『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

第2章  トラキアへ  53

2009-09-30 07:05:19 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、彼らの心を見つめるように目線を送った。
 『私の予想では、援軍の到着は、明日の夕刻だろうと考えている。どの浜に上陸するか,それが判っていない。敵が予定している戦場も不明だ。それとも、いま、我々のいるところを襲うのかも、現状では見当がついていない。俺の考えた、予定の戦場は、あらゆる条件から見て、この一点しか考えられない。敵を誘導し、これをあざむき、敵を殲滅するか。この一点に絞って、戦略構想を考えた。あとは、状況に少々の変化があっても充分に対処、応戦が出来る。これから、この一点における戦いの構想を話す、検討して手を打とう。いいな。』
 アエネアスは念を押した。
 『先ず、戦場における布陣だ。その兵数は、やや少なめの兵数とする。100人くらいで構成する部隊を3隊で布陣し、残る300人を同じく3隊に分け伏兵作戦で行く。広い平野のド真ん中で戦闘が展開する。我々にとって戦闘が有利になるように、敵を誘導し、引きつけ、罠にはめて、これを殲滅する。大筋はこうだ。判ってくれたか。いいか。』

第2章  トラキアへ  52

2009-09-29 06:47:43 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 一同の気は締まっていた。安堵した日々の訪れは、もう少し先であることを自覚した。
 木々から漏れてくる陽射しは、にぎやかであった。吹きぬける涼風が彼らを和ませている。アエネアスは、オロンテスたちを帰した。
 『諸君、いいか。これから、戦略会議を開く。アレテスの持ち帰る情報にもよるが、ポリメストルとの戦いは避けることは出来ない。浜頭のうちのひとりからの連絡では、ポリメストルの手の者、三人が夜も明けきらない頃に、サロスの浜をトロイに向けて船出したらしい。目的は、アガメムノンへの援軍要請と思われる。それ以外に考えられない。援軍がこの地に来るとすれば海路以外に考えられない。皆はどう思うか。』 一同は、アエネアスの話に頷いた。
 『統領、話を進めてください。』
 『今度のこの戦いは、どちらかが全滅する熾烈な戦いとなる。敵も我らの存在を許せないだろうし、俺の気持ちも敵を殲滅すると決まっている。俺の同胞を、俺の市民を、俺の民族を虐げ、その生命を脅かす奴らを生かしておくわけには行かないのだ。皆もそのように心を固めてほしい。』
 アエネアスは、これだけ言うと、鋭い目で一同を見渡した。

第2章  トラキアへ  51

2009-09-28 10:11:50 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 一同は、アエネアスの考えに頷いた。パリヌルスは答えた。
 『統領、言われる通りだと思います。結論は、一夜の時間をおいてではどうでしょう。先ず、現地を見てみましょう。』
 『判った。次は大事なことだ。食糧事情についてだが、この件について、皆に伝えておく。イリオネス、パリヌルス、オキテス、オロンテスたちに一任のかたちで段取りをつけている。これから、話すことは俺の望んでいることだが、聞いてほしい。まず、一番目だ。少々時期がはずれてはいるが、今ならまだ、間に合う。できることなら、今年の収穫をこの土地でやりたいことだ。二番目。出来れば、交易をやりたい。三番目。会同の中で話題にあがった、海賊問題のかたをつける。大体、以上のことを考えている。アレテスは、今夜中には帰ってくる。明日は昼前から結論の話し合いをする。それぞれの思いを固めておいてくれ。今日は、これから戦いの構想を練る。建国のことについては、明日の話し合いで触れる。以上だ。いいか。』

