『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1109

2017-08-31 08:41:09 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 一口目を咀嚼して胃におさめる、続けて、二口三口と口にほおばる、咀嚼する、ぶどう酒の杯を手に持つ、飲み干す、胃に落とし込む、落ち着く。
 誰からともなく笑い声が上がる、おおらかに破顔爆笑する。
 『ウワッ!ハッハ!』
 久しぶりに一同が耳にするアエネアスの豪気な笑いであった。彼らの『あ~あ、旨かった!』の一語を持って朝食を終えた。
 イリオネスが一同と顔を合わせる。
 『よし!会議を始める。今日の会議の進行役は、パリヌルスが努める。始めてくれ、パリヌルス』
 パリヌルスが姿勢を正す、きりっとした声音で話し始める。
 会議の主題は『これから』である。主題に基づいて議事を進行する。提示しておいた議題が話し合われる。
 戦闘艇の営業構想、改造、修理の事業構想が話し合われるが、構想の実行の決定は決まらなかった。また、戦闘艇の価格構想も構想の領域にとどまり決定を見送った。
 イリオネスが、これらの議題、構想について、軍団長のスタンスで考えを述べる。
 『俺が赴く、このたびのマリア往きは、いま一同で話し合った営業の構想、改造修理事業構想、そして我々が考えている戦闘艇、また、新艇の価格が使用者側、業界および市場からみて妥当なのかを探りたいと考えている。俺として価格に対する考えは、使用者に対して製造者としての誠意でなければといけないと考えている。また、構想はどうあるべきかを考えている。市場に我々の構想が受け入られる構想なのかを確かめたい意向である。俺がマリアから帰って来て、それらについての状況を話す、そして、解析する。それが我々の考えと合致しているかを一同で話し合いたい。そのように考えている』
 『なるほど解ります』
 『そのうえで、事業構想、船の使用者価格を決定したいと考えている。そうでなければ船の使用者が我々の方に目を向けてくれないのではと考えている。俺の考えを理解してほしい』
 アエネアスが手をあげる。
 『統領、どうぞ』
 『いまの軍団長の発言を俺の立場と権限を持って、理解し承諾する。マリアへは気をつけて行って来てくれ』
 アエネアスが言い終わるや間をおかず、一同からの拍手である。
 イリオネスが告げる。
 『一同の拍手で俺の言うところを理解し、承諾してくれたものと受け取っていいな』
 再度、盛大な拍手である。
 パリヌルスが口を開く。
 『統領の言葉と拍手をもって、各議題の議決とする』
 『おうっ!』の唱和があがる。
 

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1108

2017-08-30 08:36:36 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 パリヌルスは。そのように言って場を離れていく、出来あがった図面組の一組を持って、建造の場へと足を運んだ。
 オキテスのところにドックスがいる。
 『おう、ドックス、少々遅れたが図面が出来あがった。図面だ、受け取ってくれ』
 彼は、図面組をドックスに手渡す、ドックスが礼を述べて受け取る。
 『おう、オキテス、軍団長はこちらではないのかな?』
 『いま、現場のほうだ』
 『おう、解った』
 現場へと向かうパリヌルス。
 『軍団長、相談事です。どこか静かな木陰にでも』
 『おう!』
 二人は肩を並べて歩き出す、イリオネスが用向きを尋ねてくる。
 『はい、戦闘艇の図面組が出来あがりました。結構、時間がかかりましたが24組、出来あがりました。その配布要領のこともありますが、軍団長がマリアへ行かれる前に『これから』を会議を開催して話し合っておけばと考えています』
 『おう、そうだな』
 『いま、会議にかける案件について考えています。戦闘艇の営業構想、船舶の改造、修理に関する構想、そして、戦闘艇の販売価格についても、その意向を聞かせていただければと考えています。あと三日で月が替わります。明後日か三日後くらいに会議を開催していただければと考えています』
 『よし!いいだろう!会議開催は明後日アサイチだ。統領は息子ユールスとの朝食がある。あとの四人で一緒に朝食をして会議を始める。いいな。お前から一同に連絡してくれ。会議はお前が進行役だ』
 『解りました』
 『あ~あ、場所は、統領の宿舎の前庭だ』
 『了解しました。ではそういうことで、私は、会議の準備をします』
 パリヌルスは、案件の構想をまとめ議題を決める。オキテスとオロンテスに議題を提示するとともに会議の開催要領を伝えた。

