『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  244

2010-06-30 07:26:50 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、彼らに指示したあと、役務について事細かに説明した。質疑応答に応じているとき、戸口に立っているトリタスを見とめた。アエネアスが出迎えた。
 『皆、心得たな。今日、夕食前に西門広場に全員を集めて、今、決めたことを皆に知らせる。アカテス、リナウス、オロンテス三人で手はずを整えてほしい、いいな。その席で俺が皆に伝える。以上だ。今日の会議はこれで終わる。宜しく頼む』

 『トリタス、このたびは、大変、世話になった。なんと礼を言っていいか、この通りだ。ありがとう』 
 アエネアスは、丁寧に礼をした。
 『統領、そんな、丁寧な礼には及びません。もう、昼近くになります、よろしかったら私の浜小屋に来ませんか。今朝の漁でうまい魚が獲れました。昼を一緒にしませんか。イリオネス様も一緒にどうぞ』
 アエネアスは、イリオネスにも来るように告げて、先に浜小屋を出た。浜砂は素足では歩けないくらいにやけていた。

第2章  トラキアへ  243

2010-06-29 07:35:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、一同に簡単に話の方向を示し、打ち解けた気持ちで話せる雰囲気をつくろうと心がけた。
 『皆、くつろぎの中で話し合ったと言う感じで今日のテーマを検討しよう。話すときは身構えてはいかん、いいな。『我々がこれからどのように暮らしの形をつくっていくか』これが課題だ。いいな』
 イリオネスの話す雰囲気で場がなごんだ。
 彼らは、エノスの浜に着いてからの今日までを、そして、過ぎ去ったトロイ城市での生活を振り返った。イリオネスは、彼らの生活に関する思い、考え方を抽出しながら話を進めていった。皆の思う、これからの生活の形をまとめたうえで、その世話役に最適と思われる者を選んで、組織と体制の構築をはかった。イリオネスと幹部たちも知恵をしぼり出して検討を重ね、いい形にまとめ上げた。
 イリオネスは、まとめた構想をアエネアスに報告した。
 『よしっ!できたか。どれどれ、うん、これでいい。これで彼らに役を担当させ、お前が中心になった委員会をおくのだ。それでいい。即、実行しよう』
 イリオネスは、役名を示し、世話役担当を指名した。

第2章  トラキアへ  242

2010-06-28 06:39:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、新しい体制の人選について事前にアエネアスと打ち合わせを終えていた。
 アエネアスは、集まった者たち、一同を見渡した。
 『諸君!砦及び宿舎の建設に懸命に努めてくれた、ご苦労であった。不備な点もあるが、考えていた以上のいい出来の砦と宿舎に仕上がった。諸君、誠にご苦労であった。ありがとう。此処に君たちに礼を言う』
 彼は此処で一息いれた。
 『ここに、ひとつの事業計画を終えたことを宣言する。砦の建設地点の選定、砦及び宿舎の建設に責任者として、その大切な役務を果たしてくれた、イリオネス、パリヌルス、アレテス、オロンテスご苦労であった。心から礼を言う。ここに、その役務を解く。私は、思う、これからは、新しい体制を敷いて我々の暮らしを維持していかねばならない。そのことを今日の会議ではかりたい。イリオネスを中心に二、三の者たちが検討した案ができているとの事である。それをさらに検討して、あたらしい体制を打ち立てて実行して行こうではないか。我々の明日のためである。では、イリオネス、一同と打ち合わせを進めてくれ。以上だ』
 アエネアスの言葉で一同の気が引き締まった。

