『アエネイスミッション』[Aeneas Mission ]

建国の使命を抱くアエネイスのフアストミッションは自軍団自民族引き連れて炎上壊滅するトロイからの脱出である。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1213

2018-01-31 14:07:54 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 風を帆いっぱいにはらんでの快走である、やや北寄りから吹いてくる東風である、沿岸に吹きやられる危険度のある航走である。
 ギアスもゴッカスも操舵席に張り付いて操船に努める。半刻をかけて航走する距離をまたたく間に駆け抜けた感じで半島岬の西の端に到った。
 二艇は、南西方向に進行方向を転じる、風は真後ろからの順風として帆にはらむ。二艇は快心の走りをしてニューキドニアの浜に向かって海上を駆ける。
 イリオネスが驚いている、艇上の一同が未体験の船速を体感している、艇がふり飛ばすしぶきに濡れている。
 ギアスにとっては、艇の走りを観測するいい機会である。
 先に進む戦闘艇は、落ち着いた航走状態で波を割っている、ギアスが乗っている新艇はやや波に弄されている感じの航走である。ギアスは後方にいて二艇の航走状態を比較検討する。
 『これは艇重と衝角構造体のあるなしであろうか?』と考えた。
 艇の船速が速くなったとき、航走状態と波立ち、波浪の大きさ等海上の諸状況に対する船体の順応性であろうかと思考して課題とした。
 艇の船足が速くなってきている。戦闘艇はと目線を移すと落ち着きのある走りをしている。
 このような目線で海上を航走する艇を眺めると改良すべき点が見えてくる、ギアスは航走状態を真剣に見つめる。
 艇体の深さが浅いように見受けられる。戦闘艇に関しては如何なる海上条件であっても、それに対処できる仕様であることが望ましい、帰ったら意見の具申をしようと心に決める。
 ギアスは我に返る。海上状況と艇の走りをチエックする。操船に集中すべき状態である。
 風速は変わっていない、海上状態にも変化がない、船速が少しではあるが速くなっている。彼は幾度かの航走を振り返って思い出す、対処を考える。
 地点はと見廻す、右手に小島が見えてきている、浜が近づいてきている、ギアスは操船指示を出す。
 『帆を下ろせ!帆を下ろすのだ!漕ぎかた櫂操作で艇速を制御せよ!』
 ギアスとゴッカスの目が合う、手振りでサインを送る、了解のサインが返る。
 ゴッカスが大声で指示を出している、
 『帆を下ろせ!漕ぎかた!櫂を使って船速を制御せよ!急げ!浜が近づいている!急げ!』
 二艇の船速が遅速し適正速度となる、静かに浜に接近していく、碇石を海に沈め、艇が動きを止めた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1212

2018-01-31 08:54:29 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、オキテス隊長、浜小屋のほうへ行きましょう』
 『浜頭、オキテスと呼び捨てにして隊長も殿もつけないで声をかけてほしい』
 『解った。ちょっとだが失礼と感じることもある。まあ~、いいか、そのようにする。ところで今日、キドニアに行くについてだが、歩きで行く、歩いていけば半刻少々時間がかかるといったところだ。船で行けば二刻余り、その4分の1の時間で行くわけだ』
 『解った了解した。朝めしを終えたら出発しよう』
 『了解!』と元気な声が返る。
 二人の朝めしは、焼きたてのパンにしぼりたてのヤギ乳である。たっぷり飲む。オキテスにとっては、珍しい飲み物である。
 『ヤギ乳とは、このようなものなのか。結構うまくていけるな、重畳!』
 二人は、足元を整えてキドニアに向けて歩き出す。道程は山越えならぬ、丘越えである。疲れを感じることもなく、キドニアの街区を通り集散所に着いた。
 『おう、オキテス、ご苦労、ご苦労!ではな!』
 『集散所の詰め所のほうへ出向くとき、浜頭、呼びに来る』
 『おう!』と返事を返すスダヌス。
 オキテスは早速パン売り場へと歩を運ぶ、オロンテスが売り場を整えている、オキテスが声をかける。
 『オロンテス、元気であったか?俺だ!帰ったぞ!』
 その呼びかけに驚き、振り向くオロンテス。
 『なにっ!オキテス。どうした?船ではないのか』
 『おう、船ではない。昨夕は、スダヌスの浜で一行は宿営したのだが、俺だけ船を下りて、集散所に報告しておこうと思ってな。浜頭と歩きで丘越えをしてきたというわけだ。船の連中は、今頃、半島岬の手前だと思う』
 『そうか、スオダの浜は、陸路をたどればそんなに遠くはないのか。まあ~、ご苦労であったな。休んでくれ』
 『おう、ありがとう。集散所方へ報告するにしても、慌てることはない。タイミングを見計らって一緒に行こう。それより、お前が焼いたパンを一時も早く食べたい!ひとつくれ』
 『おうっ!』
 オロンテスから受け取ったパンの香りを鼻で嗅ぐ
 『おう、おう、いい匂いだ!これこそパンだ!』
 パンを口に運ぶ、口中に味が広がる、味が懐かしい、胃中に落とし込む、帰ってきたという感情がこみあげてくる、心が落ち着いた。

