『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  19

2012-03-30 06:56:10 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『アミクス、信号だ、行けっ!信号は判っているな』
 『はいっ、判っています。もうよろしいですね』
 アミクスは後続の三番船に向けて信号を送った。
 漕ぎかたは全力で水をかいた。暮れいそぐ宵と競り合って船は進んだ。
 オキテスは、湾の浜について詳しく知っていた。湾に入ったところの西岸に目指す浜がある。海に注いでいる川の手前に停泊に最適の浜があるはずであった。彼はその地を目指した。
 『よしつ、あと一息だ』
 彼は、今日一日の航行がいい結果で終わることをまぶたの裏に描いていた。
 『あと、一息だ。あと、一息だ』
 彼はつぶやいていた。目標の浜を視野に捕らえた。その浜はうすい藍色の宵闇の中に白く光って見えた。
 彼は意識することなく漕ぎかたを叱咤していた。
 『帆を降ろせっ!者ども力をこめて漕ぐのだ。力いっぱいだ。気を入れて漕げっ!』
 調子をとる木板の叩きだす音が冴えわたり宵の空気を振るわせた。
 『その調子だ。いいぞ、いいぞ。漕げっ!漕ぐのだっ!』
 船は狙い定めた白い浜地に向けて波を割った。
 後続の船に目をやった、これまで縦列で進んでいた船団が横一線に並ぼうとしていた。
 船団が横一列に並んで波を割って進む、その光景は壮観であった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  18

2012-03-29 09:12:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスは沿岸との距離を考えて進路を保った。レムノス島の南端の岬が視野に入ってきた。島影が海上に延びている、太陽が沈みかける低い位置にある。船上の者たちもこのときを迎えている。彼は、彼らがこの時を迎えている感慨を推し量った。
 『お~いっ!アミクス、来てくれ』
 船団は、湾内に入る最終の進路変更地点に到達していた。そこからはその身の半分を海に沈めた太陽が見えた。
 『アミクス、進路変更信号を発してくれ。進路目標は沈みつつある太陽だ。いいな、急げっ!櫂座の者たちには全力で漕げと指示しろ。操舵手には舵をきれと命令しろ。以上だ』
 『判りました!』
 『発信を終えたら直ちにここに戻れ。いいな、行け!』
 彼は船尾に飛んだ。
 船団は航跡を引いて進路の変更を行った。オキテスは戻ったアミクスに声をかけた。
 『アミクス、どうだ、うまくいったか』
 『全船、間もなく進路変更を終えます』
 『おっ、そうか。よしっ!次の信号は、『我が船に続いて着岸せよ』だ。いいな、いい頃合いをみて発信してくれ』
 『はい、判りました』
 つるべ落としに沈み行く太陽は、茜色を空に残して全身を海に沈めていた。
 オキテスは、体感で船速を測った。太陽が沈んだら時間をかけずに宵闇が訪れる、彼は呼吸で時を測っていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  17

2012-03-28 09:00:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
オキテスは、レムノス島の東海岸に寄港地を考えていた。彼はこの考えを捨てた。改めて、一夜の寄港地点島の南部にある湾内にはいることにした。天候が変わり、海のあれを危惧したのである。
 殿りを航行している一番船のパリヌルスは、この季節の有する天候の変化とうす雲に陽のかげるのを懸念していた。彼は進路変更によってオキテスが航法を変換したことを解していた。これにより天候の変化に備えて航行し、予定した寄港地の変更もありうることを感じ取っていた。
 この航海は建国に向けて船出した、一国の大事であり、極力、危難を避けなければならない。彼は、オキテスの採用した方策、その周到な事の運びに安堵していた。
 進路を変更した後も船団は、少々船速を落としはしたが風に押されて順調に航行していた。とはいうものの右舷斜め後方から受けるカタチになった風の影響を受けてレムノス島の沿岸に近づきつつあった。レムノス島の東海岸の遠景を見ながら南下する船団のことを思案した。
 彼はアミクスを呼んだ。
 『アミクス、船長に緊急連絡信号を発信するのだ。信号内容は『島に近づかないように操舵操作をせよ』だ。判ったな』
 『判りましたっ!』
 アミクスは、即、発信に取り掛かった。
 オキテスの気がかりは風のことであった。空模様を見る限り、着港までは雨の心配はする必要がないと判断していた。風の強さを察知するのに波の大きさ、波頭の飛沫の状態の観察を怠らなかった。また、沿岸との距離間隔をどれくらいに保って航行を続けようかと思案した。
 彼の心配は、風向きが気になってきていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  16