 浜の日常が営々と営まれている。会議の日の朝が明ける。
 イリオネスやパリヌルスの案に相違して、アエネアスが朝食の場に姿を見せる。
 『おう、おはよう。いい朝だ!』
 『おはようございます。いい朝です』
 『口を動かす。口の中に入れたものを咀嚼する、五感が働き脳が活性する、そこに一同の笑みの表情、いい結果を招く!朝食をやりながら話を進める。イリオネス、会議スタートだ!』
 『解りました』
 テーブルの上には、アサに焼き上げた温かいパンが、オロンテスの配慮で並べられている。
 アエネアスが手にとる。
 『おう、温かい!これは旨そうだ!さあ~、始めよう!』
 アエネアスが言葉を吐く、大口を開ける、パンに噛みつく、口を動かす、感動の表情が顔に広がる。
 『おう、旨いっ!別格の味だ!お前ら、俺を見ていないで始めろよ!』
 一同がでっかいパンを両手で持ち上げる、口へと運ぶ、おもむろに大きく口を開ける、開けたと思ったらパンに噛みつく、その素早さにアエネアスが驚いた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1107

2017-08-29 09:59:57 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
次いで、オロンテスはイリオネスに今日のパン売り場の状況の報告をする。
 『おう、オロンテス、今日はご苦労』
 『これが今日の売り上げ実績です』
 オロンテスが今日のパン売り上げの木札を入れた袋をイリオネスに手渡した。
 『おう、けっこうあるじゃないか。オロンテス、パン売り場、忙しい日が続いているようだな。売り上げが伸びている、いい傾向にあるようだな』
 『パンの味を新味にしてから、少しづつですが売り上げが多くなってきています。スタッフ一同、喜んでいます。また、堅パンのほうも改良をしてから徐々にですが売り上げが伸びてきています』
 『ほう、それは重畳だ!よし、身体を休めてくれ』
 建造の場で顔を合わせた一同が、宵のとばりのおり始めた浜をそれぞれの宿舎を目指してあとにしていく。

 ギリシア連合軍の焼き討ちで消滅、滅びかかった民族であるが、アエネアスを統領として、おちのび、彼らは考えつくまま、事業を興し、自給自足で生計を営み、民族としての未来を描き、クレタの地において『ネクスト』を決定した。
 夏の日は駆け足で過ぎ去っていく。
 オキテスが手配した建造用材が届き、造船事業が手掛けている受注の戦闘艇2艇の完成が40日後に控えている。戦闘艇の建造が完成予定日を目指して、着々と出来あがっていく。
 彼らは意思を統一して決めた『ネクスト』。 一歩を踏み出そうとしている。
 この『ネクスト』が思いもよらないところで動き始めている。クレタ島の東地区のマリアの集散所からの引き合いがキドニアの集散所に届いたのである。
 彼らは、これを機に『ネクスト』への布石を打ち、弾みをつけて事業を進展させたい。この布石を打ちにイリオネスがマリアへと赴くことにした。
 イリオネスは、その先棒行動での秘策をパリヌルスら一同とは共有せずに一案を実行することにしている。その実行をよき結果としたときに公表するとして、その作戦要領を胸の一隅に秘匿している。
 パリヌルスが取り組んでいる戦闘艇の図面組作成が出来あがる。彼が作業を手伝わせている一同に声をかける。
 『おう、一同!ご苦労。出来あがりが少々遅れたが、どうにか出来あがった。とにかく出来不出来は別にして、出来あがった図面の組数が作成予定数を超えて、25組もできた。ごくろうであった。それにしてもだな、オシャカ図面がこんなにあるとはな』
 パリヌルスの声がかりで作業に従事した者らが顔を見合わせる。
 『まあ~、しょうがないか』
 パリヌルスが落胆とは思われない語調でつぶやいた。
 『一同、ご苦労であった。休んでくれ』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1106