 朝、スオダの浜を出航した二艇は、入り江口で進行方向を北へと転じて北進する、一刻余りののち、アクロリテー半島岬の東端に到る、西へと方向を転じて波を割る。
 風が来ている、風方向に懸念があるものの利する具合を考える、北東からの風である、凪終りの海風も相まって吹いている。
 ゴッカスが帆張りを決断する。後続のギアスが操船するテムノス方の新艇に目を移す。
 ギアスも帆張り作業をやっている、ゴッカスが指示を飛ばす、半島岬の北岸に沿って二艇が櫂をあげて帆走する、艇速が加速していった。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1211

2018-01-29 08:40:41 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 スダヌスは、この光景を眼のあたりにする、戸惑う。
 『お~お、そんなに!そう、かしこまられると、どうしていいかわからない』
 途方に暮れるスダヌス、その光景にオキテスは満足する。
 オキテスが口を開く。
 『一同!充分に腹に収めてくれたかな?』
 『腹いっぱい、馳走になりました』
 『おうっ!そうか、よかった、よかった』
 今度はイリオネスからの礼である。
 『おう、スダヌス浜頭、馳走になったな、ありがとう。今夜は艇を係留している辺りの浜で宿営するよろしく頼む。明朝は、今朝よりも少々早く出航する段取りにしている』
 『解りました。道中の無事を祈ります。明日の私は、集散所のほうにいます。集散所と話し合うとすれば、航海が無事であったことだけを伝えておきます』
 『おう、それでいい。明後日には私も集散所のほうに出向く。オキテスと話し合ってみなければわからないが、彼をキドニアで下していくかもしれない。その時は二人で話し合って集散所側と話し合ってくれ。以上だ』
 彼ら一同は、艇を係留している至近の浜に場をとって宿営を営む。
 八月半ばである。空にはくっきりとした月が輝き光を振り下ろしていた。

 スオダの浜の朝が明ける。イリオネスら一行の朝は早い、薄明の浜、起きあがった者らが朝行事に海に向かう。
 朝の第一射が浜の活気を呼び起こす、漁師らが船を出す、漁に向かう。
 スダヌスが姿を見せる。
 『軍団長、おはようございます。よく休めましたかな?』
 『おう、おはよう、いい朝だ!昨夜はぐっすりであった。よく眠ったな。俺らは、このあと朝めしを終えたら出航する。昨夜、オキテスと話し合った。オキテスは浜頭と同行することにしている。よろしく頼む』
 『了解しました』
 ギアスとゴッカスと打ち合わせを終えたオキテスが来る。二人の傍らに立つ。
 『あっ、浜頭、おはようございます、いい朝です。昨夕は大変、馳走になりました、ありがとうございました。軍団長と打ち合わせました。今日、浜頭に同行します。よろしく頼みます』
 『おう、オキテス隊長、おはようございます。軍団長から聞いています。キドニアに同行です。一行の出航を見送って、朝めしを一緒します』
 『おう、了解!』
 イリオネスらの朝めしが時間をかけることなく終わる。
 『おう、ギアス!ゴッカス!出航の準備は出来ているな!』
 『はい!出来ています!』
 『では、出航する!』
 漕ぎかたらが櫂座に就く、イリオネスが先行する戦闘艇に乗る、ゴッカスの声が飛ぶ!
 二艇は、凪いでいる入り江の海を泡立てる、静かに波打つ海面を割った。
 オキテスとスダヌスは、海を泡立て、白い航跡を残して遠のく二艇を見送った。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1210

