『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第1章  トロイからの脱出  59

2009-05-29 07:53:10 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 軍船の係留地としているが、それは、だだっぴろい砂浜であり、船だまりなのである。この時代の船舶の構造と、それに対する適当な水深のある海浜に過ぎない。人の集まる集落があり、交通の要所的であり、自然の湾構造、入り江的要素を利用しての船だまりである。
 この時代のレスボス島のミチリニ、南のミレトス、そして、ギリシアの有名諸港のように人工的に築港されたものではなかった。広い砂浜が船舶の置き場所であり、修理を施すドックであった。
 アエネアスの軍船の係留地は、エドレミトの集落の約20キロメートルくらい、西に位置しており、船だまりの西の端であった。
 アエネアス所有の軍船は、比較的新しく、製作したのは3年くらい前であり、古いものではなかった。各軍船、改造型交易船には、タールが塗りこめられており、耐水処理が施されている。準備が整った軍船8隻、対海賊改造型交易船(軍船改造型)2隻は、すでに海上にひきだされて浮かんでいた。
 
 到着した、軍団の兵たちの各面々は、砂ほこりにまみれて、疲労困憊の態であった。

第1章  トロイからの脱出  58

2009-05-28 06:41:28 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスにパリヌルスが声をかけた。
 『隊長!昼食の準備の事があります。係留地に着いてからの段取りを聞かせてください。手の者を走らせて、指示しなければならないので。』 
 『よし、判った。統領と打ち合わせてくる。ちょっと、待て。』
 イリオネスは、アエネアスと打ち合わせた上、パリヌルスに伝えた。それを受けて、即、部下二人に指示を与えた。彼らは、隊列を離れ、全力で駆け出した。
 大きなエドレミトの湾の海面は、中天にかかっている夏の陽に輝いていた。まるで地上での出来事などに関係がないと言わんばかりであった。このあと、数時間後には、軍船の漕ぎ手の櫂によって、掻き回され、泡立つことなど知らぬような夏の風景であった。

第1章  トロイからの脱出  57

2009-05-27 12:51:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、パリヌルスと並走していた。歩調がおそくなった頃合をみて、パリヌルスは、アエネアスに報告した。
 『統領。準備、手配、全て完了しています。出航を待つばかりです。』
 『判った。ありがとう。礼を言うぞ。パリヌルス。』
 アエネアスは、イリオネスに出航の準備の整っていることを伝えた。係留地を見てからの彼らの歩調は、軽やかになっていた。しかし、アエネアスの心の叫びは、
『急ぐのだ、アエネアス。いっときも休んではならん。先を急げ!お前の心の休まるときは、もっと先のことだ。とにかく急げ!』 と急きたてた。
 軍団は、アイバシクの川原から、休まずに駆けている。50キロ余りを駆け通して、軍船係留の入り江の見える地点に来たのである。軍団の兵たちの面々に喜色が見える。一方では、隊長が彼らを叱咤した。
 『気をゆるめるでない。しっかり、前を見て駆けろ!』

第1章  トロイからの脱出  56

2009-05-26 06:24:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスが前へ進み出てくる、3人のうちの一人に声をかけた。
 『お~お!パリヌルス、元気だったか。』
 『あっ!軍団長!先駆けの者から聞きました。大変だったですね。ご無事でしたか。』
 『おっ!パリヌルス。イリオネスだ、久しぶりだ、変わりはないか。』
 『イリオネス、大変だったな、道中、無事だったか。』
 『変事にも会わず、ここまで来た。』
 『そうか、それは何よりだった。あとは、大丈夫だ。変事の起きようもない、安心しろ。』
 アエネアスは、言う。
 『ここまで、俺たちを迎えに出てくれたのか。礼を言うぞ、パリヌルス。ありがとう。』
 イリオネスもうなづく。彼ら3人は、握手を交わした。
 『パリヌルス、伝えておく。軍団長のことを<統領>と呼ぶことにしたのだ。』
 『そうだったのか。<統領!>響きがいいですね。さあ~っ、行きましょう。統領。』
 パリヌルスは、きびすを返す、一団は、歩みを開始した。歩調は、速くなっていく、軽速歩(けいはやあし)歩調で駆けた。

第1章  トロイからの脱出  55

2009-05-25 06:43:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 夏の太陽は。思いのほか高みにあった。今様時間にして、8時近くと思われる。
 イリオネスの隊を一番隊として、くつろいだ川原を後にした。アイバシクの村落を右手に、迂回して、クーユへの道をとった。
 隊伍を整えたアエネアスの軍団は、夏の光の中を威風さえ漂わせて軍を進めた。
 クーユを通過し、アルノルクへと向かう。アルノルクの村落を左手にして、海岸よりの道を駆けた。
 遠くに舞っている砂塵が駆け寄ってくる、先行させた、もの見の兵が、こちらに向かってくる、進みを止める軍団、彼らは、隊長のイリオネスに報告に及んだ。
 『隊長!前方に20人余りの武装した兵の一群がいます。そのうちの3人が、追ってきています。何者かは不明です。以上。』
 その時、もうすでに、その3人は、指呼の先までに来ていた。双方は、歩みを止め、眼光鋭く、対峙した。