2017-08-28 13:30:25 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『軍団長、キドニアからの帰り船は、今日は少々遅くなるかもしれないですね』
 『おう、そうか。オキテスが、ガリダのところへ出かけているのか』
 『そうです』
 代わって、アエネアスが声をかける。
 『まあ~、落ち着いてここで時を過ごせ。彼らの顔を見る、その時を待つのが、俺は楽しい!そういうもんだろう、パリッ!』
 時間が経っていく、終礼の時が来る。
 ヘルメス艇の帰着が遅れている、海上の模様は平穏である、荒れの心配はない。
 『ドックス、終礼を頼む』
 『解りました』
 ほどなく、オキテスのよくとおる張りのある声が聞こえてくる、オロンテスと声高に何事かを話し合いながら近づいてくる。
 『軍団長、キドニアからの帰り船が着いたようです』
 二人が建造の場に姿を見せる。 
 『あっ!統領も軍団長もこちらですか!私ら二人を待っていてくださった。それはありがたいことです。感激です』
 二人は感動を言葉にする、イリオネスが話しかける。
 『おう、オキテス、オロンテス、ご苦労!今日の海はどうであった?』
 『はい、上機嫌でした。帰りにいい風が来なかっただけです。天気晴朗、風すずやかにして、波穏やかでした』
 『お前、なかなか文才があるな、それは重畳であった。マリア行きの日程を決めた。8月10日頃とした、もし、事情があれば早めるかもしれない。出入りは6日くらいとしている』
 『クレタ島の今日このごろは、まったく雨の日がない好天が続きます。この日和のいい時期に出かけてください。私らの心配の種が少なくて済みます』
 『ほう、そうか。お前うれしいことを言ってくれるな』
 ドックスが現場の者らの終礼を終えてオキテスの傍らに来る、イリオネスとの話の終わるのを待つ、オキテスに声をかける。
 『オキテス隊長、ご苦労です。ただいま終礼を終えました。作業の進捗に異常がありません』
 『そうか、了解、ご苦労。ドックス、建造用材の件だが、3日後の午後、ヘルメスで浜に着荷する。製材担当の者が用材を整えてくる、受け取り方よろしく頼む』
 『解りました』
 パリヌルスは、出来あがった新艇の図面組をオロンテスに手渡す。
 『オロンテス、新艇の図面組が出来あがった。組数は5組だ。それから戦闘艇の図面組の件だが、ここ3日の間に出来あがる。集散所用として2組を準備している。追加は後日だ。それから、建造計画、集散所への引き渡し価格等については、会議でもって決める。また、船舶の改造、修理等の事業計画も案をつくっている』
 『おう、了解した。図面のことだが、本当にうまく描かれている。大したもんだ!俺の腕ではこうはいかない。ありがとう。必ずいい結果が出る。計画、引き渡し価格等課題の件、よろしく頼む』
 『おう、心得た』
 パリヌルスは、右手で拳をつくり左胸を打つ、オロンテスとパリヌルスは打ち合わせを終えた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1105

2017-08-25 07:55:42 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 今日のパリヌルスは、建造の場にいる、ドックスらとともに昼を過ごす。
 建造の場にいるパリヌルスは、戦闘艇の図面組の調製に取り組んでいる。
 ドックスがパリヌルスの描いた戦闘艇の姿形図に見入る。
 『パリヌルス隊長、これはカッコイイですね!戦闘艇が波を蹴散らして海上を走る姿は、このような姿ですか』と言って、姿形図が描かれた木板を目の高さに掲げて、しげしげと見つめる。
 現場の連中も、それを見に集まってくる。
 『お~お!』感嘆の声をあげる。
 『お~お、これはカッコイイわ!』
 『こんな船に乗って海上を走ってみたいもんだ!』
 彼らの賛辞を耳にしてパリヌルスが口を開く。
 『君らが造っている船が海に浮かんで波を割ると、このように見えるのだ』
 『そうなんですか』
 『おう、そうだ!今度、一度、そのようなカッコイイところを見せてやる。待っていろ!』
 『待っています。期待を裏切らないで下さいよ』
 ドックスが彼らに声をかける。
 『おう、仕事だ!仕事に取りかかれ!』
 彼らが持ち場へと散っていく。
 『パリヌルス隊長、姿形図、仕様書き、見取り図、現場用のものも一組、作っておいてください。お願いです』
 『ドックス、今、作っているのがそうだ』
 『そうですか、それはそれは、ありがとうございます』
 彼は、集散所用の新艇の図面組を作りあげて、これから仕事の中心軸になっていくだろうと考えられる戦闘艇の図面組を10組、作成の段取りをしていた。
 アエネアスとイリオネスの二人は、撃剣の打ち合いを終えて建造の場に姿を見せる。
 『おう、パリヌルス、オキテスの代役を務めているな』
 二人は、パリヌルスが描いている、海上を駆ける戦闘艇の姿形図に見入る。
 『おう、なかなかだな、よく描けている。このように描かれるとカッコイイな!お~お、これなら乗りたいと思わせる』
 代わって、イリオネスが声をかける。
 『パリヌルス、集散所に渡す新艇の図面組、5組は出来あがったのか?』
 『はい、出来あがっています。新しい舵構造を描きいれて、仕あげています』
 『ところでだな。マリアの集散所に出かけるに際してだな、戦闘艇の図面組を持参しようと考えているのだが』
 『それについては、ただいま調製に取り掛かっています。建造の場用、集散所用、軍団長持参用それに予備用を加えて、10組をここ三日くらいで仕上げる段取りにしています』
 『それは重畳!それをお前に頼みたいと考えていた。これからの造船事業の中心軸は、戦闘艇のような船であるのではないかと考えている。心が通じたのかな』
 この時代の人と人との通信手段は、思念伝達、心的通信交流、テレパシー的通信であった。これが通じないときはそれまでであった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1104