2018-01-26 13:03:02 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
『なあ~、お前どうだ?』
 『どうだって、何がだ?』
 『今日の航海、この長距離、櫂の握りぱなっしは、きつかったな』
 『櫂を握って、艇を漕いで波を割る。俺はきついとはあまり考えない!俺はこの仕事にプライドを持っている。手のひらが痛む、だが、これは俺の仕事である、誰にもゆずれない、俺の仕事だと誇りを持っているのだ。きついとは考えたことがない』
 『そうか、俺は君を見習う。よく言ってくれた、ありがとう』
 彼らは、この長距離航海を為し終えた二艇の点検整備を終えて、スダヌス浜頭の浜小屋に集結する。
 浜小屋の浜焼きの炉には、火が入っている。彼ら一同、50人が入ると満員である。浜頭の使用人らが総出で夕食の準備を整えてくれている。小屋中に食材の焼けるいい匂いが充満している。
 スダヌス浜頭の声が小屋うちに響く。
 『おう、一同、今日はご苦労でした。肉も魚も程よく焼けています。塩を振って遠慮なく食べてください。酒も準備できています。当方の者らが手伝います。心おきなくやってください』
 イリオネスが礼を述べる。
 『浜頭、遠慮せずいただきます』
 漕ぎかたらから、『いただきます』『浜頭、いただきます』『馳走になります。浜頭』の声が届く。
 一同がひと言の礼言葉を述べて、食材の串を手に取って口へ運ぶ。
 『うまい!』『これは、旨い!』の言葉で場が盛り上がる。
 浜頭がほほ笑みを返す。スダヌス浜頭がイリオネスに声をかける。
 『軍団長、このたびはご苦労でした。今回の営業航海ですが、いい結果であったと思います。必ず、いい答えが出ます。まさにウインウインですな。そのような結果になります。杯をあけてください』と述べて、イリオネスが手にする酒杯になみなみと酒を注いだ。イリオネスもスダヌス浜頭が手に持つ酒ツボを手に取ってスダヌス浜頭の杯に酒を満たす。
 『スダヌス、ありがとう。お前も本当によくやってくれた。心から礼を言わせてもらう。この仕事に携わった者らの献身的な成果を受け取りたい。それがいつわりのない俺の気持ちだ』
 『軍団長、その気持ちが大いなる成果に結びついてと考えています』
 『スダヌス、お前、簡単に言うが、結果を見るまではわからんことだ。だがだな、俺はその予兆を感じている。そうありたいと考えている』
 一同はジョークも言わず、話もせずにひたすらに食べ、飲んでいる。スダヌス浜頭は、その光景をうれしそうに眺めている。
 オキテスがスダヌス浜頭に声をかける。
 『スダヌス浜頭、ありがとう。こんなに馳走してくれて、感謝感謝だ。この感謝を形で返せるかを心配している』
 『オキテス隊長、俺が一同に日ごろの感謝を返しているのだ。そのようなことを考えずに飲んで食べてくれ』
 スダヌス浜頭がやってくれた夕食会は大いに沸いた。道中での話に花が咲き、久しぶりといえるクリテス兄弟の邂逅、一同が楽しんだ。
 『おう、スダヌス浜頭、大変馳走になった。これ以上馳走になればあいつらここに根を生やしてしまう。ありがとう』
 イリオネスは、言葉に力いっぱいの感謝の念を込めて礼を述べる。
 オキテスは隊列を整える、スダヌス浜頭に声をかける。
 『スダヌス浜頭、ここに立ってください』
 オキテスが彼ら一同に声をかける。
 『一同!整列!スダヌス浜頭に礼を述べる。俺がいうように声をそろえて言うのだ。解ったな、いいな』
 『スダヌス浜頭、馳走になりました。ありがとうございました』
 一同が声をそろえてスダヌス浜頭に向かって唱和する。唱和を終えて、深く低頭の最敬礼をした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1209