第2章  トラキアへ  50

2009-09-25 07:07:59 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『では、これより話し合いを始める。アレテスの配慮による警戒は、充分と言っていい、抜かりなく手が打ってある。イリオネス、パリヌルス、オキテス、カピュス他、隊長たち、アレテスとの打ち合わせでも触れたのだが、浜頭たちとの話し合いにもあったように、ポリメストルは、この地にあって、他の豪族、領主たちの鼻つまみらしい。そこで、彼は、今、トロイにいるアガメムノンに殺害したポリュドロスの首を送り、よしみを通じておいて、此のたびの事態に対応するための援軍要請の使者を送った。今頃、話し合いの真っ最中と思う。彼らは、エノスの浜に上陸したのはトロイからの落人だと思っている筈である。俺が、ここにいるとは思っていないと思う。ポリメストルは、援軍の到着次第、戦端を開くと思われる。それについて考えなければならないことは3つぐらいだ。彼らが予定している戦場はどこか。兵数はどれだけか。そして、上陸するのは、浜のどの辺りかだ。それによって、奴らの予定している戦場地点がはっきりすると思う。交戦の開始は早ければ明後日の夕刻か、遅くとも3日後の朝と予想している。これについての君らの考えはどうだ。アレテスが帰ってくれば、ある程度は、はっきりすると思う。』 
 アエネアスはここで話を切った。

第2章  トラキアへ  49

2009-09-24 06:49:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 敵を全滅させない限り、アエネアスの存在が世に知れる、それはまだ知られたくないことであり、今後の事業の遂行に係わることであった。
 アエネアスは、幹部及び隊長たち、オロンテスも加えて招集した。午前の会議に続いての招集である。彼らは、海岸より少し奥まった林の中に座をとった。
 木々の葉の間から、もれて射し込む夏の陽射しはきつく身を焼いた。通り過ぎる風だけが救いであった。
 浜頭と打ち合わせ済みの小屋三棟の建築については、市民たちの中から、建築技術を持った者たちが、森の木を切り、小屋の建設を始めていた。彼らは、てきぱきと仕事をこなしていた。
 アエネアスは、皆を前にして真剣なまなざしで語りかけた。
 『アレテスは、荷をこしらえて、魚の行商に出向いた。うまく売れてくれるように祈っている。浜衆の中から、いつもながら砦に行商に出向いている者が同道している、心配することはないと思っている。』
 これだけ言って、一同を見廻した。

第2章  トラキアへ  48

2009-09-23 07:27:45 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アエネアスは、瞬時ではあったが、展開する戦いをイメージした。算を多くして、戦う前に勝利すること、この思いを強くした。ポリメストルは、戦う相手がアエネアスということを知っていない筈である。トロイからの落人部隊であることだけは敵の知るところであると思っていた。
 『アレテス、聞いておく。こちらの警戒態勢に抜かりはないな。』
 『え~え、それは大丈夫です。きちっと手を打ってあります。』
 『上陸戦で当方がこうむった損害がとても大きいと、敵中にデマを飛ばすのだ。以上だ。いいな。しくじるな。全員、無事に帰ってくるのだぞ。』
 打ち合わせは終わった。アレテスは皆を引き連れて行商に赴いた。
 前門の虎が、後門の狼を雇いに行っている。いずれにしても、敵を全滅させる。アエネアスの心情は、これまでにない惨虐さを持って、この戦いをやる決意を固めていた。彼は、この俺の、今の心情は何なんだと自分の心中を推しはかった。彼は、自問自答した。俺の同胞、俺の市民、そして、俺の民族なのだ。その生命を虐げ、脅かす奴は生かしておけない。彼は心底から、そのように思った。突き上げてくるこの思いに身が震えた。