2017-08-24 07:48:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスのマリアの集散所行きは、彼の大義である、自ら設定した役務である、何としても設定した通りに結果としたい、その一義である。
 心の高揚を抑えられないでいる、計画を一気に立案した。
 当方から参加させるメンバーは、艇長にオキテス、操船を担当するゴッカス、新構造の舵を操舵するグッダス、そして、漕ぎかた24名である。
 彼に同道するのは、イラクリオンのエドモン浜頭にスダヌス浜頭といった陣容で臨むことにした。
 営業のツールは、戦闘艇の試作艇そのもの、新艇の仕様書きと図面、それに加えて、戦闘艇の姿形図、仕様書き、見取り図数組を持参することにした。
 日程は、アエネアス暦の8月10日頃に出発することにした。
 策を練り終えたイリオネスは、肩にのっていた荷を下ろした。
 肩の荷を下ろしたイリオネスは、思考の軌跡を振り返る。
 『おう、思考に随分と時間を費やした。肩が軽くなった。さあ~、行こうか』とひとりごちて立ち上がる、足が軽い、アエネアスの宿舎へと歩を運んだ。
 『統領、おいでですかな?』
 『おう、軍団長、どうした?何か用事でもあるのか』
 『え~え、マリア行きの件、考えがまとまりました。8月10日ごろに出かけます』
 『ほう、そうか。出入りは何日くらいとしている?』
 『そうですな、6日くらいとしています。行旅の期間は、短くなることがあっても長くなることはありません』
 『おう、解った。こちらから同行するメンバーは?』
 『艇長にはオキテス、操船にはゴッカス、操舵にグッダス、漕ぎかたは24名です』
 『使用する船は、なにを使うのか?』
 『戦闘艇の試作艇を使います』
 『了解した。もう昼だ。めしを一緒にしないか?お前と語り合いながら食べるめしは、何もなくてもうまい!』
 『今日の午後、リナウスのところへ出かけませんか?』
 『おう、いいな!久しぶりだな。行こう』
 『あの防具のおかげで撃剣が苦になりませんな』
 『そうだな』
 『それを済ませたら、建造の場に行く』
 二人は昼食のテーブルを囲んだ。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1103

2017-08-23 10:01:22 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 イリオネスは、アエネアスの片腕として、彼を支え、現実を見据える。
 彼は、己のポジションにスタンスして、稼働している各部署をチエックした。
 『これでいいのか?そして、これからは?』について、その展望を推察、推考した。
 アレテスが担当している、小島における漁業関連の事業、オロンテスが運営しているパン工房の事業について推察する。
 この二部門は、一族の自給自足の台所部門でもある。一族にとって重要な機関であり、事業体である。
 彼は、推考の重要部門である造船部門の事業体の展望を推考する。
 アエネアスもそうではあるが、造船部門の有している、そのポテンシャルの大きさを二人が身をもって認識したことである。
 アエネアスと話し合っていて、新艇5艇を建造して、それらを販売して気づいた。『まさか!』を感じさせる結果が出たことに、その大いなる結果に驚いたのである。
 しかし、イリオネスの考える展望としての未来は霧の中である。イリオネスの感性と推考力では、答えの出せる領域ではなかった。
 そういった意味を含めて、マリアの集散所行きを決めたのである。
 彼は、剣と槍を振り回して命のやり取りをする戦闘、闘争の領域とは、全く異質の領域を認識している。
 その意味において、いま、キドニアの集散所に来ている引き合いを受注したいと強く強く思いつめた。
 これについてできるだけの配慮と行動で挑みたい。
 皆目、見当もつかない、何をやって望む受注結果とすることができるか、また、新艇よりも戦闘艇で売り込むことができないか、出来ることなら戦闘艇で受注を得たい。
 それがかなえられるか、かなえられないかと欲望を抱いた。これは野望ではなく、ワンクラス上の結果を獲得することができるか、自分自身への挑戦であった。
 彼は、謙虚を忘れて、身の丈知らずの欲望を抱いている、その望むべきではない欲望を戒めた。欲張ることはいけない。
 とにかく、市場の需要、ニーズが新艇なのか、戦闘艇なのか、その結果を持って知ろうと考えた。
 営業体制を整えて、積極性を持って謙虚な所作で人事を尽くして結果を待つことにする。
 彼は、営業態勢に配慮することを謀った。自分自身も動くが他人をも有為に動かして、成果を手にする策を練った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1102

