『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  645

2015-10-30 06:09:50 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 オロンテスは、堅パンつくりに抜かりはないかと頭中でチエックした。彼は、設計図をもってドックスの許へと急いだ。ドックスは待っていた。
 『お~っ!オロンテス棟梁、待っていました。どれどれ、設計図を見せてください』
 設計図が手渡される、見入るドックス、口を開くドックス。
 『オロンテス棟梁、この箱の構想よくできていますな。細部についてもとてもよくできています。解りました。明日、昼めし時に係りの者をこちらへよこしてください』
 ドックスは、設計図を見ながら、オロンテスに質問した。
 『オロンテス棟梁、ところで造る箱の総数はいくつです?』
 『お~お、それそれ』
 彼は首をかしげて答えた。
 『200個くらいーーー。それでいきます』
 『判りました。引き受けました』
 ドックスはオロンテスを安心させるように応じた。
 『では、ドックス棟梁、頼みます』
 『判りました』
 二人は握手を交わした。
 オロンテスは箱の組み立てについて思考を巡らせた。
 『さて、どうする?これはオキテスに相談だ。あの風風感知器を造ったメンバーが最適と考えられる』
 彼は、オキテスの姿を探し求めた。時は、夕めしの時間がそこに迫っている。
 オキテスは、現場の者たちを集めて、今日の終業を告げている。オロンテスはオキテスのところへ歩を向けた。
 近づいてくるオロンテスに気づくオキテス、オロンテスに声をかける。
 『おう、オロンテス、どうした?血相を変えて、お前、何をそんなに思い詰めている?』
 『なにっ!俺の表情が変わっている?今の俺は真剣に物事を考えている。表情に出たのかな。オキテス、相談事だ、聞いてくれ』
 『おう、聞こう』
 『こう言うことだ。-----。』
 オロンテスは新商品の件を話した。
 『そのようなわけで箱作りの要員をお前に頼みたい考えている。俺の考えではだな、あの風風感知器造りに携わったメンバーが最適だと考えたのだが、、、』
 『ほう、あの者たちか、あの者たちの大半が新艇建造に働いている。その箱作りは何日くらいかかるのだ?』
 『明日の午後から取り掛かって20人体制で、明日、明後日の2日と目論んでいる』
 『2日間だな、いいだろう。何とかする。解った。それでどうする?』
 『明日、昼めしが終わるころにセレストスに迎えに来させる。ドックスのところで作る箱の用材を受け取る。それをもって、工房の近くの広場で製作する段取りでいる』
 『了解した。セレストスに昼めし後にここへ来るように手配しておいてくれ』
 『ありがとう、オキテス、礼を言う。今の俺は何かと忙しい、明日からの俺は集散所行きだ。宜しく頼む。お前が頼りだ』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  644

2015-10-29 05:40:08 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『では一同、次はこれだ。焼き上げる堅パンは保存食だ、いいな。パンとは、ちと、違う。入れ物について考えねばならない。堅パンの大きさはこれくらいと決めて、60個くらい入れる入れものを木材を使って造ろうと考えている。それについてお前らの考えを聞いてこの場で決める。いいな。それが決まり次第、作業手順と段取りを決めて、即、準備に取り掛かる。いいな』
 『はいっ、判りました』
 一同が声をそろえて応える。
 『この仕事の責任担当は、セレストス、お前だ。皆もいいな!』
 『おうっ!』と答えが返る。気合が入った。
 オロンテスは、大き目の木板に木炭を手にして、入れものの概略図を描いて一同に提示した。
 『お前ら、よ~く見るのだ。これから言う二つの事柄を合致させることを念頭に、いれものとそれに入れる堅パン60個の大きさを考えるのだ。いいな。俺とネリタス、ヤクタスは生地づくりを考える。夕めしまでにまだ間がある。直ぐに取り掛かるのだ』
 『判りました』
 一同は、一斉に作業に取り掛かった。
 セレストスは、オロンテスの描いた堅パンを入れる箱の概略図と板切れの大きさを見て、パンを思いついた大きさに切り、数を整え、箱のサイズと堅パンの大きさを決めた。一方、オロンテスは、決定している堅パンと未決定の堅パンの生地を練りあげ、セレストスが想定した大きさに堅パンのサイズを整えてサンプルの堅パンを焼いた。
 堅パンを入れる箱の概要も決まり、サンプルの堅パンも焼けた。オロンテスは、再度一同を集めて総括した。
 焼きあがったサンプルの堅パンを試食する、焼き上がりの堅パンはどれもこれもうまい、うす塩味の堅パンは思いのほかのうまさである。問題は、野菜、魚、肉を混ぜ込んで焼いた堅パンである、堅パンが保存食という目的上、これは二日後に味見をして決めることとした。
 オロンテスは、ゴ―サインを出す、羊乳蜂蜜堅パン50箱、うす塩味堅パン50箱の製造を指示した。
 オロンテスは、セレストスと話し合った。
 『おう、セレストス、箱サイズは大丈夫だな?』
 『はい、堅パン60個入りとしています。部材はこのようです』と言って、オロンテスに設計図を見せた。
 『ほう、この大きさで、この大きさの堅パン60個入りか、いいだろう。俺は、部材調達の手配にドックスと打ち合わせに行く。箱作りの者をどうするかも考える。明日から俺が集散所に出向く。お前がこの件についてすべてをやるということだ。心してかかれ。以上だ。解ったな!』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  643

