュドロスには、毎月、トロイから大枚の金銀が送られてくる、また、彼の持っている財にも目をつけた。心を決めたポリメストルは迷わなかった。彼の持っている金銀と財の全てを奪い、殺害した。その首をアガメムノンに送り、アガメムノンと手を結んだのである。
 アエネアスは、少年時代の一時期、トラキアで過ごし、文武を身につけた。トロイとギリシア連合軍が戦端を開いてのち、トロイに帰るまえの一時期、ポリュドロスと過ごした日もあった。
 アエネアスは、彼が生きていてくれることを願っていた。この期待が裏切られることはないであろうと、心の片隅で思っていたのである。

第2章  トラキアへ  6

2009-07-27 09:27:52 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 今、船団が、そして、この軍団を率いている統領のアエネアスの目指しているトラキアは、彼の思いとは裏腹に大きく変わっていた。アエネアスは、その変貌に付いて全く解かってはいなかった。
 軍団は、迫り来る危機に配慮して臨んでいる、だが、アエネアスは、心の片隅で一戦を交えることなく上陸できると淡い期待を抱いていたのである。
 トラキアは変わっていた。トロイの将であり、プリアモスの息子のヘクトルがギリシア軍のアキレスに敗れたのち、トロイ軍は、トラキアから援軍を迎いいれた。そのトラキア軍がギリシア連合軍に大敗を喫し、散々な目にあい、這う這うの態で、自国トラキアに逃げ帰ったのである。

第2章  トラキアへ  5

2009-07-23 07:41:30 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは、まず、後続の2船に向けて信号を送った。彼らには、すでに松明信号のことが伝えられていたのであろう、信号を送る、返信が届く、松明による信号会話が続けられた。次々と後続の各船に信号指令が伝えられていった。
 昼は過ぎた。船団の航走スピードが増していた。風が強くなってきている。風浪の飛沫が頭上を越して風に散る。船上の者たちは、うずくまり、姿勢を低くしていた。
 海は、荒れの前兆を呈してきていた。この頃には、船団はサモトラケ島をはるか後方に望む地点に達していた。
 太陽は、雲に見え隠れしている。太陽の高さから推測して、午後の後半であろうと時を認識した。
 船上の者たちは、迫り来る危機のときを敏感に感じ取っていた。それとともに大陸が近くなってくる。上陸のときが刻々と迫ってきていた。

第2章  トラキアへ  4

2009-07-22 08:25:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人は、同時にパリヌルスに声をかけた。
 『パリヌルス、宜しく頼む。我々の部隊は、6隻の船に分散している。各船には、パリヌルス、君の部下たちも乗っている。指示の方をよろしく頼む、また、作戦の大略を俺たち4名と君の部下たちにも話しておいてくれ。俺たちは、君の指揮に従って、兵を率いて敵と闘う。いいな。』
 『統領から聞いている先の部隊の情況が全く判らない。我々だけで作戦を遂行して勝利しなければならん。敵の勢力が俺たちの倍であろうが、いかに我々を上回ろうがそのような事問題ではない、臆せず立ち向かおうではないか。勝利は、我々の掌中にある。自信をもって敵を倒す!』
 『おうっ!了解っ!』 力強く言い切ると、6人は、手を握り合った。
 パリヌルスは、部下に命じて、松明を準備させた。

第2章  トラキアへ  3

2009-07-21 09:39:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、次の用件に移るべく言葉を継いだ。
 『通常の陸上戦の場合は、敵と戦う前に予定戦場の条件に合致する、布陣及び隊形を整えるのだが、上陸作戦、特に、此のたびの様な、この天候での水際背水作戦であること、不明の地勢条件での闘いでは、軍団としての不敗のための周到さが必要である。それ故に、この種の闘いの経験のあるパリヌルスに戦場の指揮をゆだねようと思っている。諸君らの意向はどうだ。』
 『いいでしょう。統領!パリヌルスの指示に従って闘います。』 と言い終わるや、二人と居並んでいる、その部下たち二人は、パリヌルスに顔を向けた。

第2章  トラキアへ  2

2009-07-20 08:45:06 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『海はでっかい。イリオネス、気がかりについては、よく判る。我々の差配の手の届かぬ大自然のことだ。我々は、自然のくれる、いい条件を味方にして、最善を尽くす。紙一重で、いい結果で、この航海を終えると思っている。安心しててくれて、いいと思う。』
 『判った。パリヌルス。』 イリオネスは得心した。
 アエネアスは、うなずきながら口を開いた。
 『ところで、諸君!エノスに着いてからのことだが、先着の者たちのことを含めてだが、いま、ここでは、現地の情況が全くわからない。そのようなわけだが、俺の心のうちと決意の程を諸君らに伝えておきたい。ひとつ!上陸に際して、一戦を交えなければならないときは、交戦を辞さない!いいな、心しておいてほしい!ふたつ!あとは、機に臨んで変化で応じる!策は、これに尽きると思っている。イリオネス、アレテス、他、皆が判っていると思う。俺の指示、命ずるところに従って動いてほしい。諸君、兵の統率をしっかり頼む、以上だ。交戦におよべば、勝利以外はない!』 アエネアスは、力強く言い切った。

第2章  トラキアへ  1

2009-07-17 08:29:04 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 船上では、アエネアス、パリヌルス、イリオネス、アレテス、他3名の副将格の兵を含めて打ち合わせを行った。
 『パリヌルス、エノスに事なく着くか。お前の思いを聞きたい。』
 『風は、船をまともに押しています。危険をはらんではいますが、快調に走っています。エノスに着くのは、出航時に考えた通りの時間で各地点を通過しています。陽のあるうちの夕刻に着きます。海が荒れることを気にかけています。空に雲が出てきております、危険を感じていますが許せるだけの船足の速さでの航走です。これで走れば、荒れる前にエノスの入り江に入る予定です。』
 イリオネスが懸念について、口を挟んだ。
 『パリヌルス、君の言うようにうまくいけるか、とても気になるところだ。俺としては非常に心配している。』