2012-03-27 08:43:46 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おいつ、アミクス、この季節の天候は変わりやすい、南西の空を見てみろ。やがて陽がかげる。進路を変えてから少々時間も経った。時を計る、時板を持て』
 『はい、判りました』
 アミクスは、ふ~っと頭をかすめた思いを口には出さずに答えを返した。
 進路を変更してから今様時間で2時間ほど経っている。船速のことを考えると、変更してから30キロ余りくらい南下しているだろうと考えられる。
 船団の航行している海域はレムノスの東の海域になりつつあった。レムノスの島影が右舷に見えてきていた。
 オキテスは時板作業を開始した。二人は口もきかず、作業に集中した。昼時に比べて、心棒の板上に落としている影がうすい。二人は同時に空を見上げた。高い秋空に巻雲が流れ、陽の光を淡くさえぎっていた。
 時板をにらんでいたオキテスが指示を発した。
 『アミクス、進路変更だ。航法も変える。松明二本信号だ。進路は太陽のある方向だ、太陽に向かって進めだ。即、やってくれ』
 『はい、判りました』
 アミクスは船尾に移り発信した。
 オキテスは、真っ直ぐの南下をやめて沿岸航法に切り替えた。レムノスの東の海岸線に沿って南下することにした。船速は1割ぐらいは落ちることを覚悟した。
 各船は、進路を変えてオキテスの二番船に続いてきていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  15

2012-03-26 09:08:33 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オキテスはうなづいた。アミクスの言ったことは、然りである。彼の考えている航行構想の不安部分をついていた。
 この季節の海上気象は千変万化の果てに荒れ狂う、海は船団を海の藻屑とするかもしれないのだ。その変化を恐れることこそ安全な航行を続けられると思っている。彼は荒れ狂う大洋が神以上の力でそこにいるものに襲いかかるのだ。船団の運命、いや一国の運命が彼の思考決断に、今、ゆだねられているのだ。自分の使命がいかに重いかを感じた。
 波を割って進む船のゆれに身を任せていたオキテスは、秋のこの季節、強い風で荒れるレムノスの海域の状態を思い出していた。
 『アミクス、お前の言うとおりだ。変化の徴候をいっときも早く察知して手を打っていく、先を読んで一手も二手も先に手を打って事に処して行く。最善の手法を考え、それを尽くす。不可であろうとも途方にはくれない。次善を探してそれを講ずる。いいな』
 彼は不退転の意志を強めた。
 『その先にはいい結果がある。よしっ!これで俺の力の全てをつぎ込んでことに当たれる。いかなる事態にも果敢に挑める』
 彼は自信を持った、目は輝く、彼は恐れていたものを退けた。
 イムロスの島影を左舷斜め後ろに見て、船団は航行していた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  14

2012-03-24 08:49:11 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『統領、軍団長いかがです。オキテスの采配は適確ですね。この調子で行けば、レムノスに着くのは予定よりも少々早くなります』
 イリオネスはうなづいた。
 『船出してからの航行は順調だな。クレタまで、この調子でいけることを願わずにはいられんな』 とアエネアスは言う。イリオネスが相槌を打つ。
 『私は、心の中では航海の順調のみを祈っているのです。祈りの力を信じて、パリヌルスとオキテスに任せているのです』
 『私とオキテスは、その信頼にこたえねばならないのですね。判りました、いいでしょう。私たち二人とこの任務についている10人は、統領以下、船上の者たち全員に安心を届けるよう努めていきます』
 『おうっ!パリヌルス、お前の言葉は心強いお前らに感謝の一語だ。なあ~、イリオネス』
 『全くその通りだ。パリヌルス、頼むぞ』
 イリオネスは話を締めた。
 
 先頭を進むオキテスの船では、オキテスがアミクスを呼び寄せていた。
 『おうっ、アミクスお前どう思う、このまま順調に航行すればレムノスの寄港地には少々早めにつけると思う。そうであれば、全員が安心できる。夕凪まえの海風を利してレムノスに着きたい。俺はそのように考えている』
 『そのようにことが運べば、櫂座の者たちも助かります。算段どうりにいかないのが世の常でもあります』
 『判断を誤ることなく、最善を尽くして、災いを避ける。いいな』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  13

2012-03-23 09:08:40 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アミクスは信号を発した。信号は引き継がれていった。
 方向転換は、長い航海の途上にあっては瞬時とおもわれる短い時間のうちで終わった。
 帆は風をはらみ、各船は波を割り進み始めていた。
 『船長、方向転換、進路変更、終了しました。各船の航行状態、順調になりつつあります』
 『そうか、よしっ!次は昼めしといくか。アミクス、食事信号だ、発信してくれ』
 『はい、判りました』
 この頃には、各船の漕ぎかたは櫂をあげていた。
 船団は、太陽の耀いている方向にむけて、帆に風をはらみ順調に航行を始めていた。斜め後ろからの風を受けて航行している間は左舷の櫂座の者たちが漕ぐときに感じる水の抵抗感が大きかった。
 『よしっ、諸君ご苦労であった。さあ~、皆、めしにしよう』
 オキテスは言葉短く一同ねぎらった。
 各自が袋の中から取り出した堅パンに大口をあけて噛みついた。
 オキテスは『風向風力感知器』で風力をチエックした。
 彼は何かを語ろうとしたが、話し相手のアミクスが、まだ船尾から戻っていなかった。時をもてあました。
 殿りを航行している一番船のパリヌルスは、オキテスの采配と各船の航行状態をチエックして、アエネアス、イリオネスと副長のカイクスをまじえて話し合っていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  12