2015-10-28 04:32:13 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 彼は、新艇建造の場でドックスを探した。
 『おっ!いたいた。ドックス、俺だ、相談事だ』
 『オロンテス隊長、それとも、オロンテス棟梁と呼ぶほうがいいですかな』
 『どちらでもいい。それよりも、こんな仕様で木箱を130個くらい作りたい。その板材探しと相談に来たのだが、いま、話していいか?』
 『はいっ、それはよろしいです。お聞きいたします』
 『底と蓋には、この板を使うとして、側板と蓋のに使うのに、厚さがこれくらいの板がほしい』
 『ほう、ちょっと厚さの薄いの板ですな。これは製材しないといけませんな』
 『これについては、そこにあるもの、ほい、ではいけないか』
 『そうですな、オロンテス棟梁、設計図を書いて入用個数を言ってください。製材してあげます。箱の組み立ては棟梁の方でやってください。指示書をもらえば、明日午前中に間に合わせます』
 『判った、ありがとう。今夕、ドックス棟梁のところへ届ける。宜しく頼む』
 『判りました。引き受けます』
 少し間をおいてオロンテスが口を開いた。
 『あ~っ、棟梁、それから、この箱の組み立てに使う釘の事だが、ドックス棟梁の手許にあるかな?』
 『釘!?ここでは使っていない釘ですな。手持ちはあります。間に合わせましょう』
 『ありがたい!これで行ける!ありがとう、感謝感謝だ。あの板きれ4~5枚もらっていくが、いいかな』
 『いいですとも、どうぞ!』
 オロンテスは深くうなずいた。これで一件落着である。底板と蓋にこれを使って、箱サイズを決めればいいと手にした板を眺めて考えた。
 ヘルメスがキドニアから帰ってきた。彼は、ドックスと別れてそちらへ歩を向けた。
 『おう、帰って来たか。セレストス、今日はどうであった?』
 『首尾は、上々でした』
 『そうか、それはよかった。作業を終えたらクリテスを連れて、工房の方へ来てくれ。スタッフを集めて会議をやっている』
 『判りました。急いで報告を終えて、会議に参加します』
 セレストスは、クリテスをともなって、イリオネスに報告を終え、会議に参加した。工房へ戻ったオロンテスは、会議の進み具合をチエックした。
 『おい、お前ら方向が出たのか?』
 『はい、一つは初めから決まっていますから、二つ目にはウスイ塩味でオリーブの風味を効かせて仕上げればいいと考えました。三つ目ですが、試しに作って決めればと考えていますが』
 『おう、そうか、いいだろう。セレストスにクリテス、事の次第はこうだ』と言って、事の始終を語って聞かせた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  642