第2章  トラキアへ  241

2010-06-25 06:31:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『如何でしたか、統領。新しい館での第一夜は』
 『うん!いい、なかなかいい気分であった』
 『私も充分に休めました』
 アエネアスは、水浴をしながら、朝の儀式を終えた。
 『イリオネス、朝食を終えたら、昼まで会議をやろう。新しい体制を整える打ち合わせだ。主だった者たちに集まるように指示を出してほしい。場所は、浜小屋でやろう』
 『判りました』
 アエネアスは、イリオネスに追加の指示をした。
 『それから、皆が集まってからでいいが、昼近くにトリタスが浜小屋に来るように使いの者を出しておいてほしい』
 イリオネスは、すでに、新しい体制を築くための陣容を考えていた。彼は、これまでのメンバーに意中の者を加えて、会議の開く旨を伝えるようにアレテスに指示した。
 砦の建設中は、雨の日が2日もあっただろうか、晴れた日が続いて、仕事が順調に進んだのである。
 今日もよく晴れている。久しぶりに招集された会議であった。

第2章  トラキアへ  240

2010-06-24 07:29:01 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、意図していた為さねばならないことの一つを終えた。彼は、肩の荷を一つ降ろした。この仕事を完結させたことを、父のアンキセスは、ことのほか喜んでくれた。
 炎上、消滅していくトロイ、そのトロイを去って、このトラキアの地に来て、先住の民との融和も果たし、安堵できる生活圏を定め、安んじて起居できるところを得たのである。

 新しい宿舎を住まいとしての第一夜が明けた。目覚めて水浴で始める朝は、この上なく新鮮であった。浜ですれ違う、交わす挨拶の言葉も活き活きとしていた。陽射しも、まだ、地を焼いていない、この時、吹きすぎていく浜風が乾いていない肌に心地よかった。
 新居第一日目の朝を迎えたアエネアスとユールスも海辺に向かった。イリオネスが数歩、先を歩んでいく。
 『お~い、イリオネス』 イリオネスは振り返った。
 『あ~っ!統領、おはようございます』
 『おう、おはよう。一緒に行こう』
 彼は、ユールスにも声をかけた。
 『ユールス、おはよう』
 『はい、おはようございます』
 ユールスは、明るくよく通る声で返事を返した。

第2章  トラキアへ  239

2010-06-23 06:53:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 歓声は、広場の全員の心を、魂をゆすぶった。興奮のるつぼと化した。
 イリオネスが壇上に姿を現す。彼は、大声で吼えた。
 『これより、浜において、宴を開く!』
 宴の場は、例によって25人くらいで焚き火を囲んでの宴である。会場はすでに整えられていた。祝いにいただいた牛羊も屠られ、各グループに配られている。酒も充分に準備されている、魚介、野菜、フルーツの類まで、ふんだんに配られていた。
 イリオネスが開宴を告げた。宴席に付いている皆が大歓声を上げて、乾杯におよび、宴の火蓋を切った。
 アエネアスは、エノゼリアス領主とその側近、そして、トリタス、サレトの両浜頭、浜衆、集落の者たちと同席して、感謝の意をこめて、酒肴を一同にすすめた。
 宴は、盛会を極めた。祝いに訪れた者たち、アエネアスと軍団の者たち、市民たち全ての者たちが満足した祝宴であった。宴は、昼過ぎに始まり、太陽がエーゲ海を茜に染める頃まで続いた。

第2章  トラキアへ  238

2010-06-22 06:13:50 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『失礼しました。エノゼリアス領主、これから、砦の完成式を執り行います。どうぞ、こちらへ』
 エノゼリアス領主は、準備されている席に一行を従えて着席した。
 『領主、お変わりなく』
 トリタスが声をかけた。一行の者たちもトリタスの方に顔を向けた。
 『お~お、トリタスではないか。達者に過ごしているか』
 『はい、おかげさまで、達者に過ごしております。今日は、アエネアスの砦の完成式にお運びですか。いつもながら、ご壮健そうで何よりと存じ上げます』
 『トリタスも完成式に来たのか』
 『はい、さようです』 
 二人は親しく交誼の言葉を交わした。
 アエネアスは、黒と白の羊を屠り、祭壇に供え、酒を酌み、砦が完成したことについて、神に感謝と行く末の安泰と平安を祈りあげた。
 ついで、集まっている皆の方に向き直り、力強く宣言した。
 『此処に告げる。皆の総意に基づき、この砦を『アエネーダナエ』と呼ぶ。神の大いなる庇護を受け、皆によって造られた、皆とともに栄える、皆の砦である』
 歓声が上がった。大歓声である。歓声は、砦を震わせ、森の木々をも震わせて響き渡った。