2017-08-22 09:01:17 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 朝行事を終えたアエネアスは、ユールスの手をとって、朝の浜風景を眺めている。
 通り過ぎていく者たちと朝の挨拶を交わす。
 『おはようございます。いい朝です!』
 『おう、いい朝だ。おはよう』
 彼らの挨拶言葉に『いい朝です』がついて挨拶を交わすようになっている。
 アエネアスが微笑んでいる、ユールスの表情も明るく笑みをたたえている。
 彼らは、朝の浜の風景の中に溶け込んでいる。アエネアスは、そのような朝が好きであり、こよなく愛していた。
 オキテスが近づいてくる。
 『統領、おはようございます。いい朝です』
 『いい朝だ、おはよう』
 『今日ですが、建造用材の手配にガリダの製材所に行ってきます』
 『そうか、解った。頭領によろしく伝えてくれ』
 朝の挨拶を終えたオキテスは、オロンテスの出航の浜へと走る。
 『おう、オロンテス、待たせた。許せ!』
 『おう、ギアス、乗船者を確かめてくれ』
 『全員乗船済みです!』
 『出航だ!ギアス』
 ギアスが出航の指示を声高に告げる。ヘルメスが波を割り始める、そよっとほほを撫でて過ぎる朝風の海をキドニアに向けて出港していく。さわやかな朝の浜風景であった。
 イリオネスがアエネアスの傍らに立つ。
 『頭領、おはようございます。いい朝です』
 『おはよう、いい朝だ。仕事に携わる者らの息吹を感じる』
 『そうですね!日々危なげない一歩を踏み出していきたい。その一念です』
 『俺も常々そのように考えている』
 『胸に抱く思いは、同じですね。ところで今日の予定は?』と話し合いながら宿舎のほうへと歩を運んでいく。
 浜の今日が動き始めている。二人の語らいが一族の統率を誤らせない主題で話し合われている。

 この時代は、今日のように複雑な国際関係を呈していない時代である。自分らが志向する秩序で対抗関係を制御するか、力で抹殺して地域を制圧する時代である。周辺の状態をを眺めまわすとギリシア本土、西アジアの諸地域に比してクレタ島は平和な地域、いや、島であったらしい。
 そのクレタ島においてアエネアスの率いる一族は、平和な時を過ごしていたといえる。
 アエネアスの心の奥はというと、そのような平和と使命である建国について、どのように計ればいいかを思考して、使命の実現に強くジレンマしていたのである。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1101