第1章  トロイからの脱出  54

2009-05-22 06:46:14 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 一同を見渡したアエネアスは、落ち着いた口調で切り出した。
 『軍船係留の入り江には、昼までに着く。隊は、三隊に編成して進む。一番隊は、イリオネスの部隊、二番隊は、アガテス、お前の部隊だ、殿りの三番隊は、アレテス、お前の部隊だ。俺は、一番隊に同行する。父とアスカニウスは、アレテス、お前に頼む。次に、入り江までの道のことだが、クーユを過ぎれば、海を右手に見ての道だ。俺の予想としては、変事は起こりえないと思っている。しかし、充分に、あたりに気を配って進め。何時、如何なる事態が起ころうとも不思議ではない、決して動じるではない、いいな。質問はないか。聞きたいことがあったら聞け!』
 『統領!判りました。』 一同は肯いた。
 『よし!隊の編成が整いしだい、出発する。イリオネス、頼みたい。俺の馬を見てくれ、替えたい。以上だ。』
 総員、出発の準備に取り掛かった。時間を要することなく出発態勢が整った。

第1章  トロイからの脱出  53

2009-05-21 06:56:39 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスと村の長との話し合いがつき、食糧の調達は、ことのほか、うまくいった。300人に及ぶ兵たちの食糧のことである、並みの量ではなかった。
 アレテスの隊の者たちも川からあがり、さっぱりして、川原でくつろいだ。
 イリオネスが帰ってくる、彼の交渉で得た、おびただしい量の食糧が皆に配られ、各自が充分に腹に収めた。馬たちにも川原に生い茂っている草を刈り取り、充分と思われるくらいに与えた。
 『統領!皆が集まりました。』 アレテスが伝えてきた。
 『よし!打ち合わせをやろう。』 彼は、立ち上がった。
 アエネアスは、急ぐ旅中にありながら、事の運びに慎重であった。
 『一同、ここまで来たこと、苦労であったな。今一度、念を押す、本当に無事なのだな。』
 アエネアスは、一同を見渡し、目線を交わした。
 『皆が無事であったこと、俺は、とてもうれしい。これから、あと、エドレミトの軍船の係留されている入り江までのことについて、打ち合わせておく。』
 彼は、ひと呼吸をいれて、鋭い目線で見渡した。

第1章  トロイからの脱出  52  3行挿入します。

2009-05-20 09:18:46 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『ーーーーーーーーーーー川の水で身体を洗い、休むように言え。』

 『判りました。』
 『アレテス、そのあと、隊長連を集めろ。簡単に打ち合わせをやる。』
 『イリオネス、腹具合はどうだ。皆、腹を空かしているだろう。』

 『それは、もう。』

第1章  トロイからの脱出  52

2009-05-20 08:35:14 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスがアエネアスに声をかけた。
 『統領!無事でしたか。気にかけていました。』
 『おう、ありがとう。道中、変事なく、ここまで来た。皆も無事であったか。』
 アエネアスを中にして、一同、安堵の笑みを交わした。
 『アレテス、具合はどうだ。お前らは、出発前の闘いで、血を浴びている、俺もそうだが、皆に川の水で身体を洗い、休むように言え。』 
 『それは、もう。』
 『よし、アガテス、リナウス、馬の具合はどうだ。予備の馬は、何頭くらい引いてきたのだ。』
 『引き連れてきた馬は、24~5頭です。』
 『では、こうしろ。馬全体を見て、あとの行程に無理だと思われる馬を10頭くらい連れて来い。』
 『イリオネス、馬を引き連れて、村落に行け。そこで村落の長に会い、食糧を調達するのだ。エドレミトに行くことは言っていい、しかし、トロイの落城については言ってはならん。頼むぞ、いいな。』
 『判りました。』
 そのあと、アエネアスは、父とアスカニウスをつれて、川の流れに身を浸した。
 イリオネスは、リナウスを従え部下数名と馬を引き連れて、食糧の調達に出向いた。

第1章  トロイからの脱出  51

2009-05-19 06:51:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスの軍団が馬で駆けた、その走りは、敵の襲撃が予想される、極めて危険な地帯を脱するまでは、速歩(はやあし)と駆歩(かけあし)を繰り返し駆けた。敵襲の危険が薄らいでからは、馬の鼓動を肌で感じながら、常歩(なみあし)歩調をおりまぜて、平坦な道は、人馬が一体となりやすい、軽速歩(けいはやあし)で駆け走った。
 
 日の出を仰いだ一行が歩を進めて1時間、彼方遠方に目にしたのは、暁の光に輝く、一条の川筋である。その向こうには、アイバシクの村と、その周辺に広がる田園が見えた。
 水である。馬足が速くなってきている。馬上の兵たちは、馬の律動に同調して、快調に駆けた。
 程なく、川辺に着いた。一行は、先着して小休止をしている一同と会した。イリオネス、アカテス、セレストス等と兵たちが、アエネアス、アレテスと、その部隊を迎え、彼等は、お互いの無事を喜び合った。
 『無事でよかった。それにしても、お前ら血なまぐさいな。川で身体を洗ってさっぱりしろ。』