2018-01-25 15:17:49 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 操舵席の前にいる漕ぎかたがグッダスに声をかける。
 『レテムノンの港を出てどれくらい来たかな?グッダス』
 『グッダス、どんなもんだ?』
 『そうだな、お前ら行く先見ずに、漕ぎに懸命だもんな。もう入り江の海の入口だ。まもなく進路の転換点のはずだ。行程の半分以上来ているな。残すところが3分の1くらいってところだ。陽は山にさえぎられて見えね~が海に身を沈める頃かなと思う。頑張って漕げや!』
 『おうっ!』
 ゴッカスから進路転換の指示が来る。
 『グッダス!進路変更!真西に進路をとれ!』
 『おうっ!』
 次いで漕ぎかた一同に声をかける。
 『あと半刻余りでスダヌス浜頭の浜に着く。旨い夕めしが待っている!気合を入れて漕ぐのだ!』
 『おうっ!』『おうっ!』
 二艇は、風のない薄暮の小波の海の波つらを割って進んでいく、艇が進む両側に浜が続く、人影が絶えてなく、暮れなずむ海路である。
 突如、スダヌス浜頭の大声が宵のしじまをふるわせて耳を突く。
 『一同に告げる!終着の浜に着いたぞ!あと3漕ぎもすればそこが俺が浜だ!』
 浜頭の告げる3漕ぎは10漕ぎ以上であった。
 『おう、オキテス隊長、俺が浜に着きましたぞ!疲れがどこかに消えてしまう、不思議というもんだ』
 スオダの浜に到着した頃合いは宵の半ばである。
 スダヌス浜頭が二言三言オキテスに声をかける。
 『おう、了解!』
 オキテスの返事を背に受けて、艇から飛び降りる、浜小屋に向けて駆けだす。
 イリオネスとオキテスが二艇の漕ぎかたらをねぎらう。
 『おう、一同!今日は、長距離の航海ご苦労であった。ここで君らの奮闘に礼を言う。終着のスオダの浜に着いた。無事に到着したことを喜ぼう』
 イリオネスは、一同と目を合わせる。
 『ところでだ、明日の航海について伝えておく。明日の航海は最終の航海である。昼めしを我らが浜で食べれるように時間を見計らって、この浜を出航する!今朝の出航時間より少しだが早めにと考えている。航走距離は、イラクリオンからレテムノンまでの距離より1割くらい短いと考えてくれ。よろしく頼む。今宵はスダヌス浜頭のはからいで、これより夕食とする。なお、今夜は、この浜で宿営する。以上だ。今日は大変ご苦労であった』
 イリオネスが話し終える。話し手がオキテスに代わる。
 『おう、一同!ご苦労であった。君らは大変な長距離航海を乗りきった。この長距離の無事航海を成し遂げたことを喜ぼう。このあと、スダヌス浜頭の厚意に甘えての夕食とする。両艇を点検のうえ明日の航海に向けて整備してくれ。それを終えたら、スダヌス浜頭の浜小屋に集合してくれ!いいな』
 『おうっ!』
 一同から、歓声で返事が返る。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1208

2018-01-24 08:40:30 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 スダヌスがオキテスに声をかけてくる。
 『おう、オキテス、用件も終わったな、お前らのやっているサービスだが、至れり尽くせりだな、感心感心というところだ。今日一日の航海も終盤に来たな。ここからは、俺が俺が浜まで案内する。任せろ!』
 『おう、いいとも、いいとも、よろしく頼む』
 スダヌスがゴッカスと目を合わせる、手招きで彼を呼ぶ。
 『おう、ゴッカス、ここからは終着の俺が浜まで俺が案内する、ゴッカス、いいな!』
 一拍の間を取る、話し続ける。
 『まず、グッダスに指示をしてくれ!艇の進行方向を北西にとってくれ!入り江口の岬の突端をを目指す!いいな』
 ゴッカスがグッダスに指示をする。
 スダヌスが次に艇の進め方をゴッカスに言い渡す。
 『この海はだな、勝手知ったる俺が海だ。このあと海は凪いでくる、それまでに半刻余りの間がある、海が凪ぐまでの半刻余りだが、海風が艇を押してくれる。帆柱突端の布きれを見てみろ、帆張りして行け!漕ぎは、そのまま続けるのだ』
 『解りました』
 ゴッカスが帆柱の先を見あげる、布きれのなびきを見て風の力を推し測る、ゴッカスはためらうことなく帆張りを指示する。
 『全帆、帆張りせよ!漕ぎはそのまま続けろ!』
 この頃合い、クレタの島の地形が為す技なのか、地形が海風を誘う、東からの風がささやかながらだが力を持ってそよぎ艇を押す、艇は少々だが加速して波を割る。
 後続しているギアスの乗るテムノス方の艇も先行する艇に倣って帆張りする。
 帆張りしての風の押しが漕ぎかたらの力の負担を軽くしてくれる。進路を北西にとって、入り江口への最短の海路を航走していく。
 スダヌスの心のうちは、スオダの俺が浜に着く頃合いを案じている。
 『この船足でうまくいけば、宵の口には俺が浜に着くかもな?』と、結果を見ずの算用を胸のうちではじく。
 『おう、オキテス、チョットだが小腹がすいたな。お前はどうだ?食い物があるのならすべて配ってしまえ!今宵は俺が一同に馳走する、残しておくことはない!』
 これを聞いて、オキテスがゴッカスに質す、指示をする。
 『了解しました』
 夕食用に準備していたパンを給する。
 配られた食べ物が一同の小腹のすきを癒す、この件を後続のギアスの艇にも伝えられ、対処される、二艇の艇上が和む、一同がスダヌス、オキテスの配慮に喜ぶ、艇上の彼らがジョークを飛ばす。
 『艇の荷が片付いて、軽くなったな』
 『なに言ってんだ、軽くなるわけがないだろうが』
 『艇の荷物がお前の腹の中に移動しただけじゃないか』
 『言われてみれば、そういうことか』
 『だが、気分だ!』
 『気分か!?そんな気がするな。お~お、幸いというべきかな』
 この光景を目にしたスダヌスがつぶやく。
 『お前ら余裕が出てきたな。いい傾向、いい傾向!そうでなくてはな!』