2012-03-21 08:43:51 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『アミクス、ところでだが次の方向転換点を過ぎるまでは昼めしはとらない。転換点を過ぎて順調を確認した後に昼めしとする。いいな』
 『はい、判りました』
 『この天気模様なれば大きな変事の訪れはないと思う。風はその地形に左右される、風の具合に気を配っていてくれ。久しぶりの大航海だ、気を抜くことはならんぞ』
 『はい、判りました』
 彼は、太陽の進み行くさまを見ながら、船出してからの風の具合と船足の速さを考え合わせて航行した距離を胸算ではじいていた。そして、島影、遠景を見て船団の海上における位置を推測した。
 不正確ながらも、当たらずとも遠くない答えを導き出していた。
 『よしっ!アミクス、時を測る。『方角時板』を持ってくれ』
 『はっ、はい』
 オキテスは慎重に作業をした。南中の時は時板の心棒の影が短い、吊り下げた鉄の棒の静止した方向に時板の南北線を合わせた。心棒の影が心持ち東のほうへぶれていた。
 『アミクス、松明二本信号だ、急ぎ発信しろ。操舵手に指示だ、左方向へ舵をきれ!進行方向は太陽に真っ直ぐ向えだっ!』
 『はいっ、判りました』
 アミクスは船尾へととんだ。


   *お詫びと訂正*
 昨日の投稿で脱字のミスをやりました、深くお詫びいたします。
 5行目です。
 
 叡智ひらめき を  叡智のひらめき  と訂正いたします。
                    
                       山田 秀雄

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  11

2012-03-20 08:41:58 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 知らない、判らない、それを知り理解することができることは『次の行動の指針になる』 
 彼は強い味方を手にすることが出来たと満足した。
 『未来を切り開きたい』
 彼は懸命にそれを望んでいた。『風向風力感知器』を造ったことは『それを望んで止まない』彼の叡智ひらめきであった。
 船は自然の力と人の力で順調とはいえないまでも航行を続けていた。オキテスは体感する航走状態に異常を感じてはいない、南中へと昇り行く太陽を仰ぎ見て航行地点を考えた。
 次の方向転換点はどこだと暗闇の中で物を探す態で考えた。彼はひとりごちた。
 『この真昼間に暗中模索か、俺もまだまだだな。様にならんな』と思いながらも鋭い感覚で物事に対峙していた。
 『力不足ながらも、この航海を必ず成功させる』
 人事を尽くす己自身の存在を強めていた。
 彼は、大声でアミクスを呼んだ。
 『アミクス航走状態はどうだ。後続の各船しっかりついてきているか。この船は先頭を進んでいる、各船を先導しているのだ。船列に乱れがないか』
 『後続の各船、只今のところ順調です。しかし、四番船と五番船の間隔が少々広まったるようですが、問題はないと思います。現在、全船順調です。以上』
 『そうか。まずは重畳ということか』
 『そのようです』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY           第5章  クレタ島  10

2012-03-19 09:30:53 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼は、ひとふう変わった用具を袋から取り出した。船出を数日後に控えた風がやや強めに吹く日に造った自称『風向風力感知器』であった。
 『よし!試してみよう』
 感知器の主体は、木枠で作った風洞構造である。風洞は下部が細くなった三角構造である。この風洞を風が通るとき風洞内に設けた板を風力によって、板の下部が上部方向におしあげられる。風の強さによる板の傾き具合で風力のランク付けができるようにしたものであった。また、風向きを感知する矢印板は風動木枠上部に取り外し自由のカタチで、あらかじめ設けた穴に心棒を差し込んで使う構造にしてあった。
 風力のランク付けは、彼の裁量によって決められていた。感知器の握り手を右手で握り、向かい風にかざした。風向矢印板の指し示す方向と平行方向に風洞を向けた。そして、風力の強さを確かめた。次は、帆に受けている風向、風力を知るべく、帆桁に垂直方向に感知器をかざした。帆をはらませている風の風向きと風力を確かめた。それによって斜め後方からの風の力がまともに受ける風の力の3分の2以下であることを知った。
 『ほっ、ほう、そういうことか。このような場合は帆に受ける風力のダウンはこのようになるのか』
 彼はうなづいた、自分の造った道具がこのように便利なものなのかと己に感動した。