2015-10-27 04:30:22 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 二人は木剣をとって打ち合っている、これでもかと打ち下ろす、ハッシと受ける、かわす、切っ先は体をかする、打ち込みが決まらない。
 アヱネアスがここぞと打ち込む、その一撃がイリオネスの頭頂に一髪の間隙で決まった。アヱネアスは決まったと思った。イリオネスの剣の切っ先が喉もとに決まっていた。
 二人は静止する、目を合わせてじい~っとにらみ合った。二、三拍の間をおく、二人は構えを解いた。
 『イリオネス、いい汗を流したな』
 『全くです』
 二人は木剣を引いた。瞬の間である、目を合わせて心を通わせた。二人は剣合の余韻に浸る、言葉を忘れている。アカテスのひと言が言葉を忘れている二人の気持ちを融合させた。
 『ご両人、見事でした。お二人の剣の打ち合いは鬼気迫るものでした。実戦さながらといったところでしたな』
 その声を耳にした二人は大声をあげて笑った。
 『汗を流しに浜へ行こう』
 『行きましょう』
 二人の剣合、打ち合いを見ていたリナウスも心をしたたかに打たれていた。イリオネスがリナウスを浜に誘う、ユールスを加えて5人は浜への坂道を下った。
 
 オロンテスは、工房にスタッフを集めて、脳漿を搾っている。彼は自信を持っていた。
 『搾れば知恵が出てくる俺の頭』一同を前にして問題を提起する、答えはすでに俺の頭中にある、合致する意見が出てくるか否やにかけて話を進めている。
 彼は、此のプロジエクトを勝ち勝ちでいきたい、その様に強く思いつめていた。また、この仕事の永続を目指せるや否やが課題でもある。テカリオンとの取引一発で終わりたくはなかった。
 オロンテスが集めているスタッフは今は四人である、パン焼き担当のチーフ、ヤクタス。製粉担当のチーフ、コナシス。生地練り担当のチーフ、ネリタス。給食パン担当のチーフ、タベサスである。セレストスとクリテスはキドニアから帰ってきてから出席させるとしていた。
 『おう、お前たち、俺はちょっと浜へ行ってくる。堅パンの味付けは、2~4種だ、いいな。話し合って、これでいいと思えるやつを考えろ』
 言い残して、そそくさと工房をあとにして浜へ向かった。彼は、納品までのデイスケジュールを考えながら坂道を下っていく。
 『この道を下るように物事を順調にやりたいものだ』
 彼は、新艇建造の場へ歩を運んだ。足元には用材の切れ端が散らばっている。彼は適当と思われる板切れの一枚を手に取って見つめた。
 『うっううん、これでは側板に使うのに板の厚さがありすぎる。使っても底板と蓋用にに使うくらいだな。側板には使えない』
 彼は、焼いた堅パンを入れる箱の構想を決定した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  641

2015-10-26 05:14:47 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『その想いか、イリオネス。ひと言で言える短い想いだ。だが、その実現には、長~い時間、いや、長い歳月がかかる、果たして、それの実現の場に立てるかどうか、そして、果たせるかどうかだ。しかし、想いは必ず実現する。これは確信の前置きだ』
 『統領、その一言で言える短い想いとはなんです。毎日数回も想い起すこととは?』
 『それは、こういうことだ』
 アヱネアスは、きっとイリオネスの目を見つめて口を開いた。
 『人をつくって人づくりだ。それがこのクレタでは実現できないのではないかと考えている』
 『そうですか、それについては、この私も心の片隅でですが考えています。統領の気持ちが解ります』
 『俺たちが想う、建国のはじめの第一歩だ。我々が処を得て、始めにやる仕事だ。建国はここから始まる。そして、十幾年後、彼らが国を建てていく。その想いが湧いてはおさまり、おさまってはまた湧きあがってくる。『想いは実現する!想わざるは実現せず』だ。その想いが、湧く、おさまるの繰り返しだ』
 『統領、よく解ります。それを決断するときが訪れる。必ず訪れます。それも遠い未来ではないように思われます』
 『イリオネス、お前、本当にそう思うか。俺が父と話し合う日がもうそろそろだと感じている。決断の時が熟してきている、そのように感じている。この話は俺とお前二人だけだぞ、誰にも言ってはならん』
 『判りました。胸に秘めておきます』
 『よし!イリオネス、支度をしろ!』
 『やりましょう。この前の借りを返さないと、、、』
 『俺がお前に打ち込まれると、、、そんなことはありえん。手加減なしだ』
 二人は支度して、訓練の場の草地の真ん中で正眼で見合った。二人の打ち合いは激しい。ユールスは幼いながらも感じている風情であった。
 裂ぱくの打ち合いが続く、木剣といえどもその刃の下に生死がある、命のやり取りである。対手を倒すか、倒されるか。剣の打ち合いの駈け引き、虚をつくり、誘い込む、智力、体力、技倆、そして、剣速こそ対手を制する真髄であることは、この時代も今と変わらない極意である。己の生き残りになくてはならないものであるとアヱネアスもイリオネスも心中に持していた。一族の統率にも、惹起してくることの処理にも、必要欠くべからざるものであると、それを心に抱いて物事に対峙する、そして、対処していた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  640