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1207

2018-01-23 08:18:43 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 先行している戦闘艇上のオキテスが太陽を見あげる。昼食の頃合いを計る、漕ぎかたらの体調を察しる、彼は方針を決める。
 『おう、ゴッカス、少々早いと思うが昼めしとする。艇を半数漕ぎで進めるのだ。そのようにして昼めしにする。昼食と飲料を一同に渡してくれ。あ~あ、それからだが、艇を後続のヘルメスの横につけてくれ。ギアスにこの指示を伝える』
 『了解!戦闘艇をヘルメス艇に横づけろ!』
 先行の戦闘艇がヘルメスの横に並ぶ、オキテスが艇上から大声でギアスに呼びかける。
 『お~い、ギアス!漕ぎを半数漕ぎにして、昼めしにするのだ!解ったか?』
 ギアスから手振りの O Kサインが返ってくる、それにうなずくオキテス、昼食の伝達を終えて二艇の航走体系を元の状態に戻す、二艇の船足が遅速する、航走しながら昼食を洋上で摂る、オキテスは時間的な計画を大きく狂わせることなく航海したい一心の処置をとったのである。
 二艇の航走は風に恵まれない航海を続けてレテムノンを目指している。まさに力漕航走である。
 マリアの港を出航して、イラクリオン、レテムノンの二港に寄港して、用件を済ませ、今日の終着予定としているスオダの浜まで120キロ余りを航海する。この距離を走破する。日足の長い季節であるものの、日没前の到着はできないと思いながらの航海である。彼らは懸命に漕ぎに徹して波を割り続けていた。
 レテムノンの港に着港したのは今様時間にして午後の3時過ぎである。
 テムノス浜頭がイリオネスに声をかける。
 『おう、イリオネス殿、考えていたより速い到着だ。一同力合わせての力漕でしたな。一同に心から礼を言います。ありがとう』
 テムノス浜頭は礼を述べて、話を続ける。
 『ところで例の件だが、うちの船も帰ってきている、いいタイミングです。急いで作業にかかります』
 『はい、解りました。やりましょう』
 イリオネスの指示がギアスにとぶ、ヘルメス艇をテムノス浜頭方の艇に横づける、荷おろし、積載物の積み替え作業を手早く終える。
 それらの作業を終えて、ギアスが乗って帰るテムノス方の新艇を点検する。漕ぎかた一同が櫂座に就く、その間にテムノス浜頭とイリオネスが打ち合わせを終える。
 『イリオネス殿、休んでくれとも言えない。言えることといえば、あなた方の道中の無事か。安全航海、無事で航海を終えてほしい。その一事だ。航海でのことだが、一同の操船を見てのことだ、漕ぎかたらの操船の練度が極めていい線をいっている。道中の無事を心底から祈る』
 『ありがとうございます。礼を言います。7日後には、改造を終えてこちらへ届けます』
 『おう、了解!よろしく頼む。ありがとう。待っている』
 テムノス浜頭が手を差し出す、イリオネスが握る。
 双方が『では!』と短く声を交わし、握手を解く。
 イリオネスの一行は、レテムノンの港をあとにした。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1206