第2章  トラキアへ  237

2010-06-21 07:10:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 エノゼリアス領主は、注意をはらって、回廊からの風景を眺めた。砦から見る南方向の風景に感動した。
 『これは素晴らしい!エーゲ海が一望じゃないか。右手遠くにかすんでいるのが、サモトラケか』
 東の回廊へと進む。
 『東に川か、いいな』 
 そして、北の回廊へと来た。そこには、芽吹いた新芽の畑地が展開していた。
 『肥沃の大地、秋の収穫が楽しみだな。このように恵まれたところに砦を築いたとは、アエネアス、お前。お前の目利きは大したものだ。なかなか運のいい奴だ。砦は、簡素に過ぎるくらいだが、宿舎機能に重点を置いているな』
 『領主、言われるとおりです。私は、皆の暮らしを安堵させてやりたくて』
 一行は砦を見終えた。アレテスとギアスが来た。
 『統領、太陽が南中します』
 『おっ!そうか。準備は?』
 『整っています』
 『では、行く』 と応えておいて、アエネアスは、エノゼリアス領主の方へ身体を向けた。

第2章  トラキアへ  236

2010-06-18 09:47:59 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おうっ!来た来た。アエネアス、こっちだ。なかなか、いい出来栄えじゃないか。この砦、にわか造りにしては、よくできている。よかったな。お前の喜びは、俺の喜びでもある。ゼレカス、引き連れてきたものをこれへ』
 ゼレカスは、従卒を手で招き寄せた。
 『アエネアス、ささやかだが俺の気持ちだ、受け取ってくれ』
 ゼレカスも領主につれて、口上を述べた。
 『アエネアス殿。このたびは、砦の完成おめでとうございます。我らの領主からの祝いの品です。どうぞ、お納めください。本当に見栄えのいい砦に仕上がっています。砦の完成、心からお喜び申し上げます』
 従卒たちが引いてきたのは、牛が3頭、羊が10頭であった。アエネアスはギアスに言いつけて、丁重に受け取った。
 『エノゼリアス領主。ありがとうございます。祝いの言葉と祝いの牛羊、喜んで収めさせていただきます。そして、領主殿のお心、謹んで頂戴いたします。誠にありがとうございます。このアエネアス、この上なく重畳に感じ入っております』
 彼はイリオネスを呼び、エノス砦の領主とゼレカス、そして、その側近を伴って砦を案内した。

第2章  トラキアへ  235

2010-06-17 06:45:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 砦の回廊を巡って彼らを案内した。
 南東の角櫓に来たとき、ギアスがアエネアスを呼びに来た。
 『統領。エノス砦の領主殿が見えましたが』
 『そうか、判った。待っててくれ、一緒に行く』
 『オキテス、トリタス、サレト両浜頭と皆さんの案内を頼む。エノス砦の領主が到着されたそうだ。 トリタス殿エノス砦の領主が着かれたそうだ。私が最後まで案内しなければならないだがこのあとオキテスが案内します。どうぞ、心おきなく見てください。この砦はあなた方の世話になったればこそ、出来上がったのです。誠にありがとうございました。では、ゆっくり、見てください』 そのあと、オキテスに向かって、『オキテス、宜しく頼む』 と締めくくった。
 『統領、丁寧な心配り、いたみ入ります。こちらこそ。今日のお招き心から御礼申し上げます。どうか、呼びかけの殿はおやめください。トリタスで結構です』
 アエネアスは、挨拶を交わし、その場を去った。