2015-10-23 04:26:37 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『軍団長殿、新艇の事ですがよろしいでしょうか』
 『おう、聞こう』
 『私が1艇ですが、真剣に買うことを検討いたします。お約束します。新艇の構造、使用について注文があります。それについてはパリヌルス、オキテスのご両人と話し合います。何卒宜しくお願いします』
 『おう、判った。宜しく頼む』
 決済事を終えた一同はイリオネスの宿舎を辞した。
 イリオネスは、何といえばよいか解らぬ精神的圧力の一つを身から取り除いた感に浸った。彼は、この精神的圧力を分析した。
 前門のトラ、後門のオオカミ、前門のトラは退けた。残るは後門のオオカミか。
 ガリダ方への決済が心に圧力をかけている。戦場における命のやり取りとは異質の重圧に感じる。しかし、集散所が中間に介在することでその重圧を緩衝してくれている。
 『まあ~、なるようにしかならぬ』と結論して肩の荷を軽くした。心を圧してくる圧力が少々ゆるんだと感じた。
 『よしっ!行こうか』と腰をあげた。
 テカリオンに対する決済を終えた彼は、撃剣訓練の場へと足を向けた。
 そこでは、幼いユールスが父アヱネアスと対峙している。彼はそれを眺める、そのほほえましい風景に見とれた。
 父の優しい声が飛ぶ、打ち込むユールス、幼い剣。
 訓練場のリナウスの造った防具を身にまとい、木剣をふるう幼い剣士、その剣に打たれ、負けを演じるアヱネアス、そこに父と子があった。
 『おおっ!やってますな』と声をかけるイリオネス、ちらっと見るアヱネアス、声をかけるアカテス。
 『ユールス!いまだ!打ち込め!』
 その一声でユールスの木剣は右腕を打った、ポーズを大きく演じてうずくまるアヱネアス、感じる痛さで知る我が子の成長、その光景にイリオネスは目を細めた。イリオネスは父と子とはこういうものなのかと感じ取った。
 イリオネスは、瞬時、自分の幼き日を思い起こす、俺にもこのような日が訪れるかなと思いをはせた。と同時に、こんな風景を多くの者たちにつくってやらねばと、ねばの必然と実現を心の片隅で想いやった。
 『おう、アカテス、ユールスの相手を頼む』
 『はい』
 アヱネアスがイリオネスに声をかけてくる。
 『おう、来てくれたのか』
 彼が語り掛けてくる。
 『おう、イリオネス、今日この頃だが、頻繁に想うことがある。イリオネス、聞いてくれるか。山行から帰ってきてから、毎日、数度となくそれを想う』
 『統領、その想いとは何です?』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  639

2015-10-22 04:27:23 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テカリオンの船から小麦の荷おろし作業が始まった。オロンテスがパリヌルスに言って手配した40人余りの者たちが荷おろしに手を貸した。
 小麦が運ばれてくる、格納庫内に積まれていく、オロンテスとテカリオンは搬入の流れを見て、二人の者に後事を託してイリオネスの宿舎へと向かった。
 イリオネスは、決済額に相当する集散所の木札を準備して、二人の来るのを待っている。彼は、決済者としての険しい風情を漂わせて戸口に立っていた。
 『軍団長、荷おろしが8割方終わりました』
 『おう、そうか。中に入ろう』
 彼は二人を招じ入れた。オロンテスがイリオネスの傍らに席をとる。テカリオンは、連れの者の二人を戸外に待たせて、イリオネスの向かって席をとった。
 『おう、テカリオン、では、決済をする。先ず前回分の決済を受け取ってくれ。オロンテス、手前の袋を渡してくれ』
 オロンテスは、指示されたように木札の入った袋、5袋をテカリオンに渡す。
 『ありがとうございます。頂戴いたします』
 テカリオンはイリオネスの目を見つめて礼を述べた。続けて今回分の半額と思しき額の木札をテカリオンに渡した。テカリオンは木札の総数を勘定して受けとった。
 テカリオンは、持参した2枚の木板に受け取った木札の数を前回分と今回分の2項に分けて書き込み、その木板をイリオネスに提示した。
 『軍団長、よろしいでしょうか、お確かめください』
 『おうっ』
 イリオネスは、木板に目を通して、テカリオンの署名の上段に署名を書き入れた。
 木板をテカリオンに手渡す、それをうやうやしく受け取る、目を通す、1枚を手元に残し、1枚を丁重にイリオネスに差し出した。
 『軍団長殿、ありがとうございました。確かにいただきました』
 『おう、これで決済は終わったな。しかしだな、テカリオン、決済という仕事はすごく気を使う、そのうえ心を圧迫する作業だな。テカリオン、おまえのしごとの大変が察しられる』
 『ありがとうございます。私も決済の場では、いかに少額とはいえ、支払う、受け取る場においては、すごく緊張いたします。命のやり取りの場です。このように大きな取引はここだけです。そうでないと命ひとつでは、到底足りません』
 『そうか、そうであろう。解るな。お前の気持ちが』
 『ありがとうございます』
 『ではな、テカリオン。オロンテス、支払った木札、持って帰るに手を貸してやれ』
 『判りました』
 決済が終わった。三人は、決済という重大事の心の呪縛から解放された。緊張が解けた。