2018-01-22 07:51:32 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 『おう、いいか、一同!次の目的地は、レテムノンの港だ、いいな。一同、長距離漕走ピッチで櫂操作だ!いいな!』
 『おうっ!』
 今様時間にして午前10時頃にイラクリオンの浜をあとにした。
 彼らが乗っている二艇が優れているのは、長距離対応の漕走ピッチの漕ぎで時間あたりの航走距離が約二割弱伸びている、いい結果を得ていることである。艇の構造、使用している櫂の仕様、構造によるシナジー効果の結果である。
 イリオネスがギアスに声をかける。
 『ギアス、風の具合は、どんな具合だ?漕ぎかたらの省力になりそうか?』
 『風は期待できません。感じる風は北西からのそよ風です』
 『ほう、そうか』
 テムノス浜頭が声をかけてくる。
 『この海域ではだな、離岸距離が遠いと西からの風が、この季節だと少々強い、これくらいの離岸距離が、この季節、この頃合いに西に向かう時の条件だ。今日はこれで良しとして航走することだ。今日は順風を期待しても吹いて来はしない。俺も櫂を握る。船足が少々遅くなってもいいではないか。風景を楽しみながら漕いでいこう。ところで、この船の操舵をやってみたいのだが』
 『解りました。即、手配いたします』
 ギアスが操舵のカイクスに声をかける。操舵の交替を指示する、テムノス浜頭が操舵棒を握る。
 『ギアス艇長、ジグザグ走行をやってみたいが、よろしいかな?』
 『はいっ!どうぞ』とギアスが答える、テムノス浜頭がジグザグ操舵で艇を操船する、艇は左右に舳先を振って波を割る。
 テムノス浜頭が艇の走行を身に感じとっている、体感納得の表情がうかがえる。彼は、風景に目を移して操舵を続ける。
 イリオネスがテムノス浜頭の風情にまなざしを向けている、二人の目線が合う、テムノス浜頭のまなざしがイリオネスに語りかける、うなずくイリオネス。
 二人は、互いの心情をまなzっしで話し合う、二人は阿吽の交情領域に達している。
 イリオネスは、テムノス浜頭の意向を解する、了解をまなざしで伝える、テムノス浜頭のまなざしが感謝を伝える、イリオネスは承諾をまなざしで伝える。
 テムノス浜頭が操舵棒をカイクスに渡し操舵席を離れる、イリオネスのそばにくる、イリオネスは言葉短く承諾を伝える。
 『浜頭、了解しました。艇を預かって帰ります』
 『おう、よろしく頼む。イリオネス殿、櫂を握ろう!』
 『はい!』
 二人は櫂座に座す、櫂操作を始める。ギアスも櫂座について櫂を握る。
 ヘルメス艇は、帆柱の突端に結びつけている布きれを風の吹くまま、艇の進みに任せてなびかせていた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1205