2017-08-21 06:26:31 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 昼食を終えたドックスがオキテスの場で待っている。
 『おう、ドックス待ったか』
 『いえ、今、来たところです』
 『そうか、今日、午後のことだが、建造用材の在庫状況のチエックをする。今日の会議のことで頭がいっぱいであった。会議がいい方向で決着した』
 『ほう、それはよかったですね』
 『この船舶の建造事業を拡充していくことが決まった。新艇の受注が決まるかもしれない。三日後にガリダの製材所に出向く予定でいる。建造の進捗と建造用材の在庫状況の照合をする。よろしく頼む』
 『解りました。戦闘艇2艇の完成予定まで40日を割ろうとしています。建造作業を次の段階に進めたいと考えています。用材の準備の件よろしく願います』
 『おう、そうか。解った』
 『今、早急に手配していただきたいのは戦闘艇2艇の衝角構造体の調達です』
 『そうか、心得た。建造用材の置き場に行く!』
 二人が立ちあがる、建造用材の置き場へと足を向けた。
 二人は、午後の時間のすべてを使って、建造用材の在庫状況を念入りに調べあげる。建造の進捗と照合する、手配すべき用材を割りだした。
 『ドックス、よく解った。急がねばならんな、三日後とは言わず、明日、ガリダのところへ出向く。製材担当の彼に説明しておいてくれ。彼を同道する』
 二人は打ち合わせを終える。
 夕刻の終業時刻間近になって、オキテスとオロンテスが顔を合わせる。
 『おう、オロンテス、明日のことだが、アサイチのキドニア行きの便に俺と製剤担当の者を乗せていってほしい。ガリダの製材所へ出向く』
 『おう、解った。出航に遅れるなよ』
 『おう、合点!』
 二人は打ち合わせを終える。
 パリヌルスは三人の者を手伝わせて新艇の姿形図、仕様書きと見取り図を二十枚余りの木板を前において描いている。この流れでいけば明日の夕刻までに指示のあった五組が仕あがる。
 オキテスがパリヌルスの場に姿を見せる。
 『おう、パリヌルス、戦闘艇2艇の完成まで、あと40日を割り込もうとしている。そのようなわけで俺、明日、ガリダの製材所へ出かける。明日、建造の場を頼む』
 『そうか、解った、任せておけ。俺の方は明日の夕刻までに新艇の仕様書き五組は出来あがる。明後日にはオロンテスに託せる』
 『おう、了解した』
 打ち合わせを終えた二人は、波打ち際に立って、海を茜に染めて沈みゆく夕陽を見送った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1100

2017-08-18 07:38:57 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『マリアの集散所に出かけるそのさわりについて、会議途中に話そうと考えたが、それを話すチャンスがなかった』
 『それは、何としても聞きたいですね』
 『それは、以前にクレタ島の調査に出かけたときのことだ。その時にスダヌス浜頭を介して知り合った、イラクリオンのエドモン浜頭に再び会ってみたい、そのように思ったことだ』
 イリオネスが何をかを思い起こしている。
 『これにはいわく因縁があってな。このエドモン浜頭とスダヌス浜頭は、とても親密な間柄なのだ。そういったわけでスダヌス浜頭を同伴して、マリアへ出かけようと思いたったわけだ』
 一同と顔を合わせるイリオネス。
 『このエドモン浜頭がマリアの集散所とかかわりがあるのだな』
 『ほう、そうなんですか』
 『そんなこんなで、チョット、マリアまで出かけてくる、よろしくな』
 『解りました。軍団長、行ってきてください』
 『船は何を使おうかな?あれはどうしようかなと考えると楽しい!俺の希望を言う、この旅には戦闘艇の試作艇で行ってみようかなと考えている。よろしく頼む』
 『軍団長、もう決まっているみたいですね』
 『おう、旅のことを考えると、なんとなくワクワクして楽しい!旅に出るのは、天気模様が安定している8月になってからの旅だ。ワクワクせずにおられるか。そういったところだ』
 『軍団長、大体、いつ頃に予定されているのですかな?』
 『そうだな、ここは思案のしどころだな、半月後頃かな。いま、発生したマリア集散所からの引き合いの進展を見ての判断だ』
 『私らの心積もりもあります。早めに言ってください』
 『おう、状況を見計らって、日程を決めたら伝える、よろしく頼む』
 彼らの水入らずの和やかな昼が終わった。
 パリヌルスらが統領の宿舎の前庭をあとにする。
 パリヌルスがオキテスに声をかける。
 『なあ~、オキテス、今日のお前の会議進行は上手かったな。決まっていたな。オロンテス、そうは思わんか?』
 『それは、そのように思う。オキテスのやった問いかけの順番がよかった』
 『何はともあれ、ネクストがこのように決まって、一同の意思統一ができたことはよかった。これでわき目もふらずに前へ進める』
 オキテスがこの言葉を受けて口を開く。
 『前向きの意思が決まる。フットワーク軽く、力のこもった一歩を前へ踏み出せる』
 オロンテスが言う。
 『進むべき道がはるかへと続く、未来への扉が開く、歩み続ける。そんな気分だな』
 三人が意を決して歩んでいく。
 パリヌルスが二人に声をかけた。
 『指示された仕事をする。いい結果を目論んで線を引いて描く、ではな、ご両人』
 パリヌルスは自分の持ち場へと足を向ける。オロンテスはパン工房へと向かう。オキテスは建造の場へと向かった。