 『トロイからの落人』を書いていて用字に気を配っていますが、不適当と思われることがあります。
 お許しください。お詫び申し上げます。
 ここ数日間の投稿で 荷卸し と書きました。不適当でした。今日の投稿から  荷下ろし と書いています。
 訂正いたします。
                         山田 秀雄

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  638

2015-10-21 04:28:43 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 アカテスは、酒壺をイリオネスの杯に差し向ける。イリオネスは来るときにつまんできた小袋をユールスに手渡した。
 『統領、今、ユールスに渡した小袋には、オロンテスが新しく焼いた堅パンが入っています。新商品に予定している堅パンです。あとからオロンテスに言って届けさせます。賞味してください。注文事項がありましたら言ってください。今はこの一種類ですが味付けによって2~3しゅる類くらい焼くと言っています』
 『ほう、そうか。味わってみる。目的は何と言っている?』
 『はい、保存食品と言っています』
 イリオネスも加わって一同は昼食を終えた。
 『よし!いいぞ、イリオネス。用件を聞く』
 アヱネアスは座から立ち上がる。
 『お前の宿舎へ行こう』
 イリオネスも礼を言って座から立ち上がった。二人は並んで歩き始めた。間をおかずにイリオネスの宿舎に着いた。小部屋に落ち着く二人。
 『イリオネス、用件は何だ?』
 『はい、小麦の仕入れと決済の件です』
 『おう、そうか。テカリオンが来ているのであったな』
 一拍の間を取り、話を続けた。
 『それで財政状況はどんな具合なのだ?』
 『パン事業の状況、漁業の業務状況は、この春先から順調に展開しています。そのようなわけで財政状況には不安とする要素がありません。新艇建造用材の決済が控えています。ただそれだけです。今日、テカリオンに小麦の決済をいたします』
 『判った。財務に詳しいお前の事だ、ぬかりのあろうはずがない』
 『統領からテカリオンに話はありますか?』
 『いや、ない。新艇の事、それとなくお前から伝えてくれ。それくらいだ』
 『判りました』
 二人の話は終わった。アヱネアスは、ユールスの近況について語った。
 『いや、なあ~、イリオネス。ユールスの体格に合った撃剣練習の防具と武具をリナウスが造ってくれたのだ。今日の午後、この俺と撃剣の訓練をやる。お前も時間があれば訓練場に来い。俺と手合せをやろう。ユールスが俺と打ち合うこともだが、いい打ち合いの手本を子供に見せる。いいイメージを子供に持たせてやりたい』
 『判りました。用事が終わり次第、行きます』
 アヱネアスは、イリオネスの宿舎をあとにした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  637