2018-01-19 08:49:05 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 帰途航海に就いた一行の二艇は、凪いでいる海の状態を利して、航走に逆らう風の吹かない間に航走してイラクリオンの浜を目指している。
 漕ぎかたらは、律調を整えた櫂さばきで艇に海を割らせている。
 エドモン浜頭がイリオネスに話しかけてくる。
 『おう、イリオネス殿、艇の走りが順調ですな。漕ぎかたらの漕ぎの律調が整っている。いいことです。あなたの仕事の運びを見ていると物事を難なくこなしておられる、これは知恵のなせることですな。私は感じ入っています』
 『浜頭にそのように言われると照れますな』
 『私はですな、イリオネス殿、あなたの謙虚なもの言い、事の処し方に人徳とたぐいまれなる知力を感じています。この人の依頼ごとなら、やれることならやって差しあげたいと強く思います。マリアにおける船の事なら私ら二人に任せてくれれば、いいように計らいます』
 『解りました。ありがとうございます。よろしく願います』
 『あの戦闘艇ですが船としてよくできています。欲を言えばきりがない。マリアで言ったことだが、長い期間の使用に耐える頑丈さと価格のことだ。船を買ったものが『いい買い物をした!』と、長い年月、船に触れるたびに感慨を持つように心を遣ってほしい。この私もあの船を使うことを考えるかもだな』
 『解りました。船を買い求めてくれる方が心から満足していただけるよう感動の価格と品質を第一に考えてことを処します』 
 『お~お、イリオネス殿、言ってくれるな!そっその通りだ』
 エドモン浜頭が沿岸の風景を見る。
 『早かったな!この船足なら考えていたより早くイラクリオンに着くな。重畳!』
 『はいっ!』
 二人の会話が終わる、浜頭が沿岸の風景に目を戻した。
 イリオネスがギアスに声をかける。
 『おう、ギアス、俺も櫂を握る。お前も櫂を握れ!』
 『はいっ!』
 二人が櫂座に就く、櫂を握る。
 『お前ら少々休め、そして、次の者と代わる。いいな、そういうことだ』
 『了解です』
 二艇は凪いでいる海を順調に航走して、凪が終わり風立つころにイラクリオンの浜に着いた。
 この航走を今様時間で測ると、約30キロ弱の海路を2時間余りで航走したことになる。この時代の海上交通の船速としては速い部類に属するといえる。
 『おう、テムノス浜頭、この船、軽快という表現が当てはまるか否か別だが、この船、船足が速かった。考えていたより早く着いた。浜頭、今後よろしく頼む!』
 『浜頭、マリアでの船の件、しかと心得ています』
 テムノス浜頭が船を下りるエドモン浜頭を見送る。
 『イリオネス殿、ありがとう。先ほど言ったようなわけだ、よろしくな!』
 『はい、解りました。よろしく願います』
 『道中を安全に、無事に航海をな』
 『はい、ありがとうございます。では』
 イラクリオンの浜でエドモン浜頭が艇を下りる。一行は少々休んで浜をあとにする。
 ゴッカスが艇上の漕ぎかたらに声をかけた。

『トロイからの落人』  FUGITIVES FROM TROY   第7章  築砦  1204

2018-01-18 08:33:11 | 使命は建国。見える未来、消える恐怖。
 ギアスとゴッカスは、出航整備を整え終えていることをオキテスに伝える。
 『おう、そうか、ご苦労!帰りも安全航海第一で行く!二人ともいいな!』
 『はい!了解です。隊長、力が入っていますな』
 『帰路も戦闘艇が先行する。航路どりは岸から遠く離れず沿岸航走で行く。先の目的地、イラクリオンには凪の間に走り切ろう。そのように考えている』
 『了解しました』
 焼きあがって間もない、温かい朝食用と今日一日に必要とするパン及び飲料水が届く。一同がそろって朝食タイムを過ごす。
 朝食の終わる頃になって、エドモン浜頭、テムノス浜頭が連れ立って姿を見せる。集散所のリドラス担当長が同行している。
 『おはようございます』
 『おう、おはよう。イリオネス殿、よく眠れましたかな?』
 彼らとイリオネスの朝の挨拶が交わされる。
 リドラス担当長が声をかける。
 『あ~、イリオネス殿、おはようございます。昨日は、新艇および戦闘艇の試乗会、ご苦労でした。帰途航海の無事を祈ります』
 『リドラス担当長、いろいろとありがとうございました。諸手配を滞りなく行います。伝える事項があります。昨日の試乗会のサービス航走で船に関する引き合いといいますか問い合わせが三件ありました。引き合いの話が持ちあがると考えられます。よろしく対応のほどを願います。帰途航海も安全第一で航海します』
 二人は手をさしのべて固く握り合った。
 オキテスが係留している二艇に向けて目線を走らせる、漕ぎかた全員が櫂座についている、出航体制が整っていることを確認する。
 『艇の出航準備はできています。乗船ください』
 『おう!』と応えて、エドモン浜頭がリドラス担当長に声をかける。
 『ダントス所長によろしく伝えてください。リドラス、では!な』
 オキテスが両浜頭に声をかける。
 『今日はどちらの艇に乗られますか?』
 『おう、今日はだな、君らがヘルメスと呼んでいる船に乗る』
 『了解しました』
 オキテスが両浜頭をヘルメス艇に案内する。ギアスが二人を艇上に迎える。オキテスは先行する戦闘艇に乗る。イリオネスが岸壁に立つリドラス担当長と別れの挨拶を交わし、ヘルメス艇に乗る。
 オキテスが出航の令を下す、二艇は岸壁を離れる、凪いでいる海面が櫂の漕ぎで泡立つ。
 手を振るリドラス担当長、艇上の者らもこれにこたえて手を振る。
 視野の中の人影が小さくなっていった。