第2章  トラキアへ  47

2009-09-22 06:59:48 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『はい、万事抜かりなく整えました。』 答えるアレテスは、緊張していた。
 『敵の警戒にも抜かりはない、心して行くのだぞ。お前も部下も浜衆の二人も必ず生きて帰ってくるのだぞ。そこで探索の要点だが、先ず、砦の雰囲気だ、活性があるか。沈んだ雰囲気かだ。ポリメストルは、狡猾な奴だと聞いている。俺の思うところでは、アガメムノンに援軍の要請をしていると思う。俺の考えでは、早ければ明後日の夜か、3日後の昼前には、敵との間で戦端を開かねばならないと思う。エノスのどこが戦場になるかだ。次に敵の兵数だ。敵は、どれだけの兵で陣容を整えてくるかだ。俺は、援軍は200前後ではないかと考えている。それに加わるポリメストルの兵数だ。次は、地形を調べるのだ。ポリメストルだったら、どこを戦場とするかだ。お前が探るのは、兵数と予想される戦場はどこかだ。この戦いは、熾烈を極めた戦いになる。どちらかが全滅する。判ったな。頼むぞ。』
 アエネアスの心の目は戦いを見つめていた。

第2章  トラキアへ  46

2009-09-21 08:20:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『イリオネス、上陸戦のときにせしめた戦利品の保有はどんな具合だ。』
 『それは、交易の条件にもよりますが、10日や15日の交易に使えると思います。』
 『オロンテス、先の質問についてだが、これは市民たちからの調達になるが、皆に説明をして、できるだけ納得してくれるように努めてほしい。今後、この件については、イリオネス、オロンテス、二人でよく相談したうえで進めていってほしい。いいな、宜しく頼むぞ。』
 『あ~あ、イリオネス、浜頭たちと交渉して、毎日の生ものを調達してくれ。以上だ。』
 アエネアスは、アレテスを呼んで、探索についての打ち合わせをした。砦は、外敵を防ぐための構築物であり、小さな城市を形作っていた。先々の王、領主から引き継がれたものであるだけに、由緒のある風情があるはずである。
 『お~っ!アレテス、本物だな、ウロコまでつけて、漁師そのものが行商に行くみたいだ。』 アエネアスは、思わず鼻をつまんだ。
 『連れて行く部下も行商人の手伝い風の格好にしたのか。』

第2章  トラキアへ  45

2009-09-18 07:52:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスもオキテスも来た。顔をそろえて協議に入った。
 『イリオネス、話を進めろ。』
 彼らは鳩首して、話を進めた。
 『結論はどうだ。聞こう。食糧に関する事情は、急を要する事情だ。この件についての俺の思いは、浜衆たちとの交易の問題を含んでいると考えている。』
 イリオネスは答えた。
 『先ず、オキテスが積んで来た食糧は、海路が平穏であったことが幸いでした。その上、三隻の交易船に積んで来た食糧が思った以上に多くでした。パリヌルスの方は一隻の交易船であったことと、海の荒れによる浸水で半分は捨てなければなりません。都合、我々が、今保有している食糧では、7日分ぐらいと考えています。ただ、新鮮な生ものは、日々調達しなければなりませんが。』
 『オロンテス、交易に対応する原資は、何とかすることができるかどうかだが、大変だと思うが考えてみてほしい。宜しく頼む。』
 アエネアスは、イリオネスに声をかけた。

第2章  トラキアへ  44

2009-09-17 07:21:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 浜頭たちとの会同は終わった。アエネアスは、話し合ったことを振り返っていた。考えてみれば、話題は単純のひと言に尽きることであった。礼を述べ、土地の事情を聞いたに過ぎなかった。彼らにも我々について知りたいこともあろうと察せられた。アエネアスは、今日の探索で、今まだ、見えていない明日を覗こうとしているのである。その結果を踏まえて、我々、総勢900のに及ぶ市民と軍団の者たちの明日を安堵させなければならないのだ。彼は、堅く握り締めている拳の中に、その姿の有り様を想像した。彼は、握っていた拳を開いて、じい~っと見つめた。
 彼は、イリオネスとオロンテスたちを呼び寄せた。
 『イリオネス、オロンテス、どんな具合だ。』
 『どんな具合だと言われる具合は、何の具合のことです。』
 『お~お、舌足らずであったな。俺たち皆の食糧事情だ。そのことについて打ち合わせておこう。トロイを離れるときに積んで来た食糧が底がつくのに、間がどれくらいあるかということと、そのあとのことだ。パリヌルス、オキテスも呼ぼう。』