2015-10-20 05:58:57 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 テカリオンは、丁重に礼を述べた。
 『軍団長、ありがとうございます。では、ヒルイチにお伺いします。荷卸しの手配もあります。私はこれにて失礼いたします。オロンテス殿ありがとうございました。荷卸しの件ヒルイチから取りかかります。少々手をお借りしたいのですがよろしくお願いします。それから新商品の件よろしくお願いします』
 『判りました。しっかとお受けします』
 テカリオンはイリオネスの宿舎をあとにして、浜に向かった。イリオネスとオロンテスはパン事業の事について話し合った。
 『-----。オロンテス、お前の努力でパン事業の方が順調である。お前には、統領ともども感謝している。何かあったら言ってくれ、力添えは惜しまん。新商品の件、どのように考えているか、俺は知る由もないが、出来あがったら事後報告でいいからしてくれ。おまえには感謝している、ありがとう』
 ありがとうの一言で人を動かす、イリオネスは人使いの要領を心得ていた。それでいて財務についても明るかった。彼は小麦の決済に関して思考を巡らせた。パン事業も順調であり、漁業の方も春からの水揚げがよく、また、魚の加工品の売り上げも順調と言えた。
 そのような次第で財政状況は潤沢と言えた。それでいて、ガリダ方より受け入れた新艇建造用材の決済の事に思いをはせた。用材の決済額については今のところ不明である。少々の不安も感じる。
 彼はオロンテスが去ったあと、アヱネアスの宿舎に出向いた。
 アヱネアスは、ユールス、父のアンキセス、そして、アカテスで昼食の場を宿舎の前の草地で囲んでいた。
 アヱネアスから声がかかった。
 『おう、イリオネス、何か俺に用か?急ぎか』
 『用件はありますが、急ぎではありません』
 『そういうことなら、まあ~、お前もそこに座れ!昼めしを一緒にしよう』
 アンキセスも声をかけてくる。
 『イリオネス、お前も休む暇もなく忙中を過ごしている。耳にしているところでは、でっかい仕事を抱えているようだな、ご苦労。俺なりにそれとなく気に掛けている。お前がアヱネアスについていてくれて、俺は安堵している。何かと宜しく頼む。先ずは、一口飲め!アカテス、彼に酒を注いでくれ』
 『あ~、いただきます。統領、そして、アンキセス殿と食事を共にするのは久しぶりです。馳走になります』と言って酒杯の持つ手を差し出した。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  636

2015-10-19 06:21:32 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おおっ!これは何だ?!』
 『本当は、もっと早く事情説明しておくべきでしたが、品物に自信が持てなくて報告が遅れました。羊乳蜂蜜パンを焼いていて焼き加減を失敗して、ひと工夫の上、オリーブ油を加えてパン生地を練り上げ焼いたパンです。口にしてみてください。今、テカリオンどのと食べてみて、声がかかったのです。『おい、これはいけるぞ。保存食に向いている。酒のつまみにもいい』と言われて、テカリオンどのから、キドニアにいる間に焼いてくれと注文を受けた次第です』
 イリオネスは、口に運んで噛み砕いた。
 『おっ!これはうまいっ!オロンテスいける!商品としていけるな。ゴーだ。やれ!OKだ』
 『判りました。早速、商品として出せるように計らいます。テカリオンどの、とりあえず、5日後に納品の段取りします。キドニアで渡します。商品の包装等は私に任せておいてください』
 『いいでしょう。オロンテス殿、よろしくお願いいたします。価格については、その時に話し合いましょう』
 『いいでしょう』
 新商品の件については、その場で話がまとまった。
 イリオネスは、その状況を見ながら、聞きながら、小麦の決済について考えていた。イリオネスが口を開く。
 『おう、テカリオン。決済について話し合おうか』
 この言葉を耳にしたテカリオンは、イリオネスに気づかれないように身構え答えた。
 『はい、軍団長、このようになっています』
 テカリオンは、同行させて来た者から、詳細を書きつけた木板を受け取りイリオネスに手渡した。
 『このようになっているのか、今度納品するために積んできた小麦の量は、前回より少し多いのか?』
 『はい、このように言っては何ですが、少しではありません。かなり多くなっています。私の想いでは決して、あなた様方には、損をかけないように心配りをしています』
 『そうか、解った。いいだろう。オロンテス、このようだが、どうだ、お前の意向は?前回分の決済額については了解した。今回の受け取り分についてだ。よく見るのだ』
 イリオネスは、オロンテスに木板を見せた。
 オロンテスは、小声でイリオネスにささやいた。
 『そうか』と言ってイリオネスはうなずく。
 『おう、テカリオン、小麦の件承諾する。荷卸しは、オロンテスの指示を受けてやってくれ。もうじき昼だ、決済は昼を済ませたらここでする。出向いてくれ』
 イリオネスは、テカリオンに申し渡した決断の言葉であった。